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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
119/126

4 サイズの違う服

ちょっと別の小説書いてました。

明日から連続投稿する予定です。

その前に、こちらの最新話を投稿します。

04/05 八章を全体的に見直しました





 議会が始まって二日目。


 政務委員による会議で周回船交易による利権の調整が行われているのだが、どの派閥がどうするかは俺にとっては興味はない。それよりも俺のやるべきことをこの間に済ませてしまいたい。


 俺のやるべきことは二つ。1つは夢魔族との接触。これは、カミラの秘密を解くのに必要だ。村の位置はさっきイェレンから聞いたので、カミラと一緒に行こうと思う。もう1つは【獅子獣】様。これも場所はマウネンテから聞いたので、アユムと行くつもり。アユムは神獣様の威圧にどこまで耐えられるか楽しみだ。アリアとハグーには今日も他の奴隷達の面倒を見てもらおう。


 俺はアユムを連れて、≪気脈使い≫で空を跳んで南地区へと向かった。南地区は森と湖と草原の境目に作られた大きな街で北へ半日歩くと中央政庁区に辿り着く。“南”と言っても島のほぼ中心の位置にあり、この町より南の広大な草原は全て【獅子獣】様のナワバリだそうだ。

 俺達は街のすぐ側にある森に降り立ち、様子を伺った。ここからはアユムが先導し俺は補助に回る。彼のステータスは、


 【アユム】

 『アビリティ』

  ≪アマトナスの僕≫

  ≪他力本願≫

  ≪勇者の加護≫

 『属スキル』

  ≪魔力吸収≫

  ≪衝撃反射≫

  ≪気配察知≫

  ≪第六感≫

  ≪光彩≫

  ≪光魔法.1≫

  ≪精神魔法.1≫

  ≪念話≫

  ≪会心の一撃≫

 『固有スキル』

  ≪スキル無効≫

  ≪不屈の闘志≫

 『呪い』

  ≪魂の真贋≫

  ≪惰眠≫

  ≪ハーレム体質≫


 と、例の勇気と友愛の神から頂いた加護で大きく成長した。≪ハーレム体質≫がかなり気にかかるが、それ以外は中々のスキルである。…当然同じ加護を貰った俺にも≪ハーレム体質≫はあるのだが。

 ともかく、アユムが先導してここから【獅子宮】まで潜り込む。まあ、不足のスキルは俺が補う形でアユムに実地訓練をさせているのだが、やはりボッチでこの手の物語に興味を持っていた彼は筋も良く、すんなりと十二宮の宿まで到達できた。

 だが、中の様子を見て俺はがっかりした。給仕嬢の服装がアレではなく、雰囲気も暗い。たしか、支配人殿が関知しないことを条件にここに建てたらしいから他の十二宮とはマニュアルとかが違うのかもしれん。とにかく、違和感があったので、中には入らず裏庭に転移陣だけ設置してその場を離れた。


 一度街を出た俺達は、街の南に広がる大草原をじっと睨み付けた。俺の≪気配察知≫には既に青い点が映っており、その青い点は俺達に気づき、威嚇していた。アユムが真っ青な顔でガタガタ震えていたが、心までは折れて無いようなので、しっかりと肩を抱き寄せ、「行くぞ」と声を掛けて前へと進んだ。


 南地区の街が見えなくなったあたりで、青い点が突然動きだし、あっという間に俺達の目の前に現れた。白金(プラチナ)色の鬣に赤く光る眼…そして黒い炎を纏った前足。崇高なるそのお姿に思わず見入ってしまうが、俺の側でアユムは顔をくしゃくしゃにしていた。アユム、もうちょっと辛抱してくれよ。


