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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
122/126

7 動向

2話連続投稿の1話目です




 六ノ島。




 東西に楕円の形の島は、建国以来の皇帝“ルシフェル”の力により、島全体を魔力を遮断する魔法壁に覆われていた。

 この魔法壁は外から中へ、中から外へ一切の魔力が通らない為、群島間での念話による通信ができないようになっていた。



 その壁が何のためにあるのか。



「ワシの役目は取次役官を殺すこと。それを創造神様に命じられた。」


 アイバ殿の言葉がその理由の一端にあった。


 俺達“この世ならざる者”は魂の循環が使命。だが、アイバ殿は六ノ島に送られた。そしてバルヴェッタに挑み、捕えられた。


 この壁は“この世ならざる者”であっても、魔力を通すことができず、外部との連絡は不可能。そして、この壁が外部からの情報も遮断することに大きく貢献してる。そして、この島は人の出入りを厳しくチェックしている。



 つまり、当初の目的は、情報統制…だったと俺は考える。命神様のお話では1000年前の大戦の勇者の1人がこの国を統制したそうだが、住民である魔人族を効率よく統制するために、不必要な情報を遮断した…だと思うんだが。



 今回、当代の取次役官であるバルヴェッタが俺の要請(・・)に応じてこの魔法壁を消すと言う。…まあ俺が都合のいいように言い聞かせてその気にさせただけなんだが。

 だが、話の途中で命神様が出てきて、「あ奴を殺せ」とか言い始めたから大変だったんだけど。幸いにも【白羊獣】様が現れて御諫め下さったから、事なきを得たが…あれは殺されてたかも知れんな。




 で、今は洋上。


 テング族のヨルデを人質に魔法壁の外側まで周回船で移動してきたところ。正常に魔法壁が取り除かれればヨルデに≪遠隔念話≫がされることになっている。何もなければ、残念だがこのままヨルデを連れて一ノ島へ引き上げるという寸法。ヨルデもそのことがわかっているのか、俺の隣で神妙な面持ちでじっと立っていた。…まあ、そんなことはないと俺は思っているのだが。


 俺も暫くカイトの野郎に連絡できてなかったでこれを機に状況方向だけでもしておこう。


(あ!何だよ急に!こっちからどれだけ接続しようとしても応答なかったから心配したんだぞ!)



 …ああ、やっぱり。だって知らなかったんだもん…連絡できなくなるなんて。


(あの、実は…)


(まあいい!それよりも大変なんだ!すぐ戻って来てくれ!)


 ん?


(獣人族の大使館が襲われた!ハグー殿下が攫われたんだ!しかも襲ったのは旧第四師団の残党らしい!こっちは国際問題になってて大変なんだ!)


 俺は、ヨチヨチ歩きのアンナを労わっている黒獅子の女傭兵を見た。…うん、彼女はここに居るな。と言うことは攫われたのは、ハグーの身代わりをしている侍女さんだな。


 俺は興奮しながら喋り続けるカイトの念話を黙って聞いた。


 彼の話では、2日前の深夜に大使館が襲撃されたそうだ。翌日には妖精族との協定事項変更に伴う調停式を予定していたのだが、この騒ぎによって一時中断。しかも大使が襲撃されるような種族とは調停することは出来ぬと妖精族の代表が激怒。獣人族を旗頭にヒト族に宣戦布告までしたそうだ。

 だが、これにエルフ族が反発。ヒト族側についてドワーフ族を非難した。これにナイチンゲール殿が同調し、半神族もヒト族側に。竜人族も妖精族の要請に応じて獣人族に付くことを宣言したそうだ。



 なんというとんとん拍子。



 わずか2日間であっという間に5種族を巻き込んだ大戦争に発展してしまっていた。


(エル、どうしたらいい!?さすがの僕でも打開策が出てこない!お前の人外の力を借りたいんだ。)


 珍しくカイトが慌てふためいた口調で喋っているのが逆に俺を冷静にさせた。



 俺は、目を閉じ深く考える。



 妖精族を除けば、俺はどの種族の要人と接触が可能だ。つまり俺という媒体を介して妖精族に知られることなく密約が可能。一気に妖精族を孤立させることも可能だ。


 …だが、これでは弱い。



 せっかく妖精族が表立って行動したんだ。その理由は不明だが、このチャンスを生かして、一気に窮地に追い込みたい。…やはりそのためには残りの1種族も巻き込みたい。

 だが、今の六ノ島は、“派閥の均衡”が売りの体制。誰を魔人族代表として加わらせるかによって他島の見方も変わるだろう。


 俺はゆっくりと括目しカイトに返事した。


(戦闘開始を1週間遅らせて欲しい。)


(1週間?…7日間ということか?)


