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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
117/126

2 黒目黒髪の美女

新しい転移者が登場します。

04/05 八章を全体的に見直しました




「イェレン様が目を覚まされました。」


 宿に戻った俺にサラはそう声を掛けてきた。ハグーに周囲警戒を指示して、俺はイェレンを寝かせた部屋に向かった。部屋には既にマウネンテもおり、更には部屋の隅っこでカミラが様子を伺っている。

 俺はベッドの脇に腰を降ろし、ゆっくりとした口調で話しかけた。


「どこか痛むところはあるか?」


 俺の声に反応して少女は俺の方に顔を向けた。


「そのお声は…私を助けて頂いた方…。ありがとうございます。」


「…すまない。他の者は助けられなかった。」


「先ほどサラさんからお聞きしました。仕方がありません。我ら無派閥の孤児はこういう運命なのです。」


 少女の言葉に傍にいたマウネンテは顔を顰めた。悔しさを滲みだしたその表情は、自分に当てはまる何かを抱えている証拠。俺はマウネンテの頭を撫でて落ち着くよう諭した。


「さて、聞いたかと思うが、俺は一ノ島の人間だ。とある用事で六ノ島に来ているのだが…。君をどう扱っていいのかわからん。そこで俺の監視として付いている3人に相談をしているのが。」


 少女の顔が強張った。そりゃそうなんだが、マウネンテが素早くイェレンの手を握りしめた。


「大丈夫。誰も貴女の事は報告してないの。俺…私たちは貴女の味方よ。だから話して欲しい。何があったの?」


 ハグーもそうだが、どうして俺っ子は大事な場面になると口調を正せるのに普段は俺っ子を貫くのだろう?


 そして手を握られた少女は、困惑した表情で見えないからか顔をあちこちに振っていた。


「マウネンテ、俺は席を外す。ヨルデと一緒に彼女に言いたいことを言え。」


 俺の指示で奴隷達は部屋から出て行くがカミラが残りたそうな表情で少女を見やっているので、俺はカミラの手を引っ張って連れ出した。


「い、いたい~主~!」


 カミラはいつもの口調で声を上げるが、表情は決してよくない。


「どうした?同族の少女を見て、望郷の念が芽生えたか?」


「そ、そんなんじゃないし。ウチは主一筋です~。……でも…。」


「でも?」


「村の様子とか、お友達のこととか、聞きたいな~て思って…。」


 ……それを望郷の念と言わずしてなんというのだ?まったく…。


 アホのカミラは一旦ほっといて、俺はエフィの書いたメモを確認した。

 エフィはウルチが聞き取った宿の周囲にいる人間の会話を書きだしていたのだが、字は汚かった。ドヤ顔で俺に渡して来たんだが、何にドヤっているのか俺にはさっぱりわからなかった。

 だが、メモを読み込んでいくと意外なことがわかった。


 俺が接触した派閥は北地区を管轄するヴリトラ派、クー・シー派、テング派。当然周囲を監視護衛している輩はその派閥の人間のはずだが、会話の節々に“バルヴェッタ”という言葉があった。




 “バルヴェッタ”




 それは、中央政務省取次役官の名。




 そして、カルタの父親。




 ≪思考並列化≫と≪情報整理≫が活躍し、俺に答えを導き出した。


 周囲を囲んでいる3派閥の人間の中に、バルヴェッタに通じている者がいる。


 奴は何者なのだ?この国の王との取次役だけではないのか?…と言うことは裏の地位があって、かなり高いと見た。≪情報整理≫が答えを出していないことから、あくまでも可能性ではあるが。

 とそこへ、フォンが帰って来た。屋根裏から顔を出して、俺を見つけると音もなく床に着地し、尻尾で埃を払うと、ちょこんと俺の膝の上に座った。そして大玉を強調する仕草で上目づかいをする。アンナが見かねてフォンを追い払おうとしたが、俺がそれを制した。


「フォン、どうだった?」


「…あの爺様、取次役館に入った。」


 その言葉を聞いた瞬間に≪情報整理≫が答えを出す。…カミラの事が知られた。俺は眉間に皺を寄せた。…まずった。カミラは入国時の検査で“ヒト族”と報告している。どうやって夢魔族をヒト族に見せられるのか問いただされた時にどう応えるか…。


「それから…。」


 それから?


