2 暴獣現る
久しぶりの二話連続です。
五ノ島への旅も、最初から“人外度”全開にしてしまった俺は、逃げ回る黒竜の鱗をむしり取って、ストレスを発散させた。
その後何とか平常心に戻ってベルサの話を聞いて、五ノ島の実情を知る。要は下剋上によって、支配階層の竜人が大きく入れ替ってしまい、竜人至上主義に拍車が掛かっているとのこと。これではウルチの小竜族としての伝手も、ライラ殿の昔の恩人の伝手も役に立ちそうもなく、加えて、ベルサが来航していることを棟梁に伝えていることから、船をこのまま進めることも危ういということが判った。
「アリア。ベルサ殿の指示通り、そこの小島に船を停泊させ、翌朝にマイラクトに戻ってくれ。五ノ島の連中には諦めて帰ったように見せかける。それであればベルサ殿の面目も保てるだろう。」
俺の言葉にベルサは頭を床にこすり付けた。まだ、続きがあるんだけどね。
「まず、俺を五ノ島まで連れて行ってくれ。…集落のない場所があればありがたい。」
ベルサは俺の顔を見上げて即答した。
「喜んで!兄貴!」
その呼び方は止めてくれ。創造神からもそんな呼び方されたことないし。…なにより気持ち悪い。……と思ってたら、ヨーコも同じだったらしく、うえって顔してたわ。
俺達は一先ず五ノ島に上陸するために、ベルサの案内で俺だけ彼らと一緒に五ノ島へ行き、潜伏しやすい場所に転移陣を設置する。そして、サラ達を転移陣経由で五ノ島に上陸させて、船は翌朝にマイラクトへ。最後にアリアをマイラクトから連れてきて全員集合!という算段。寝るところは夜になればヤグナーンの自宅に戻ればいいのだが、天蝎宮に宿泊できないのが残念だ。
さて、上陸してどうするか。
俺たちの最終目標は竜人の国との交易だが、今の支配体制下では難しいのではないかと考える。だけど、俺たちの支援で新しい支配体制に変われば、あるいは…。
よし、カイトの野郎に相談しよう。
俺は≪遠隔念話≫を使った。
(おい、カイト!)
(ブホッ!…ゴホッゴホッ!)
多分、急に声を掛けられて咽たみたいだが、こいつに対しては気にしない。
(五ノ島のことで相談したいんだが。)
(…。)
(聞こえてる?もしもーし!)
(…お掛けなった電話番号は、現在使われて…)
(そうか、カイト君はそんなに五ノ島の森を冒険してみたいのか。だったら今すぐこっちにくるか?)
(やだよ。お前と居たら絶対また創造神様からの断罪を受けちゃう!)
(じゃあ、相談に乗れ。)
(あーもう!何?)
≪遠隔念話≫での会話の相手はラスアルダス公爵カイト。国王陛下の実弟ではあるが、王族を捨て臣下となってヒト族の国を支える重鎮である。…表向きは。実は俺と同じ“この世ならざる者”。そして俺よりも酷い謀略家でもある。俺はそんな賢き方の知恵を借りようという訳だ。
なので、簡潔に状況を説明し、どうすべきかを訊ねた。
(……考えてみるけど、情報が足りない。エルバード君には五ノ島に潜入して情報収集して。)
(わかった。また連絡する。)
これでよし。
「じゃあ、出発しようか。」
そう言って俺が立ち上がると、アンナが俺の左腕にしがみ付き、エフィが俺の肩に乗り込んだ。サラが「あ!」て声を上げたが、アンナは青い顔して腕にギュッとしがみ付いた。
「…船、嫌イ。オネガイシマス。」
何でカタコトなんだよ。…まあその顔見れば理由は納得するが。でも何でエフィも。
「…フォンがいる。」
…そうか。こいつはフォンと離れてた方がいいのか。俺はチラッとフォンを見て≪念話≫で話しかけた。
(エフィの我が儘許してやってくれ。)
(…許すから、後でご褒美。)
う、うん。まあ、フォンならそう答えるか。よし。じゃあエフィとアンナを連れて先行しようか。
竜人達は翼を広げて船から飛び立ち、俺はエフィとフォンを抱えて≪気脈使い≫で船から跳び立った。
五ノ島。
ウルチの話では、厳しい自然が折り重なった美しい島と言っていた。
海を渡り、島影が見えると俺はその意味を理解した。
≪仰俯角監視≫で上空から島を眺めたが、島の周囲の7割ほどが、ほぼ垂直にそびえる山岳に囲まれていた。唯一海に向かって開けている場所は地形的に枝分かれした川覆う様な扇状地形で海との境界線に幾重にも重なった防壁に囲まれていた。
確かヴァルドナの図書館で戦史に関する図書を呼んだとき、10倍以上の敵を相手に守り抜いたと記録されているが…納得できる。
「エルバード様、こちらです。」
ベルサについて行こうとすると、別の竜人からベルサとは別の方向に案内された。
「若頭は棟梁に報告に行きますので。」
ああ、俺がついて行くとまずいな。俺は案内される通り、扇状地形から遠ざかり山々がそびえ立つ海辺へと向かった。
「アンナ、エフィ。程度に差はあるが、国家に関係する地位にいた者として1つ聞きたい。…この国はどう見える?」
「…知らん。」
エフィは即答だった。まあ、予想はしていたが。
「まっとうな国ではないのは確かじゃ。あの何重もの壁は…何から守るためのものじゃ?」
鋭いところを突くな。そうだ。あの壁の目的がわからん。
「…御館様。竜人の国は1000年前からどこの国とも絶縁していたと聞きます。…恐らく我ら半神族よりも外の世界を知らないのではないでしょうか。」
そうだな。半神族はまだウェイパー卿が窓口となって多少なりとも諸国との交流があった。だが、竜人族は?
