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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第一章◆ 忌み子の奴隷少女
11/126

8 村への帰還

09/26 誤字修正 会話文のインデント修正



 朝になった。


 今までの俺であれば気を失ってしまうのではないかと思われるほどの凄惨で血生臭い1日は終わり、穏やかな朝日が俺とサラの体に心地よい光を浴びせている。

 だが少し離れたところには昨日の惨状の残骸がまだ残っており、僅かに血の匂いが漂っている。

 そんな場所でサラは俺に体を預けたまま無防備に眠っていた。



 …俺はビビりだ。



 普段は『俺のサラちゃん』とか『ニャンニャンしたい!』とか言ってるくせに、いざ何をされても文句を言われそうにない状況に陥ったら、何もできなかった。


 チューくらいは全然できただろうに。このヘタレが。


 俺は、サラを起こさないように木にもたれさせ、立ち上がって大きな伸びをした。心地よい朝なのだが、周りの様子は決して心地よいとは言えない。あちこちに盗賊どもの死体が転がっており、壊れた台車と檻が散らばり、それに繋がれてその場にじっと立ったままの馬がいる。


 俺は馬に近づいた。昨日は気づかなかったが、馬には鞍がつけられていた。人を乗せるための馬で台車を引っ張っていたのか。俺は馬にくくりつけられている台車との連結帯を包丁で切ってやった。自由になれたことを喜んでいるのか、カッポカッポと蹄を鳴らして軽く飛び跳ねている。


 実は俺は馬に乗れる。と言ってもポニーより少し大きい馬で遊園地のアトラクションのバイトで乗っていた程度なので、目の前にいる大きな馬には乗ったことはない。けれど、乗り方と手綱の取り方は知っている。


 俺は馬の横に立ち、首筋をやや強めに撫でた。馬は鼻を鳴らして答えている。うん、機嫌は悪くない。後は俺が乗ることを認めてくれるかどうかだ。

 俺は鐙に足を掛け、鞍の後橋を持ち、体を馬の上に引き上げた。馬は少し体を揺らし頭を左右に振ったが落ち着いている。素早く鞍に跨り体を安定させ、馬の首を軽くたたく。馬は鼻息ひとつ鳴らして鞍上の俺を受け入れている。成功だ。


 俺は手綱を取って指示する方向に歩かせたり、自由に歩かせてみたりして馬の癖を確認する。よく訓練されているようで一通りの操作はできた。

 そのままサラが寝ているところまで馬を移動させる。さすがにサラも馬が近づく音に目が覚め、眠たい目を擦って起き上がった。周りをきょろきょろし俺を見つけるとすぐに立ち上がって俺の下に小走りでやってきた。


「エルバード様、おはようございます。」


 丁寧な口調でしっかりとお辞儀をする。だがすぐにガバッと頭を起し、羨ましそうな目で話しかけてきた。


「エルバード様は馬に乗れるのですか!?すごいです!」


 目を輝かせて俺を見るサラは本当に可愛らしい。昨晩に見た涙でぐしゃぐしゃに崩れた顔も、俺の治癒を受けて混乱させている顔も、俺に体を預けて寝息をたてる顔も可愛かった。


 だが、彼女は『奴隷』なのだ。俺の、ではない。だから、俺が彼女に命令するのも何かを強要するのも、彼女の愛情を求めるのもしてはいけない…はず。


「乗るか?」


 その声に、嬉々として


「乗りたいです!ご主人様!」


 と大はしゃぎをするが、俺はお前のご主人様ではないんだ。彼女の内にある願望が思わず出てしまっているのであろうが、おそらくこれは奴隷にとっては禁止事項(タブー)のはずだ。


「ここに右足を掛けて、右手を俺のほうに出して。俺が右手を引っ張ったら足に力を入れて体を持ち上げるんだ。」


 そう言って、俺は手を出す。サラは言われた通りに鐙に足を掛け、右手を差し出した。その手を握りぐいっと上に引っ張る。それに合わせてサラも足に力を入れた。馬はややよろけたが、嫌そうにすることなくサラを受け入れた。サラは、俺の目の前で横乗りの状態になった。近すぎる俺に少し戸惑い顔を赤らめるが、初めて馬の背から見た景色が目に入り、そちらに目を奪われる。


