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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第七章◆ 新たなる使命
106/126

6 残念な“この世ならざる者”

かなり期間が空いてしまいました。

なんとか、投稿いたします。



 俺の目の前で無防備にぐーすか寝ている黒髪のヒト族。

 五ノ島の竜人族の中にヒト族でありながら、若頭になった男がいると聞いて忍び込んだが…。


 アユムとは別の意味で危険な匂いを、俺は肌で感じていた。


「…おい。」


 俺の声にしばらくしてから反応し、男は眠たい目を擦りながら俺を見た。


「…ん…?誰?……げっ!人間!」


 男はベッドから跳び起き、毛布をかき集めて抱き込んだ。…それに何の意味があるんだ?全く呆れてモノも言えん。


「だ、だ、だ、誰だ!」


「…あまり大声を出すな。俺はお前と同じ“日本人”だ。」


「に!」


 “日本人”という言葉に反応し、男は俺を凝視した。うん、わかってる。外見はどう見ても日本人じゃねぇからな。俺は、簡潔に“この世ならざる者”について説明した。いくつかの前世の世界について話すことで、ようやく男は俺が日本人であることに納得した。…が、俺に対する恐れはぬぐえないようだ。当たり前か。俺はこの男のアビリティの弱さが気になり、意識して殺気を放っている。それを十分に感じ取っているようだ。


「で、で、で…俺様に、な、何のようだ?」


「…お前、“この世ならざる者”の使命はどうした?」


 男は異常なまでに敏感に反応した。恐らく“魂の浄化”はほとんどやってないだろう。この能力では無理だ。ベルサの話では数年前から、竜人族に取り入っていたらしいが、出世もできていないことから、膂力もそれほどないのだろう。俺の言葉で男は媚びるような笑みをした。


「へへ…。忘れてるわけじゃありませんよ。…ただ、周りには全然いねぇもんで…。」


 うん、嘘だな。


「で、お前は何故ここで若頭なんかをやってるんだ?」


「い、いやぁ…せっかく異世界に来たんだ。その…俺もラノベみたいに、こう、どでかく…な。わかるだろ、旦那。」


 俺は旦那ではない。ジロリと睨み返すと、男は縮み上がってブルブルと震えた。


「や、やですなぁ、わかってますよ、ちゃんと強くなってから仕事しますよ。」


 俺はコイツを好きになれない。むしろ嫌うだろう。…いや、もう嫌っているか。この男はこれまでも嘘で塗り固めた道を歩んできたのだろう。そして、この先もそのままだ。絶対に俺達の足を引っ張ることになる。できれば関わりたくない。だが…。


「灰角竜族とお前の関係を教えろ。」


 強めの口調で命令すると男はペラペラと喋った。

 男の名はユウト。6年前に五ノ島に転移し、そこで当時若頭衆の下っ端だったラウルヤーンという竜人に拾われた。ラウルヤーンはユウトのスキルを称賛し、彼を舎弟とした。そして、我が部族を正しき地位に導く為に力を貸してほしいと請われ、ずっと彼に従っているという。

 その部族は今は棟梁の地位を得ており、ラウルヤーンは若頭筆頭へと出世している。


 俺はため息をついた。



 思いっきり、利用されとるやないか。



 だが、彼の口調から、この若頭筆頭のことを信頼してるようだし、俺があれこれ言うと返って俺を憎むかもしれない。そうなると面倒くさい。


「俺は、五ノ島との交易を望むヒト族の代表としてこの地に来ている。だが、今の棟梁は竜人至上主義を掲げているそうで、俺達とは敵対しそうだ。…そうなるとお前とも敵対することになる。」


