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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
123/126

8 吸血族

2話連続投稿の2話目です




 五ノ島。


 高い城壁に囲まれた港町の一角で、金色の竜人とヒトが机を前に向かい合っていた。


 竜人の女性は俯いており、男に対して遠慮がちな態度を見せていた。女性は向かいに座る金髪の男を見ようとして視線を斜めに逸らした。


「…貴方には申し訳ないと思っています。ですが、ヒト族よりも妖精族、獣人族に恩義を感じている部族も多く、義理を重んじるアタイ達竜人族の総意は…」


「問題ありません。立場の違いによるものだと理解しております。」


 男は竜人の言葉を遮り、笑顔を向けて答えた。


「既に若い竜人が妖精族が駐屯する二ノ島北東部に向かったと聞いております。オルティエンヌ様には増員と称して実力者を率いて二ノ島に向って頂きたいのです。」


 男の申し出に女性は少し目を細めた。先ほどの表情とは変わって為政者の顔つきになっている。


「何をしようとしているのですか?」


「この混乱を仕組んでいるのはごく一部の妖精族です。我らはそれに踊らされる振りをする必要があります。」


「それはドワーフ王のことを言っているのですか?確かに気に入らない部分もありますが、部族の王としての責務は果しております。それにこの時期にあの男が行動を起こす理由がわかりません。」


「確かに、獣人族大使館のことで騒ぎ過ぎだとは思うでしょう。そしてこれに反応して我ら4か国が剣を向けあう形となりました。いつ衝突してもおかしくありません。だが、そう仕向けたと考えれば?」


「……4か国の弱体化を狙って…ということですか?」


「恐らくその先です。いくら馬鹿でも途中で弱体化を狙った行動だと誰かが気づくでしょう。そしてその矛先はドワーフ族に向けられます。」


 男の言葉に女性は肯いた。


「普通に考えれば4対1の戦力差。以下にドワーフ族配下にトロール族やデュラハーン族などの精強な部族がいても…。」


 そこまで言って男は相手の様子を窺った。


「…奴らはアタイ達の戦意を一気に挫く手段を有している…ということか?」


 女性の答えに男ははっきりと答えず、後ろで控える竜騎士を呼び寄せた。


「彼女を預けます。私に協力してください。」


 竜騎士の少女は片膝を付き女性に一礼する。


「ウルチ…。」


 女性はその竜騎士の名を呼んだ。



 男は自分の奴隷を女性に預け、姿を消した。女性は暫く男が立っていた辺りを見つめていたが、やがて視線を竜騎士に向けた。


「アナタの主は何を考えているのでしょうね?」


 竜騎士は顔をあげニコリと微笑んだ。


「恐らく全てを考えているのだと…思います。」


 彼女の答えは曖昧な表現ではあったが、竜人族の棟梁、オルティエンヌは納得した表情で天井を見上げた。





 三ノ島。



 一ノ島周回船の大使代理として先に三ノ島入りしていたアルタイル商フェルエルは、王都ニカラグゥアの一室に軟禁されていた。部屋の中の調度品は良い物が並び、食事もそこそこの良い物が定期的に運ばれてくるが、部屋は外から鍵を掛けられており、彼女は一歩も外に出ることができなかった。彼女と共に三ノ島入りしたザックウォート商ナヴィスも別の部屋で軟禁されており、互いに連絡が取れない状況だった。


 本来の目的だった“エリミエールの野”との接触は1度だけできた。だがその後すぐにドワーフ兵に捕まりここに軟禁されている。外の状況がわからない為、不安が募るのだが、何故か彼女の顔はにこやかであった。


「…さて、エルバード様はいつ私を助けに来てくれるでしょうか。」


 彼女はエルバードから貰った“エリミエールの野”のバッヂを指で弄びながら退屈そうにしていた。



陽が堕ちて夕食の皿も片付けられて暫くすると、不意に気配を感じてその方向に首を向けた。


「お待たせいたしました。」


 気配のした方には金髪の男が立っており、親しげな笑みを浮かべてアルタイル商に声を掛けてきた。


「…まずは事情を説明してください。」


 突然現れた男に驚きもせず凛とする彼女の言葉に男は一礼し、これまでの経緯を説明した。


 2日前に王都シャナオウの獣人族大使館が襲われハグー妃殿下が攫われた。妖精族がこれに反感を示し、獣人族と連携して宣戦布告を行った。この行為にエルフ族が反発し、ヒト族に同調。半神族もこれに同調。竜人族は妖精族に同調。サラヴィス国王は戦争を回避すべく、王妃エメルダ殿下を二ノ島に派遣。二ノ島で丁重なおもてなしを受けている状態であることを説明した。アルタイル商は一通り話を聞いて男の顔をまじまじと見つめた。


