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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第七章◆ 新たなる使命
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1 五ノ島へ

七章スタートです。

本章から、サブタイトルはちゃんとつけることにしました。



 暖かい風が吹く海の上を、俺の船は南へと向かって進んでいた。船は進行方向から吹く風をうまく受け払ってゆっくりと進んでいる。見上げた空は青く澄んでおり、周囲は特に危険な様子も見られず、順調に目的地へと船は向かっている。俺は暖かい南風を肌に受けながら目的地の方角をじっと見ていた。


 俺の名はエルバード。


 ヒト族の王、サラヴィス陛下の命を受けて、竜人族との国交を得るため、五ノ島へと向かう使節一団の正使として、この周回船に乗り込んでいる。


 周回船とは、一ノ島を中心として、四ノ島、六ノ島、五ノ島、二ノ島、三ノ島を結ぶ定期交易船のことで、発案者は俺。出資者はヤグナーンの大商人ことナヴィス・ザックウォート商を筆頭とした豪商たちに、ヤグナーン侯爵を中心としたサラヴィス政権の重臣貴族。現在四ノ島との交渉が終わり、次の目的地として五ノ島へ向かっている途中なのだが、今回は事前交渉が全くなされていない。所謂飛び込み営業みたいな感じだ。故に俺は緊張の糸を切ることができず、出港してからずっと周辺を警戒し続けている。



 奴隷商人ライラ・バジル殿が甲板上で呑気に日光浴をしているが、気にしない。


 多少露出の多い服装で無防備に眠っているが気にしてはいけない。


 周回船の乗組員管理を担当するアリアが、俺の視線に気づいて、何やら告げ口しに行ったようだが、へこたれないぞ。



 …それにしても海の上にいるのに南から吹き寄せる暖かい風はなんなのか?今向かっている五ノ島は一体どういう島なんだろう。


 マイラクトの港を出発して2日目。


 一人を除いて船旅をそこそこ満喫しているようで、俺は仲間たち一人一人に目を向ける。



 ヒト族の奴隷サラ。


 俺の最初の奴隷であり、最初の…アレ…の相手であり、一番奴隷にこだわりを持つ少女。やや茶色の髪でまつ毛下あたりで揃えられた前髪が可愛らしく、奴隷と感じさせない綺麗な髪を持つ小柄な少女。生まれつきの奴隷でありながら、そんな境遇は一切気にせず常に明るく振舞って俺を支えてくれている。


 その彼女に背中をさすられながら、マストにしがみ付きブルブルと小鹿のように震えている少女。


 戦乙女族(ヴァルキリー)の奴隷アンナ。


 俺の6番目の奴隷で、俺に絶対の忠誠を誓う騎士でもある。大柄で遠目には女性騎士と一目で判断つくが、近くで見ると透き通るような白い肌に目を奪われるほどで、とても武器を扱う騎士とは思えない。…実際今は扱えなくなってるんだが。その彼女は船がどうしても怖くてマストにしがみ付き、船酔いにも掛かってしまって、サラに介抱されていた。


 俺はサラにアンナをベッドで寝かせて薬を飲ませるように指示すると、船嘴に立ちじっと水平線を見ている少女の元へ向かった。


 竜人族の奴隷ウルチ。


 4番目の奴隷で、濃い紫の髪が特徴的な彼女は、五ノ島出身で小竜族の娘。だが、部族間の争いで一族は敗北し、奴隷へと身を落とした。掟では部族同士の争いで負けた方の族長一家は皆殺しだが、彼女は別の人格を作り出して別人に成りすまし、自らの命を救った。だが、代償として不安定な精神状態となり、こうやって見張りをやるだけでも大きな負担になっているにも関わらず、健気に頑張っている。

 俺は彼女の真後ろに立ち両肩に手を添えて一緒に向かっている先の様子を見ると、俺の顔を見て安心したのか、フッと微笑んだ。そして次の瞬間、髪の色が黒く変色し、表情の薄い少女に変わった。

 もう一人の人格、ベラ。彼女がウルチの精神をコントロールし、ウルチが危険な状態にならないように定期的に入れ替わって彼女を休ませているのだ。


 俺はベラに休むよう言って下がらせると一人で船嘴に立って目の前の海を見つめた。



 見張りをする俺の背後から、器用に俺をよじ登り俺の肩に座って、金髪の少女が海を眺める。


 エルフ族の奴隷エフィ。


 俺の3番目の奴隷で、彼女は元々妖精族のエルフ一族を束ねるエウレーン公爵の妹君という、超高貴な令嬢なのだが、いろいろあって奴隷落ちし俺の元にいる。こいつは奴隷という枠組みには一切はまらず、やりたいように振舞っている我が儘少女だが、誰よりも人情を重んじる子であることを俺は知っている。