 俺の脅しにも似た口調に、ユウトは震えあがってコクコクと肯いた。


「…どうする?」


 ユウトはブルブルと首を振った。


「む、無理でさ!俺はラウルヤーン殿と兄弟の契りを交わしちまった…。裏切るとしししし死の呪いを受けちまう!」


 ほう。≪兄弟の契り≫というアビリティにはそういう制約があるのか。


「では、俺と敵対する勢力に残るという訳だな。せめて、余り表立った活動はするなよ。でないと…俺と対決することもあり得るぞ。…俺は容赦しないからな。」


 ユウトは所謂ガクブル状態で肯く。こうしておけば、俺達が五ノ島をうろついている間は大人しくしてるだろう。

 俺は、これでもかというほどユウトを睨み付け、施設をあとにした。

 恐らく、あの男は今夜の出来事を若頭筆頭に報告するだろう。黙っていると裏切り行為とみなされるかもしれん。そうなると自分は死んでしまうからな。だが、この話を聞いた若頭筆頭はどうでるか。

 ヒト族と金竜族派との繋がりを警戒するだろう。そうなればこちらは思考を絞り込みやすい。


 さて、こちらもいろいろと準備を進めるか。


 洞穴に戻り、俺はヨーコを抱き枕にして寝た。だが、翌日…。


「御主人様。起きてくださいませ。」


 いつもと違う低めの声のサラに俺は起こされた。ヨーコと寝た事を怒っているのかと思ったが、真剣な表情のサラを見て、何かあったことを悟った。


「竜人族の方々がご主人様に面会を求めております。」


 俺は寝室を出て竜人族が待つ応接へ向かった。応接にはオルティエンヌ殿と森竜族のベルー、十二指竜族のヴォーヌが待っていた。


「朝早くから申し訳ありません。」


 オルティエンヌ殿は俺を見つけると立ち上がって挨拶をしたが、俺は座るように促した。


「どうされましたか。まずご説明をお願いしたい。」


「はい…。早朝より、島周辺をワイバーンが飛び回っております。それから、扇状地の防壁にたくさんの兵士が見られ、港には軍船が出港準備を整えておりました。」


 俺は何が何だかわからなかった。


「なんでも、ヒト族の軍が大挙して押し寄せてくるという噂が出てると、ベルサ殿から連絡を受けまして…。」


 俺は、手を額に当てうなだれた。


 絶対ユウトの野郎だ。アイツが俺の脅しを勝手に勘違いしてヒト族が攻め込んでくると思い込んだんだ。ダメだ…。アイツは使えねぇ。警戒程度にしたつもりなのに、いきなり戦争状態に持ち込みやがった。カイト君に怒られちゃう。


 俺は引き続き情報収集と、新しい拠点への移動を急ぐようオルティエンヌ殿に依頼した。奴隷達にも手伝わせよう。


「アリア。お前を一旦マイラクトの港町に連れて行く。バナーシ殿に会い、海への警戒を依頼してくれ。」


 アリアは状況を理解し肯いた。


「サラ、フォン、ウルチは、オルティエンヌ殿に従い、拠点移動を手伝うんだ。ヨーコ、彼女たちはお前に任せる。」


 ヨーコはサラ達を連れ、オルティエンヌ殿の後を追った。


「アンナはここで待機。フェルエル殿とアユムの護衛だ。何かあれば、腕輪を使って構わない。」


 アンナは跪いて俺の命令に返事し、武具を整えに奥へ向かった。


「エフィは俺と東の森の拠点へ行く。お前の土魔法、樹魔法で拠点の防御強化をやっておこう。…わかった、おやつは用意するから。」


 エフィはどこで覚えたのかガッツポーズをして準備に入った。


 それから、俺は状況をカイト君に報告した。



 案の定、めっちゃめちゃ怒られた。カイトの計画では、灰角竜族と水面下で交渉を進めて、最後の最後で金竜族に鞍替えするつもりだったようで、いきなり金竜族と繋がった状態で防備を固められては、他の手が全く使えなくなってしまったそうだ。


 …ユウトの野郎…。もう俺は大っ嫌いだからな!