「…で、どうなさるおつもりで?」


「ドワーフ王に監禁されている妖精族の翁たちを奪還できないかと考えています。」


「……そのことについては私も“エリミエールの野”に伺いました。ですが、彼らも監禁場所まではわからないと言っていましたよ。」


「はい、私も聞きました。」


「え?エルバード様は“エリミエールの野”にお会いになったのですか?」


「実は転移陣をその指輪とアオビ老からの手紙に付けておりまして。手紙のほうに転移したらびっくりされましたよ。」


 困った顔をして説明する男を見て、彼女はクスリと笑った。


「貴方様といると飽きないですね。で、次はどうされるのですか?」


「ナヴィス殿とエウレーンの森へ向かってください。そこでエルフ族とフォンとエフィがいます。」


「そう…エルバード様は?」


「六ノ島に戻り、ガシャルという男と接触します。」


 アルタイル商の表情が急に変わった。いや、表情だけでなく全体の雰囲気も大きく変化した。先ほどまでは物腰の柔らかい仕草だったのが、相手を威圧するかのように男を睨み付けた。


「その名…我に覚えがあるぞ。」


「え…と、【処女獣】様ですか?ちょ、ちょっと神力を抑えて下さい。苦しいです」


「うるさい。何故お前があの“ガシャル”に会うのだ?」


「え…と、その男に六ノ島の代表になってもらおうと…。」


「フハハハ!あの男は世俗に興味がない。魔族は基本的に権力欲や征服欲が無い。そんな奴らが一国の代表となるとは思えぬ。」


「…そのようですね。ルシフェル様とお会いして何となくわかりました。その結果、新たな疑問が生まれたのですがね。」


 男の言葉にアルタイル商…いやアルタイル商の姿をした神獣は目を細めた。


「…言うて見よ。」


「欲のない魔族が何故…ヒト族と1000年前に争ったのか。」


「フ…いいところに気がついたな。…では頑張ってその答えを見つけるが良い。」


「…神獣様もう少し教えてくれても……」


「図に乗るなよ。我はお前が暴走せぬよう監視するのが役目だ。理を教える理由はない!」


 男はがっくりと肩を落とし俯いた。


「…ではエルバード様、私をここから連れ出してください。」


 男が見上げると、既にアルタイル商の表情はいつもの小悪魔のような表情に戻っていた。







 俺は周回船に戻ってきた。直ぐにサラが駆け寄ってきて、状況を説明した。

 魔法壁はまだ消滅しておらず、連絡もない状況。その他は変化なしと言うと、心配そうな表情で俺を見つめた。


「…皆は大丈夫でしょうか。」


 サラが心配しているのは、俺が各部族に託してきたフォン、エフィ、ウルチ、アンナのことだな。流石は俺の一番奴隷。俺よりも妹たちのことが気になるようだ。…別に何も思うところはないぞ。


「今のところは大丈夫だ。後は俺達のほうだが…。」


 俺は周囲を見渡した。そう言えば、着物美人さんを最近見かけない。あの人はいつも少し離れたところでクスクスと俺達を見て笑っているタイプの人だから今も俺が感知できないところで見てるんだろうけども…。

 俺はウメダサヤナとアイバ殿に声を掛けた。


「これから、カミラと無派閥の連中に会いに行く。できれば一緒に来て欲しいのだが。」


「アタシはちょっと…けっこう恨まれてるかも知れないし。」


 ウメダは確かにバルヴェッタの手先としてあくどい事もやってそうだからな。御礼参りをされるかも知れないし。


「ワシは構わぬ。じゃがどうしてだ?」


「貴方はけっこう有名なんですよ。ちょっとそのネームバリューを使いたいと思うのです。」


 アイバは顎に手を当てて考え込んだ。そして大きく肯いた。


「これで貴殿にいくらか借りが返せるのであれば、お供いたす。」


 アイバ殿はぐっと頭を下げた。…前々から思ってたんだけど、この人、ちょっと古風な人だよな。




 六ノ島の中央の湿地帯にある夢魔族の村。


 一応中央地区の派閥に属しているが、街で夢魔族を見かけた記憶はない。村に住む魔人族の若者は、村を飛び出してゴロツキと化している…というのがウメダの情報だった。

 俺達は村には直接寄らず、ゴロツキ達を纏めているフレイヤーに直接会いに行った。…まあ、【空間転移陣】でぱって移動するだけなんだけど。


「約束通り来た。」


 フレイヤーは俺が突然現れたことにびっくりしてたが、横にいるアイバ殿を見て更にびっくりしてた。大騒ぎしそうだったので取りあえず≪心身回復≫を使って気持ちを落ち着かせてみた。これって興奮状態を鎮めるときも有効なんだ。