 この世界に“週”という概念はない。俺がこの言葉を使うのは、久しぶりだった。


(それでいい。方法はあるか?)


(…なくはない。だが、お前納得するかどうか。)


(……エメルダ殿下を特使として二ノ島に…か?)


(やはり、お前も≪神算鬼謀≫の持ち主だな。ヒト族の要人を二ノ島に送り、戦争回避の交渉をさせる。今回の場合、攫われた国王陛下の娘君に釣り合う要人と言えば、僕か王妃殿下しかおらん。…だが危険だぞ、いいのか?)


 カイトの発言はおかしい。殿下は既にサラヴィス陛下の正妃の御立場。遠慮する相手は国王陛下のはずなのに…。まあ、これまでの経緯を鑑みればそうなるか。陛下と殿下のご結婚は政略的な意味が大きい。


(殿下と念話させてもらうぞ。それとヤグナーン侯爵にも暴発しないよう対処してほしい。)


(当然だ。侯爵にはお前の名も出すぞ。それと獣人族の国王とも連絡できるか?あと五ノ島、四ノ島の代表とも連絡を取ってほしい。)


(ロフト陛下とは直接会う。ハグー殿下の件があるし。五ノ島と四ノ島の代表は誰だ?)


(五ノ島はわからん。復興支援の従事者が全員退去させられたからな。四ノ島はナイチンゲール殿だ。)


(わかった。カイトは戦争が始まるのを極力回避するよう努めてくれ。俺はその間に各国要人と調整し、六ノ島の軍を準備する。)


(1つ注文させてくれ。六ノ島軍には“鍛冶師アイバ”を連れて来てくれ。鍛冶師オルドの高弟として名は知られている。)


(…あいつは“この世ならざる者”だぞ。)


(やはりそうか。名前からそうではないかと思っていたんだが、六ノ島に渡ってしまってからの情報が全くなくてな。だが、彼の作った魔装具は各国で“高業物”として名を知られている。)


(わかった。)




 俺は念話を切り、状況を頭の中で整理した。その上で全員を船内のリビングに集めた。


 俺の周りにはサラ、フォン、エフィ、ウルチ、カミラ、アンナの6人の奴隷、着物美人さんこと九尾妖狐(きゅうびのようこ)ワン公(ベヒモス)。アユムにウメダサヤナにアイバ殿。そしてハグーにアリアにヨルデ。カイトから聞いた内容を丁寧に説明し、皆の反応を見た。

 エフィが青ざめている。ウルチが拳を握りしめている。アンナは頬を紅潮させていた。そしてヨルデが複雑な表情でうつむいており、ハグーが泣きそうな顔で俺を見つめていた。


「ハグー殿下。後程私とロフト陛下の下へ参ります。もちろん隠密ですが。」


「キーナは…キーナは無事なのか!」


 キーナとは殿下の代りに攫われた侍女の名か。≪気配察知≫をフル稼働させたが、ここからでは確認は出来なかった。


「今はまだわからない。だが俺が、必ず助け出す。」


 ハグーは唇を噛みしめて俺に肯いた。俺はハグーを抱き寄せて落ち着かせようとしたが首だけグリンとあらぬ方向に向けられた。


(とと)様は!(とと)様大丈夫なの!?」


 エフィが両手でおれの両耳を握って無理矢理自分の方に顔を向けさせていた。すっごい痛いんだが、必死の形相をしたエフィを見ると何も言えなくなった。


「三ノ島にはフェルエル殿がおられる。何とかしてみよう。」


 エフィの頭を撫でようとしたら次はウルチに首を持っていかれた。


「姉御は!?」


 続いてアンナが腰を締め上げた。


「ナ、ナイチンゲール様は何と!?」


 ……く、苦しい。ちょっと…離れてくれ。



 サラが全員を落ち着かせて再び話を進めれるようになった。


「まずは、六ノ島の意思決定をさせる。このまま戦争が始まれば六ノ島につけ入る隙がなくなる。魔人族にとっても六大群島内での地位向上の機会を失う。ここは、戦争に参加する利を説き、一軍を派遣してもらうようにさせる。ヨルデ、協力してくれるな。」


 俺に呼ばれたヨルデはコクリと肯く。


「では、今の派閥均衡思想をぶっ壊し安定した政権として立ち直らせるには、俺は誰に接触すべきだ?」


 ヨルデは考え込んでいたが、不意に視線を俺から外した。どうやら言っていいものか悩んでいるのだろう。そして視線がカミラに移った。…ヨルデがカミラを見る理由。恐らく、“夢魔族(サキュバス)”に関することだろうか。


「……“真祖の長”ガシャル殿がよろしいかと。」


 初めて聞く名前…。誰だ?


