6 命神の契約
二話連続投稿の二話目です。
「…では、これより六大群島交易についての詳細を確認いたします。これについては一ノ島より本案件の全権大使であるエルバード卿よりご説明頂きます。」
司会の声を合図に俺と6人の奴隷は会場へと足を踏み入れた。わずかなどよめきが聞こえ、深々とフードを被った7人を数多の政務委員が注目した。
俺は白地に赤の紋様を入れ込んだローブ。胸元にはヒト族を表す槍と弓の意匠を入れている。サラは白地に茶色の紋様、フォンは白地に青の紋様、エフィは白地に深緑の紋様、ウルチは白地に黄色の紋様、カミラは白地に紫の紋様、そしてアンナは白地に銀の紋様。紋様のデザインは適当だが、統一させている。そして白地には【アダマンタイトの大盾】から紡ぎ出した銀糸を織り込み、さりげなく防御力を備えている。一応突発的な問題が発生しても致命傷は避けられるはずだ。講堂の窓から差す日差しに銀糸が反射し、見る者に豪奢さを感じさせるだろう。
俺はゆっくりとした歩調で歩き、その後ろに奴隷達が静かにつき従う。俺が壇上に登るとやや後ろににサラとフォンが付き、更にその左右に武闘派のウルチとアンナが立つ。後方は魔法要員のカミラとエフィが配置し、俺を囲むようにサラ達の最強布陣を敷いて、政務委員たちを見回した。
「エルバード殿、ご挨拶をお願いいたします。」
司会に促され、俺は一歩前に進み出た。そしてゆっくりとフードを外す。俺の動きに合わせ、後ろの6人もフードを外し、講堂内に感嘆の声が上がった。…当然だ。俺の自慢の美少女奴隷達なんだ。貴様らには見せるだけだがな。声すら聞かせてやらねえから。
俺は議会席を一睨みするように回り見てから挨拶をした。
「エルバードと申す。号は“クロウの自由騎士”。役は六大群島周回船全権大使である。」
俺は威厳のある態度で名乗った。周囲がざわつき俺を眉をひそめて見返してきた。俺は話を続けた。
「此度、六大群島全てを周回する交易船について、検討及び交易許可の決定、誠に感謝する。」
俺が例をすると、後ろに控える6人も動きを合わせて礼をした。
「だが…交易船就航にあたり、貴殿らにも約束頂かねばならぬことがある。」
場が静まった。当然だろう。俺が何を言い出すのか全く予想がつかないからだ。
「まずは、他国との国交を結ぶこと。続いて、他国との大使の交換。…そして、この島を覆う魔力壁を取り払うこと。」
「ふざけるな!」
議会席に座る一人が立ち上がり声を荒げた。
「事前の打合せではそのようなことなど言ってはおらぬではないか!」
「…貴殿らは、私に周回船就航に当たる条件を聞いてきましたか?」
俺の声の低い言葉に男は黙り込む。
「周回船の内容を聞いて、本質の目的を聞かずに勝手に議会で検討したのは貴殿らであって、こちらは説明を求められればいつでも説明する内容だ。ん?俺はその説明をするためにここに呼ばれたと思っていたのだが。」
別の魔人族が立ち上がる。
「条件があるのであれば、この決定は無効だ!」
俺は、事前に司会の男から渡された契約書を持ち上げる。
「この契約書は、この後双方の代表が調印するものだろうが…ここには、就航に対する条件は一切書かれておらぬ。…つまり条件が追加されようが削除されようが、契約は有効になるぞ。」
「ならば、我らはその契約書に署名は出来ん!」
「ならば…交渉は不成立ですな。我々は明日の朝帰路の途に着きます。」
俺が例をすると後ろの6人も動きを合わせて礼をした。
「待て!う、後ろの6人は何だ!」
「この者らは、俺の奴隷…。そして、六大群島周回船の象徴を示す者である。ヒト族、獣人族、妖精族、竜人族、半神族、魔人族…各種族が手を携え協力し合い、互いの発展を目指す、そういう目的が込められておる。」
実はこれは俺が後から考えたことでまだカイトに言ってないんだけど。
「魔人族…だと!?報告では魔人族など聞いておらぬ!その肌の色…夢魔族ではないのか!?貴公!我らを謀ったか?」
「…どうやら貴殿らは思い込むのが好きなようだな。我らは、彼女を夢魔族ではないと言った覚えはないぞ。貴殿らが勝手に誤った検査で種族を間違えただけでなないか。」