「うわぁあ!高いですねぇ!」


 サラは見えるものが全て初めて見るかのようにあちこちを見て回っている。


「…サラ」


「あ…はい?」


「お前のご主人様は、誰だ?」


 サラは俺の問いに一瞬にして顔色を変え、俯いた。質問の意味が分かったからだろう。


「…ヤーボの村の、デハイド様…です。」


「俺のことを何度か『ご主人様』と呼んだな?呼ばれて悪い気はしないが、お前にとってはとても危険な行為だ。」


「……はい…。」


「奴隷は自分に意思で(あるじ)を選べない。…そうではないのか?」


「…………はい…。」


「俺のことは『エルバード様』と呼ぶんだ。」


「………………はい…。」


 厳しいかもしれんが、サラの為だ。俺もサラのご主人様になってあげたい。だけど、この世界の俺は何も知らない、帰る家すらない人間だ。買うことはできたとしても養うことはできない。サラにはこのまま村に戻ってそこで働いてもらおう。俺とは縁がなかったと思ってくれ。そう自分にも言い聞かせる。




「サラ、このまま帰るぞ。」


 そう言って俺はゆっくり馬を歩かせる。


「…こ、このままですか?お、降ります!サラは歩いて付いていきます!」


 慌てて馬の背から降りようと体を浮かせたが俺はサラの腰に手を回しそれを止める。


「ダメだ。」


「そんな!?奴隷が馬に乗って移動するなんてありえません!降ろしてください。」


「だ~め!昨日フラフラだったじゃないか?」


「今は歩けます!サラは自分の足で歩きます!」


「裸足で歩いたら怪我をするからダメ!」


「じゃ、じゃあ、靴をお貸しください。サラはエルバード様の靴を履いて歩きます!」


「俺の靴を履いたら足が臭くなるからダメ!」


 サラは、ぷっと吹き出した。堪えきれずに肩を揺らして笑い出す。ひとしきり笑ってから俺のほうに顔を向ける。実はすごく近くにサラの顔があるので内心はドキドキしている。


「…本当にこのままでよろしいのですか?」


「ああ、俺がこうしたいんだ。許してくれ。」


 サラは少しの間俺の顔を下から覗き込むように見ていたが、にっこりと笑ってそのまま俺に体を預けた。


「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」


 そう言って俺の胸に軽く手も添える。


 誰がそこまでしていいと言った!?おのれサラめ!俺がヘタレなのを知って暴挙に出たな!?くっそう…事実なだけに何もできない!


 俺は己のヘタレ感を呪い、サラの無邪気すぎる攻撃に耐えながら村に向かって歩を進めた。





 馬上は実は結構揺れるものなのだが、なれるとその揺れは結構心地よい。俺とサラは他愛もない会話を楽しみながら、歩いていた。


「サラ、前に俺を≪鑑定≫したよな?もう一度俺を鑑定してくれないか?」


「え?あ、はい。」


「鑑定で見えるものを全て俺に教えてくれ」


 サラが鑑定で見えたものはこれだけだった。


  ≪思考並列化≫

  ≪情報整理≫

  ≪仰俯角監視≫

  ≪真実の言葉≫

  ≪百軍指揮≫

  ≪投擲≫

  ≪気配察知≫

  ≪超隠密行動≫

  ≪遠視≫

  ≪超振動≫

  ≪視界共有の眼≫

  ≪身代わりの表皮≫

  ≪傷治療≫

  ≪心身回復≫


 『固有スキル』『呪い』は見えていない。


 サラの話では、これだけのスキルを持っている人はまずいないらしい。しかもサラ自身が聞いたことのないスキルだらけだそうだ。

 俺は≪鑑定≫のスキルについて聞いた。このスキルをもつ人間は多くはないが、町に最低一人はいるそうだ。


「サラ、町で俺のスキルを≪鑑定≫されたらどうなる?」


 サラは俺の質問の意味を読み取りながら少し考えて答える。


「…良くも悪くも注目されるでしょう。」


 真面目な話をするときはこの子は頭がいい。俺の意図するところを的確に答えてくれる。


「できれば俺は目立ちたくないのだが、何か方法はないか?」


「難しいですね、身分を証明するためには必ずどこかで≪鑑定≫を受けることになります。これはそう簡単に隠せるものではありませんので。それに能力の高い方であれば『呪い』の有無もわかるそうです。」


