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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
118/126

3 新たな加護

04/05 八章を全体的に見直しました





「……と、このような経緯と相成り、誠に残念ではございますが…所有者である私の判断で“元奴隷ウメダ・サヤナ”政務庁書記官を“処分”致します。陛下におかれましてはなにとぞご了承賜りますようお願い申し上げます。」


 白い顎鬚の男は、壇上に飾られた椅子に鎮座する男に平身低頭した。壇上の男は肘をついて眠そうに話を聞いていたが、


「…相わかった。それではウメダ書記官の代りに余の話し相手を務める新しき者はいつ用意できるか?」


 と聞き返し、その返答を催促するような笑みを浮かべた。


「と、10日以内に…。」


「5日以内だ。」


「く、畏まりました。」


 ウメダの代りになる人材を探す労苦を想像してなのか顔色の悪い表情で、それでも何とか壇上の人にはそんな顔は見せじと食いしばって強引な笑顔を向けた。


「そ、それでは本日はこれにて…。」


 白髭の男は丁寧なお辞儀のあと、踵を返して赤い絨毯の道を歩いて、部屋を出て行った。壇上の男はその様子をぼーっと眺めていたが、


「…出でるが良い。此処には余以外は居らぬ。」


 と俺の方に顔を向けて話しかけてきた。気配も魔力も消して隠れていた俺を見つけられたことに、俺の心臓がドクンと高鳴ったが、平静を装って俺は柱の影から姿を現した。壇上の男は俺の顔を見て、少しだけ眉を上げたが、涼しげな表情は変えず、俺を手招きした。俺は意を決して壇上の前まで進み、片膝をついて頭を垂れた。


「このような神聖なる場所に無断で入りたることをお許し下さい。どうしても我が探究心を抑えることができず…」


「確かに…似てるの。」


 俺の言葉を遮って紡ぎだされた言葉は、それだった。俺はわずかに顔を上げた。


「だが、魔力が全く異なる…と云うか其は神力であろう?…肉体はカルタと違わぬが…中身が別人と言ったほうが良いのだろうか。」





 俺の魔力を“神力”と言うこの男は…何者?





 背中に12枚の翼を持ち、額からは蜷局を巻くように捩じれて伸びる6本の角…。神に近いその御姿は千年の昔より変わらぬ装いで王として君臨されていると聞いていたが…。



「…陛下。」


「余は汝の崇むる王ではない。普通に接すれば良い。」


 俺の遜った態度に壇上の陛下は少し不機嫌に返事をした。ならばと俺は顔を上げて肩の力を抜いて笑みを返した。陛下は先ほどの涼しげな表情に戻る。


「そうそう、そのような普通の笑顔で接してくれる方が余には嬉しい。……それで、一ノ島の使者であったな、汝は?」


「はい、6つの島を結ぶ周回船を就航させ、人・物・文化を交易し互いに発展できないものかと各島を回っております。」


「…この島は建国より他国との交流は無かったのだが、移民難民は極秘に受け入れ。文化と云えるほどの誇れるものがあるかどうか…。」


「陛下を象徴とする(まつりごと)も一つの文化だと思いますが。」


「あんな茶番が?」


「…ご存じなのですか?」


「余は百匹を超す使い魔を使役している。その者たちから正確な情報を手に入れるのは簡単だ。」


 陛下の周囲に数匹の羽のはえた猿が出現した。愛くるしい顔をしながら、その眼は俺をじっと捕えており、明らかに警戒し、威嚇している。


「ハハハッ。こいつらは汝を敵と見なしているようだ。大丈夫じゃ、向こうで待っておるが良い。」


 そう言うと片手を軽く振り、その動きに合わせて猿たちが姿を消した。


「千年以上も生きているのだ。大抵のことは余一人でできるし、はっきり言って強い。余が一度(ひとたび)その力を示せば、六大群島などあっという間に制圧できるであろう。」


 俺の背中に汗が伝わった。のうのうと喋ってはいるが、全く隙がないし、俺は指一本動かすこともできない。神獣様に匹敵する脅威を受ける…本当に強い。肌で感じる。


「だが…そんな王が治る国が王以外の力で発展できると思うか?」


 言わんとすることはわかる。統治する者が強ければ強いほど、支配される者は考えるのを止め、強者にすがり、統治者の意見を全て受け入れてしまう。…何かの本で書いているのを読んだ。このお方は恐らくそれを実体験され、政から身を引かれたのだろう。俺は小さく頭を下げて陛下の言葉を肯定した。