 計画は大幅に変更された。


 今、灰角竜族を中心とした竜人族は、元々竜人至上を目指していたが、ヒト族排斥へと動いている。ヒト族派この動きを利用して、獣人族との同盟強化に乗り出した。そしてその情報をあえて拡散させ、竜人族の注意を分散させる。そこへ五ノ島を脱出した金竜族がヒト族、獣人族との同盟を持ちかけ、灰角竜族の排除を条件に同盟締結を行う。

 先に竜人族が臨戦態勢に入ってしまったから、獣人族も巻き込んで対処する、というのが軍師カイト君の案だそうだ。

 俺は五ノ島の情報収集と金竜族使者の王都までの護衛を仰せつかった。…うん、今回は目立たない役だ。


 金竜族派の竜人達は、全員新拠点への移動も完了し、俺達が用意した物資によって生活もかなり改善できている。そして奴隷達が自分たちを手伝ってくれていることでかなり、他種族に対する見方が変わって来ていた。なによりも、アユムが自発的に奴隷達を手伝い、その姿が竜人達の心を揺さぶったようだ。…恐らくこれが『勇者の資質』なんだろうな。ちょっとうらやましいが。


 で、俺はというと、扇状地が一望できる場所で、毎日監視を行っている。扇状地は日に日に慌ただしくなり、幾重にも連なる防御壁は常に篝火が焚かれた状態だった。赤眼竜族のベルサも防衛に駆り出されており、ほとんどこっちに顔をだしていない。…それにしても、灰角竜族は何故これほどまでに防御を固めているのだろうか。…何を恐れているのだろうか。

 俺はもう一度奴らの本拠に忍び込んでみようと考えた。今度は中央にある警備の厳しい施設に行ってみよう。




 夜になり、俺は監視をベラに任せて扇状地へと向かった。ウルチの話では中央の施設は『竜王塔』と呼ばれる、棟梁の一族だけが住む住居で、中には竜王の像が飾ってあるらしい。…俺的にはそんな像は全然欲しくないんだが、竜人ならば一度は拝んでみたいそうだ。

 ≪遠視≫と≪仰俯角監視≫と≪気配察知≫のコンボで周辺を警戒しつつ、≪気脈使い≫を使って塔の頂上へ。見張りも居たが、≪超隠密行動≫や≪魔力操作≫で相手に気づかれることなく、塔内に侵入した。


 最上階は、例の像だった。


 この像に何のありがたみも感じない俺は、素通りしようとしたが、あのお方(・・・・)が顕現されて呼び止めた。


「儂の加護を持っておきながら…素通りとは。いい度胸だな?」


 もう俺は背筋をピンと伸ばしてそこから90度に上半身を曲げて礼をした。神様相手に言い訳無用。すぐさま実行。久しぶりに恐怖心を味わった俺はもう一度礼をして、竜王様を見やった。


「お久しぶりでございます。」


 竜王様は上半身だけを顕現させ、ゆらゆらと像の前を漂っていた。像の周辺には何人かの警備の竜人がいるのだが、彼らには俺と竜王様は見えていない。


「…まだこんなものを拝んでやがるのか…。こいつのお蔭で儂はなりたくもない神になんぞなったからな。…正直壊してしまいたいくらいだ。」


 じゃなんで俺が素通りするのを咎めたのと聞きたいところを堪え、別の話を切り出した。


「竜王様、竜の部族についてお教え願いますでしょうか。」


 竜王様は俺の質問に事実をそのまま述べて下さった。


「…竜人は魔獣“竜”と人間との間の子じゃ。竜は人を喰らう。だが、時折喰らわずに子種を設けていた。」


 俺は黙って聞いた。


「“竜”は儂も含め、幾千もの種に枝分かれしておる。それらが、人との子を成し己を崇める部族を作ったのが始まりじゃ。…儂の部族もある。」


 なんと!では竜王様も人とえっちして子を、ぐぼぁあ!!