「状況を説明する。その上で判断して欲しい。…ガシャル殿にお会いしたい。」


 部屋の空気が一変した。フレイヤーの仲間が出入り口を抑え、得物に手を掛けた。フレイヤー自身も怒気を漲らせた顔つきに変わり、無手ではあるが構えている。カミラもただならぬ状況を感じ俺にしがみ付いた。だが、俺とアイバ殿は涼しげな表情でフレイヤーを見返していた。


「お前は…一体何者?」


 だが、安心しろ。俺も、アイバ殿も丸腰だ。お前達に危害を加えるつもりはない。俺はそう目で語りかけた。


(オ・レ・ノ・ハ・ナ・シ・ヲ・キ・イ・テ)


 久しぶりに≪真実の言葉≫で訴えてみたが、どうやらかかったらしく、仲間同士で視線を躱すと、警戒を解いてくれた。


「一先ず、お前達を信じよう。何より、“鍛冶師アイバ様”が味方になってくれるのならありがたい。」


 フレイヤーの言葉に俺はチラリとアイバ殿を見た。


(アイバ殿は、ここでも有名なのですか?)


(…ま、まあ武具装飾道具の分野では知らぬ者は…いないのだろうな。)


 少し照れた様子でアイバ殿は俺を見返してきたが、俺と同じく目立つことを避けるタイプなのだろうか、遠慮がちの態度だったので、ニタリと俺は笑った。


(一ノ島からはアナタを六ノ島代表の1人として連れてくるよう依頼されてるんですよ。この先、目立つタイミングはいくらでもあります。覚悟してくださいね。)


 と≪念話≫を送ると、青ざめた顔になった。





 部屋にいるフレイヤーの仲間たちが、窓のカーテンを閉めだした。部屋は一気に暗くなり、そして部屋の中央から魔力が集まり出した。やがてその魔力は目に見えるほど凝縮され、やがて人の形になった。


 すらりとした長身、黒いスーツに赤いネクタイ。赤く充血した(まなこ)に鋭い牙。赤黒い肌にドス黒く伸びた爪。


 俺の思い描く吸血鬼(ヴァンパイア)そのものがそこに立っていた。


「俺も貴様には会いたかった……本当にカルタにそっくりよのぅ。」


 男はニタニタ笑いながら俺をじっくりと観察していた。


「初めまして。…その御様子ですと、ある程度は状況をご存知のようですね。」


 そう言って俺は片膝をついた。アイバ殿もそれに倣う。すると、目の前の吸血鬼はガハガハと大声で笑った。


「俺にそのような態度を示すとは…やはり貴様はカルタではないな。…俺の眷族である魔蝙蝠で情報は収集しておる。だが…」


 男はふっと表情を変えた。先ほどとは変わって殺気を纏った表情。周りにいたフレイヤーの仲間たちがその魔力に当てられ体を震わせ始めた。


「…俺は(まつりごと)などやらんぞ。」


 まだ、なんにも言ってないのに、核心を突かれてしまった。これは手強いかも知れん。多分≪真実の言葉≫も聞かないだろうし…。

 あれこれ考え込んでいると、ふいに頭ン中に声が流れてきた。


(貴様は何者だ?…外見はどう見てもカルタだ。服を脱げば誰しもそう思うであろう。)


 …やっぱりこの身体の持ち主は本当に裸族だったのね。俺はちょっと悲しくなった。だが、俺にだけ聴こえる声で話しかけてきたと言うことは、どういう意味だろうか。


(…アナタには真実をお話する必要がありそうですね。…おっしゃる通り、この身体、“カルタ”という男のものだと私も思っております。)


 吸血鬼は怪訝な表情を見せた。


思っている(・・・・・)?)