「ふむ…汝はサヤナと同じ気を持っておるの。」


 そうですね、同じ転移者ですし…。でもそれを言っていいのかどうかがわからん。


「私と彼女は同郷とご理解いただければ…恐れ入りますがそれ以上は……。」


「ふむ…何かと秘密を抱えておりそうじゃな。たしか千年前も汝に似た気を持つニンゲンがおったのぉ。」


 感慨にふけはじめた陛下を見ていて、俺はあることに気づいた。


 この六大群島の歴史は1000年前から始まったとされているが、実際は2000年前から始まっている。それを創造神が操作して1000年前からとし、ヒト族と魔族が争い世界崩壊の危機を迎えた過去を封印している。そして目の前にいるお方は1000年生きていると言った。でも実際は2000年生きているお方ではないだろうか。そうなるとこのお方は…魔人族の祖…になるはずだ。


「…何か知りたそうな顔をしてるのぉ。」


 陛下は俺の顔を覗き込んでニヤニヤしながら言った。この方の前では隠し事ができん。心を読む身勝手神様までとはいかないが、全てを見透かされている気がする。


「…1000年前に何があったのか…私はそれが知りたいと思っております。」


 陛下は俺の言葉に暫し考えをめぐらせニヤリと笑った。


「願いがある。サヤナを…彼女をよろしく頼むぞよ。彼女はこの島で腐らすにはもったいない。翼竜の幼生も付けておるのだ。多少は役に立つと思うが…。それを了承してくれるならば、聞きたいことを教えてやろう。」


 やっぱり、ばれてたか。まあ、元々そのつもりだったし問題ない。俺は「承知致しました」と答えた。





 目の前の御方は“ルシフェル”様であった。



 堕天使の王と呼ばれ、72柱の悪魔の頂点に立つ悪魔の王。別名サタン。魔族とはこの72柱の事を指すそうだ。

 彼らは魔大陸でそれぞれの領地を支配してきたが、魔族同士で争うことが増え始めた。悪魔の王サタンはこれを御するために、“魔”を縛る金属を生みだし、配下の悪魔たちを従わせるようにした。

 だが、この金属を偶然ヒト族が手に入れ、これを元に“聖”を縛る金属を生み出したことから、事態は大きく変わった。支配され続けていたヒト族が、魔族に反旗を翻した。ヒト族は“聖”を縛る金属から7種の武具を創り出して魔族と戦った。魔族はこれに対抗するため、“魔”を縛る金属から魔剣“アンドラス”を作ったが……。




「陛下、その後は?」


 俺の言葉に苦虫を噛み潰した表情の陛下。どうされたのか?


「気がつくと戦争は終結しておった。お互いに甚大な被害をもたらし、戦争どころではなくなったというところだろう。ヒト族は生き残りを纏め、新天地を求めて大陸を南下した。これに従う精霊族、獣族、竜族、近神族もおり、余も傷ついた従魔を従えこれに同行した。それが六大群島の始まりじゃ。」


「貴方様は魔族の王だったのでは?」


「そうじゃ。…だが王を捨てたのだよ。先ほども云ったであろう?強すぎる力は何も生まぬ。だから新天地に着いた余は“象徴”として君臨し、その他の全ては配下に任せた。」


 記憶の一部に欠落があり、俺が聞いてる内容とちょいちょい矛盾がある。“聖”を縛る金属、“魔”を縛る金属の話は八岐大蛇(ヤマタノオロチ)から聞いている。そして7種の武具は、プレイアデスの7姉妹の武具のことだ。魔族と戦う為と言っていたが、あれは“神殺し”のはず…。そしてアンドラスは…俺が持つ紫の剣だ。…そして肝心な所が欠落している。神と邪神が出て来ていない。


 俺は≪異空間倉庫≫を開いた。陛下が興味津々に身を乗り出した。大剣、鋼槌、双剣、長槍と順番で取り出して床に並べていく。その様子を見た陛下はみるみる顔色を変えた。俺は作業を続ける。魔杖、楽弓、戦斧と並べて、最後に“紫の剣”を取り出して床に置いた。陛下は驚きを隠せず呆然と床に並べられた8本を見入る。


「汝…いったいどうして…?やはり汝は“カルタ”なのか?」


 俺は静かに首を振った。俺は“この世ならざる者”。此の世界にはいない人間。神の力によってこのカルタの身体を奪ってこの世界にやって来た人間。…だがその真実をどこまで言うべきか…。