後で語り部サラに聞いてみるか。
俺達は、波が打ちつける岩場の隙間に降り立ち、巧妙に隠された洞穴へと案内された。
「…ここは?」
「海竜族の村へと続く道になります。」
竜人の一人が答えた。見ると少し青みがかった肌の竜人が俺達について来るよう手招きしていた。
竜人について洞穴の中に入ると奥の方は光彩棒で照らされており、それが奥まで続いていた。
「…この洞穴は?」
俺は近くにいた竜人に話しかけた。
「灰角竜族によって地位を追われた者たちが集う隠れ家です。元は海竜族という小さな部族の村でした。」
ふ~ん…。要は反乱軍のアジト的な場所か…。危険だな。一般的に下剋上により政権を手に入れた為政者は、討ち漏らした反乱分子を排除するのに、ある程度泳がせておいて集まったところを一網打尽にするもんだ。
その灰角竜族って奴らにはここは見つかっていると考えていていいだろうな。
俺達は竜人に案内されて洞穴の奥へと進み、やがて外の光を浴びた。
そこは周囲を崖に囲まれた窪地で、唯一開けた空から光が射しこんでいる。…上空から魔力を感じるが…何かしらの結界を張っているのか?俺は空を見上げて目を凝らした。
「気づきましたか?空から見えないよう≪結界魔法≫を張っています。」
初めて聞く言葉に、俺はアンナを見た。
「≪命魔法≫と≪精神魔法≫のスキルを持つ者に与えられる特殊スキルになります、御館様。」
エフィの≪樹魔法≫の類か。能力の高い竜人がいるようだな。俺はもう一度空を見上げてから、竜人の案内のまま、1件の小屋まで足を進めた。
「こちらに“金竜族の姉御”様がおられます。」
姉御?
俺は言葉の使い方がどうしても任侠系になっているのが引っかかるのだが、小屋の中に入った。
粗末な調度品で揃えられたみすぼらしい部屋。そこに置かれたソファに俺は座り、後ろにエフィとアンナが控えた。
奥の部屋から女性が出てきて俺の前で礼儀正しくお辞儀をする。案内の竜人が女性を紹介した。
「金竜族の棟梁の娘さんで、オルティエンヌ様にございます。」
俺はソファから立ち上がり、太陽神式の礼をした。
「お座りください。アタイに礼儀は無用です。」
アタイ?