「貴様!我らを愚弄するか!」
「大使一人を大勢の前に呼びつけ、言質を取ろうとしている輩が何を言う!それこそ周回船の目的を理解せずに利己に走る者共が!貴公らこそ我らを愚弄しているぞ!」
壇上と議会席との言い合いはヒートアップしていった。状況は1対多、人数だけで見れば圧倒的に不利なはずだが、議会席に座る政務委員たちは、周回船で利益を得んがために実は俺にいろいろ接触しており、俺はその証拠を持っていたので、俺の方が圧倒的有利なのだ。事前にヨルデとヘレイナからたくさんのお手紙を貰っていたが、まあ、なんと欲深い人たちだことで。公にされれば辞職に追い込まれるような内容ばかりだった。
俺は周回船交易を商人達の利益追求の食い物にするつもりはなかった。それは当然一ノ島の商人達にも同様に当てはまり、そのさじ加減はカイトの野郎にお任せしている。要は不当な利益を得られないよう、価格の規制を掛けると言うものだ。だが六ノ島の権力者共は一目見ても高すぎると思われる価格帯での交易を提案して来ていた。ヨルデとヘレイナに価格を確認してもらい、実際の値段よりも数倍の値が付けられていることを確認している。
では、その利益は一体どこへ収まるのか。当然各派閥の懐に収まるのだが、こうも各派閥が同じ価格帯で提示されては誰にでも疑われるぞ。
これは派閥均衡の思想を利用して1人勝ちしているヤツがいる。
俺はざわつく議会の奥で目立たないように立つ男を見た。
「バルヴェッタ殿。」
俺の言葉で議会が静まった。皆がその名の男を一斉に注目し、瞬時にその男の存在感が大きくなった。
呼んだ方はややにやけた表情で、呼ばれた方は表情を隠して、それぞれ相手を睨み付けた。
「…何故、儂の名を?」
俺とバルヴェッタとの直接の接点はない。だが、既にいろいろな方面から情報は得ている。
「中央政務省取次役官と聞いております。…いろいろな方から共通の言葉を耳にして、貴方のお名前をお聞きしました。」
初老の白髭の男は俺の言葉肯いた。だが、それだけでは納得していなかった。
「名は聞こえても、顔までは知らぬと思うが。如何にしてこの大人数の中で儂が噂のバルヴェッタだとわかった?」
議会は静寂に包まれている。誰も声が出せない状態。俺の知識では、中央政務省取次役官とは、議会での発言権などない。だが、それを制する者などなくただ状況を皆が見まもっている…。
やはり、元締めはこいつか。
「中央政務省取次役官は議会での発言権はないと聞いております。なので、一切口を開いていない貴方がバルヴェッタ殿だと思いました。」
「…では発言権の無い儂に何故声を?」
「はい。周回船交易承認の件、こうもお互いの思惑が異なってしまうと収拾がつきませぬ。ならば、この後の陛下への御目通りはどうなるかと思いまして。」
「…お取次ぎ致しますよ。」
「ありがとうございます。実は各派閥の長殿から頂いた手紙に陛下のお姿に関する記述がございまして。」
そんなことを書いた手紙はない。俺はコイツに揺さぶりを掛けて見た。政務委員たちは互いに顔を見合わせて誰なのかを無言で探し始めた。白髭の男はその様子にチラッと目を移したがすぐに俺の方を見た。
「内容をお聞きしてもよろしいか?」
「はい。交易する商品に陛下の御印を飾り高く売ることを書いている御仁がおりまして。真実を確かめたいと。」
政務委員の顔が一斉に凍りついた。同時にバルヴェッタの怒気も上がったことを確認した。
「そのような不見識な政務委員殿はおられないと信じておりますが。」
「ふむ。では『取次役官殿へのご配慮もお忘れなく』というのも真ではない?」
「私への配慮とはいかなる意味で?この案件については、儂は関わっておりませぬ。」
「だが、ここに在る手紙の多くに取次役官についてかかれているのだが。」
バルヴェッタの拳は震えていた。恐らく、各派閥の代表が気を利かせたつもりで余計なことを書いたことへの怒りだろうが、それをここで爆発させるわけにはいかず、耐えているのであろう。…もうひと押しか。
「そう云えば、先日夢魔族の女子を拾うたが、その女子はバルヴェッタ様に命を狙われたと言っていたが…。」