「何!?」


 思わず声を張り上げサラを睨んだ。サラは俺の突然の変貌にびっくりし体を硬直させる。


「あ、す…すまない。スキルには能力の違いがあるのか!?」


「は、はい…。全てかどうかはわかりませんが少なくとも≪鑑定≫には能力によって見える範囲が異なるそうです。サラはまだ能力が低いので見えるものは限られています。」


 ……どうしよう。能力の高い人間に≪鑑定≫されたら、俺は身ぐるみを剥がされたも同然になる。スキル頼みの俺としては致命的だ。

 これは、あれだ。能力を隠すスキルをを探さねば!


 俺はメニューを開いた。超スローになる。そしてスキルリストを上から順に探していく。


 実時間では1分も経っていないだろう。俺はメニューを閉じ、サラにもう一度≪鑑定≫を依頼した。


「…あ!!」


 結果はサラの態度で瞭然。聞くと、


  ≪投擲≫

  ≪気配察知≫

  ≪遠視≫


 だけになっていたそうだ。



 ≪偽りの仮面≫



 このスキルを使うと『偽メニュー』が開き、他人から見えるスキルを自由にセットできる。≪全知全能≫のリストにあった。


 サラが困惑した表情になっている。俺は得意げになってもう一度≪鑑定≫を依頼した。


「…!!」


 今度は言葉も出ない。また違うスキル名が見えたのだろう。頬を膨らました表情で俺に問い詰めてくる。


「エルバード様…これは一体どういうことでしょうか?そもそも以前に見させて頂いた時とも異なります。スキルがあれこれ入れ替わるなんて聞いたことがありません。」


 ギクッ!!…す、鋭い。い、いや、サラちゃん近づきすぎ…。何か柔らかいものまで俺に当たってるよ…。


「サ、サラ…俺の能力については何も言わないでほしい。いろいろと目立ちたくない。」


 俺は出来るだけ平静を装ってサラに頼んだ。サラは俺の顔を、遠くを見るような目で見つめていたが視線を戻し俺に微笑んだ。


「…エルバード様は、私ごときでは考えもつかない秘密をお持ちのようですね。以前にもお答えいたしましたがサラは何もしゃべりません…。」


 そう言ってまた俺に体を預けた。…くそう。反則技だよ、これは!俺の理性が吹き飛んでしまう。…吹き飛んでも何もできないヘタレだけど。




 それから俺は村に戻るまで、スキルのことについていっぱい質問した。サラは、自分の知っている限りのことを俺に答えてくれた。




 村が見えてきた。


 入り口には槍と思われる得物を持った男が2~3人見えた。盗賊ではないようだ。

 サラは村が人影を見つけると馬から降ろして欲しいと俺に訴える。やはり、奴隷が馬に乗って移動するのはおかしいのか。

 一度立ち止まり、馬から降ろしてやると、サラは鐙に付いた皮紐を握りしめ、馬の動きに合わせて歩き出した。表情をやや硬くし、俯き加減で歩く。

 どうした?と聞くと、


「奴隷は、堂々とした態度を見せるともめ事の原因になると教えられています。エルバード様の前では身分も弁えずはしゃいでしまい、お見苦しいところをたくさんお見せ致しましたが、本来はそうはいきません。私はこの村に仕える奴隷として生きていかねばなりません。嫌われないようにする努力も必要だと奴隷商人(グランマスター)に教えられました。」


 サラは、俺のほうを向かずに答える。

 やはり奴隷というのは、厳しい世界だ。何か言ってやりたいが何も思い浮かばない。むしろ今サラに何か言うことで逆に彼女に迷惑をかけてしまうかもしれん。

 奴隷には奴隷の生き方があって、それを踏み外すことは死に直結するのだろう。何も知らない俺ごときが彼女に何のアドバイスができる?今更ながらに彼女の首に巻きついている鉄の重みを感じたよ。




 俺は彼女をどうしたい?




 サラと一緒にいたいのか?




 だがサラは『奴隷』である。




 『奴隷のサラ』も含めて、彼女を受け止めることができるのか?