雰囲気、口調がベラに似ている。
多重人格者は別人格を作り出すとき、自分と異なる人間になりきるため、記憶の中にある人物を参考にするとテレビで聞いた事がある。もしかして、ウルチはこの人を参考にベラという人格を作り出したのではないか。
「仲間から貴方様のことをお伺いいたしました。黒竜様を従えた≪竜鱗皮≫を纏う勇者と聞いております。」
「…残念ながら勇者ではござらん。俺はヒト族の国王陛下の命により、竜人族との定期交易を求めに来た使者にすぎぬ。」
俺の答えに表情を変えず、オルティエンヌと名乗る女性は話を続けた。
「しかし、今の五ノ島の棟梁は灰角竜族。あのものは竜人族以外の人間を認めておりません。」
「だからといって、山奥に結界を張って暮らしている貴方がたと定期交易をしても利益にはならぬと思うが。」
「…では、我らを五ノ島の首領として定期交易できるよう…棟梁の地位奪還にご協力願えませんか。」
「断る。」
そばに控える竜人の表情が変わった。アンナの表情も変わった。俺なら引き受けるだろうと思っていたのか。
「我らはヒト族の代表です。我らが協力すると言うことは、ヒト族の協力を得て棟梁の地位を奪還することになります。…それでは、竜人の国は、ヒト族の属国と見られるでしょう。俺はこの国を属国にする為に来たのではなく、また国王陛下もそれを望んではおらぬ。」
一度大きく呼吸をして、一旦会話を区切った。
「故に表立っては協力できぬ。」
エフィがニヤリと笑った。気づいたか。たぶんカイトの野郎なら表立って行動するなと言うはずだ。
「…この村に案内頂いたのはありがたいが、我々はここから出て行く。恐らく、その方がお互いのためでござろう。周りの者どもは俺を“竜神の使い”とか呼んで俺を旗頭みたいにして勢いづいているようだが、危険な行為だ。異国の人間に頼らず、自分たちだけで国を取り戻すことが重要でござる。」
(…お気遣い、ありがとうございます。)
俺の頭の中に女性の声が流れた。≪遠隔念話≫が使えるのか。なら話はしやすい。
(結界を張っているのは貴方ですね。)
(…はい。)
(恐らくですが、この場所は灰角竜族に知られてると思いますよ。)
(やはり…。ではこの村を捨てた方が)
(いえ、この村はこのままにして、別の拠点を用意する方がよろしいでしょう。敵にはここを拠点としているように見せかけるために。)
(なるほど。貴方様は…)
(今、信頼のおける軍師にどうすれば良いか問い合わせてます。確実に貴方がたが望む結果を得られるように、我々にも情報提供をお願いします。)
(わかりました。…でもなぜ貴方様はアタイ達に?)
(小竜族をご存知ですか?)
彼女の表情が明らかに変わった。驚きの表情を見せ、すぐに悲しみの表情に変わった。
(争いにより、滅ぼされてしまった部族です。アタイ達金竜族を支えてくれた頼もしい仲間でした。…しかし貴方様は何故それを?)
(“ウルチ”という女性竜人をご存知ですか?)
オルティエンヌの表情がまた変わった。
(い、生きているのですか?)
やはり、この女性はウルチを知っているようだ。
俺はウルチの知り合いを見つけたことに喜んだが、同時にこの島でも厄介事に首を突っ込むことになることについて、複雑な気持ちにもなった。
オルティエンヌとの話もそこそこに終わらせ、俺達は村を出た。元来た洞穴は通らず、断崖を駆け上がり、垂直にそびえ立つ山の中腹辺りから五ノ島の中心方向へ向かって進んだ。
目的は2つ。俺達の拠点と彼女達の第2の拠点を探す。俺達の拠点は小さくても構わないが、オルティエンヌ達の拠点となると、かなり広い場所が必要だ。そうなると、この断崖だらけの山の中ではなく、もう少し平らな土地が必要だ。しかし、平らな土地は竜人族が住む扇状地のほうまで行かないようだ。
暫く進むうちにエフィが小さな洞穴を見つけた。中を確認したが、獣の巣のようだが、使われた形跡もなかったので、この洞穴を俺達の拠点に決めた。
「エフィ、お前のの≪土魔法≫でこの洞穴をもう少し大きくしてくれ。」
「はぁ?何故妾が?」
エフィは当然の様に拒否しようとしたが、俺は拳骨を喰らわして穴を掘るよう命じた。エフィはブツブツ言いながら穴の奥へ向かい、魔法で土を削り始めた。
「皆を連れてくる。アンナは周辺の様子を伺ってくれ。」
≪気配察知≫で周囲に赤い点が無いのは確認しているが、念のためアンナに見張りを指示した。そして穴の入り口に転移陣を設置し、俺は船へと戻った。
船に戻ると転移陣の前で待機していたヨーコに殴られた。…突然すぎてまったく理由がわからん。
「何であの着物の人を連れて行かなかったよ!」
涙目で俺に文句を言ってきたが、知りませんよと反論したい。でも何があったか想像はつく。俺は肩を落として、ヨーコが示した休憩室へ向かった。そしてにらみ合いが続く二人の間に入って行く。
「支配人殿、俺の奴隷達があなたを見て怯えています。…あの子に敵意剥き出しにするのは止めてもらえませんか。」
「“人外の者”よ。その者は我が余計なことをせぬように睨みをきかせておるようじゃが…顕現する度にこれでは、些かうんざりしておる。我もおとなしくする故…何とかしてもらえぬか。」
「…信用できぬ。」
もはやいつもの支配人の口調ではなく、神力全開でフェルエル殿は“九尾妖狐”を威嚇している。俺は長い溜息をついて着物美人さんに話しかけた。
「美人さん、俺に従属する?」
八岐大蛇には断られたが、この人だったら従属してくれるかも、と思った。
「や!」
即答されたので、肩をがっくしと落とした。一体この魔獣と支配人との間にどんな因縁が…そもそも、支配人殿は一体…?