「それ以上我が土地に踏み入る事、許さぬ。」


 脳を揺さぶられそうな大音量の声が響く。その声が周辺の草木を揺らしている。


「畏まりました。これより引き返します。その前に貴方様にお伺いしたき議がございます。どうかお答え頂けますでしょうか。」


「我の知識はニンゲンのモノに非ず。答える理由なし…だ。」


「…畏まりました。これにて失礼いたします。」


「殊勝だな。」


「…これでも他の神獣様にお会いして生き延びている者でして。」


 俺の言葉に獅子獣様の雰囲気が変わった。俺をジロジロと品定めをするかのように眺め出した。


「……貴様が亀爺の云っていた“この世ならざる者”か!確かに尋常ではない神力だ。」


 獅子獣の口の嘴が吊り上ったように見えた。目も先ほどよりもぎらついている気がする…なんか危ない雰囲気だ。アユムもそろそろ限界だし。


「で、では失礼いたします。」


 俺はアユムを抱え後ずさりする。


「ほう?切り替えが早いな。我の気の違いを感じ取ったか?」


 まずい。獅子獣様の後ろ脚に力が篭ってる。いつでも飛び掛かれる状態だ。そしてその距離は俺が≪瞬身≫で遠のいても無駄なほど。≪空間転移陣≫で逃げるしか手がないが、アレの発動には一瞬の間がある。≪空間転移≫では距離を稼げない。初撃を防げば手だてがあるかもしれんが、受け切れる保証はないし、アユムがいるので、無理だ。

 俺は、冷や汗を掻いた。久しぶりに感じる悪寒、死の恐怖。やはり神獣様。この間【磨羯獣】様と対峙したがその時は強大な圧力に対する恐怖だけだったが、今は違う。完全に逃れることのできない恐怖。一ノ島の森で【金牛獣】様、【人馬獣】様に囲まれた時以来だ。ということは下手に逃げれば瞬殺される。



 俺は全身の力を抜いた。諦めではなく、一縷の望みをかけて。相手は神獣様。俺の変化を見逃すはずはない。


「ほう、諦めたか。潔いな。己を弁えていると言った方がよいか。…だが我は貴様を食い殺したくて衝動が抑えられぬ。今すぐその力をここで解放しろ。そうすれば心置きなく貴様を喰える。」


 神獣様は、普段は人間の営みには干渉しない。だが、条件を満たせば全力でもってその暴力をこちらに向ける。

 その条件が確か、


 ナワバリを犯す。

 人ならざる力を解放する。

 神の指示。


 今の俺はナワバリを犯しかけている状態なので、非常に危ない。その上、相手は力を解放しろと命令までしてきた。俺は全身の力を抜いたまま獅子獣様の様子をじっと伺った。その様子に獅子獣様は嬉々としている。


「まだ何かをしようとしている目だな。よいぞ。早くしろ。我は貴様が何かした瞬間に食ってやると決めた。…さあ!」


 獅子獣様は俺を煽り出した。まずい、全力でもって逃げたいのに指一本動かせねぇ。眼球すらまともに動かせない…。俺、神獣様をまた甘く見てたわ…。

 何も解決策が思いつかないまま、じっとしていると、不意に獅子獣様の視線が弱まった。


「…まあ、こんなものか。」


 獅子獣様の口から放たれる何の圧力も感じられない言葉。後ろ足の力も抜けており、臨戦態勢を解除したことが俺にもわかった。


「我ら十二神獣は互いに意思疎通が図れる。互いの身に起きた事も共有することができる。だが、それは己が意識しなければ、疎通も共有もしない。…なのに、他の神獣…天蝎獣までもが、貴様とのやり取りを共有してきた。会いたいと思うておった。そして、貴様はその想いに十分な知力、胆力、神力を持っておった。1つ問う。…貴様はその力、何とする?」


 俺は神獣様の弱まった圧力に思わず脱力し、全身から汗を拭きだしていた。若干息も荒い。


「…なんとも。己の欲望に負けじと日々鍛錬するだけです。」


「つまらん答えだ。」


「…では、世界が安定するまでの命と思うて…好きなように使いたいと。」


 俺の言葉にアユムが反応し、俺を顧みた。青白い顔が更に青くなっている。


「俺達の使命とはそういうものだ。…だが、アユムは違うのだ。アユムは世界が安定した後、人間が増長し道を外さぬよう導くことが使命なのだ。」


 アユムはプルプルと首を振った。だが俺はそんなアユムの頭を軽く撫でて微笑んだ。


「これが俺の本音です。」


 【獅子獣】の問いに真っ直ぐ見返して俺は返答した。獅子獣は俺をじっと見つめ不満げな表情を見せている。


「…まあ、ぎりぎり合格とするか。だが、貴様を守護する神々の期待はもっと高みにあると思えよ。」


 獅子獣様はゆっくりとその場を去って行った。残された俺達二人は、暫くその場に立ちつくし、危機を回避できたことに安堵のため息を漏らした。


 宿に戻った俺達は、カミラを連れて周回船へと転移した。次の調査先である夢魔族の村へ行くのにイェレンを連れて行くためだ。アユムはここでお留守番なのだが、さっきの話があって泣き付かれた。アユムからすれば、俺と離れれば俺が死んじゃうのではと思い込んだようだった。泣きじゃくるアユムをサヤナを一所懸命あやして落ち着かせ、その後アユムは弱々しい姿で自室に引きこもった。俺はサヤナに事情を説明し、理解してもらうよう頼んだ。