「そのようなことあるわけなからろう!儂を愚弄するにもほどがあるぞ!」
髭の老人は声を荒げた。
柔和な顔つきから一変し、禍々しいほどの形相で老人は俺を睨み付ける。俺はそれを目を細めて見やると、小さくため息をついた。
「醜い顔だな。それが貴様の本性か?あの夢魔族の女子も怖かったであろう。恐怖に打ち震え息も絶え絶えであったし…。」
「嘘を並べ立てるのもいい加減にしてもらおう!貴公はこの国と交易をする為に赴いた大使であろう?我らを怒らせて、貴公の使命を全うできると思うておるのか?」
拳を握りしめ怒りを押し込めてバルヴェッタは返答するが、俺は老人の言葉など聞こえぬふちをして会議の政務委員達に話を続けた。
「貴殿らのこの周回船交易に対する関心度は理解致した。だが、やはりこの国との交易は他の島にとって有益とは言い難い。何せ国家として意見がまとまっておらぬ。…これでは物の値段も分配金も決められん。」
俺の言葉にテング族のシンヨウが立ち上がった。
「意見を纏め、貴公のように全権大使を選出すれば良いと言うのか?」
俺は肯いた。
「我らがいちいち魔人族の派閥均衡を保つために行動しなければならぬのが面倒だ。他国もやっているように代表を決め、代表同士で話し合いたい。」
会場はどよめく。その様子に隣に控えるサラが不安そうな表情を俺に見せたが、≪念話≫で毅然とするように伝えた。他の5人を見て見ると、フォンはただ正面を見据えており、エフィは話など聞いていないようだ。ベラは我関せずで、カミラは既に退屈しており、アンナは俺に野次を飛ばす魔人族を睨み付けていた。
俺は一度肩の力を抜いた。なんとなくサラが不安がっている理由がわかった。俺が一人で気負っているように見えたんだろう。彼女は状況を俯瞰的に観察することができる優秀な子だ。俺がいつの間にか魔人族と喧嘩腰で相対していることで、目的を達せられないかもと考えていたようだ。
「このままでは…この話は平行線のままと考える。ここは日を改めて話しませぬか。」
俺は自分自身の頭も冷やすために一旦閉会を提案した。政務委員達はそれとなく顔を見合わせて俺の提案を了承した。多分、彼らも“派閥の均衡”のために調整時間が必要なのであろう。司会の閉会宣言を合図に俺はマントを翻して踵を返し、6人の奴隷がそれに従った。
控室に戻ると、不満げな表情でヘレイナが俺を出迎えた。
「エルバード様、本当にあれでよろしいのですか?このままでは政務委員会は、派閥均衡の為に周回船の寄港を禁止されると思いますが。」
「…派閥均衡はこの国にとって何故それほど大事なのか…。」
「当然です。昔からこの仕組みで進めてまいりました。故に必要なのです。」
ヘレイナの回答は俺にとっては予期していた内容。
「そうなのだ。理由が昔からの風習…というだけなのだ。だから問題は回避できるが、改善、発展が進まない。俺はそう考えている。」
俺の言葉にヨルデが肯く。
「つまり、今の仕組みを壊そうと?」
「俺にはそんな影響力はないぞ。…だから今のこの国に影響を及ぼしている方にご退場いただき、新たに影響を及ぼす方に入場頂く…。その土壌を作ろうとしているのだが。」
ヘレイナもヨルデも黙り込んだ。
やがて控室に係の魔人族が訪れ、俺はその者に連れられ控室を出た。俺はチラチラと俺の顔を伺うその男が気になり、声を掛けて見た。
「貴方は…魔人族には見えぬようだが…。」
男は足を止めて振り返り、一礼した。
「私は、貴方と同じくヒト族です。…生まれも育ちも六ノ島ではありますが。」
「そうですか。魔人族でない方は苦労をされていると聞きましたが。」
そんな話は聞いていないが、とりあえず話を振ってみた。男は微妙な表情で笑顔を見せた。
「種族で苦労したことはございませんが、偉大すぎる父と自由すぎる兄のお蔭で苦労しております。」
男の言葉で、俺はこの男が何を言わんとしているかがわかった。
「ほう、貴方はバルヴェッタ殿の…?」
「はい。息子のミロと申します。」
久々に≪魂の真贋≫が発動した。ミロと名乗ったこの男から真っ黒な魂が浮かび上がった。一体どういうことだ?人のよさそうなこの男が何故浄化対象なのか?