「“この世ならざる者”よ。こ奴は最上位の魔獣。人間ごときに従属することはない。それどころか行く先々で禍を引き起こす。今すぐここから追い出すのが得策じゃ。」
従属する気のない最上位の魔獣をどうやって追い出せと?それよりもそんな最上位の魔獣相手に神力バンバン出して睨み付ける貴方の正体が知りたいです。
…と思ってたら、睨まれた。舌打ちもされた。
仕方がない。あれやこれやとご機嫌を取って仮の憑代である櫛に入ってもらい、≪異空間倉庫≫にしまって支配人殿にもひとまず納得してもらった。
…ようやく向こうに行ける。
俺はライラ殿、フェルエル殿、サラ、フォン、ウルチ、カミラ、ヨーコ、アユムの順番に転移を繰り返して洞穴に移動させ、アリアには明日迎えに行くことを伝えて五ノ島へと戻った。
…もちろん、アリアには転移陣の側で着換えをしないよう念を押した。
最後の転移をする直前、俺はフェルエル殿行動について振り返った。
あの瞬間、≪思考並列化≫と≪情報整理≫が騒ぎ出したのだ。
支配人殿は俺の心を読んで、睨み付け、舌打ちした。
俺の心を読んで…。
過去に俺の心を読んだのはファティナ殿を除けば、全て人間ではない。ファティナ殿は心を読むのではなく、残留思念を見ているだけであり、実質、俺の心を読める人間はいない。
その他の条件を絡めて、フェルエル殿の正体として消去法で考えたら1つしか残らなかった。…確実な情報だと判断できるものしか伝達して来ない≪情報整理≫も同じ結論を出してきた。
ならば、フェルエル殿が十二宮の宿屋を営む理由も想像がつく。
「…でも、気がつかないふりをした方がいいかも。」
俺はそう結論付け、船から五ノ島に転移した。
五ノ島の俺達の拠点。
通称『エフィの洞穴』は、俺感覚で50畳くらいの広さを持つ大きさになった。俺はエフィに更に細かく部屋訳を行うよう命令した。エフィはぶーぶー文句を言ってきたが、ヨーコが【ケーキ】という甘いお菓子を作ってあげると約束すると、鼻をフンフン鳴らして作業に取り掛かった。…ヨーコいいのか?前に二ノ島で卵が手に入らなくて断念しただろ?
フォン、ウルチ、アンナには周辺地形の把握も含めて探索を命じ、カミラとヨーコには俺がヤグナーンの商店で購入した布を出して拠点に設置するソファとテーブルクロスなどの調度品の準備をさせた。
そして俺はサラを抱き上げて≪気脈使い≫で空中を跳びながら≪超隠密行動≫をかけて≪遠視≫と≪波動検知≫と≪仰俯角監視≫と≪気配察知≫を組み合わせて立体地図を作り出してそれを≪視界共有の眼≫でサラに見せていた。
「サラ、お前の持つ五ノ島に関する知識と照らし合わせて、この地形について気になることがあれば遠慮なく俺に言ってくれ。」
サラは俺の意図を十分に考え、何を求められているかを把握し、そして最も効果の高い提案を冷静に示すことが出来る。…それが彼女の固有スキル≪察言観色≫の能力。言わば軍師的なチカラを発揮できるスキル、だそうだ。
彼女は≪視界共有の眼≫で見える立体地図を見ながらゆっくりと話し始めた。
「…五ノ島は古来より神獣様がその島の半分を支配していると聞いております。そして残りの半分を数十の竜人部族が治めておりますが、その半分以上は厳しい自然の地形のため、居住には適さないとウルチからも聞きました。」
サラは俺をちらりと見たが、俺は黙って肯き、そのまま続けるように促す。
「…そして居住に適した地域は上位の部族が支配しており新たな居住を手に入れるには相手の居住地域を奪うしかないのかと…。」
俺が求めていた答えをサラは返してきた。竜人族が部族同士で争う理由がよくわかった。より良い地位を求めている理由もよくわかった。
この国はある理由によって飽和状態になっているのか。ならばその理由に会いに行く必要がありそうだ。俺はサラの頭を撫でて彼女を喜ばせながら洞穴へと戻った。