 俺を“椅子”扱いして楽しんでいるが、肝心要な所では俺を主として振舞う切替もちゃんとできるので、普段の彼女の行動に関しては俺は何も言わない。


 だが、そんなエフィを許せない少女が俺の奴隷の中にはいる。


 今も奇声を発しながら、俺の肩に乗るエフィに飛び掛からんとする少女を俺はなだめた。


 海銀狼族の奴隷フォン。


 2番目の奴隷で、深い青色の髪を持つ少女だが、幼少時にエルフに村を襲われ全滅した部族の生き残りである。両親を殺したエルフを憎むあまり、エフィを目の敵にする振る舞いがあり、その都度サラがフォンを押さえつけていたのだが、今はアンナの介護でいないわけで、俺が彼女を制していた。


 エフィにサラと一緒にアンナの世話をするよう命令し、フォンには船嘴での見張りをするよう言って二人を引き離した。


 二人がしぶしぶ離れていき、俺はほっと一息ついて、ライラ殿にも注意を喚起しようと甲板を見ると、ライラ殿の隣にソファを置いて同じようにくつろぐ少女がいた。


 夢魔族の奴隷少女カミラ。


 5番目の奴隷で、青い肌に白い髪という魔人族らしい見た目にも関わらず、可愛い顔をしたこの少女は2つの魔人族特性を持つ。それは禁忌とされた他部族同士の交配によって生まれた吸精と吸血の魔人族。だが、この少女は俺以外からは血も精も吸わないと心に決めているそうだ。


 俺は、カミラが寝そべるソファを力任せにひっくり返し、自分だけくつろいでいることをガミガミと叱った。彼女は半べそ掻いて船内への扉に向かったが、扉を閉める瞬間に俺にあかんべーをしていたから、嘘泣きなんだろう。後でお仕置きだ。


 俺は改めてライラ殿に話しかけた。


「先ほど通り過ぎた小島に、竜人族の斥候と思われる者が数名おりました。ここからは見られていることを意識して頂かないと危険でございます。」


 俺の言葉に驚く様子もなく淡々とした口調でライラ殿は答えた。


「大丈夫よ。なんたってこっちには“ハーランディアの勇者”がいるんだから。」


「そういう問題ではございません。アリア、このまま船内に運ぶぞ。そっちの端を持ってくれ。」


 俺は無愛想に返事してアリアとソファごと持ち上げて、船内に入る扉へと向かった。ライラ殿は露出の多い薄手の服を着ていた為、持ち上げられたソファに不格好にしがみ付き、ライラ殿のいろんな部分が見えてしまった…。


「…ライラ殿、足を閉じて頂けませんか。俺の位置からじゃ大変なモノが丸見え…ブッ!」


 俺は顔にライラ殿の踵をぶつけられ、鼻から血を流した。


「何であなたがそっちから見るのよ!下ろしなさい!」


 鼻血を流した俺の顔を見て、彼女はもう一度踵を俺に食らわした。

 船内に入るまでに数発、船内からライラ殿の私室に入るまでに十数発顔を蹴られ、俺の顔はパンパンに腫れあがり、一部紫色に変色してしまっていたが、ソファを下ろしたあと、自分のスキルを発動させて元のイケメンな顔に治した。アリア殿と出て行こうとすると呼び止められ、俺だけ部屋に残された。

 多分お説教を受けるのだろう。そう思っていたが、ライラ殿の口から出た言葉は違っていた。


「…かつて私の父が竜人族の奴隷の世話をしたことが一度だけあります。その者は父の下で一所懸命働き、無事解放されて故郷に帰りました。」


「なんと!その者は今どこに!」


「今は…わかりません。生きているかどうかも……。」


「なにか…手がかりになるものはありますか?」


 俺はわずかな手がかりを求めてライラ殿に迫った。


「じ、実は父はこの者の売買記録だけ何故か処分してしまっていまして…手がかりが帆跳んだなく…“バジル”という商号に反応するものを探すしか手がない…と、ちょ、ちょっとエルバード殿、近いです!」


 顔を近づけた俺を見つめて頬を赤らめるライラ殿。俺も近づきすぎたと反省して、一歩引いて彼女に頭を下げた。

 ライラ殿が俺の後ろの何かに気づき、急にベッドに伏して泣き始めた。


「エルバード殿!あんまりです!無理矢理に…え~ん!」



 はい?