 俺は意を決した。


「…6か月前、カルタという男が宝剣を盗みだし、六ノ島から脱出しました。…その後ハーランディア島で私は目を覚まし…目の前にはこの剣がありました。」


 陛下は無言で俺の言葉に耳を傾けている。


「私は全ての記憶を失い、気がつくとこの身体になっておりました。今までの事から想像して、私がカルタという男の身体を…乗っ取ったと、考えております。」


「汝の気がカルタと違う説明はつくな。」


 陛下は肯かれた。俺は話を続けた。


「私の側には従者が1人いました。ですが、盗賊に襲われ、私を逃がす為に命を落としました。」


 陛下は静かに目を閉じた。何かに祈りを捧げているようなので、俺は陛下が目を開けられるのをじっと待った。少しして陛下は目を開け大きく息を吐いた。


「あの者は、汝を守って逝ったか…。」


「私の弱さゆえに、あの者を死なせてしまいました。お詫び申し上げます。」


 俺は深々と頭を下げ、あの禿散らかしたおっさんの冥福を祈った。そして話を続ける。


「その後、私は自分が何者なのかを探す旅に出ました。そして、旅先でこれら7種の武具を手に入れました。偶然でこれら全てを手に入れることなど、できましょうか。…私はこれを運命と思っております。」


「運…命……。」


 陛下は8本の武具を見つめながら、じっと考え込んだ。そしてその表情がだんだんと明るくなっていく。


「汝、この武具…どう使うつもりだ?」


「…わかりません。“アンドラス”は封印されてますし。一先ず7姉妹の武具は、奴隷達に使わせてますが。」


 陛下は大笑いした。


「“魔”を滅ぼすと云われた武具を、奴隷のおもちゃにか!これは愉快!だが、気を付けよ!」


 俺は頭を下げた。聞けば、この紫の剣は封印などされてはいないそうだ。単に覚悟が足りないから抜けないだけだそうだ。

 7姉妹の武具は、全てを滅ぼす為に作られた武具。紫の剣は、(よこしま)を滅するために作られた武具。故に主を選んでいるそうだ。そして、その主は陛下となっていたから他の者では抜けないだけだったそうだ。陛下は「もう必要ないし」と言って、持ち主を俺に書き換えてしまった。


「この剣…抜くならば、その全ての覚悟を持って抜くが良い。…余は、結局抜けなんだ。この意味重々理解してくれ。」


 7姉妹の武具は、本来は神を倒す為に作られた武具。ヒト族は何らかの理由で邪神を崇め、神に刃を向けた。そして神と邪神の戦争がはじまり、神々は大いに傷ついた。世界の崩壊が始まり、創造神はその崩壊を止めるために、“魂の循環”を始めた。・・・いやまて!この武具は2000年前から存在するはずだ。確か八岐大蛇がそう言っていた。だが、世界が記憶している過去は1000年前まで。失われた1000年にいったい何があったのだ!?ヒト族と魔族の関係は?




 創造神(おとうと)よ。何故に真実の全てを教えてくれぬのだ。真実は己で見つけよと言うのか。…俺は思うぞ!神は身勝手で傲慢で醜悪だ!







 陛下の下を辞し俺は宿に戻ってきた。既に3人娘が次の予定を決めており、その予定では、アマヤヌラ殿と特産物の検分。その後、デレイデ殿と北地区の観光めぐり、となっている。それから、ウメダ・サヤナの件については、各派閥の代表を通じて報告と抗議を頼んだのだが、中央政務庁の反応がおかしかったとのことだ。…まあ、サヤナの事は先に直に聞いているから、いいけど。

 それから、やはりだったが夢魔族と獅子獣様の観光は許可されなかった。そして明後日の議会でようやく俺達のことについて検討がされるそうだ。そして議会検討中は議案に対して公正を期すよう、各派閥は俺達との接触が禁じられるそうだ。当然3人娘たちも接触できなくなるそうで、俺達が外出できるのも明日までだそうだ。…元々外出許可なんて出てないのに。


 で、外出時のお供はアリアとアユムだけにした。奴隷達は連れて回れないし、ハグーは奴隷の護衛係に必要だ。かと言ってお供無しも不格好だし、ここはアリアに経験を積ませるということで。

 ハグーに奴隷の世話代理を指示しておく。これでハグーから奴隷達に食事などが渡せるようになる。俺は悲しそうに見送るサラ達に手を振り、3人娘とアリア、アユム、数人の護衛兵を連れて宿を出た。