「黒目黒髪の(メス)がこっちに向かってる。」


 俺の体温が上昇した。黒目黒髪…それはこの世界にはほとんどいない。十中八九転移者…つまり“この世ならざる者”。俺は慌てて≪気配察知≫の有効範囲を広げた。ゆっくりとこちらに近づいてくる黄色い点を確認する。俺は膝に座ってご褒美を待つフォンを跳ね除け、慌ててみんなに指示を出した。


「アリア!お前はイェレンと一緒にベッドで寝ておけ!彼女は隠すんだ!」


 突然の俺の指令に慌てた表情でアリアは飛び出した。


「アユム!お前は今から何もしゃべるな!いいな!」


 アユムは俺の表情に怯えてコクコクと無言で肯く。


「ハグー!アンナ!フォン!…今から黒目黒髪の女がここへ来る。だが、絶対手出しをするなよ。俺がその女の≪鑑定≫を行って確認するまで手をだすな。わかったな?」


 3人は三様に肯いた。


「カミラ!残念だがお前が魔人族であることが既にバレている!姿は元に戻すぞ。だが余計なことは喋るなよ!」


 気迫の篭った俺に圧倒されながらもカミラは肯いた。そこへ異常を感じ取ったマウネンテとヨルデが2階へとやって来た。


「ヨルデ、黒目黒髪の女がここに向かっているらしい。心当たりはあるか?」


 ヨルデの表情が強張った。


「…中央政務省取次役書記官、ウメダ・サヤナ様。切れ者で有名な絶世の美女です。」


 ヨルデの表情には怯えの色も見える。よほどの相手のようだ。


「ヨルデ、その女が来たら、何食わぬ顔で俺と引き合わせろ。マウネンテ。お前は顔に出てしまうから、部屋に引きこもっとけ。」


 マウネンテは文句を言おうとしたが、押し黙り肯いた。自覚はしているようだ。二人を1階へと送り出し、サラ達には俺の後ろに控えるように言ってソファにどっかと座り込んだ。


 沈黙の時間が流れる。俺は≪気配察知≫で相手の様子を窺っており、黄色い点が近づいてくるのをじっと見ていた。そして黄点は宿の前で止まり、ベルを鳴らす音が聞こえた。


 夢魔族の少女は隠した。血の気の多い子には手を出さぬよう言い聞かせた。みんなのスキルは≪偽りの仮面≫で危なげないものにしている。…大丈夫なはずだ。俺だけで対峙すれば。


 やがて階段を昇る足音が聞こえ、リビングの扉が開けられた。


「エルバード殿、中央政務省から監督官の方が参られた。入国時の検査結果について、聞きたいことがあるそうだ。」


 ヨルデは何も知らぬ素振りで俺に話しかけた。俺は困った表情を見せて返答した。


「あら~意外と速かったな~。」


 何の件で来たのかわかった風に答えた俺は、ヨルデと一緒に入って来た女性を見た。




 絶世の美女…なるほど。年齢は俺より上か。妖艶すぎるほどの美しさを持った黒目黒髪の美女。その姿は騎士でもなく、文官衣でもなく、艶やかなドレスだった。強調するべきところを強調した真紅のドレス。どう見ても文官には見えない。そして怪しげな笑みをこちらに向けている。


「初めまして、エルバード殿。中央政務省から監督官として派遣されました“ウメダ・サヤナ”と言います。…そのご様子だと何の件で私が来たかをご承知のようですね。」


「いつかはばれると思っていましたからね。ですが、早すぎます。どうしてわかってしまったのか見当がつきませんが、諦めざるを得ませんね。」


 俺は臆した様子を見せずに言葉を返した。美女は後ろに控えるカミラを一瞥して、また怪しく微笑んだ。


「ふ~ん?ま、いろいろと聞かせて頂くのでヨロシクね。」


 誘うかのように片眼をつぶる仕草。前世ではウィンクと言うのだが、この世界でも通じるのか?俺は彼女の行動をスルーして右手を差し出した。


「…お手柔らかに。」


 絶世の美女は差し出された右手を見てフフンと笑い、これに応じて右手を出し、しっかりと握手した。



 この時点でこの女性は戦闘経験は皆無と判断した。そしてさらに俺の固有スキル、≪状態管理≫を発動させ、彼女の【メニュー】を開いた。




 【ウメダ・サヤナ】

 『アビリティ』

  ≪アマトナスの僕≫

  ≪詠雪之才≫

 『属スキル』

  ≪妖艶の誘い≫

  ≪文才≫

  ≪威圧≫

  ≪金縛り≫

  ≪情報整理≫

  ≪魔力結界≫

  ≪水魔法.3≫

 『固有スキル』

  ≪傾国美女≫

  ≪ウィンドアロー≫

 『呪い』

  ≪魂の真贋≫

  ≪監視奴隷≫(オーヴォールド)(停止)




 おおう…見事なまでの籠絡系スキル、てか、完全に妲己的なヒトだ。固有スキルがヤバい。≪情報整理≫ももってやがる!…ん?≪ウィンドアロー≫?なんか経路が違うスキルだぞ?……これ、魔獣と契約してるんじゃないのか?雷獣(ヌエ)、ちょっと確認して。あとは…ああ、ヨルデと一緒で、()奴隷か。でも停止ってなんだ?