 俺は、後ろから放たれた殺気を察知して振り返った。



「何…してたの?」


 扉の前に仁王立ちして俺を睨む少女ヨーコ。


 俺と同じく“この世ならざる者”としてこの世界に転移し、一緒に活動する俺のパートナー……何だけど、この状況はまずいとさすがの俺も感じる。


「な、何もしてない!そうでしょうライラ殿!」


 ライラ殿はワザと薄手の服を乱して泣きじゃくる。俺の顎がヨーコの手に掴まれた。ヤバいヨーコの魔力が高まっているのを感じる。


「待ってくれ!俺は何もしてない!ライラ殿!」


「私のココとかココとか見たじゃないですか!しっかりと!」


あれ(・・)は不可抗力じゃないですか!」



 ……は!しまった!



 俺はヨーコをちらりと見る。当然目が合う。



「…見たのね?」


「い、いや…」


「…不可抗力でも、見たのね?」


「あ、あの…。」


 ヨーコの手に力がこもった。かなり痛い。

「ミ・タ・ノ・ネ?」


 俺は、首をわずかに動かして返事する。ヨーコのもう一方の手が俺の耳を思いっきり引っ張った。


「イタタタタタタ!!!」


 俺は耳を引っ張られたまま、ライラ殿の私室から引っ張り出された。扉の外には申し訳なさそうにアリアが立っていた。…そうか。ヨーコをここに呼んだのはアリアか。ライラ殿を見ると、彼女はてへぺろ的な表情で俺に手を振っていた。


 俺はそのままヨーコの私室に連れて行かれた。




「アリアさんだけでなく、ライラさんにも手を出して!」



 ボロボロ泣きながら両手で思いっきり俺の頬をひっぱたくヨーコ。俺は言い訳をせずじっと我慢してヨーコが落ち着くまで叩かれ続けた。

 ヨーコが疲れて叩く手を止めたところで、本日2度目の顔がパンパンに腫れるという事象も、俺は難なくスキルで回復させる。


「…キモい。」


 ヨーコは俺のスキルを見て気持ち悪そうに目を逸らした。


「…もういいわ。バツとしてレストルームに行って来て。」


 レストルーム?


 俺はヨーコの手の平にも≪傷治療≫を使って回復させながら、ヨーコの言ってる意味が解らず、不用意に聞き返した。


「…行って来て!」


 ヨーコは理由を説明せず、睨んだままだった。しぶしぶ、俺は船内の一番奥にある休憩室へと向かった。入った瞬間に俺は踵を返し元来た道を戻ろうとしたが、ヨーコが廊下の奥で仁王立ちしてこちらを睨んでいた。

 首を振って、もう一度休憩室に入るようにヨーコは指示してきた。俺は黙って首をフルフル横に振った。ヨーコがもう一度行けと合図する。しぶしぶ俺は休憩室の中に入った。


 中ではぼーっとした表情で相手を見つめる着物美人の魔獣さんと…怒髪天の表情で相手を睨み付ける十二宮の支配人さんがいるのだ。

 この二人には何かしらの因縁があるようで、特に支配人さんが目の敵のように着物美人さんを威嚇していた。そして、俺の方を見向きもしないで手を振ってここを去るように促す。俺は深く頭を下げてそのまま休憩室をでた。そして一目散に廊下を走る。


(なんで戻って来るのよ!)


 小声でヨーコが俺を怒鳴った。…だって無理っしょ?


 その後、暫く俺とヨーコで押し問答していたが、気がつくと休憩室から支配人さんがこっちを睨み付けていたことに気づき、二人して一目散にその場を逃げ出した。



 私室に戻ると、寝室で寝ていた少年が起きて来ており、俺達を見つけて嬉しそうに挨拶した。


「あ、おはようございます。…すいません、いつも寝てばかりで。」


「…しょうがない。お前はそういう『呪い』なんだから。」


 少年の名はアユム。俺達と同じ“この世ならざる者”だが、コミュ症の気があって且つペナルティで渡されているアビリティが酷過ぎるため、俺達が保護者と言う名目で預かっている。本来は彼の世話はアンナの担当なんだが、船酔いでグロッキーな彼女では無理何で俺とヨーコと一緒に居た。


 3人で他愛のない会話で時間をつぶしていると、俺の≪異空間倉庫≫からフォンの愛用の弓が取り出された。それは危険を知らせる合図。

 俺は≪遠隔念話≫でフォンに話しかけた。

(ご主人…竜人たちが来た。)