(何せ確かな証拠はありません。状況証拠のみでの判断です。)


(・・・説明しろ。)


 吸血鬼の視線が鋭くなった。なんとなく、嘘をつくとヤバい気がする。


(私は、一度命を落としました。食うものがなく餓死でした。…空腹に耐えきれず意識を失いましたが、気がつくとこの身体で意識を取り戻しておりました。)


 吸血鬼はじっと俺を見つめた。そして顎をわずかに動かし続きを促してきた。


(それからヒト族の商人のもとで傭兵として活躍し、国王陛下の覚えめでたく使節団の正使として六ノ島に来ております。…カルタと言う名は、ここに来てから知りました。)


 嘘は言っていない。


(にわかには信じられんが、その身体がカルタだという理由は?)


 俺は≪異空間倉庫≫から紫の剣を取り出し、床に置いた。吸血鬼はその剣をみて表情を変えた。


「そ、それは我が主…ルシフェル様の宝剣!」


 ≪念話≫ではなく、言葉に出して驚き、前のめりになって剣を凝視した。フライヤーたちがその様子に驚きオロオロとする。俺は黙ってその様子を窺っていた。この紫の剣は六ノ島の皇帝ルシフェルが所有していた“アンドラス”という封印された剣。やはりこの吸血鬼はこの剣を知っていたようだ。そしてこれは半年前にカルタによって盗まれている。


(この剣は、私が意識を取り戻した時に側に控えていた男が“親父様の形見”と言っておりました。…ですが、このカルタの父はバルヴェッタ卿。生きている者に対して使う言葉としてはあまり持ちられず、またアナタ様のおっしゃる通り皇帝陛下の宝剣が父の形見というのはわかりません。…ご存知であれば教えて頂けますか。)


 吸血鬼は俺の≪念話≫を煩わしそうに聞いてギロリと睨み付けたが、直ぐに口端をつり上げて笑うと、その場に胡坐を掻いて座り込み、膝当たりに肘をついた。


「…その剣は、六ノ島の宝剣“アンドラス”。製作者はオルタ。……カルタの本当の父親だ。」






 オルタ。


 バルヴェッタ家の長子として生まれるが、若くして“鍛冶師オルド”に弟子入りし、ヴェルド・バルヴェッタの後継者としての地位を放棄した。オルドが六ノ島を去った後、皇帝鍛冶師として弟のオーヴォールド・バルヴェッタと共に王宮に仕えた。

 やがて一人の女性と出会い恋に落ちるが、女性の父親が自家の地位向上のために、バルヴェッタ家の当主であるオーヴォールドと結婚させ…半年後には赤子が生まれていた。


 赤子の名は、母親が付けた。


 そして毎日命神に祈りを捧げた。


 暫くして≪ヘゼラサートの加護≫を授かり、ようやくオーヴォールドの子として正式に認められたが、父は息子に愛情を注ぐことは無かった。息子はそんな父を憎み、やがて反抗するようになった。父はこれに対抗し報復するかのように兄であるオルタを捕縛し、妻を幽閉した。そして、カルタの本当の両親は人知れず、その生涯に幕を降ろした。オーヴォールドはカルタも排除しようとしたが、若者に人気のあったカルタを正当に排することができず、10年の月日が流れた。


 ある日、カルタは王宮の宝物庫から“アンドラス”を持ち去り、六ノ島を出奔した。父はこれ幸いにとばかりに息子を退去処分し、自分の本当の子であるミロを後継者と定めた。






「……では、この紫の剣は『オルタ』という鍛冶師が作った剣で、その男が『カルタ』の本当の父、と言う訳ですか。」


 あの禿散らかしたおっさんは、真実を知っていた数少ない人物だったと言う訳か。裸族だったのも父親に反抗するため、剣を盗んだのも同じく……。やれやれまるで駄々っ子のような行動だな。俺的には容認できんが…。


「ここまで喋っても同様していないところを見ると、本当に貴様はカルタではないようだな。とすると、先ほどの話は信じるしかないか。」


 頭を抱える素振りを見せてため息をつく吸血鬼だが、俺は話は本題から大きく外れていることに気づき、軌道修正を図った。


「ご理解頂きありがとうございます。では、本題に戻りますが…」


「断る!」


 吸血鬼の威圧が更に上がった。既に周りの男たちは失神してしまっている。カミラも白目向いてる。アイバ殿がどうにか耐えている状態だった。


「俺が千年もの間、何故この国に関わって来なかったかわかるか?」


「…。」


「この国は非道のヒト族によって作られた“紛い物の魔人族の国”だからだ!」


「知っております。」


「ルシフェル様は“象徴”などではない!魔族の王なのだ!」


「はい。」


「バルヴェッタ家は派閥をいいように操っておる!それも命神の力を使って!」


「私も≪命神の契約≫を受けました。」


「ならばなぜ!?」


「その“契約”が解けかかっております。」


「何?」


「過去の栄光でもって国を弄ぶ期間は終焉を迎えようとしております。」


「…。」


「千年前の勇者の封印は間もなく解かれ、ヘラザサート様は復活されるでしょう。そのとき、六ノ島は大混乱を迎えます。誰かがその混乱を纏め国を再編しなければなりません。」