「そうですか。もしかして先ほどから私を見ていたのは…それほど似ておりますか。“カルタ”という人物に。」
俺は心の動揺を悟られぬよう話を続けた。
「はい。姿かたちは誰もが見間違うほどです。まあ兄はいつも腰布一枚で野を駆け回っていた方でしたが…。」
俺に苦笑した表情を見せ、昔を懐かしむかのように俺を見ていた。…正直、これは心が痛む。俺のせいでそのカルタと言う男はこの世界から消えてしまったからな。
「兄は父のやり方に反発し、無派閥の者と徒党を組んで過ごしておりました。」
「…それで“退去者”として放り出されたのか?」
「…はい。そして私が家を継ぐことになったのですが…。」
ミロの苦しそうな表情を見て、なんとなく理解した。“偉大すぎる父”とは、肩を並べるほどの能力は自分にはないという意味のようだ。
「エルバード様をお連れ致しました。」
ミロは立派な扉の前に立ち、奥に向かって声をあげた。扉が開き、奥から衛兵が現れ槍を構える。
「エルバード殿、取次官様がお待ちです。お入りください。」
衛兵は槍を構えたまま俺を威圧するような声で入室を促した。…バルヴェッタは「様」で俺は「殿」か。俺、嫌われ者のようだな。
俺は衛兵に会釈をして中に入った。続いてミロが入ろうとすると、両脇の衛兵が槍で行く手を遮った。
「ミロ殿には入室許可はありません。ここでお待ちを。」
俺と同じく威圧する態度でミロを下がらせ、扉が閉められた。俺は、悲しそうな表情のミロが気になり、衛兵に話しかけた。
「あの者はバルヴェッタ殿の息子殿であろう?良いのか?」
俺の言葉に衛兵はジロリと睨み付けた。
「…フン。貴様といい、あ奴と言い、どうして取次官様の御子はこんなにも無能なんだ?」
「俺はバルヴェッタ殿の子ではないがな。」
「どうだか。そのうち化けの皮がはがれるぞ。」
俺を蔑む眼。多分この衛兵はバルヴェッタの私兵なのだろう。…いやまてよ。この奥は皇帝陛下の住まい。その重要な場所への入り口を何故、こんな奴らが守護している?