 一瞬の間にいろんな情報を抜き取り、相手に悟られないようにして握手をほどく。…よかった。俺が相手をすれば切り抜けられる。というかこっちに引き込みたい。


「早速ですが、汚らしい奴隷どもは下がらせて貰えます?あと暑苦しい護衛も。」


 …前言撤回。お仕置き決定。


「お前たちは3階で待機していてくれ。」


 一礼して階段を昇って行く彼女達を見送って、サヤナはヨルデに視線を移した。無言の圧力に耐え兼ね、ヨルデも一礼して1階へと降りて行った。すると周りの空気に異変を感じた。…ああ、≪魔力結界≫を張ったな?これは外部から内部へ、内部から外部へのスキル干渉ができなくなる特殊な結界。彼女なりの臨戦態勢か。おそらく、精神干渉系のスキルで尋問するんだろうが…何故か俺には効かないんだよね。


「…余裕の表情ね。何か隠してるわね。…まあ私の前では隠し事はできませんコトよ。」


 薄ら笑いを浮かべる美女だが、俺の余裕過ぎる表情にビキっと青筋を立てていた。だが、その表情が変わっていく。自失の表情。たぶんなんかのスキルを発動させているんだろうけど、全く効かないから何されてるかわかんない。


「如何しましたか?」


 俺の表情に目を血走らせ彼女は吠えた。


「う、うるさい!」


 次の瞬間、俺は全身が硬直した。…これは≪金縛り≫か。やはり肉体干渉系は掛かるのだな。…でも、


「ふんっ!」


 俺は≪魔力中和≫で彼女の魔力を中和して金縛りを解いて立ち上がった。サヤナはビクつき、恐怖し、一歩退いた。そしてそこで身動きが取れなくなった。≪地縛≫を発動させ、彼女の足を絨毯から生えた蔦で覆ったのだ。


「ひ、ひっ!」


 サヤナは意味不明の声を上げている。俺はゆっくりと近づき、彼女の両肩をがしっと掴んだ。


「ひゃあ!!」


 サヤナは美しい顔を歪ませて悲鳴を上げた。これだけで俺の勝ちは決定だが、もう一工夫やってみよう。それに、この美しい女性に鉄の首輪は似合わない。


「俺と対等に会話をしたいなら…動くなよ、日本人!」


 俺の最後の言葉に、恐怖に震えあがっていたサヤナは「え?」と一瞬でその表情を変えた。俺はゆっくりと指を動かし、指で首輪に触れて、込められた魔力を複製した。彼女は目を丸くさせた表情で動かずじっと俺を見た。


 …何だこの首輪は?込められた魔力が活動していない。込められた魔力はヨルデと同じもの。だがヨルデのものは、対象者に干渉するように活動していたが、この首輪は魔道具として機能しておらず、まるで凍結されたようになっている。だが複製した魔力は俺の手の上で活発に活動している。この疑問に≪思考並列化≫と≪情報整理≫が無反応だったため、原因は“この世ならざる者”絡みであると踏んだ。


 俺には精神干渉系スキルは効かない。

 奴隷の首輪は精神干渉系のスキルを応用したもの。

 そしてサヤナの首輪は凍結している。



 俺はサヤナの首から慎重に首輪を外した。首輪から彼女の首に纏わりついていた魔力を取り払えば、首輪は外れる。そしてサヤナの首から外れた首輪の魔力は活動を始めたので、魔力中和で消滅させて首輪を粉々に砕いた。


 奴隷として拘束するための首輪。これに込められた魔力は活動していなかった。つまり、所有者側には何の応答もされない。なのに、敢えてつけたままにしているということは、彼女は自分の首輪が正常に機能していないことを知らないようだ。