「“吸血族(ヴァンパイア)”の長で、派閥均衡の体制に唯一組していない部族…になります。」


 カミラの表情が変わった。ヨルデにもそれがわかったが俺は話しを続けさせた。


「そもそも現体制に不満を抱く若者たちは、何かしらに形で吸血族に通じていると言われています。…ですが、彼らを直接見た者はおりません。」


「そんな奴らが何故次の第一党にふさわしいと?」


「ガシャル殿も皇帝陛下と同じく千年の悠久を生きる御方だからです。どの部族もそのガシャル殿を一目置いております。」


「つまり、そのガシャルという男が立てば、皆がこれに従うと?」


「恐らく。……ですが、あの方はこれまで一度も(まつりごと)には携わっておりませぬ。」


「わかった。そのガシャル殿に俺は会うことはできるか?」


 俺の質問にヨルデは首を振った。


「私には…。」


 沈黙の中、カミラが俺の腕を引いた。


「主~!いこ!もう一度あの村に!」


 カミラが言っているのは夢魔族(サキュバス)の村のことだろう。だが大丈夫だろうか。見るとカミラは鼻を息巻いた表情で俺を見つめていた。夢魔族の村に行くのも、このガシャルという吸血族に会うのもカミラにとっては辛いことになるかもしれない。それでもカミラは俺に行くように勧めてきた。


「よし。どうせフレイヤーとは夜に会う予定だった。……カミラ来るか?」


 カミラはぎゅっと俺の腕に抱き付いた。












 王都シャナオウの一室。


 義弟カイトからの手紙を読み、じっと何かを待つ女性がいた。

 辺りが夕闇に包まれ始めており、しばらくすれば侍女から夕食の案内にやってくる。それまでの間に何もなければ、自分の判断で夫に相対せねばならない。

 無言で手紙をじっと見つめ彼女は待っていた。



(…エメルダ様)


 彼女にしか聞こえない心の声が彼女の頭に響いた。瞬間に彼女の顔色が変わる。


(エルか?)


 安堵とも思える優しい笑みを浮かべ心の中で問いかけた。


(お久しぶりで御座います。…積もる話もございますが、あまり時間がございません。早速ですが…)


 心の声に彼女は少しがっかりした様子を見せたが姿勢と表情を改め、耳を傾けた。


(既にラスアルダス公爵からの手紙を受けたっとと存じますが、殿下には二ノ島に行ってもらいます。)


(手紙は受け取った。だが、酷な話よ。これでは、いつ殺されてもおかしくないと思うが。)


(姫のことは絶対お守り致します。)


(…嬉しいのう。私のことを姫と呼んでくれるか。だがハグー殿下が見つかっておらぬこの状況では危険ではないか?)


(…実は本物のハグー殿下は私の下におります。)


 彼女の心の臓が締め付けられる感覚が覆った。


(意味深な発言よの。おいおい聞かせてもらうが、そのことは獣人族の王もご存じなのか?)


(は。この後秘密裏にお会いする予定です。)


(ならば私が行く意味は?)


(どのような事情であれ、獣人族の大使館が襲われた事実は覆りません。これは国家の威信にも関わります。この為、ヒト族と獣人族と対等にするために…)


(私を襲わせると。)


(…はい。あくまで形式上ですが。その後、互いに謝罪することで互いの体裁を取り繕います。)


(ふむ…。で、その後は?)


(妖精族を糾弾します。六大群島を全面戦争の危機に追い込んだ首謀者として。)


(では、六ノ島からも出張るのか?)


(出張らせます。そのための猶予を得るために殿下の御力が必要です。)


(交渉役と称しての人質役か。)


(姫…。)


(エルが守ってくれるのであろう?心配はせぬ。それより妖精族の仕業と言う証拠を見つけられるのか?)