「儂も同席しようか。お主には借りもあるし。」


 そう言ってサヤナと一緒にアイバ・レンタロウもアユムの部屋へと向かって行った。


「アイバ殿は暇さえ有ればエルバード様にお礼を言われています。」


 アリアが苦笑がちに俺に答えた。


「…本当に病気は治ったのですか?」


 アリアは俺の治療の様子を見ていた。俺は≪心身回復≫を掛けながら、栄養価の高い食べ物を食べさせただけなのだ。彼はここへ来た時は栄養失調状態であった。よっぽどまともな食事が与えられていなかったようで、これにより彼の内臓は様々な失調をきたしていたのだ。


「まだ完全ではないが、危機は脱したよ。後は俺の言った通りの食事をちゃんと食べて貰えば回復できる。…アリア、頼んだぞ。」


 俺は彼女の肩を叩いてアイバの世話を依頼した。アリアは黙って一礼し、俺はアリアに感謝を述べてイェレンの部屋に向かった。






 陽は既に高くお日様10つ分まで到達しており、早く夢魔族に接触したかったが、来てみて正攻法で彼らに接触する厳しさを知った。

 イェレンが済む裏通りは焼け焦げていた。狭い場所に小さな住宅が密集していた場所であり、低所得の無派閥の連中が共同で生活していたそうなのだが、家は跡形もなく、地面は真っ黒に焦げており、そこには人の気配はなくなっていた。もう少し村の奥へ行けば人に会えるかもしれないが、これ以上は危険と判断し、俺とカミラとイェレンは一旦村から離れ、森の中に身を潜めた。イェレンの身体は完治していたが、村の現状を見て、体を震わせて顔色を蒼くしていた。カミラが無言で彼女を抱きしめ、イェレンはカミラの手を無意識に握りしめていた。


「イェレン…あそこには何人くらいが済んでいた?」


イェレンは俺の質問に俯いたまま答えた。


「20~30人くらいは住んでいました。」


 俺は森の奥を見つめながら、イェレンの手を握った。


「それは、こういう人物だったか?」


 ≪夜目≫≪遠視≫≪気配察知≫≪視界共有の眼≫を使ってイェレンに森の奥にいる数人の男たちの姿を見せた。途端にイェレンの表情が変わった。


兄様(あにさま)達です!」


 身元が確認できたので、俺達は森の奥へと移動し彼らと接触した。イェレンのお蔭で問題もなく接触でき、互いに自己紹介をした。


「フレイヤーと申す。妹を救って頂き感謝する。」


「エルバードという。…一人しか救えなかったことお詫び申し上げる。」


「なんの。助かっただけありがたい。我ら無派閥は取り込まれるか脅されるか選択のない者たち。このような時に真っ先に命を奪われるのがこの国の常。」


「…生きにくい国なのですな。」


 俺の感想にフレイヤーと名乗った夢魔族の男は黙り込んだ。


 サキュバスとは、女型の淫魔を指す言葉。男型の場合はインキュバスと言うそうだが、この世界でもそうなのだろうか。ともかくフレイヤーは拳を握りしめていることから、俺の言葉に同調しており、憤りを感じていることは確かだ。そして、仲間と嬉しそうに抱き合うイェレンを見つめ、同じように拳を握りしめるカミラは何に憤りを感じているのだろうか。


「紹介する。俺の大事な奴隷、カミラだ。見ての通り夢魔族(サキュバス)だ。今日は彼女の素性を知る者がいないか尋ねに来たのだ。」


 俺は彼女を奴隷にした経緯を簡単に説明した。この場にはフレイヤーを含め4人の夢魔族。更に奥には5人が隠れていることが≪気配察知≫で確認できる。魔力の質からして夢魔族では無い者もいる。この集団はいったいどういう集団なのか…聞けば警戒されると思うが…。