「ちょっと神獣様に会ってくる。後のことはヨーコ、頼む。」
そう言って跳ぼうとするところをヨーコに掴まれた。
「ちょっと!友達んちに遊びに行く感覚で言わないでよ!それと後は頼むって…何をすればいいのよ!」
ヨーコは俺を跳び立たせまいと俺の足を股に挟んでしがみ付いて抗議してきた。何を…って、この洞穴をくつろげるスペースになるように改修しといて欲しいだけなんだが…ああ、そうか。支配人殿が苦手になったんだっけ?まあ、その気持ちわからないわけじゃないけど。痛たたた!噛みつくな!わかったわかった、フェルエル殿は何とかするから!全く…。
「…という訳で、フェルエル殿、俺と一緒に空の散歩でもいかがです?」
唐突な俺の誘いに支配人殿は腕を組んで訝しげな顔を見せた。
「どういう訳かわかりませんが、私をどこへ連れて行こうという訳ですか?」
俺は何でもない素振りで話を続けた。
「はい。ちょっと神獣様を見に。支配人殿も神獣様を見るのがお好きかと思いまして。だったらご一緒にどうかなと思いまして。」
ちょっと強引にデートのお誘いをしてみた。でも、俺の目が泳いでいたらしい。あっさりとたくらみがあることを見抜かれて手を差し出された。
金貨3枚でようやく手を引き、俺の腕に巻き付いて怪しい笑みを浮かべた。
「金貨3枚分のご奉仕はさせて頂きますわ。」
…やめてくれ。サラとヨーコが睨んでるじゃない?
なんとかその場を取り繕って、俺はフェルエル殿を連れて再び空へと跳んだ。そして≪気配察知≫で青く光る点を目指して一直線に向かった。
…何故か同じ位置に紫の点もある。魔獣もいる。だが、【格】まではわからない。そもそも神獣と魔獣が同じ場所にいるのはどういうことだ?俺は黒竜を呼び出した。
「……地王獣ダ。」
小さな声で黒竜は答えた。顕現した顔の表情は嫌そうにしている。
「【格】は?」
「…【土】ノ【上位】ダ。」
俺を嫌そうな顔で睨みつけながら黒竜は答えた。どうやら会いたくないらしい。
「魔獣様と戯れるのもそこそこにして…そろそろ私を誘いだした理由を聞かせて頂けませんか?」
しびれを切らしたのか、俺に敢えて甘えるような仕草で会話に割って入って来た。黒竜はこれ幸いとサッと隠れてしまう。俺は仕方なくフェルエル殿からの質問にできるだけ軽く答えた。
「【天蝎獣】様が貴方様を見て…何と言われるか。それが知りたくて。」
態度が豹変するかと思ったが、いたって平常運転な表情のまま、
「嫌がるでしょうねぇ…。」
とだけ言って黙り込んだ。
暫く沈黙したまま、俺達は目的地の洞穴に到着した。既に俺達がやってきたことを検知しているのか、禍々しい圧力をかけた魔力を放ち威嚇するように、一頭の巨大な角を生やした獣が立っていた。
びりびりと肌に突き刺さるような魔力が周囲を覆い、地面がわずかに揺れていた。普通の人間なら恐怖で死んでしまうレベルだろうが俺はやはりと言うか平然とそれを受け止めた。ゆったりとした気持ちで、獣の巨躯を眺める。
首輪があった。
魔獣の奴隷?
俺は首輪をじっと見つめ、獣から発散される魔力とは別の魔力が獣の首を絞めつけていることを確認した。…いや、神力か。ということは、この魔獣は神獣様によって≪隷属≫させられているのか?
俺は獣の表情を伺った。
ありえない位置まで裂けた口からはボロボロに折れた牙が見えており、変な臭いのする涎が垂れ流されており、眼は虚ろ…である。
「コ…コロ…セ…!」
胃の中を引っ掻き回すようなドス黒い声が周囲に響き渡った。
「コ…コロ…セ…!」
目の前の魔獣は、恐ろしいことを言っています。
主人公はこの状況でいったいどうするのでしょうか。
そしてフェルエル殿の正体は!?
・・・あ!読者の皆様は気づいてるか・・・。
次話では・・・魔獣祭りに神獣祭りです。