 余計なことを考えたため、俺は激痛に襲われた。何度も何度も謝ってようやく痛みが引く。


「…じゃがな。竜人は代を重ねるごとに“竜”の血を薄めておる。…それが部族同士の争いの根本じゃ。どの部族がどれほど色濃く“竜”の血を残しているか…力で示そうとしているのじゃ。」


 血の濃さか。前世でもそんなことで戦争を繰り返す時代があったな。結局は血など関係ないんだけれど、血の濃さ=強さというのは、わかりやすく浸透しやすい構図だからね。それが竜人族が千年以上も他国との交流を積極的に行って来なかった理由なのか。


「…儂は神である以上、何でも知っている。じゃが、公平を素とする神である故に…これ以上は言えんぞ。」


 いえ、十分です。


 俺は深々と礼をした。そしてこのことは誰にも言わないことを心の中で誓った。言えば竜人族の尊厳を失わせてしまうと思ったからだ。


 俺は竜王の像と別れ、塔内の階段を降りていく。2階降りると警備の竜人が多くなった。俺は≪気配察知≫で内部を確認した。中央の部屋に赤い点が3つ。…どうやらこれが警護対象のようだ。俺はその赤い点に向かって隠密行動で進んだ。


 ≪破邪顕正≫のスキルリストには≪空間転移≫がある。ヨーコが使っていた瞬間移動キルだが、俺の≪空間転移陣≫と違って短距離しか跳べないが、転移陣が不要であること。要は簡単な壁抜けなんかもできることだ。俺は最初は使えなかったんだが、今は使えるようになったので、≪空間転移≫で中央の部屋に入った。

 部屋に入った途端、俺は言葉を失った。


 天井から吊るされた鎖に繋がれた竜人女性が3人。それを鞭でバシバシ叩く竜人男性が一人。…≪気配察知≫で確認した赤い点の数とあわないのは、既に竜人女性の一人がこと切れているからだとすぐに分かった。

 男は灰色の外套(ローブ)を纏い、呪文のように何かを呟きながら憎しみを込めて鞭で叩き、顔を殴り、腹を蹴っていた。竜人女性の一人が男の暴力に悲鳴を上げていたが、やがてその声も弱々しくなり…そしてものを言わなくなった。その様子を横で見ていたもうひとりの竜人女性が泣き叫んだ。


「次は貴様の番だ!…死ぬまで一体どれくらい耐えられるかな!?」


 男は、怯える竜人女性の髪を掴み殴りつけた。


 ゴツン!!


 俺の拳骨を後頭部に喰らい、泡を吹いて男が倒れた。




 …手が勝手に動いちまった。…仕方ない。




 俺は3人の鎖を引き千切り、動かなくなった二人を抱え上げ、残った一人に声を掛けた。


「逃げるぞ。」


 俺は、竜人の手を強引に引っ張り、≪空間転移陣≫で一気に移動した。…当初の予定と違ってしまったが、致し方ない。

 跳んだ先はベラがいる監視場所。俺が3人の竜人を抱えて突然現れたことに驚くが、すぐに状況を察知し、仮眠用の毛布を地面に広げた。俺とウルチで3人を寝かせ、意識を失っている竜人から≪傷治療≫を掛けた。激痛で意識を取り戻した竜人は喘いだ。


「ベラ!押さえつけてくれ!」


 俺の言葉にベラは全身を使って竜人女性を押さえつけた。俺は少しずつ魔力を流し込み、手当てを行う。…だが、一旦はここまでだ。これ以上はショック死してしまう。

 俺は≪傷治療≫を止め、もう一人の動かない竜人女性を見やった。念のため≪傷治療≫を掛けてみたが、彼女は魔力を受け付けなかった。せめて腫れた顔だけでも治せないものかといろいろやってみたが…死んだ人間の治療は出来ない事がわかっただけだった。


「すまない…。彼女は助からなかった。」


 俺はもう一人の竜人に頭を下げた。


「…貴方がエルバード様ですね。…ベルサ殿からお話を伺っております。」


 女性の言葉から俺の名が出された。俺は下げた頭を持ち上げた。


「お助け頂き…ありがとうございます。…今金竜族に連なる者たちが次々と捕えられ、拷問を受けております。…ベルサ殿も捕まってしまい、既に命を奪われました。」


 俺は愕然とした。竜人の本拠内では、俺が想っている以上に粛清が行われてしまっていたのかと衝撃を受けた。

 俺は彼女に≪心身回復≫を掛けながら話を聞いた。

 今日の朝、若頭のユウトがベルサを連れてどこかに行ったそうだ。その後、自分たちも含めて赤眼竜族の竜人が捕えられ、拷問を受けた。自分たちも若頭筆頭のラウルヤーンに拷問を受け、殺される寸前で俺に助けられたと語ってくれた。