 俺達は行く先々で熱烈ではないがそれなりの歓迎を受け、施設の説明や、民芸品の由来、作り方などを教わった。夜は北地区の派閥代表との会食を行い、賓客としていろいろともてなしてもらい、アリアもアユムもかなりのご満悦であった。

 給仕をする若い魔人娘たちが、アユムを見て騒いでいた。どうやらアユムの可愛らしさにキャッキャと騒いでおり、入れ代わり立ち代わりアユムに果実水を酌しに来ていていた。


「こちらはいかがでしょうか、小さな勇者様。」


 などと言って可愛らしいアユムに話しかけて喜んでいる。アユムは突然のモテ期に困惑している。そして俺はそんなアユムを見て危機感を感じていた。



 そして案の定……。




 目の前が真っ白になり、俺はアユムと共に真っ白い世界に連れて来られていた。


「何?何!?」


 突然の状況にパニくるアユムを抱きかかえて俺は白い世界の奥からゆっくりと浮遊しながら近づく二つの影を睨み付けた。

 二つの影は俺達の前で止まる。1つは俺の見知った顔、創造神(アマトナス)。もう一つは初顔だ。俺は、怯えるアユムをギュッと抱きしめ、落ち着かせる。


「基礎的な能力はそこそこついてきたようだから、そろそろ次の試練を用意しようかと思っていたところに、ちょうどよく条件を満たしたようだね。」


 知らない顔の方が、俺に話しかける。男神。全身真っ青の鎧で胸の部分に鳥のような紋様。真ん中に赤い宝石が輝いている。兜も青く、両側から天に向かって大きく伸びる角が付いていて重厚な兜。そして赤いマントを付けて、胸にある紋様と同じ意匠のついた青い盾を手にしていた。


「ロ、ロ○!…○ト!」


 俺の腕の中でアユムが激しく興奮した。理由はわかる。俺も鳥肌が立ってる。目の前に立っている男神の恰好はどう見ても○トだもん。腰に差してる剣の柄の部分も例の紋様だ。


「こ、この者は勇気と友愛の神、カロット。…≪他力本願≫を持つ者へ、次の試練を与えるものとして、そのこの神の加護を与える。」


 なんか、創造神(おとうと)のやつ、恥ずかしそうにしゃべってない?…そうか、この神様を見られたのが恥ずかしいってことか?うんうん、わかるぞその気持ち。

 俺は創造神(おとうと)に向かってニンマリと笑みを浮かべた。相手はニヤニヤと笑う俺を見てプイッと顔を逸らした。アユムは興奮しっぱなしだ。


「では私の加護を与えよう。ついでにその保護者たる貴殿にも授けよう。」


 カロットと言う名の男神は腰にさげたロ○の剣そっくりの剣を高く掲げ、えいっと振り下ろした。俺とアユムはその瞬間に雷に打たれ、気絶した。



 気がつくと俺は派閥代表との会食の真っ最中で代表たちは明日の議会について熱く討論しているところだった。俺はアユムを見た。アユムも俺を見ていた。そして同時に肯いた。


 何かアビリティを貰ったはず。後で一緒に確認しような。…そんな肯きだった。







 翌日。


 議会が始まり、俺達は厳重な監視の下、宿の中でのんびりと過ごしていた。

 サラは昨日図書館で俺が借りてきた歴史の本を無心に呼んでおり、フォン俺の膝枕でお昼寝。エフィは干し肉をしがんでご満悦の表情を浮かべ、ウルチを休ませるためにベラが寝室のお片付けをしており、アンナは精神統一。ハグーは俺の目の前に座って次の膝枕を予約していた。

 …カミラは窓の外を眺めていた。その方向はアリアとアユムに世話を依頼しているイェレンとサヤナのいる港がある。


「カミラ。」


 俺の声に反応して振り向くがその表情は元気がない。


「…気になるなら船に連れて行くぞ。」


 だがカミラは首を横に振った。


「ウチ、何をしゃべったらいいか…わかんない。」


「それでも行くべきだと俺は思う。カミラが何者なのか…それを知る権利があるのだぞ。」


 俺の言葉に肯きつつも、カミラはどうしていいかわからず、視線をあちこちにめぐらせていた。すると部屋の奥で本を読んでいたサラがパタンと本を閉じて俺の前まで寄ってきて跪いた。


「私がカミラと一緒に船へ行きます。どうかお許しを。」


 奴隷達の姉としてサラは見かねたのだろう。俺はサラの頭を撫でて起き上がり、名残惜しむフォンを横目にサラとカミラを抱え、周回船へと転移した。ベッドで休むイェレンにカミラを紹介し、サラに「後はよろしく」と言うと、アユムを連れて直ぐに宿へと戻った。宿ではフォンとハグーが俺の膝枕権を掛けてとっくみあっていたので当然拳骨を喰らわせた。