 俺はヨーコにアユムを託してここに隠れているよう指示すると、甲板へと走った。

 既に甲板では、フォンとウルチが得物を持って対峙しており、その先には竜の翼をはためかせた男が3人…宙に立っていた。


「フォン!ウルチ!下がれ!俺たちは争いに来たんじゃない!」


 俺の声を聞いて、2人はゆっくりと下がった。代わりに俺が前に立つ。パタパタと走る音が聞こえ、ライラ殿もやって来て俺の斜め後ろに控えた。気がつけば反対側に十二宮の支配人、フェルエル殿も立っていた。


「竜人の国に何のようだ!」


 真ん中の大柄な竜人が怒鳴り声を上げた。こいつが、えらい奴か。よく見ると両端の2人も姿に微妙な違いがあるな。部族が違うのか?俺はウルチに≪遠隔念話≫で部族を聞いた。


(真ん中の男は赤眼竜族(せきがんりゅうぞく)の若頭…だと思います。)


(わ?若頭?…何それ?)


(竜人の部族は族長の下に若頭という次期族長候補が数名作られます。族長は次期族長を自分の息子もしくは若頭から指名する習わしです。…この者は腕に部族の花王の付いた布を巻いているので、恐らく若頭でしょう。)

(…なるほど。赤眼竜族というのは?)


(えと…上の下…くらい?)


(他の2人は?)


 ウルチは視線を2人に合わせまじまじと観察したが、知らないようだった。たぶん下位の竜人だと返事してきた。俺は必要最低限の情報を得て、竜人を改めて観察した。

 3人の内、真ん中の男は腕に布を巻いていて、模様も描かれている。そして臨戦態勢を取っていた。反対に残りの2人は隙だらけで明らかに俺達をなめてかかったいるようだった。


 俺は頭ン中で得た情報をまとめて方針を決めた。…さあ、ファーストコンタクトは大事だぞ。


「お初にお目にかかる。私はヒト族の国王より任命を受け、竜人の国との交流を得んと五ノ島に向かう途中でござる!」



 ござる?



 自分で言いながら、言葉使いがおかしいのではと思っていたが…。


「そのような話は我が棟梁から聞いてはおらぬ。国の代表を称するならば、事前に使いを寄越して知らせておくのが筋でござる!」


 ござる?


 使い方はあっているのか?


「貴殿の申す通り、非は我らにあることを認める。だがそれでも我らは国王陛下の命を果たすべく貴殿らに五ノ島への案内を頼みたい!」


 俺の申し出に2人が槍を構えて襲い掛かろうとしたが、すぐに赤眼竜人が制した。俺の予想が当たっていれば、この男はこういう威風堂々とした態度で接する人間を好みそうだ。そして予想通り、この男は俺に興味を持っており、宙空からの見下しから、甲板に降りて対等という位置での話し合いに変わったのだ。


「…貴様のその堂々とした態度、俺は嫌いではない。だが、俺も棟梁から追い払えと命を受けておってな。このまま通すわけにはいかぬ。」


 俺と竜人はしばらく睨みあった。俺は次の一手をどうするか考えていたが、不意にアンナが真っ青な顔でマストのすぐ側に立っているのを見つけて、いい手を思いついた。


「…わかった。ここで無理を通すのは本意ではござらぬ故、一度引き返す。……ただ、私の部下が酷い船酔いに掛かってしまい、このまま戻るのもちと厳しい。一度その小島に停泊させて頂き、部下の回復を待って引き返させて貰えぬか。」


 俺はアンナを指さし、次いで頭を下げた。竜人は、アンナの様子を見て少し考えていたが、うんと大きく肯いた。


「よかろう。そこの小島に接岸を許可する。但し1日だけじゃ。翌朝にはその島も離れて引き返してもらうぞ。それから見張りも付けさせてもらう。おい、俺の部下を呼んで来い。」


 竜人が上空で羽ばたいている1人に命令すると、「へい」と返事して飛んで行った。


 俺は更に考察する。竜人達の社会は俺の前世でいうと、“武士”とか“任侠”の社会に近いのではないか?と見ている。複数の小部族を束ねる中部族があり、更にそれらを束ねる大部族があって部族の頂点に立っているが棟梁と総組長とかになるんではないだろうか。


「…赤眼竜族とお見受けいたす。貴殿の名を伺いたい。私は、“クロウの自由騎士”エルバードと申す。」


 待っている間この竜人からいくらか情報を引き出そう。…と思ったがずいぶん睨まれてる。ひょっとして名を名乗るのはNGだったりするのか?