 そうか。あの男がラウルヤーンだったか。顔は覚えたぞ。


 俺とベラは3人を連れて一旦洞穴へと戻った。重傷の女性を寝室のベッドに寝かせ、洞穴にいた全員で死んだ女性を土に埋葬した。埋葬の間、ウルチは現れることなく、ベラが淡々と作業を手伝っていた。…ウルチには辛いのだろう。


 俺はヨーコと、比較的軽傷の竜人女性を伴って、オルティエンヌ殿を訪れた。そして竜人女性から本拠での出来事を説明してもらった。


「…話は分かりました。エルバード殿、彼女の救出に感謝します。ベルサ殿には悪いことを…。」


 オルティエンヌ殿は、手を組み宙を見上げて祈る仕草をした。


「オルティエンヌ殿、これは俺の意見として聞いて欲しい。…やはりあの灰角竜族を棟梁とするのは竜人族の衰退を示すと思う。俺としては誇り高き竜人を絶やさぬために…皆が納得する棟梁を立てるべきかと。」


 俺の言葉に周辺にいた竜人達はオルティエンヌ殿を見つめた。彼らは彼女を慕って集まっているのだ。彼らからすれば、彼女に棟梁になってほしいと願っているのであろう。


「エルバード殿のご意見は理解いたしました。ですが、アタイが棟梁になることを是としない部族が今の本拠にいる事も事実。今少し…考える時間をください。」


 重い空気が流れる。オルティエンヌ殿が躊躇する理由はわかる。だが、その1歩を踏み出さなければ竜人族の未来は変わらないのだ。




「エル兄。」


 俺はアユムに呼ばれ、意識を現実に戻した。オルティエンヌ殿と会談したあと、いろいろと考え込んでいたが、なかなかまとまらず耽ってしまっていた。アユムに声を掛けられるまでソファに寝転がって天井をじっと睨み付けていた。


「…どうした?」


「…国って、なんだろう?」


 子供らしい素直な質問に俺はなんとなく癒された。軽くアユムの頭を撫でて起き上がる。


「難しいな。人によって国に対する思いも違うし…俺達の前世にある国とはまた違うからな。言えることは、国は一つではない…ということだ。国の外も複数に分かれてるし、国の中も複数の派閥に分かれる。決して1つにまとまることは無いんだよ。」


「……国って…必要なの?」


 アユムの質問に俺は天井を見上げた。国とはなんだんだろう。国は必要なものなのか。ヒト族の国に関わり、半神族の国に関わり、そして竜人族の国に関わっている。

 いずれも建国から幾世代も代替りをしており、当初の理念や目的、存在意義も変わっているはずだ。恐らく他の国も変わらなければならない時期なのだろう。

 俺はもう一度アユムを撫でた。


「アユム…。お前は国境を越えてたくさんの人に手を差し伸べる人間になってほしい。…ただそれだけだ。」


 アユムは微笑んだ。


「うん、僕はエル兄のようになりたい。」


「はは、俺のようにか。じゃあたくさんの女の子を囲わなけりゃならんな。よし、俺が女の子の扱い方をおしえ…いててててて!」


 俺は話の途中で頬を思いっきり抓られて立ち上がった。ヨーコが冷たい目で俺の頬っぺたを引っ張り上げている。


「アンタ…子供に何を教えるつもりなの?アユム!この変態の真似をしちゃダメだからね!」


 アユムは完全に怯えて、ヨーコから後ずさりしていた。

 ヨーコさん、子供を怖がらせちゃだめでしょ!