 俺の言葉に何人かがひそひそ話をしている。イェレンも不安そうな顔をしている。やがてフレイヤーが代表して俺に話しかけた。


「妹を助けて頂いた者だから知っていることはお教えしたい。だが、俺達ははみ出し者の集まり。この者の素性についてはやはり村長に聞くしかないと思うが…。」


「そうしたいのは山々だが、彼はヒト派の人間。加えて俺は外出してはいけない立場の人間。直接話を聞くことはできない。」


「…貴殿が一ノ島から来たヒト族か。噂は聞こえている。…“バルヴェッタ”の息子に瓜二つ…とか。」


 夢魔族の若者の警戒心が上がった。確かに俺の素性は怪しく、いろんな噂も飛び交っている。こりゃ出直した方がいいか。


「待って兄様!このお方はそのような御方ではありません!」


 イェレンがフレイヤーの前に立ちはだかった。


「私はこの御方に助けて頂きました。そして、この御方の為人にも触れました。我らの事を理解頂くことのできる御方です!」


 イェレンの言葉に驚きつつ、半信半疑でフレイヤーは俺の様子を伺った。俺はワザとらしく口笛を吹いて視線を逸らした。


「…いずれにしても、我らではお力にはなれぬと思う。申し訳ないがこのままお引き取り願えば…」


「兄様!」


「いや、その通りだ。俺達はこのまま引き上げる。イェレン、俺が世話できるのはここまでだ。気を付けろよ。」


「エルバード様!」


 イェレンは泣き付くように俺の手の掴んだ。


「そうそう、“ベレット”という名前に心当たりはないか?」


 俺の投げかけた質問に様々な反応が帰って来た。カミラが不安な表情を見せ、フレイヤーの魔力が大きく揺れた。


「…何かご存知のようだな。可能であれば教えて欲しい。」


 俺はフレイヤーに頭を下げた。この行動にカミラは大慌てになった。


「あ、主~!ウチはもう諦めてるし!もう帰ろ!」


 カミラは俺に頭を下げさせたのを嫌がり、俺の腕を引っ張った。その様子を見ていた夢魔族たちは微妙な表情で俺を見つめていた。


「…20年前…。」


 後ろに控えていた中年の男がぼぞりと呟いた。その声に全員が注視した。


「一族との掟を破り、ベレットはこの島を出た。以降、村長は取締りを厳しくし、夢魔族は圧政に耐えながらも村から誰も出て行かなかった。」


「おい!」


 フレイヤーは中年の男を窘めたが、妹がまた制した。


「知っているのなら教えてあげて!」


「村長に聞けばもう少し詳しい話を聞けるかも知れん。何せ、アイツは天涯孤独で誰ともつるんでなかったからな。俺も敬遠していたし。」


 中年の男はそれ以上の事は知らないと答えた。だが、俺には聞き捨てできない一文があった。

 カミラは正式にはベレットの妹ではない。カミラの母親がベレットと親戚だと聞いている。だが、この中年の男はベレットは天涯孤独(・・・・)と言った。俺はもう一度カミラについて説明をした。すると中年の男は考え込んだ。


「…おかしい。アイツには親兄弟はもちろん親戚もいない。だから村長の命で俺の母親がアイツを俺と一緒に育てた。…最も母親も嫌々育ててたらしいから、早々に家を出て裏通りで乞食同然で生活してたと聞いてるし。」


 矛盾。カミラがベレットから聞いている過去と、この中年の過去に食い違いがある。どうやらカミラの『呪い』にはまだ秘密があるようだ。やはり簡単に知ることはできなかったか。次は吸血族(ヴァンパイア)に聞いてみるしかないか。


「貴重な情報をありがとう。俺達は失礼するよ。イェレン、達者でな。もう変な勧誘に引っかかるなよ。」


 これ以上足止めする理由が見つからなかったのか彼女は悲しい顔で俺にお辞儀をした。そしてカミラの手を握りしめた。カミラはどうしていいかわからず俺に助けを求める視線を投げかけた。俺はイェレンの頭を撫でてもう一度礼を言い、暗くなり始めた森を歩いてその場を去った。