俺の疑問に≪情報整理≫は何も答えずだんまり。…情報が足りてないのか。
考えを纏めていると、途中で大きく曲がり、小さな扉の前まで進み、衛兵は立ち止まった。皇帝陛下の住まいは真っすぐ進んだ先。途中で曲がってここへ来たと言うことは、ここは別の場所。
ここは何処だと考えていると、衛兵が俺に槍を突出した。
「入るが良い。」
俺は衛兵の言葉に従い扉を開けた。中は薄暗く様子がわからない。俺が恐る恐る中に入ると、扉が閉められ鍵を掛けられた。
どうやらここで何かをされるようだ。
不意に四隅の光彩棒が点灯し、部屋が明るく照らし出された。見ると、バルヴェッタが杖を突いて俺に微笑みかけていた。俺はこの敵意のなさそうな態度を見せる老人に軽く会釈する。
「このような所に呼び出して申し訳ない。皇帝陛下の御前にお連れする前にお聞きしたいことがあってな。」
言いながら老人は小部屋の中央にある椅子を勧める。
「…何でございましょうか。」
俺は出来るだけ丁寧な口調で且つ警戒していることを示しながら答えた。
「そう警戒せずともよい。どうせ儂には何の権限もないのじゃから。」
「…そうは思えませぬ。派閥の代表からの手紙にもあるように何かしらの関係性があると思っております。」
「それは儂がヒト族でありながら、100年以上取次官として働いているからであろう。皆儂に敬意を表してくれているだけじゃ。」
それは嘘だ。だって、エフィの様に≪長命≫のスキルをお前持ってないじゃん。
「では、各派閥に一ノ島との交易を円滑に行えるよう頼んでください。」
「…儂には権限はないと言うたであろう?」
「この交易は六ノ島には必ず有益となります。」
「どのような?」
「国交を結ぶことで自由に他国に出入りできるようになります。」
「…。」
「ですが、誰しも出入り自由にしてはご都合が悪いでしょう。そこで出入りに制限を掛けます。六ノ島の都合のいいように。」
「そんなことをすれば、他国は黙ってはおらんじゃろ?」
「出入りの制限は何処の国でも行っております。五ノ島も四ノ島も。六ノ島だけしなくていいという道理はありません。要は守る者を明確にすればよろしいのです。それなくただ交易による利益を追求すれば、先ほどの議会のように私ごときに一蹴されてしまうのです。」
バルヴェッタは薄笑いを浮かべた。
「…若いくせになかなかの見識じゃな。じゃがそれは議会に言うてくれ。」
「誰に?議会では皆が派閥の均衡を保つため、誰もこの話には乗りません。誰もが利益の追求、利益の均等配分を私に求めます。」
…実際は違うのだけど、これで腰を上げてくれるかな。俺は老人の様子を観察した。バルヴェッタは目を閉じ何かを考えていた。そして小さく息を吐いた。何かを決心したようだ。
「わかった。儂がどこまで議会に影響を与えるかやったことが無いのでわからんが、何人かに当たってみよう。…じゃが、儂も俗人じゃ。それなりの見返りは欲しい。」
「わかりました。指定独占商品の利益分与者に名を連ねられるように計らいましょう。」
どうやってこの男の悪事をばらそうかと考えていたが、まさか自分から近寄ってくるとは思わなかった。お蔭で苦労せずにこの島を開国させることができそうだ。
「では我らは皆様が遠慮なく話し合いができるよう、一度六ノ島を離れます。その際に連絡役を誰か同行させてください。話がまとまればその者を通じて連絡頂ければ再度上陸いたします。」
「わかった。先ほどの約束、忘れぬようにな。」
「もちろんです。」
「では、この杖に触れて誓ってくれ。」
バルヴェッタは青い宝石のついた杖を差出し、俺に手で触れるよう促した。何か嫌な予感がするが、ここは乗ってやろう。
俺は杖の先にある宝石に触れた。
景色は一変した。
一面真っ青な世界。
そしてそこらじゅうに溢れる神力。
「ようやく貴公と接触できた。」
突然後ろから声を掛けられ俺はびっくりして振り向いた。
四ノ島の雪山で見たその姿。
あの時はぼんやりとした姿であったが今ははっきりとしたお姿をしている。
「…ヘゼラサート様。」
「ちゃんと六ノ島に来てくれたようだな。」
「私のこの身体に関わることですので。」
「そうじゃな。」
「何故私が貴方様の加護を持っているのか…気になっておりました。」
「正確には、貴公の前の肉体の持ち主が持っていたのだがな。」
「やはり…。」
「ですが、貴方様は封印されているとお聞きしておりますが。」
「うむ。まずはそのあたりから説明しよう。」
命神様は青の世界にどっかと座り、俺にも座るよう促した。
命神様の話はこうだった。
1000年前の大戦で、命神様はヒト族によって封印された。強力な封印で神と言えどこれを解くことができなかったそうだ。そして神を封印したのがバルヴェッタの祖先であるヒト族。“プレイアデスの7姉妹”を作った鍛冶師だそうだ。つまり、バルヴェッタが持っていた青い宝石の杖も、その鍛冶師の作品。俺の武具と同等の力を持っているそうだ。
直接地上に干渉することのできない神々は、何とかこの封印を解こうと“この世ならざる者”を何人も六ノ島に送り込んだそうだが、皆撃退されてしまったそうだ。
だが、命神様を封印したこの杖もバルヴェッタ家が代を重ねるごとにその効力が弱まっており、封印が解けるのも時間の問題になっていた。あと数回杖の力を行使すれば、封印は解けてヘゼラサート様は復活できるらしい。
「杖の力?」
「うむ。今、貴公にさせたように青石に触れて契約行為を行う際に、杖の神力を消費する。」
「では、私は契約行為を受けたということですか?」
俺は≪メニュー≫を開いてスキルを確認した。
『呪い』
≪刹那の治癒≫
≪魂の真贋≫
≪ブレス≫
≪透視の白眼≫
≪真偽の邪眼≫
≪ハーレム体質≫
≪命神の契約≫ ←New!