 数日間竜人族の本拠を観察し、その内容をまとめて俺は王都へと跳んだ。洞穴の事は全てヨーコに任せ、五ノ島対策会議に出席するためにウルチを伴っての移動だ。行先はもちろんカイト君の御屋敷。…と言っても、アイツの領地に転移陣は置いてないので、王都のヤグナーン屋敷へ跳んでから≪気脈使い≫での移動だ。

 ウルチは竜人だけあって、空の移動に対しては怯えることは無かったが、俺に抱きしめられているのが恥ずかしいのか、終始顔を赤らめていた。


 ラスアルダス領の領主館に到着した俺達は、門番に身分証を見せた。俺が来ることを聞いていたようで、門を開け、中へと案内された。謁見の間に通されるのかと思いきや、そのまま階段を昇っていき…領主の私室にまで案内された。


「エルバード様をお連れ致しました。」


 扉の前で声を発すると聞き覚えのある声が返事をし扉は開けられた。俺とウルチが中に入ると扉を閉められる。そして反対側にはカイトの野郎がいた。


「ご尊顔を拝し、恐悦至極に…」


「ここは防音されてるから。」


 …せっかく貴人向けにちゃんとした挨拶をしようとしてたのに。

 俺は何も言わずどかっとソファに座り込んだ。後ろで控えるウルチは訳が分からずオロオロしてた。


「…その態度の変わりようは個人的には頂けないな。」


「うるさい。こういうのは性にあってないんだ。」


「で、竜人の国はどうなんだ?」


「前にも報告したが、“この世ならざる者”がしでかした阿呆なことはまだ収まらん。未だに臨戦態勢で警備も厚く、俺ですら本拠に侵入しにくくなった。」


「奴ら自滅するぞ。」


 俺はカイトを睨み付けた。その様子を見たウルチが小さく悲鳴を上げた。…大丈夫。いつものことだから。


「どういうことだ?」


「簡単なことだ。これだけ毎日多くの兵を動かしていては、糧食が持たん。」


 カイトの説明に俺は肯いた。元々鎖国している島。食料も自給自足が基本。通常時であれば自分たちで育てた作物を食べるだけだが、今回の様に情事本拠に詰めていると、作物を育てることができなくなる。つまり消費過多の状態だから、そのうち食糧危機に陥るはずだ。

 カイトの見立てで、約1か月後には食糧が尽きると言っている。


「で、どうするのだ?」


「…どうもせん。変更後の計画通り、ヒト族代表、獅子族代表、金竜族代表で集まって三国同盟を締結だ。そして金竜族を竜人の国の棟梁として認め、国交を結ぶ。」


 要は、扇状地を本拠とする灰角竜族は無視するということか。


「だが、それでは、奴らは怒って戦を仕掛けてくるのでは?」


「いや、部族単位に金竜族への服属を求める。そのためにバジル商に命じて国内にいる竜人奴隷を密かに集めている。」


 そうか、それでカイトの野郎はウルチを連れて来いと言ったのか。


「ウルチ。聞いた通りだ。竜人族の再統一に向けてお前も力を貸してくれ。」


「畏まりました。」


 ウルチも内容を理解し、俺に頭を下げた。

 表向きは灰角竜族の派閥を無視して金竜族との交渉を進め、水面下では部族ごとに灰角竜族からの離脱を進め、彼らを孤立化させる。辛辣すぎる策。…だが。


「肝心の金竜族の族長が決心してないんだ…。」


 カイトはうなだれた。金竜族側の意思統一ができていなければ水泡に帰してしまう。どうするか?


「…あの、ご主人様?」


 静まり返った部屋にウルチの控えめで可愛らしい声が響き、俺とカイトはウルチをみた。


「姉御のこと…僕に任せてもらえませんか?」


 そうだ、ウルチとオルティエンヌ殿は馴染み。ウルチから話をすれば心が傾くかもしれない。

 俺とカイトは無言で肯き合った。




「…あとは、エルバード君。君の言っていた残念な日本人は…。」



 カイトの言葉の続きは、俺にも想像できた。俺は顔を下に向け目を閉じた。



「…始末するんだ。」




やっぱり、カイト君は辛辣で冷徹です。

しかし、主人公はカイト君の言っていることも理解しているようです。


次話では、三国会談が行われます。


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