 フレイヤー達は、何かを計画している。だからイェレンが信用しろと言っても俺を警戒していた。その証拠に俺が『変な勧誘に引っかかるなよ』という言葉に反応していた。先日ヒト派の連中は、勧誘を行っている。恐らくそれは表だって活動する理由だと思われる。たぶん『勧誘』の名の下に怪しい人間を捕まえて尋問しているのが実態ではないだろうか。だから、ヘレイナは俺にそのことを報告していた。そしてその『勧誘』でイェレン達は捕まり、あの小屋で放置されていた。…あいつ等の計画とはいったい…?こういうのはアイバ殿やサヤナが詳しそうだ。帰ったら聞いてみよう。


 帰り道。≪気脈使い≫で俺は空中を移動している。本当なら≪空間転移陣≫で瞬時に移動するとこなんだが…≪気脈使い≫で時間を掛けて宿に向かっていた。理由は…カミラがただひたすら泣いていたからである。俺に抱かれたカミラは俺の服を握りしめ、ひたすら泣いていた。


「カミラ…お前がもういいって言うまで、俺は空中散歩をしてるからな。」


「うん。」


 泣きじゃくりながらもカミラは返事した。そしてしばらくしてカミラから声を掛けられた。


「主~…、ウチ、やっぱりひとりなのかな~。」


「…そうみたいだったな。すまん。」


 俺はカミラの言葉を肯定して誤った。カミラはブンブン首を振って言葉を返した。


「主は悪くないの!ウチが呪われてるから…捨てられて、捕まえられて…。」


 カミラは途中まで言ってまた泣き出した。どうやらカミラは自分の呪いのせいで、夢魔族と仲良くできないと思っているようだ。


「やっぱり『呪い』を解かないと、解放できないんだろうな。カミラだけじゃなく、皆も。」


 俺の言葉にカミラは肯いた。もう俺の服が伸びきってぐしょぐしょになってるんだが、まあ許す。


「主と一緒にいると、自分が呪われていることを忘れていられるんだけど…やっぱり呪われてることには変わらない。」


 どう言おう?カミラがアイツらとうまく会話できなかったのは別の理由なんだけど、カミラに言ってうまく伝わるだろうか。少なくともイェレンはカミラにお礼を言って……そうか。お礼しか云わなかったからか。うん、そりゃ不安にもなるな。カミラさん、仲良くなるにももうちょっとお話しないといけないんだよ。俺は優しく彼女の頭を撫で続けた。




 でも宿に戻れたのはそれから俺感覚で3時間後だった。当然、その間にカミラが『発情』状態になってしまい、やむを得ず、木陰で彼女を発散させたんだけど…これは誰にも言えない。





 その夜。俺は周回船に移動し、サヤナとアイバ殿と話をした。


「…体調のほうはどうです、アイバ殿?」


「うむ、身体の痺れもなく、嘔吐感もなくなった。眩暈がまだ残っているが…随分と楽になったよ。」


 アイバ殿は拳を何度も握り感触を確かめながら答えた。その笑顔には多少引きつった表情が見られるが、回復している。後は鉄分を摂取し、血液の循環をよくすれば眩暈もなくなるはずだ。…こんなところで弟を看病した時の知識が役に立つとは…。


「改めてお礼を申し上げます。エルバード様、私に何なりと申し付けて下さい。」


 サヤナが姿勢を正して頭を下げるが、俺は手をひらひらと振った。


「気にしないで下さい。数少ない同士です。見返りも不要です。それよりもこの先どうするか…なのですが。」


 アイバとサヤナは視線を何度か躱して黙り込んだ。特にこうっていう目的もないようだ。


「エルバード殿はどうされるおつもりで?」


「う~ん…。最初は周回船の寄港と交易許可を貰えればいいかと思ってたんだけど…。やっぱり近いうちに起きるであろう政変に加担したほうがいいかなって思ってて…」


「何!?」


 政変という言葉に二人は驚きの表情を見せた。


「何時!?一体、誰が!?」


「何時かもわかりません。誰なのかもわかりません。俺が言いたいのは、今この国にはそういう土壌が出来上がっているということです。…であれば、その後押しをして芽を出させた方がいいのでは?と考えています。」


 俺の言葉に二人は目を合わせた。政変という言葉への食いつき方が気になる。あれは何かを知っている様子だが…ここは相手から切り出してくるまで待った方がいいか。それよりも、カミラにぐしゃぐしゃにされた服を着換えたい。


 俺は二人と別れて再び宿に戻ってきた。着換えの服は何着かサラに渡していたので、サラを呼ぶ。


「サラ、俺の着換えを持ってきてくれ。これと同じ服があったはずだ。」


「畏まりました、ご主人様。」


 サラは俺の命令を嬉しそうに受け、3階の部屋に向かった。暫くして、同じ色の服をサラとエフィで共同して持ってきた。…なんでエフィまでついて来るんだ?