(証拠などいくらでも作れます。ですが、三ノ島の状況も探る必要があるので、どうしても時間が必要です。)


(三ノ島か。あてはあるのか?)


(フェルエル殿がおられます。ドワーフ王に囚われの妖精族をどうにかできれば、事は急展開できます。)


(なるほど。どれだけ時間を稼げるかがカギか。わかった。貴公の作戦に乗ってやろう。サラヴィス王の名において貴公に我の…エメルダ王妃の守護を命ずる!)


(は!)


 やがて声は聞こえなくなった。さみしいと思ってしまった。彼とは道を違え生きていくことを決めた身なのに、彼と関わってしまうとさみしく感じる。彼女は椅子にもたれ掛り天井を見上げた。大きくため息をついて遠くを見つめた。


「貴族として(おさむ)るために…か。私は酷な選択をしたのかも知れんな。…後悔しているつもりはないのだが…未練がましいことだ……。」


 ヒト族サラヴィス国王の正妃、エメルダ王妃殿下は愚痴っぽく呟いた。






 二ノ島。



 夕食も取らず、椅子に座って待つ男がいた。イラつく様に手にクルミを持って手のひらで回している。部屋は暗く男以外は誰もいない。普段は侍女が控えているが、今日は下がらせていた。二日前から機嫌を悪くする出来事のせいで、彼は殺気を放ち続けており、用がない限り誰も近づこうとはしていなかったのだが、本人は気づいていない。

 不意に気配を感じ、男はクルミを握りしめた。掌にあったクルミは粉々に砕けてしまい、彼のズボンに降りかかったが、男は気にした風も見せなかった。


「…ようやく来たか。」


 男は気配のした背後を振り向くこともせず、話しかけてきた。


「…申し訳ありませぬ。」


「遅くなった理由の説明は不要だ。用件だけを簡潔に言え。」


「はい。“本物”はずっと私と共にしておりました。攫われたのは侍女で御座います。」


「分っとる!」


「はい、ですが、獣人族大使館が襲われたことは事実。我らヒト族との関係を対等にするため、エメルダ王妃殿下を陛下の下に遣わす手はずを致しました。」


 椅子に座った男は一瞬だけ後ろを振り返った。暗闇に光る金髪の男の目と、その傍らに控える黒髪の獅子獣人を見て、また前を向いた。


「俺にヒト族の王妃を拉致しろと?」


「丁重におもてなし頂ければと。ヒト族と獣人族でもてなし合いをしている間に水面下で各国と交渉します。」


「誰が?」


「私が。」


「貴様では元老院の連中はなびかん。ラスアルダス公爵に出張らせろ。」


「…畏まりました。」


「…貴様は…本当に食い殺してやろうと思うたぞ。今でもその衝動に駆られる。」


「父上…。」


 黒髪の獣人が思わず声を発した。


「賢しいぞ!従者ごときが余に言葉を掛けるとは何事ぞ!」


 男は大声を張り上げたつもりではなかったが黒髪の獣人にはひどく堪えた様子で身を小さくして俯いてしまった。


「掴まっている余の娘はどうするつもりだ?」


「救います。」


「どうやって?」


「今はまだ…。」


「貴様、何をするつもりだ?」


「五か国協定。」


 男の言葉に椅子に座る男は身じろいだ。


「本気なのか!?」


「陛下にもご協力願いたいと。」


 男は椅子にもたれ考え込んだ。そして後ろを振り返る。


「全ては余の娘を救出してからじゃ。でなければ元老院は動かん。」


「畏まりました。…黒獅子ハグーよ。俺はこれからナイチンゲール殿と会談する。それまでこの部屋で待機せよ。」


 男はそういうと、黒髪獣人の肩を叩いてすっと姿を消した。残った獣人の黒髪が金色に変わっていき、やがて椅子に座る男と同じ輝きを持つ姿に変わった。


 男は舌打ちした後、ゆっくりと立ち上がり、暗闇に控える獣人を立ち上がらせて強く抱きしめた。


「父を…心配させやがって。」


 黒獅子ハグーと呼ばれた女獣人は男に抱きしめられ声もなく涙を流した。







 四ノ島。





 一ノ島の大使館から本国に召還されたカーテリーナと、4部族代表が集まり、密かに協議を行っていた。巨神族(ティターン)の代表としてはエルティスケースが参画していた。


「ナイチンゲール殿、何故勝手にヒト族に組することを表明したのですか?」


 子供らしからぬ口調でエルティスケースが戦乙女族(ヴァルキリー)の老婆に問い詰めた。半人半馬族(ケンタウルス)の族長ウェイントがこれに同調する。


「そうだ。いくらナイチンゲール殿でも横暴でござる。」


男は蹄をパカパカと鳴らして文句を言ったが、主天使(ドミニオン)の族長クェルからはうるさいと逆に文句を言われた。ウェイパーは腕を組んで目を閉じており、カーテリーナはじっとナイチンゲール殿を見つめていた。そのナイチンゲールはじっとしたまま何かを待っていた。