 暗い牢屋。


 中央政務庁の地下室で、そこには“アイバ”と言う名のヒト族が捕えられている。

 俺は≪気配察知≫で“この世ならざる者”がいる事を知り、アユムと共に密かに訪れていた。アユムにとっては初めての隠密行動。緊張を隠せない表情をしており、動きも硬くなっていた。


「もっと肩の力を抜いていこう。」


 小声でアユムを激励したが、その声が牢屋の中に座り込む“アイバ”の耳に入ったようだ。


「…誰かいるのか?」


 光の届かない牢屋の奥から声が聞こえた。俺はすぐさまその声に応答する。


「アイバ殿か?」


「…どなたかは存ぜぬが、助けに来たのであれば無用じゃ。要らぬ乱を招かぬようワシはここで朽ち果てる。立ち去るが良い。」


 太いしわがれた声。既に人生を折り返した年齢かと感じた。その言葉にアユムはあたふたとするが、俺は落ち着き払って更に返答する。


「“鍛冶師オルド”をご存知か。」


 俺の声にやや間があってから返事が聞こえた。


「…師匠に何かあったのか?」


「私は一ノ島からやってきました。この島での伝手を得るため、オルド殿にご協力いただき、手紙を預かって参った。…ここで朽ち果てると言うのはやむを得ずだが、せめてオルド殿の手紙くらいは見て頂けぬか。」


 暫く間があって、牢屋の奥から小さな炎が浮かび上がった。アユムが「ヒッ!」と声を上げすぐさま自分の口を押えた。ビビったな。俺もビビったよ。だって炎の隣に痩せこけた顔があるんだもん。


「貴方が“アイバ”殿か。」


「…いかにも。貴殿は?…いやカルタ様ではないのか?」


「エルバードと申す。こちらは私の弟子、アユムです。」


 アイバにアユムを紹介するとアイバは目を大きく見開いた。俺の顔より、

アユムの黒目黒髪に驚いたようだ。


「…見ての通りです。彼は日本人です。そして私も日本人です。」


 アイバは更に目を見開いて俺を見た。


「なんと!砂夜奈(サヤナ)以外に“この世ならざる者”を目にするとは!それも二人…。…いやカルタ様ではないのか?」


 アイバは俺とアユムを交互に見ると少し前に進み、俺達に近寄った。だから俺はカルタではないから。


「ならば悪いことは云わぬ。早うこの島から立ち去るが良い。この島は“バルヴェッタ”によって支配されておる。生半可に力攻めではワシのように捕えられ、奴隷として一生こき使われるぞ。」


「そのご様子では、アイバ殿は、“バルヴェッタ”に挑まれたということですか?」


「…二十年も前になる。この地に転移した儂は、神より授かった力を駆使して“バルヴェッタ”に戦いを挑んだ。だが、力及ばずあ奴に捕えられ奴隷にされた。その後、師匠の下へ遣わされ、魔装具の鍛冶師としてその技術を叩き込まれて、ずっとあ奴にこき使われた。悪いことは云わん。貴殿も早う去れ。…というか本当にカルタ様ではないのか?」


 諦めの決意とも思える希望の潰えた眼差し。よほど苦労し、心を折られたまま生かされたのだと想像がつく。実際にはその奴隷にはさせられていないはずなのに、言葉の力で信じ込まされていたのだろう。それから三度目だけど俺はカルタではないから。


「アイバ殿。どのような神にお会いになられましたか?」


「ん?…えと創造神様と鍛冶の神様と病気の神様だったかな。…じゃがそれが何かあるのか?」


 3柱か。と言うことはパワーアップは2回。確かにそれでは、普通の人より強い、くらいじゃないのかな。


「…“この世ならざる者”は神より断罪を受け、新たな力を授かり、黒き魂の循環者として力を得ます。それはお会いする神の数によって増していきます。」


「何!」


「…そして私は既に18柱の神と対しております。」


 アイバ殿はあんぐりと口を開けた。ついでにアユムもあんぐりしていた。…そっか、言ってなかったか。


「もう1つ。“この世ならざる者”はこの世界の人間ではありません。故に死ねば、その者の記憶も記録も失われてしまいます。」


「なんと!?」


 アイバ殿は身を乗り出し鉄格子に手を掛けた。鉄格子は以前王都の奴隷商で見かけた魔力を帯びた鉄格子だったため、バチィッ!とアイバ殿の両手を大きく弾いた。アイバ殿はよろめいたが何とか踏ん張り、再び俺を直視した。