 昨日の夜から何度も自問していることだ。




 ヘタレの俺に出せる答えじゃない。




 俺はサラに何も言えないまま馬を進め、とうとう村の入り口についてしまった。




 村人は俺とサラを見てすぐさま駆け寄ってきた。入り口に立っていた男たちは俺たちに槍を向けていたが、村人たちの様子を見て敵ではないことを理解し、村に入れてくれた。

 俺はみんなに盗賊どもを全員倒したことを告げた。奪われた奴隷も取り返し、もう襲われることはないことを説明した。

 村人はそれを聞いて安堵の声を上げる。


「どうやって倒したんだ!?」


 槍を持った男たちが俺に近寄って聞いてくる。俺はサラを村人たちに引き渡し、槍の男たちに体を向けた。誰だか知らんが俺の武勇伝が聞きたいらしいな。


 彼らはベルドの町の領兵だった。夫を殺された女性からの手紙を受けてすぐに行動を起し、ついてきた盗賊を縛り上げて先行部隊を送り込んできたらしい。もうすぐ本隊も到着する予定だそうだ。既に村の周りにいた盗賊たちも全員捕えられているそうだ。やはり指揮官を失った集団は脆い。

 俺は盗賊団の塒のこと、頭目との一騎打ちのこと、暗殺系のスキルを使っての戦闘のことなど、ウォーマスのことには触れずに辻褄の合う形で説明をした。

 俺は一通り説明を終えて男たちの返事を待った。正直、感心されると思っていた。だが。返ってきた答えは全く予想だにしていない内容だった。



 普通、盗賊などを討伐する場合は討伐証明として、首を持ち帰るらしい。



 そんなの俺の常識の中にはねえし、知ってたとしても俺にはできねえよ!




 俺とサラは、事の顛末の報告をしに村長の家に向かった。家には、傷だらけのデハイドが横なっていた。話によると、30人近い盗賊団が村に来た時にボコボコに殴られたそうだ。

 デハイドは俺の姿を見て、安堵の顔を見せた。


「…死んだと思っていたぞ。」


「デハイド殿こそ死にかけたそうではないか。」


「確かに死ぬかと思ったよ。お前さんのいう通り無抵抗に徹していたので最後は呆れられたよ。」


 そう言って軽く笑う。俺は、デハイドに近寄り、手を握った。


「…俺を信じてくれて、礼を言う。」


 デハイドは握られた手を握り返した。


「村を救ってくれてありがとう。」


 俺とデハイドは男の友情的な雰囲気で手を握っていた。


 だが俺の目的は違うんだ。


 俺は≪傷治療(ヒール)≫を使おうとした。


「エルバード様」


 突然、サラの声がした。振り返ると表情を消した顔でサラが俺を見ていた。


「『(おさ)』様がお待ちです。ご主人様の看病は私が行います。」


 そう言って、濡れた手ぬぐいを持ってデハイドとの間に入ってきた。俺の手を放し、デハイドの腕や顔に手ぬぐいを当てていく。俺の顔など見向きもせずデハイドの手当てを続ける。


 サラは俺が≪傷治療(ヒール)≫を使えることを知っているはずだ。俺がスキルを使おうとしていることもわかったはずだ。なのに、それをさせないように邪魔をする。それどころか俺に対してよそよそしい。





 サラは、俺の言いつけを守ってるんだ…。


 サラの主はデハイドであることを意識すること

 俺のスキルは言うな

 できるだけ俺は目立ちたくない


 サラは俺が言ったことを忠実に守り、俺にスキルを使わせないように間に入り込み、デハイドの奴隷であることを主張するかのような行動をとっていた。



 そんなサラに俺は何も言えない。



 無言でその場を後にし、村長がいる部屋へ向かった。







 この村を出よう。できるだけ早く。






 俺は保留事項に対して決断を下した。






 サラは俺の奴隷には……できない。





主人公はサラちゃんのことを本当にあきらめてしまうのでしょうか?

そんなことはないです。

それでは物語が続きませんので。


次回は、主人公が村を出る話になります。

話の流れ上、期待を裏切らない内容バレバレの回になります。

予めご了承ください。


それと、1-7は近々大きく書き直します。

かなり不評だったようで…反省も踏まえて、わかりやすい、無理のない内容にいたします。

これからもご意見感想をお待ちしております。

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