…呪いなんだ。
「余の加護を持つ貴公であれば、破棄することもできるぞ。現にあの勇者の子孫は余の加護を使って早々に破棄しおった。」
なんて、汚い人間なんだmバルヴェッタという男は。神の名における契約を自分だけさっさと破棄…いや待て、今何と?『勇者の子孫』?
「あ奴は1000年前の大戦の勇者の末裔だ。」
へー…。髭面なのに意外とエリートなのね。…てかそんな奴が何故、六ノ島に?
「質問ばかりだな貴公は。」
は!…いやすいません。…そういうつもりでは…。
「まあ、よい。…大戦後、人間共は疲弊した。特にヒト族の衰退はひどく王家は他国から侵略されることを恐れて勇者たちを各国に派遣した。あ奴の祖先も王家の命令でこの島を訪れ、余の力でもって六ノ島を従えた。」
「王としてではなく、王に仕える取次役官として。…そして魔人族が団結し反抗しないよう、“派閥の均衡”という最もらしい理由を付けて制御して1000年も鎖国していた…というわけですか。」
「既に当初の意義はあ奴は理解しておらぬと思うがの。」
…ようやくこの島の攻略法が見えてきた。
この島はこの男によって支配されている。だが、そのことに誰も理解しておらず、当たり前のようになっている。
であれば、当たり前でない事を理解させ、団結することを意識させ、国の発展のために改革することを望ませればよいのだ。
既に現状に不満を持つ勢力はいる。そいつらに改革を意識させればよい。
「ではさっさと余をここから解放してくれ。貴公に触れる青石にありったけの神力を注げば、意思は砕けて封印が解かれる。」
命神様は真っ青な世界の向こうにぼんやりと見えているバルヴェッタの持つ杖を指さした。
「…恐れ入ります、命神様の封印を解くのはもう少し待ってはもらえませぬでしょうか。」
俺の言葉で命神様の顔つきが変わった、怒気を漲らせている。
「増長するか小僧!」
怖い!…怖いけど、封印されてるから怖いだけ。
「お願いいたします。このまま封印を解いても、命神様が復活するだけ…この国は変わりません。」
「そんなことは余には関係ない!」
「このままでは…」
「地上に住む人間の営みなど、神には関係のないこと!求るは地上界そのものの復元!それには六柱人である余の力が必須!早う解け!」
「…嫌です!」
「な!?」
命神様はお冠だった。黙り込んでじっと俺を睨み付けた。もはや一触即発。…封印されてるから向こうは何もできないんだけど。
「貴様…捻り潰してくれる!」
怖い…本当に怖い。でももう後戻りできん。
「…ヘゼラサート様。お怒りはご尤もなれど…此処は其の矛をお納め頂けませぬか。」
青の世界に聞こえた声。
聞き覚えのある、凛とした声の主は、命神様の影に寄り添うように佇んでいた。
「……白羊獣様?」
白銀の巻角をもたげて、神獣様がそこにいた。
主人公はとうとう命神様にお会い致しました。
ですが、直ぐに解放しろとぐずぐず言っておられます。
そこへ、四ノ島におわす白羊獣様が・・・・
次話では、各派閥が均衡よりも独自の利益を優先し始めて・・・
髭老人殿が制御しきれなくなってお怒りになります。…多分。
ご意見、ご感想を頂ければ本当に有難く、投稿の励みにもなります。
なにとぞ、本物語をよろしくお願いいたします。