 俺はもう一度彼女の≪メニュー≫を除いたが、【呪い】の欄にはまだ、≪監視奴隷≫のリストが停止状態で残っていた。…と言うことは彼女の中にまだ彼女を拘束するための魔力が機能停止状態で残っていると言うことか。


 彼女は俺が首輪を取ったことに驚きを隠せず、思考が停止した状態で俺を見つめていた。


「動くなよ。今からお前の身体の中に俺の魔力を注ぎ込むから。」


 俺は≪魔力操作≫を使って、彼女の全身を俺の神力で多い、徐々にその身体の中に浸み込ませていった。

「あ!…あ、あ、ああん…あああん!んあっ!」


 お、おいおい…色っぽい声を出さないでおくれ!俺の『いつでもおっきい君』が暴れ出してしまう。…と言っても無理か。なんせ今全身に俺の神力が這い回っているんだもんな。ならばさっさと終わらせよう。俺は神経を集中し彼女の中を探りまわった。


「あった。」


 既に喘ぎ声と化した彼女の声を意識して聞こえないようにしていた俺は、首の後ろにある魔力の塊を見つけた。それは凍結したように固まっており、俺が神力で力を込めると簡単に砕け散った。


「はぅ!!」


 サヤナは大きくのけぞり、全身を痙攣させたのち、俺にもたれ掛るようにしてよろけた。意識は失って無いものの、全身で息をするほど疲労していたようで、俺は彼女を倒れないよう支えながらもう一度≪メニュー≫開いた。



 【ウメダ・サヤナ】

 『アビリティ』

  ≪アマトナスの僕≫

  ≪詠雪之才≫

 『属スキル』

  ≪妖艶の誘い≫

  ≪文才≫

  ≪威圧≫

  ≪金縛り≫

  ≪情報整理≫

  ≪魔力結界≫

  ≪水魔法.3≫

 『固有スキル』

  ≪傾国美女≫

  ≪ウィンドアロー≫

 『呪い』

  ≪魂の真贋≫



 よし!……でも、これ、犯罪なんだろうね。勝手に奴隷解放したことになるし。


「大丈夫か?日本人。」


 俺はもう一度問いかけた。激しい息を繰り返しながらも彼女は俺を見上げてキッと睨み返した。


「あ、貴方は…な、何者…なの?…はぁはぁはぁ。」


「≪魂の真贋≫を持つ者…と言えば分るのかな?」


 黒目黒髪の美女は、俺の言葉を受けて、ゆっくりとしかし力をしっかりと籠めて、抱き付いた。元々よろけて俺にもたれ掛っていた彼女だが、その密着度が増していき、彼女の肢体の柔らかさが伝わってきた。


「貴方も…転移者、なのね?」


「ああ、そうだ。すこし…話をしないか?」


 サヤナは、安心したように目を閉じた。どうやら意識を失ったようだ。




 ソファで眠るサヤナを横目に、マウネンテとヨルデは顔を赤くして、チラチラと俺に視線を向けていた。既に騒動は収まっており、2階のリビングに集まって俺達はくつろいでいたのだが、アリアとハグーと魔人2人は、あの喘ぎ声を聞いて、間違った想像をしてしまっていた。アリアはうな垂れて首を左右に振っており、ハグーは物欲しそうに指を咥えて俺を見ているし、魔人2人は顔が真っ赤っか。


「あのね、俺は何にもしてないからな。」


 と言っても信用してもらえそうにないので、もうこの件は無視して話を進めた。


「どうやら俺に興味津々な御仁がいるらしい。サヤナが来たことから、中央政務省が俺を注視しているということだろうが、黒幕は取次役であろう。俺を息子だと思っているのかも知れん。もしくはカミラのことを探ろうとしているのかもしれん。どちらにせよ、俺はサヤナを撃退したことで、敵対の意思を示したことになるかもしれん。…そこでだ。」


(…どうでしょうか?ウメダ様を“サヤナ”と呼び捨てにされている辺りが、ナニかあった証拠だと思います。)


 ぼそぼそと、話の腰を折るようにヨルデが呟いたが、スルーして話を進めた。


「彼女には、失踪してもらう。…と言っても行く宛があるわけではないので、しばらくはここに匿うことになるが。」


(…絶対あれは、エルバード様の絶技で籠絡したのですよ。我らもいつかその絶技を受けて籠絡されるはずです。)


 ヨルデがまたぼそぼそと呟いているが、何とかスル―する。


「この宿に何人も入れるわけではないから、≪空間転移陣≫を使って、港に停泊中の周回船を直通させる、サヤナ…殿とイェレンはそこにいてもらう。」


 二人の面倒はアリアに見てもらうこととし、ヘレイナ達にこの後のことについて、打合せを行った。

 ヘレイナは、何も知らずに宿に戻って来て、怖い怖いウメダ様が幸せそうに眠っている姿を見て腰を抜かしたのだが、事情を説明すると「さすがエルバード様」と一言褒めて平常に戻った。俺は何か釈然としないが、3人には、派閥代表のこの件について報告するように指示した。隠し通せるものでもないし、隠すこと自体が彼女らの立場を危ぶむことになる。そこで、サヤナが、高飛車に俺への真偽確認を行い、俺の逆鱗に触れてフルボッコにされたことにした。肉体的にも精神的にもバキバキに折られた彼女はそのまま姿を消してしまったという話にした。通常の奴隷ならば、首輪に込められた魔力によって所有者の意思で、“処分”をすることができるだろうが、彼女の首輪の魔力は凍結していた上に、俺が解放してしまっている。オーヴォールド・バルヴェッタ側からすると、元々生殺与奪権の無かった彼女に対しては何もできないだろう。



 夜になり、俺はサヤナとイェレンとアリアを抱えて周回船に転移した。目の見えないイェレンはともかく、サヤナは瞬間移動に仰天し、羨ましがられた。どうやったのかしつこく聞いてきて鬱陶しくなったので、一睨みすると途端に大人しくなった。まずはイェレンをベッドに落ち着かせ、いくつかの質問をした。

 彼女は、無派閥として仲間たちと決起をしたが、村長が雇った男達に拉致され、あの小屋に放り込まれたそうだ。話を聞いたサヤナが、「人質として使われたわね。夢魔族の決起は不自然に解散になったもの。」と口をはさみ、俺に睨まれてまた黙り込んだ。ほら、イェレンが悔しそうな表情しているじゃない!場を弁えろっつーに!

 今後どうするかはともかく、今は身体を回復させることを優先するよう諭して、一先ず寝かせた。≪傷治療≫を使えば目も見えるようになるだろうが、今回復させてしまうと彼女がどう行動するかわからない。もう少し様子を見た方がいいと俺は判断した。イェレンをアリアに任せ、俺はサヤナを連れて場所を移した。アリアがジト目で見てきたが、違うからな。




「…さて。ここからは誰にも聞かせられない話です。ここはサヤナさん、とお呼びしましょうか?」


「…サヤナでいいわよ。貴方…どうやって私を解放したの?」


 まあ、まずはそこですね。


「俺も最近知ったんですがね。“この世ならざる者”は精神干渉系のスキルを受け付けないんですよ。だから元々あなたは“奴隷”ではなかったのです。」


「えっ!?でも≪鑑定≫では≪監視奴隷≫って!」


「正確には、奴隷にするための魔力を貴女の身体に埋め込まれていましたが、機能停止していました。貴女は≪鑑定≫の結果を見て、自分は拘束されていると思い込んでいたようですね。元々拘束されていなかったので、強引に解放しても相手にばれることはないと踏んだので、やっちゃいました。」


 俺の答えに彼女は呆然としていた。俺は彼女の質問にちゃんと応えてないんだけど、彼女にすればそれよりもショッキングなことを聞かされているので、問題ないようだ。


「いつからこの世界に?神様とはお会いしましたか?」


 質問をぶつけられて我に返ったサヤナは慌てて応えた。


「2か月前よ。神様は創造神様と美と健康の神アルタノ様にお会いしたわ。アルタノ様のお力で私は相手の心をいたぶるスキルを手に入れ今の地位を手に入れたわ」


 この世界では身分が大切だ。それは六ノ島でも一緒で転移した直後のどこの誰なのかわからない状態で捕まってしまえば奴隷一直線。彼女はその道を辿ったようで、性奴隷にされかけていた。そこで創造神様とアルタノ様より力を与えられ、“国家に貢献できる者”と認められ、奴隷から、元奴隷に格上げとなったそうだ。


「“アイバ”と言う者も転移者?」


「彼は10年前からこの国に貢献している元奴隷よ。…もしかして、彼も奴隷の機能は停止しているの?」


「恐らく。だから俺がその“アイバ”って人に会って、説明をしてここに連れてこようと思うんだ。」


「お願いします!彼をこの苦しみから救ってほしいの!彼の命はもう長くない…。でも彼に自由を…自由を手にしてほしい!」


 サヤナは必死の表情で俺に訴えた。…俺は悩んだ。“この世ならざる者”の運命。


 死ねば、記憶も記録も失われる。


 サヤナは必死にアイバの事を想って懇願しているが、それは報われないかもしれない、と言うことを言うべきか。


「わかりました。必ず、ここへお連れします。」


 結局俺は、彼女に真実を言えないままに返事をした。



 サヤナにはもう1つ秘密がある。


 ≪ウィンドアロー≫という固有スキル。


 彼女の【アビリティ】にはそぐわないもの。だが俺は固有スキルを取得するもう一つの方法を知っていた。


「サヤナさん。」


「サヤナと呼んで。」


「…サヤナ。貴女は魔獣を使役していませんか?」


 俺の質問にやや青ざめた表情でサヤナは見つめ返した。


「……私のとっておきの切り札で、誰にも見せたことないのに…貴方は何でもお見通しなのね。」


 諦めにも似た笑顔を見せると、彼女のすぐ横に魔獣が顕現した。緑色の鱗に覆わ、翼に進化した前足でサヤナの腕にしがみ付いた小型の翼竜が俺を睨み付けていた。


「ふむ…。ワイバーンの幼体か。」


 そう言って顕現したのは、雷獣(ヌエ)だった。当然サヤナはヌエを見て大いに怯え、小さな翼竜は翼を震わせながらもサヤナの前に立ちはだかった。雷獣(ヌエ)はその姿を鼻で笑った。


「殊勝なことよ。…だが、所詮【下位】の魔獣。序列に逆ろうて無事に済むと…」


「その辺でいいでしょ。」


 雷獣が牙を向けかけたところで俺は制した。サヤナは泡吹いてるし、小さな翼竜は白目向いているんだ。もう十分脅したから大丈夫でしょ。これで彼女は、おとなしくここで待っててくれると思うんで次の段取りに移りましょうか。







「父上、ウメダが失踪致しました。」


 またか…こ奴は悪い知らせについては、報告だけして指示を待ちよるわ。そんな憎々しげな表情で若い男を睨み付けた髭の男は暫く黙りこんでから言葉を吐いた。


「…それだけではわからん。詳細に述べよ。」


「は、夢魔族の存在確認を含め一ノ島から来た連中の尋問のために、北地区の宿泊場所へ向かい、彼女が宿に入ったのは何名か目撃しているのですが、誰も出て行ったところ見ていません。ヴリトラ派の監視役の報告では、使者が所有する奴隷を侮辱したところで逆鱗に触れ、散々罵倒された挙句に追い出されたようで…。」


「…報告の真意は?」


「同様の報告がクー・シー派、テング派の監視役から出ております。…さらに使者の方からは抗議文が提出されており…。」


 若い男は恐る恐る折りたたまれた手紙を差し出した。髭の男はそれをひったくるように取ると、中身も見ずにくしゃくしゃにして捨てた。


「ウメダを探せ。」


「無理です。皆、彼女を恐れ捜索になりませぬ。恐れ入りますが、父上が持つ彼女の所有権を一時お預かりしたく…。」


 若い男の言葉に髭の男は激昂した。その激昂の意味は髭の男にしかわからなかったが、若い男は恐縮したまま扉の位置まで下がった。


「…アイバを拘束せよ。」


「…はい?」


「アイバなら貴様らでも拘束できるであろう!拘束せよ!奴ならウメダの居場所を知っているやもしれん!儂が直々に尋問する!牢屋へ閉じ込めろ!今すぐ!」


 激昂する意味も解らず、髭の男を父と呼ぶ若い男は慌てて頭を下げて部屋を出て行った。その姿を見送って髭の男は腹立たしく机を叩いた。


「おのれ!あの女が裏切るとは考えなんだわ!これでアイバは拘束せねばならなくなったし、抗議文のせいで他の派閥からも注目されてしまい面倒くさい調整をせねばならん!それにウメダの失踪だけは陛下に報告せねばならん!くそっ!くそっ!くそっ!」


 髭の男は何度も机を叩いた。そして怒りを吐き出し、心を落ち着けようとした。そしてようやく晴れたのか叩くのを止め、クククッと不気味な笑みを浮かべた。


「…こうなれば儂が直接対峙してやる。奴の化けの皮を剥がし、再び六ノ島を追い出してやる!」


 決意を新たに髭の男は椅子に座り直して高々と笑った。



主人公の知らないところで、髭の男は追い詰められているようです。

彼はいったいこの島でどういう男なのでしょうか。


次話では、六ノ島の国王が登場します。


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