理解できない憎しみ
「え?」
仲春とつぐみは突然のことに理解できなかった。
そんな二人をよそになずなが立ち上がる。
「ね、ねぇ、お姉ちゃん……二人と知り合いだったの……?」
「そうよ」
「……も、もしかしてお姉ちゃんに教えてもらったの……?すべてを……」
なずなは怯えた表情で仲春を見た。
仲春は口で応えることができなかった。
この部屋を包む緊張のために首を縦に振って応えることでしかできなかった。
「すべてってなんのこと―――あなたまさか!!」
やまめがなずなに素早く歩み寄った。
その時になずなは自分の体に異変を感じた。
動かない。
自分は後ろに下がろうとしているのに後ろに下がれない。
(金縛りっ!?)
歩み寄ったやまめはなずなを床へ押し倒した。
そして、彼女に馬乗りになり見下ろす。
「あなた『司者』だったのね……」
この時、仲春はなにが起きているのか理解した。
なずなとやまめは姉妹であること。
そして、敵対している『司者』と『亡霊』であること。
数日前、仲春はなずなにすべてを教えたのはある女の人ということを言った。
そして、なずなはそのことを先ほど思い出し、もしかしたらと思って不意に口から出してしまった。
この察しの良さは彼女の頭脳が良すぎたためだった。
「お、お姉ちゃんこそ『亡霊』だったの……?」
「今まで目をそらし続けてきたうえに疑いもしなかったから確認なんてしてなかったわ」
やまめはなずなの胸を見る。
そこに銀白色の結晶が見えた。
「結晶ということはやはり『司者』ね。そのうえ銀白色なんて……。
なんで、この子といるの?」
「それは……」
やまめの問いに仲春は即座に応えられなかった。
自分の口から言っていいのか迷ったからだ。
「この子はつぐみちゃんを殺すのよ!!それでもいいの!?」
「それはない!!なずなさんは殺さないと約束してくれたんだ!!」
「それを信じたの?この子は世界を繰り返したいという強い願いがあるのよ。そのためなら
だましてでも殺すかもしれないという考えができなかったの!?」
「ちがうんだ!!なずなさんは絶対にそんなことしない!!」
「なんで言い切れるの!?」
「それは……」
「努力すると決めたの」
「え?」
ここでなずなが口を開いた。
とっくに金縛りは解けていたのだ。
「私は今まで努力をしてこなかった。でもね、今ね努力をしてるの。
お姉ちゃんと仲直りすという努力をしてるの」
「仲直り?」
「私は、お姉ちゃんと仲良くしたいの。私の願いはこれ。世界を繰り返したいほどの願いなの……」
「なにを言ってるの……私は…私はそんな気は毛頭ないのよ!」
「私はあんたが憎いの!いっつも私のものを奪っていく。地位も期待も人望も、ましてや私の男も!!
付き合ってた男があんたのことを好きになったと言ったときはあんたを殺したくなるほど憎んだ!!」
やまめの顔は憎悪に満ち溢れていた。
目の前にいる妹のことをここまで憎めるのだろうか。
それは仲春とつぐみにとっては理解できぬことだった。
「なんでそんなことが言えるんだよ!!あんたの妹だろ!?」
「うるさい!!あなたにはわからないだろうね!仲のいいあなたたちには一生わからないだろうね!!」
その通りだった。
仲春はどうしてもこの状況を治めたかった。
だから次の言葉を言う。
「わかりませんよ!でも、血のつながる人間に対してなんでそこまで憎むことができるんですか…?」
「ねