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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
120/126

5 議会に乗り込む前に

…半年も更新せずにほったらかしておりました。

明らかに怠慢です。

ペースはまだまだ遅いのですが、順次アップしていきます。

皆様、また読んでいただければこれ以上の喜びはございません。


本日は二話アップします





 随分と時間が経過した。既に夜の(とばり)が降り、部屋の中は闇に覆われている。…だが、誰一人明かりを付けようとしなかった。




 正確には、誰も動くことができなかったと言うべきであろう。その原因は……俺。その自覚はあった。訳の分からないことで取乱して、奴隷達を叱りつけている。奴隷達は畏れ慄き、身動き一つしなくなった。


 アユムは怯えていた。アユムを抱きしめていたハグーが俺に近寄ってきた。


「…エル殿。」


「なんだ!」


 俺は荒々しく返事した。


「…その…皆、貴殿に…怯えておる。」


 俺は6人を睨み付けた。6人共ただひたすら頭を下げている。


「エ、エル殿!」


 再びハグーが俺に声を掛けた。俺はハグーも睨み付けた。



 …そしてようやく我に返った。




 ハグーは…とても悲しそうな顔を…俺に向けていた。


 …俺は我を忘れていたようだ。気づいた時には6人共俺の周りに集まって、俺の怒りを鎮めようと必死に土下座をしていた。俺は全身の力が抜け、その場に座り込んだ。




「…すまない。皆、顔を上げてくれ。」


 俺の声に誰も声をあげようとしなかった。


「頼む。顔を上げてくれ。」


「…しかし、我らはご主人様を怒らせてしまいました。」


 サラが代表して土下座のまま答えた。


「違うのだ、サラ。お前達に怒ったのではない。」


「し、しかし、現にご主人様は怒っておられます…奴隷はご主人様の怒りの内容に関わらず、怒りが収まるまでその場を離れてはいけないのです。関係ないから、自分のことではないからとお側を離れると、ご主人様に余計な疑念を抱かせてしまいます。だから我らはこういう時は、理由に関係なくご主人様の前にひれ伏すよう…全員に言い聞かせてます。」




 久しぶりに…奴隷を困らせたようだ。俺は深く息を吐いて己の中に残る怒りの感情を全て外に追い出してから口を開いた。


「取乱してすまない。今のことは忘れてくれ。決して皆に対して怒ったわけではないことだけは信じて欲しい。」


 6人を代表しサラが答える。


「わかりました。ですが…お怒りの理由はお教え頂けないのでしょうか。」


 顔を上げた6人はそれぞれに困惑の表情を見せている。俺がこれだけの感情を見せる理由が思い当たらないのだろう。不安にもなるだろう。…だが、どう説明すればいいだろうか。

 考えた挙句、俺は頭を下げた。


「すまない。俺の中でも整理しきれていない。だからうまく説明ができない。だが、いずれ必ず説明する。」


 6人は顔を見合わせた。更に困惑した表情でどうしていいのかわからず…といった様子。


「妾達はアンタの奴隷よ。主人が易々と奴隷に頭下げてどうすんのよ。」


 エフィが不満げな顔で俺に噛みついて来た。正直嬉しかった。エフィの奴隷らしからぬ言動に行動。こういう場面では助かる。


「…そうだな。皆今日のことは忘れろ。それからもう遅いから先に寝なさい。」


 エフィが俺の言葉にニッと笑い、他の5人を連れて部屋へと引き篭もろうと促した。サラが心配そうに俺を見ていたが、


「サラ姉、今は信頼して寝るべきだよ。」


 と声を掛け、手を引っ張って行った。俺は心の中でエフィに礼を言い、【遠隔念話】でベラを呼び出した。


(…五ノ島で俺に何か言いかけたのを、覚えているか?)


(……はい。)



 五ノ島で敵の自爆攻撃を受け、ベラも含め奴隷達が怪我をした。その時ベラは俺に「何も…覚えておられないのですか?」と言った。

 あの時は何のことかさっぱりだったが…今の俺はわかる。



 ベラは知っているのだ。俺の側にいた誰かを。



(教えてくれ。あの服は誰のものなのだ?)


(…あの服は…………)


 ベラの沈黙が続いた。俺にはその沈黙の理由がわからなかった。


(どうした?)


(……申し訳ありません。言おうとしても、言葉が…言葉が出て来ません。)


(喋れなくなる…ということか?)


(は、はい。息苦しくなり、声が……)


(わかった。無理して喋ろうとするな。)


(し、しかし。)


(違うのだ。ベラが俺の忘れた部分を言おうとして声が出なくなる理由には…心当たりがある。無理して喋ろうとすれば…ベラの命を奪われる可能性がある。)


(そ、そんな……。)


(だから今はいい。)


(は…はい。)


 俺はベラとの念話を切った。切ってからベラに話しかけたことを後悔した。恐らくベラは何らかの要因で俺の側から消えた誰かを覚えている。だが、それは神にとっては都合の悪いことで、呪いか何かを掛けたのではないだろうか。結果、彼女はこのことを喋ろうとすると苦しむことに…。くそっ!


 この服の持ち主は“この世ならざる者”だ。そして俺と一緒に旅をしていた。だが、五ノ島の戦争で命を落とした。そしてルールに従い、記録と記憶から抹消された…。



「ハグー…。」


 俺はアユムを抱きかかえるハグーに話しかけた。元気のないハグー。…すまない。俺のせいでハグーにまで悲しませてしまってるな。


「周回船へ行って来る。留守を頼む。」


 ハグーは理由を聞かずに肯いた。


「アユムは俺と一緒に来てくれ。」


 俺は怯えるアユムの手を無理矢理引いた。


「エル殿!」


 ハグーはアユムを心配して声をあげた。


「…違うんだ。さっき俺がおかしな行動を取ったのは…俺とアユムででしか共有できない秘密に関連している。」


 アユムの全身が強張った。どうやら何のことか理解したようだ。


「ハグーさん、大丈夫です。僕は師匠の話を聞かないといけないから…行きます。」


 俺はアユムの頭に手を置きポンポンと叩いた。


「そ、その秘密とやらは!…」


 ハグーは涙目だった。続きを言おうとして堪えきれず泣き出したのだろう。親父の期待を受け武に生きようとしている彼女が俺のコトで涙を流す…俺も情けない男になったものだ。


「全てがはっきりすれば、奴隷達にもお前にも話すよ。だが、今は我慢してくれ。」


 ハグーはうんうんと肯いた。






 周回船の一室で俺と、アユムとサヤナさん、アイバ殿の4人で囲んでいた。俺も含めて全員表情は暗い。俺は女性ものの服を見せて、自分が気づいたことを3人に説明した。アユムとは一緒に五ノ島の戦争を経験しているが、…アユム自身もにわかには信じられなかったようだ。


「…だが事実だ。一ノ島には俺と同じタイプの“この世ならざる者”がいるのだが、そいつは自分の地位を利用して“この世ならざる者”の調査を行っている。…だが、最近になって不自然に調査資料と関係者の記憶が紛失した話を聞いている。」


「“この世ならざる者”の調査って何を調べてるの?」


 サヤナさんが最初の疑問を聞いて来た。


「サヤナさんもアイバ殿も体験したように、本人と同じ姿でこっちの世界に来た奴は、ほとんどがボッチで生活するか、有力者にいいようにこき使われる。そいつはそう言う奴がいないか探し監視し、危険が迫れば保護できるよう活動していたんだ。」


「エルバード殿、先ほど“自分の地位を利用して”と言っておられたが…?」


 今度はアイバ殿が質問してきた。


「…ヒト族の王弟だ。名はラスアルダス公爵カイト。」


 2人は驚愕した。アユムも驚いている。…そうか、直接は言ってなかったか。


「お、王族なの!?」


「うむ…あ、いや今は継承権を放棄して貴族だが。」


「…だが、公爵…なのであろう?」


「まあ、かなりの権力者であることは間違いないな。貴方達も彼に保護してもらおうと思っていたのだ。…で、恐らく彼が密かに監視していた者とこの服の持ち主は恐らく同一人物だ。ちょっといろいろと相談もしようと思う。」


「…?どうやって?」


「俺は【遠隔念話】を使える。」


 ここで何故かサヤナさんとアイバ殿が目を合わせた。何故か残念そうな顔をしている。


「…エルバード殿。ここ、六ノ島はな、島全体を覆うように皇帝陛下の御力で魔力による交信を遮断しておる。つまり、ここから外の島との伝達手段は手紙などの物理的な方法しかできないようにしておる。」


 な、なんですと!?


 俺は慌ててカイトの野郎に【念話】を送った。だが、何の応答もないというか魔力の反応もない。俺は【異空間転移陣】を使った。…だがカイトの公邸にマークした転移陣への移動ができなかった。

 ならばと、【獅子宮】の裏庭にマークした転移陣に移動してみる。…こちらは成功した。つまり中から外へは出来ないということか。なんてことだ…もしもの時の脱出手段が、実は最初から封じられていたとは…。


 俺は女性用の服を見つめたまま、この後どうするか考えを纏める事ができずにいた。“この世ならざる者”だけで集まっての話は、カイトと連絡が取れないことで中途半端に終わってしまった。






 翌朝、蝮女(エキドナ)族のヘレイナが俺達の宿を訪れた。


「本日の午後、中央議会にご出席いただきます。」


 俺はヘレイナの唐突な説明に対し、詳細を求めた。


「既に昨日時点で派閥間の調整は確定致しました。後程資料をお渡ししますが、魔人族側7:ヒト族側3の利益分配をお約束頂く前提での決定事項となります。」


「…何に対しての利益分配だ?」


 俺の質問にヘレイナは敢えて表情を消して答えた。


「…奴隷売買です。」


 俺はニヤリと笑ったが直ぐに真面目な顔に戻した。


「他は?いろいろと提案したと思うのだが?」


「その他は各派閥と個別契約となります。奴隷だけは派閥単独での取引は行わず、国家間で取引を行い、売買で得た利益は、奴隷供給側の我ら六ノ島側に7割を支払ってもらいます。交易窓口はシンヨウ殿となりました。」


 ヘレイナの表情は苦しそうだ。多分、俺に不利な内容だと考えているのだろう。


「奴隷売買については承知した。だがその他の交易については詳細を詰めたいので各派閥の代表との面談を申し込む。」


 俺の返事は意外だったのか、驚いた表情でヘレイナは見つめ返した。


「え!?あ…は、はい。…その、宜しいのですか?」


「利益分配のことか?問題ない。ヒト族はこれで儲ける気はない。目的は労働力の供給だからな。…ま、その先には『適切な解放』というのがあるんだが、それはこの場では関係ないし…寧ろ他の方が気になる。ヘレイナ、各派閥の俺に対する動きを追うことはできないか?」


「む、難しいかと。人手が必要ですし、私にはその権限が…。」


「伝手はあるか?」


 俺の質問にヘレイナは考え込んだが、やがて顔を赤らめだした。チラチラ俺を見てモジモジし出した。…こういう女性の仕草は何を考えているのかはわかるのだが…俺の質問に対する回答に結びつかない。


「あ、ああ、あの…?」


 すごく言いにくそうな態度で声を掛けられてもな。俺としても何を考えているかわかるだけに応対しにくい。


「ひ、1つ…ご提案が。」


「…言って見ろ。」


「じ、実はデレイデ様より、み、密命を受けて…おりまして…。」


 あー…。そういうことね。皆まで言うな。理解した。


「んーと…。デレイデ殿からその密命達成のために人手を借りれるかもしれない…てこと?」


「…はい。」


「じゃあ、頼もうかな?」


 俺の答えに喜びの表情を思いっきり見せ、次の瞬間しまったとばかりに慌てて取り繕うとヘレイナはあたふたした。その姿は普段のヘレイナでは見せないため、新鮮で可愛らしい。




 …などと思っていたら、ヘレイナの後ろから殺気を込められた。見るとヨルデが顔を赤らめて喜ぶ様子に侮蔑を込めるような目で睨みつけていた。あ~…修羅場になるのかな…。この3人娘は種族、派閥は違えど仲が良いからな。


「…ヘレイナ、何をする気だ?」


 首筋にナイフを当て凍るような冷たい口調でヨルデが言葉を発し、ヘレイナの顔色が赤から青に変わった。


「ヨ…ヨルデ…これには、わ、訳がある…のよ」


「…副長官殿の密命を受けて、何故メスの顔をする必要がある?」


 鋭いつっこみだ。確かに密命の為に俺の気を引かせればいいだけで、今の3人娘と俺との関係はWIN-WINだから、無理に女の武器を使う必要はない。そのことを理解しているヘレイナは完全に消沈してる。こんな時は俺はどうすればいいか。


「ヨルデ、勘弁してやれ。ヘレイナもヨルデが怒っている理由をちゃんと理解したようだし。それと親友にナイフを向けたことはちゃんと謝ることだ。」


 と、両成敗っぽく言ってみた。


 不満げな表情ではあるが、ヨルデはヘレイナに頭を下げナイフをしまった。


「…お日様九つ過ぎにもう一度お迎えに上がります。その時は議会までご案内します。」


 ヨルデは一礼して出て行った。…怒っているようだ。ヘレイナが慌てた様子で俺と去って行くヨルデを交互に見ていた。


「先にヨルデんとこに行って来い。」


 ヘレイナは俺に頭を下げ、慌てて去って行った。全く…俺は別にハーレム体質じゃないはずなんだが。



 昼過ぎに3人娘は迎えに来る。



 用件は議会での外交官としての口上。それと皇帝陛下との謁見…だそうだ。一応議会では、周回船での交易は全員一致で賛成となり、中央政務省の管轄下で商取引を行うこととなったそうだ。俺はこれら決定事項の説明を受け、返答を議会にて口上しなければならない。更にその後バルヴェッタ長官の案内で皇帝陛下の宮殿へと向かい、ご挨拶となるらしい。となると、正装する必要があるが…。

 俺は貴族じゃないし、騎士でもない。号は持ってるけど、一応外交官なんで、文官…扱いか。となると、上下一繋ぎのローブが妥当かな。

 俺は出来あがりをイメージしながら、奴隷達の分まで午後の謁見用の服を作り始めた。




 昼前に3人娘は迎えに来た。…といってもマウネンテは何故かいなかった。聞いてみると、ヘレイナもヨルデも訝しげな表情で昨日の夜から連絡が付かないと返答された。気になったので、≪気配察知≫でマウネンテの魔力を探すと…いた。


「あれ?」


 彼女は中央議会館…つまり俺達が今から向かう場所にいた。しかも、その周辺には別の意味で知り合った者たちがいる……イェレンの魔力も感じる。


「なあ…マウネンテとイェレンって知り合いなのか?」


「え?……そのような話は聞きませんでしたが。」


 俺の突然の問いかけにびっくりしたもののヘレイナは知らないと答えた。だが、現に二人は同じ場所にいる。それどころか周辺にたくさんの魔力が集まっている。その中にはあの夢魔族のフレイヤーもいる。


「ヨルデ、最近マウネンテはこそこそと出かけることはなかったか?」


 ヨルデも俺の質問にびっくりした。びっくりしたものの、額に手を当てて真剣に考え込む。


「…そういえば、あの夢魔族の子を送り返してから、頻繁に姿を消すようになっています。」


 ヨルデの返答に俺は肯いた。やはりマウネンテはあの夢魔族と繋がりを持ったようだ。悪い予感がする。


「ヘレイナ、ヨルデ。悪いが奴隷達を連れて先に議会館に向かってくれ。俺は時間に間に合うように必ず合流する。」


「…それはネンテに関することなのですね?…彼女に何か起きているのですか?」


「いや、何とも言えない。だから先に制して来る。何も起きないように。」


 俺の言葉で二人は何かを察したようで俺に頭を下げた。


「お願いいたします。彼女は…後先のことを考えるのが苦手な子なんで。」


「わかった。サラ!議会館に着いたら、全員この服に着替えろ。…一応俺の正装に合わせたお前達の正装だ。」


 俺は六着の服をサラに渡した。途端に他の奴隷達がサラに群がる。


「ハグーとアリア、アユムは周回船に戻ってくれ。そしていつでも出向の準備だけ…しておいてくれ。」


「そんなに危険な状況なのか?」


 思わずハグーが言い返したが、俺は首を振った。


「本当なら危険はない。だが、不安要素がでた。」


「…マウネンテ殿か?」


「彼女は今、議会館に付近にいる……。しかもただならぬ連中と一緒にいるようだ。」


 3人娘の二人が詳細を聞き出そうと俺に詰め寄るが、≪気配察知≫での結果ででしかないため、確認してから二人にも説明することで納得してもらい引き下がらせる。


「アユム、俺から連絡が有ったら迷わず船を出向させてラスアルダス公爵を頼れよ。」


「連絡がないことを祈ってる。」


 アユムも成長したようだ。表情は嫌そうにしているが、一応は理解してくれている。俺は委細をヘレイナに託し、先にイェレンの下へと飛んだ。…念のために転移陣を付けておいて良かったよ。






 目の前に突然現れた俺にイェレンを始め、俺を知る連中が驚いていた。そして次の瞬間には俺に向かって武器を構えた。やはり見られてはいけないことのようだ。


「待て!」


 俺は≪地縛≫で全員の足を土で固め、動きを封じた。そして≪超威圧≫を放ち、一旦黙らせる。


「いきなり物騒だな。訳も聞かず俺と相対する行為に及ぶとは…相当知られては拙いことのようだな。」


 フレイヤーに威圧を込めて話しかけると、夢魔族の男は恐怖し震えていた。


「これしきの事で震えている様では、何をする気だったのか知らんが…成し得ぬであろう。…マウネンテ!」


「はひっ!」


 一緒にいたマウネンテは空気の抜けたような返事をした。


「説明を求める!」


 マウネンテは目を白黒させ、言葉を詰まらせた。う~ん…彼女に説明させるのは無理があるか。


「エルバード様…私がお話いたします。」


「イェレン!」


兄様(あにさま)…一瞬にてこの状況、これでどう抗うおつもりですか。ここは、全てをお話し、ご協力を仰ぐほかございません。」


「し、しかし!」


 イェレンの言葉に兄であるフレイヤーは食い下がろうとした。


「フレイヤー、黙れ!貴様はまたしても妹の命を危険にさらす気か!」


 俺の殺気を込めた大喝にフレイヤーは腰を抜かしその場にへたり込んだ。≪超威圧≫マジさいこー。





 イェレンの話はこうだった。


 六ノ島の底辺に位置する各街のスラム出身の若者は、密かに部族の垣根を越えた盟約を結び、議会打倒を掲げ暗躍してきた。…といっても大きなことは何一つできていなかったのだが。

 ここ最近になって各部族の中位層のメンバーも増えていたのだが、その存在を議会に知られるようになり、この間の夢魔族暗殺の事件が起きてしまった。盟約のリーダーでもあったフレイヤーはこのままでは何もすることなく、議会につぶされてしまうと発起し今回の俺との公式会見の場に踏み込み、革命を起そうとしたらしいが…。


「ずさんだな。」


 余りにも短絡的すぎる。下準備も根回しも不十分だ。何より協力者が議会内部にいないのは致命的だ。内部状況が全く見えない。これではこちら側が一網打尽だ。


「フレイヤー…今日のところは一旦このまま解散しろ。」


「な、何を言ってる!このままでは…!」


「自暴自棄になるな。何も革命なんかするなとは言っておらぬ。」


「…。」


 フレイヤーは俺に疑いの目を向けた。流石にムッときたがここは堪えて≪念話≫を送った。


(今日の夜、信頼できる幹部だけ集めて待ってろ。俺が協力してやる。内部協力者も提供してやる。…俺も今の権力者にはいろいろな意味で嫌気がさしているんだ。)


 フレイヤーは黙り込んだ。俺はフレイヤーの沈黙を肯定と捉え話を続けた。


「今回は失敗する。準備不足過ぎる。イェレン、頭の固そうな連中を説得して中止させろ。」


「わかりました。」


 俺は全員の土の拘束を解いた。あの威圧を受けほとんどのメンバーが立てなくなっていたようで、反撃の心配もなかったが、この程度の武力で力技に出ようとは…優秀な参謀が必要だな。


「マウネンテ!」


「はひっ!」


 彼女の返事はまたも鼻から空気の抜けたような。


「お前が何故この輪の中にいる?どういうつもりだ?」


 マウネンテは俺の威圧で身体を震わせていており、俯き加減で想いを語った。


「今の六ノ島は、俺でもおかしいと思う。爺の話では昔は皇帝陛下を敬う気持ちがもっとあった。…だけど今の議会からはそんな想いは微塵も…金や権力ばかりを求める輩ばかりだ。」


 確かに派閥争いだの派閥均衡だの一般市民には理解しがたいルールがこの島の上層部には存在している。だが、歪ながらも盤石な屋台骨がある今の体制を無計画に壊そうとしてもダメなんじゃないか?


「部族や、友人に迷惑を掛けることになるかもしれんのだぞ。」


 俺の言葉にマウネンテは睨み返した。


「それでもやらねばならん!…と俺は思う。」


 マウネンテの意思は固いようだな。


「だが想いの強さだけでは革命なんてできんぞ。」


「だからと言って!」


「俺は今は待てと言ってるだけだ。」


「じゃあ」


「これから俺は議会に出席し、その後皇帝陛下に謁見する。その後各派閥は交易による利益を得ようと俺に接触を繰り返すことになる。」


 マウネンテは黙っていた。だがこのような流れになっていることは知らなかったと表情が物語っていた。もう…あまり直情に行かないでヘレイナやヨルデと一緒にいればもうちょっと情報収集ができたのに…。


「ネンテ、お前はヘレイナとヨルデに頭を下げて、共に行動しろ。あいつ等なら絶対お前の力になってくれる。」


「でも!」


「フレイヤー!さっきのこと頼んだぞ。」


「…信じて良いのだな?」


「一ノ島だけでなく、全ての島との交易を行う大事業だ。その利権を求めて、奴らは足を引っ張り合い、自滅するぞ。」





 俺はサラの元に戻った。既に奴隷達は着換えを済ませており、俺はちょっと残念な気分になった。だが急いで作った割には6人共なかなか決まっているな。苦労して【アダマンタイトの大盾】を銀糸に作り替えて生地に織り込んだ甲斐があった。


「エルバード様、各派閥から、交易に際しての商品目録を記載した手紙を預かっております。」


 ヘレイナが十数通の手紙を俺に渡した。俺はその手紙を1つ1つ確認した。確認してニヤリと笑った。ここまで派閥均衡の思想でやらなくてもいいのに…。俺は心の中で毒づき、今後の方針を固める。


 さあ、あとは俺達の姿を議会に見せつけるだけだ。




主人公は、六ノ島の各派閥が揃う議会に出席します。

ですが、無派閥の孤児たちがこれを阻止しようとずさんな計画を立てていました。

何とか、思いとどまらせることはできたようですが、今回はまだまだ混沌としております。


次話では、主人公VS政務委員のバトルです。

と言っても、武器で戦う訳ではないのですが。


長らく更新を止めておりましたが、やはりこの物語は書き上げたいという思いが募り

行進を再開いたしました。

ブックマークを残して頂いている方…本当にありがとうございます。

これまでの話を忘れている方もおられると思いますので、ぜひ!もう一度読んでいただければと思います

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