 俺の服は赤地のマントを際立たせるため、白地を基調にしている。なので汚れが目立ちやすいので何着が同じデザインを作っておいたのだ。俺はカミラの涙やら他の体液やらが付いて汚れた服を脱ぎ、サラから渡された服に袖を通した。


「……あれ?腕が通らない?」


 腕を通そうとして、袖口が小さすぎて腕がでてこない。俺は少し強く服を引っ張ったが、やっぱり腕が通らなかった。サラとエフィが不思議そうに俺を見ている。フォンが俺の脱ぎ捨てた服の匂いを嗅ぎ始めた。ヤバいと思ったが、このサラの持ってきた服の方が気になった。そして何気に服を俺の身体に合わせて見た。


「あれ?ご主人様、この服小さいですね?」


 サラが服の淵からはみ出た俺の裸体に少し頬を赤らめながら答えた。


「そうだよな。この服…どちらかと言うと、サラみたいな小さめの女の子………」







 …なんだと!





 この服は女の子用だ!





 俺はカミラを奴隷にした時に、皆にそれぞれに合った服を作ってやった。…だが、俺と同じデザインの服は作っていない。


 なのに、俺と同じデザインの女の子用の服がある!




 何の為に!?







 俺は慌てて3階に上がった。着換えを仕舞っている棚の前に飛び込み、片っ端から引き出しを開ける。俺の≪異空間倉庫≫の中も探し回り服を全部床にばら撒いた。

 俺は床にばら撒いた服を凝視する。サラとフォン、エフィが慌てて俺を追い掛けてきたが、俺はもう眼中にはない。服を一着ずつ確認して、デザインが同じものを選り分けて行った。


 そして、この白地の服以外にもデザインが同じでサイズの違う服をを見つけた。…いや服と言っていいかどうかはわからん。



 赤地のマント。



 俺はこれに金糸で刺繍をする予定だったが、金糸が手に入らなくて仕掛かったまま≪異空間倉庫≫に放り込んでいたものだ。これも大小二枚ある……。


 女の子用の服を持つ俺の手が震えた。


「サラ!この服は誰のだ!?」


 俺のおかしな形相にサラは身体をビクつかせた。


「ご…御主人様の服と……お、思うて…おりました。」


「何で俺のだと思った!?」


 俺は更に質問する。サラは俺の様子が怖いようで泣きそうになっていた。


「…ご主人。その服は、ご主人の匂いしかしない…。私もご主人のものと思う。」


 フォンがサラに代わって答えた。


「何でこんな俺の身体に合わない服が、俺のなんだ!?」


 俺の大声にカミラも、ウルチも、アンナも3階にやって来た。


「この服を作ったのは誰だ!?」


 俺は誰かが俺とお揃いにする為に自分の服を作ったと思い、問い質した。だが誰も手を挙げなかった。


「…この中の誰かが嘘をついているのか!?」


 俺の言葉に6人は硬直した。互いに目を合わせることなく、蒼白の顔色で俺の足もとを見ていた。



 何だ!?こいつらの態度は!?



 俺はもう一度手に持つ服を見た。この服の正体については既に俺は気づいていた。


 気づいていたが、俺自身がそれを認めることができず…サラ達に問い質していた。



 答えられるはずなどないこともわかって。





 クソッ!





“この地で生涯を閉じたこの世ならざる者は……神よって魂を浄化され、その存在を全て抹消される。”






 俺には同じ境遇のパートナーがいた!






 それが誰なのか…どれだけ自分の記憶を辿ろうとも何も出てこない。






 だが、この服が…その存在を……示している。






 (おとうと)よ!俺の記憶を返してくれ!!





 この服の持ち主は…持ち主は一体誰なのだ!?





 どうして俺の側から消えたのだ!?



主人公は、かつて居た仲間の存在に気づきました。

ですが、どんな子だったのか全く思い出せず、心の中ではその存在を否定しようとしました。


次話では、消沈する主人公に追い打ちをかけるように六ノ島での事態が展開していきます。


ご意見、ご感想、及び新しい投稿のことをよろしくお願いいたします。

(12:00の予定です。)

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