「ワシは砂夜奈を覚えている!…と言うことは彼女は!?」


 俺は静かに肯いた。


「私が匿っております。…アイバ殿。サヤナさんからも貴方の命は短いと聞いていますが、その残りの命、私に預けてくれませぬか。気休め程度かもしれませぬが、その命を伸ばせるかも知れませぬ。」


「……わかった。貴殿にこの身体を託そう。…というか本当にカルタ様ではないのか?」



 …もういいから。





 ギイィィと重い扉が開き、扉から暗闇に向かって光が射す。扉の前には白髭の男が立っており、難しい顔をしていた。男は暗闇を覗き込み、ハンカチで口と鼻を塞ぐ。


「なんと黴臭い場所なのだ…。」


「申し訳ございません、普段から光を入れぬ場所故…。」


 そばに控える男が頭を下げる。白い顎鬚の男はその男に目もくれず、暗闇の中に入って行った。


「左手の牢屋に“アイバ様”がおられます。」


 男の言葉に白髭の男は左手の暗闇を覗き込んだ。僅かに人らしき影が牢屋の中に見える。


「アイバよ。ウメダは何処へ行った?隠すと為にならんぞ。貴様は儂の奴隷なのだ。生殺与奪は儂にある…。死にたくなければ言うが良い。」


 牢屋の中から返事はない。


「ふん…貴様は死にかけておったから、自分の命など惜しくないか。だが、ウメダの生殺与奪も儂にあるのだぞ。居場所を言わねばウメダを殺す!さあ言え!」


 白髭の男は声を張り上げ、牢屋の中のアイバを脅すが、牢屋の中からは全く反応がなかった。白髭の男はこめかみに血管を浮き上がらせ、怒りを爆発させた。


「何とか言うたらどうか!もういい!おい≪光彩≫で明かりを付けろ!貴様は死刑だ!この場で儂が首を刎ねてくれる!その後ウメダも殺す!わかったか!」


 光彩棒で明かりが灯され、アイバのいる牢屋が照らされた。中には人型をした土が盛られており、アイバの姿はなかった。その場にいた男が全員周りをキョロキョロと探し出した。だが、どこにもアイバはいなかった。


「お、おい!どういうことだ!」


 白い顎鬚の男は顔を真っ赤にして、若い男に怒鳴ったが、若い方の男も訳が分からず、顔を青ざめて辺りを見回していた。


「わ、わかりませぬ!父上が来られるまでこの扉を閉めて誰も入れぬようにしておりました!」


 男は、自分は悪くないことを主張するように声を張り上げる。だが、白髭の男はそんな男に杖で殴りつけた。


「もう良いわ役立たずが!貴様は屋敷で蟄居しておれ!」


 怒りを露わにしたまま、大股で床を叩き付けるように歩いて白髭の男は地下室を去った。後には殴られて口から血を流して涙ぐむ若い男の悲しい姿だけがそこにあった。









「にいちゃん!アレ、絶対ロ○だよ!○ト!」


「…はしゃぐなアユム。…いいか、大人の世界ではな、知っていても知らないふりをしなきゃいけない時があるんよ。」


「なんで?」


「それがよりよい関係を築く手段でもあるからだ。」


「…ぼっちだった僕には意味がわからないよ。」


「俺が教えてやるよ。アユムが『ロ○だ!○ト!』ってはしゃぐのを見て、創造神様は凄く恥ずかしいと思われていたんだ。勇気と友愛の神を創造されたのは創造神様だからね。そんな創造神様の威厳を保つためにはどうしたらいい?」


「……そっか。うん、あれは勇気と友愛の神、カロット様だね。」


「…そうだな。」


「でも、あの青い鎧のお姿が目に焼き付いてて…。」


「…頑張って忘れるのだ。≪勇者の加護≫を頂いたから、多分カロット様は用済だ。もう、二度とお会いすることはない。」


「そうだね。頑張って忘れる。」


「俺はもう見てないことにしてるぞ。」


「すごいね、兄ちゃん。」


「……大人になれば普通にできるから。」


主人公はまた、神様に呼ばれて力を手に入れました。

しかもアユムも一緒に手に入れました。これから、アユムの成長は飛躍するはずです。

次話では、アユムとカミラの回です。でも活躍はしませんから。


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