「…竜人族に詳しいようだな。そこの竜人の娘は貴様の奴隷か?」


 さっそくウルチの事を聞いて来たか。ま、それも想定範囲内。


「身分は奴隷だが、私の大事な仲間でござる。部族名は…申し訳ないが控えさせて頂く。」


 俺の返事を聞いて、竜人はもう一度ウルチを見た。恐らく部族を考えているのだろうが…わかるのだろうか。ウルチに聞いてみよう。


(…恐らくいくつかに絞り込んでいて、その中に小竜族が入っていると思います。僕が≪竜戦士化≫すれば、絶対に気づくでしょう。)


 ウルチが小竜族だとバレるとまずいことはあるか。この男が雷竜族に近い位置にいる人物だとまずそうだが…。部族間の関係図みたいなのがないからさっぱりわからん。


「ふむ。では彼女の部族についてはこちらも敢えて触れずにいよう。俺の名はベルサ。赤眼竜族の若頭筆頭を務めておる。五ノ島に近づく船を見張り、棟梁に報告する重要な役目を担っている。」


 …ちょっと待て。それってかなり下っ端の役目ではないか。どういうことだ?ウルチ何かわかるか?


(…わかりません。父からは赤眼竜族は特攻による奇襲が得意な部族として、恐れられていたと聞いておりましたが…。)


 むう…。こうなりゃ、ちょっとカマを掛けてみるか。ウルチ、ちょっといろいろ教えてくれ…。




 俺は、ウルチから竜人族の内情に触れそうな話題を提供してもらい、それをこのベルサと名乗る男にぶつけてみようと考えた。


(クダラナイ駆ケ引キハ見テイテ面白クナイ。俺ガ教エテヤル!)


 俺と竜人のやり取りに飽きたのか黒竜(ヘイロン)が突然顕現してしまった。

 竜人達は俺の後ろから突然現れた魔獣に腰をぬかした。…俺は舌打ちした。


「戻れ黒竜(ヘイロン)。」


「ナンダ?俺ガ直接聞イテオ前に話シタ方ガ早イダロ?」


「…戻れ。」


「イヤ…シカシ。」


「戻れ!」


 俺はコイツの憑代である黒竜の剣を取り出して握りしめた。


「アーッ!ハイハイッ!戻リマス!」


 黒竜はサッと憑代の中に戻った。俺はもう一度舌打ちしてベルサに向き直った。

 …ベルサは俺の前に正座して座っていた。



 俺はもう一度舌打ちした。…目立ちたくないのよ黒竜(ヘイロン)さん。わかる?…お仕置き決定だから。鱗を全部むしり取るから。





 わかった!?






(…ハイ。)








 ベルサは素直な態度で俺の質問に全部答えた。

 まず態度を変えた理由は、竜人族でも黒竜(ヘイロン)を敬う部族もあり、赤眼竜族もその流れを一部引き継いでいるので、その魔獣様を従える方が、ヒト族の人間であっても、敬意を表すべきと考えたからだそうだ。

 次に5年前に下剋上があって、竜人社会の上下関係が大きく変わったそうだ。事件は小竜族が滅ぼされた後に起こっており、金竜族の支配から灰角竜族という部族の支配に変わったそうだ。赤眼竜族は金竜族寄りの部族だそうで、内部の役割も変更させられたそうで…つまり、ベルサは今は身分の低い部族になってるってことだった。


 いくつか話しているうちにさっき仲間を呼びに行った竜人が数名の仲間をつれて戻ってきた。が、ベルサが掴まっていると勘違いし、俺に斧を振り上げて襲い掛かってきた。


「馬鹿!止め…!!」


 ベルサが慌てて止めようとしたが、それよりも早く竜人が俺に向かって斧を振り下ろした!



 ガキィイインン……!



 竜人が振るった斧は俺の腕に弾かれ斧の柄が折れた。竜人達は全員時が止まったかのように目をみはって固まってしまった。


 俺は≪竜鱗皮≫で斧の一撃を防いだのだが、これも裏目に出てしまった。


 しばらく沈黙が続き、やがてブツブツよ何かを唱え出した。


「“竜王の化身”様が…。」


「“加護を持ちし勇者”だ…。」


「“竜の鱗を持つ者”が降臨された…!」


 俺を敬う言葉を口にして、拝みだす者も現れた。ライラ殿もポカンとして光景を眺めている。フェルエル殿はニヤニヤと笑っている。



 ダメよ…。俺をいろんな別名で呼ぶのは止めて…。また神様に断罪されてしまう…。



なにやら、新しい二つ名やら称号やらの匂いがします。

ですが主人公は神々の断罪には負けません

次話では、主人公が島を探索します。

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