「それを俺にやれと?」


「皆がアナタ様の名前を出されました。」


「皆とは?」


 ここまで会話を進めて隣の部屋へと続く扉が開いた。そこにはフレイヤーの妹である夢魔族(サキュバス)のイェレンが立っていた。


「この国を憂える若者たちです。」


 イェレンの隣にはマウネンテもいた。途中から俺も気づいていたが、ずっと隣の部屋で立ち聞きしていたようだ。


「…フン。貴様らの話は聞き飽きたわ。何度頼まれようが、俺はこんな国に関わるつもりはねえ。」


「ですが、兄者ではこの国の無派閥たちを纏める事は出来ません。」


 そうだね。威圧に巻けて泡吹いてく程度では、無理だろうね。あ、吸血鬼さんもフレイヤーを見てそう思ったみたいだ。気まずそうな顔してる。


「ガシャル殿。」


 俺の言葉に反応し、吸血鬼は俺を睨み付けた。


「今、一ノ島から五ノ島までが戦乱の渦に飛び込もうとしています。」


 吸血鬼はじっと俺を見つめた。恐らく何らかのスキルで俺の言葉の真異を確認しているようだ。


「おそらくこの戦乱での勝者が全ての島を統べることになるでしょう。私はこの戦乱に六ノ島も巻き込まれるべきだと考えております。」


「…だったら議会に言えばいい。」


「彼らでは議会の均衡を保つことしかできません。それでは六ノ島はますます他国から引き離されてしまいます!」


「…。」


 吸血鬼は黙り込んだ。と言うことは、俺の言ってることは理解したと思ってよいか。


「イェレン、俺は部外者だ。これ以上は言うことはできない。後はお前達でなんとか説得してくれ。」


 俺に声を掛けられたイェレンは深くお辞儀をした。


「まさか貴方様がガシャル様にまでたどり着かれるとは思いませんでした。確かにこれは六ノ島の未来の問題。後は私たちで…。」


「エル様、感謝する。」


 マウネンテも礼を言って来た。


「ちゃんとヘレイナや、ヨルデにも感謝しろ。」


「わかってるって。」


「俺はやらんといってるだろう!」


 床に胡坐を掻いた吸血鬼は歯をむき出して俺とイェレン達を威嚇した。


「ガシャル殿、どうか気を御鎮めください。私の奴隷が白目をむいております。」


 俺はカミラを抱き上げ彼女の背中をさすった。カミラは唸るような声をあげて俺に顔をうずめた。その様子を見ていた吸血鬼はフッと威嚇の力を弱めた。


「貴様……その(メス)はなんだ?」


「カミラと言います。……隠しても仕方ありませんね。彼女は禁忌の呪いを持っております。」


 ガシャルは目を見張った。いや、マウネンテもイェレンも。…あれ?言ってなかったっけ?


「ここ数百年生まれていなかった“魔人族間の禁忌”が…!」


 そんなにめずらしいの?…黙ってた方がよかったのかな?ガシャルは俺の胸で打ち震えるカミラをまじまじと見つめた。


「しかし、外見は青肌ということは父親は夢魔族(サキュバス)だが、交配種は何だ?」


「はい、彼女は≪吸血≫の能力を持っていることから………なんだと!?」


 俺は思わず大声をだした。これにはアイバ殿もびっくりしたようで大きく肩を震わせた。


「どうしたヒト族?禁忌の交配を犯した場合、父親の血が色濃く出るのだ。知らなかったのか?」




 俺はカミラの話に疑いを持たず、母親が夢魔族だと思い込んでいた。だがそれは間違いだとすれば……!





 俺の脳裏には“バレッタ”の名が浮かんでいた。




主人公は騙されておりました。

てっきり、母親が夢魔族と思い、調べておりました。

禁忌の交配の法則とでも言うのでしょうか、運よく生まれた子供は、父親の血を引くのが通常のようです。


次話では、六ノ島が大混乱に見舞われます。


ご意見、ご感想、ご指摘を頂きますれば幸いです。

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