「…遅くなりました。」


 不意にカーテリーナの隣に金髪の男が現れ4部族の長に向かって膝を付いた。カーテリーナは突然の出来事にびっくりした表情だったが、4部族の長はさほど驚いた様子を見せなかった。ウェイパーに至っては括目して笑みまで浮かべている。


「久しぶりですね、エルバード卿。……アンネローゼも。」


 男の傍らには赤い十字の意匠を施した服を着た女性騎士が控えており、床片膝を付いて深く頭を下げていた。


「六ノ島はどうですか?」


「…7日以内に何とかするつもりです。」


「何をするつもりだ?」


 クェルが訝しげに問いかけた。


「…政権交代。」


 男の言葉に4人がざわめいた。


「そんな簡単にできるのか!?」


「何を言うか!こ奴は巨神族(ティターン)の一派を簡単に滅ぼしたではないか!」


 金髪の男に対する評価は分かれていた。大言壮語の増長野郎と見ている部族と、嬉々とした目で何かを期待する部族。ナイチンゲールは後者の立場で男を見ていた。


「…念のために聞きましょう。誰を担ぎ上げるのですか?」


「…ガシャル殿。」


「なんじゃと!」


 ウェイパーが身を乗り出して驚く。4部族の長はその名を知らないようで、視線がウェイパーに集中した。


「我ら鷹獣族(グリフォン)と同じく、超長命の魔人族…いや、魔族と言った方が良いか。」


 再び4部族がざわめく。


「…ウェイパー卿。そのような者を一国の代表にしても大丈夫なのか?」


 クェルが詰問する。


「それよりもあの男が国を背負うとは思えねぇ。一体どうやって?」


「…魔人族が体制を立て直し、他国と同等になるには、この男が必要だと…言っておりました。」


「…曖昧じゃな。信用できぬ。」


 クェルが吐き捨てた。エルティスケースがそれに同意する。ナイチンゲールも男の言葉に俯いてしまった。


「…貴方を信用していないわけではありません。ですが、我らは合議制である以上、ここに居る4名を納得させねば、動けませんよ。」


「畏まりました。近日中に再びご報告に上がります。それまでは、連絡係として、アンナを残しておきます。」


 男は、赤い十字の意匠を施した服を着た女性をカーテ―リーナに託し、姿を消した。ナイチンゲールとエルティスケースが視線を合わせ苦笑した。


「いつでも忙しいようですね、あの男は。」


「我らにはないものを背負っているのでしょう。だからこそ、僕のように種族を超えて尊敬し、彼女の様に種族に関係なく彼を愛しているのでしょう。」


「ほう…エル坊が彼をねぇ…。」


「エル坊は余計です。これでも次代の種族代表として勉学に励んでいるのですよ。」


 エルティスケースは分厚い本を見せて得意げに話していた。その本はカーテリーナにも見覚えのある本だった。アンナがエル坊に与えた本…。

 カーテリーナの横でアンナと呼ばれた騎士は肩を震わせていた。

 曾て彼女は記憶をすり替えられたエルティスケースの守役として彼を警護していた。その時の思い出は今のエルティスケースの中には無いが、それでも成長している彼を見て嬉しさが込み上げていたようだった。







 一ノ島。




 王宮の一室に4人の男。


 一人は豪奢な椅子に座り他の3人を見下ろしている。


「…陛下。」


 両肩にまで伸びた長い耳をわずかに揺らし、金髪の美丈夫の男が声を発した。


「エウレーン公爵、貴公は我が国の臣ではない。そこまで畏まる必要はないぞ。」


「しかし、我らはこの機に乗じて復権を目指す身。御力を借りる者として礼を正すべきかと。」


「我らは貴公が三ノ島の王になることを望んでいる。…いや、我らも、と言った方が良いか。対等なのだよ。」


「…は。」


 金髪の男は軽く頭を下げた。陛下と呼ばれた男はその様子に苦笑した。


「…話を進めて良いですか、陛下?」


 側に控える若い男がにこやかな表情で話しかけた。椅子に座った男はチラリとその様子を見て肯く。


「エルバード卿。既に王妃殿下は二ノ島へと出立している。ヤグナーン侯爵の要請で私設傭兵団とフェンダー卿、ラッド卿が護衛に付いている。」


 部屋の中央で傅く男の肩がピクリと動いた。やや体を起こし、話をする若者の顔を見上げる。


「ラッド卿はともかく…フェンダー卿は…。」


「大丈夫だ。事情は伝えている。」


 フェンダー卿はヤグナーン私設傭兵団でも最強を誇る騎士。だが戦闘狂な一面も持っており、かつて宝瓶獣にも挑もうとしたことを跪く男は覚えていたようで、不安そうな表情を若者に向けた。それを見た豪奢な椅子に座る男はまたも苦笑する。


「エルバードよ、夫である余がこうして構えているのだ。貴公も倣ったらどうだ。」


「…申し訳ございませぬ。私は心配性のようで。」


「それよりも、ロフト王はどうであったか?」


「…既にロフト陛下の周辺は陛下を恐れて近づきがたいものになっております。」


「それほど怒っていると?」


「恐らく元老院を制御できず妖精族と手を組んだことが腹立たしいのかと。」


「何処にでも老害はいるモノだな。」


「年長は敬うべきものなのですが…。」


「相手にもよるわ。…だがエウレーン公爵をはじめとする妖精族の方々の翁は救うべきなのだが。」


 話を本筋に戻して来たようで、耳長の男が軽く頭を下げた。


「ドワーフ共が監禁している場所はわからぬのか?」


「先の人質返還の際に何名かの暗部を放っておいたのですが、まだ連絡はありません。」


 若者が返事をするが、その内容は期待していたものではなかったのか、椅子に座った男はため息をついた。


「恐れ入ります、やはりエウレーン閣下には三ノ島に向って頂くべきかと。」


 金髪の男が口を挟んだ。その言葉に耳長の男が反応する。


「既にエルフ族は森を捨てる覚悟で移動の準備を進めている。今更どうして三ノ島へ?」


「はい、陽動として。」


「…妖精族の目を我らに向けさせて、その間に人質を救出するというのか?…無謀だと思うが。それに我らは反旗を翻した時点で人質のことは諦めている。この地を決戦の場として、上陸しようとする敵軍を叩くのが常套だ。」


「エルフ族だけ向かわせません。ハーランド領主軍、アオビ老に従う鬼人族軍も従軍してもらいます。」


「おま!何時の間に!?」


 若者が慌てた様子で身を乗り出した。


「ラスアルダス公爵様、私の人脈を見くびらないで頂きたい。これでも“クロウの自由騎士”の号を持つ大使ですぞ。」


 男は口端をつり上げる。公爵と呼ばれた若者は腕を組んで荒い鼻息で視線を逸らした。


「それと…。」


 男はスッと姿を消したかと思うと、小脇に二人の少女を抱えて現れた。


「エ、エル離せ!妾はこれからおやつの時間だ…った…?」


「ご主人!何故私がこのクソエルフと一緒…に…仕事なんか…?」


 小脇に抱えられた美少女は口々に文句を言っていたが、連れてこられた場所のただならぬ雰囲気を感じ取って黙り込み、やがて状況を理解して姿勢を正して男の斜め後ろで両膝を付いた。エウレーン公爵は一人の少女を見つめ、その眼は大きく見開かれていた。


「この二人を使役してください。…戦力になりますよ。」



 膝を付く男、エルバードの不敵な笑みは、流石のサラヴィス王も引きつらせていた。






後半部分を第三者視点で、主人公の名を出さないように書いてみましたが、難しいです。

「最強の職業は俳優?」でも第三者視点で書いているのですが、文章は日々勉強と改めて思い知らされました。


主人公は各国の要人を文字通り跳び回り、密約を交わしていきます。

こんなことができるのは、人外のしゅじんこうしかできません。

しかし、これで戦争は回避できるのでしょうか。そしてドワーフ族の狙いは?


次話ではカミラの秘密が明かされます。


ご意見、ご感想、ご指摘を頂きますれば幸いです。

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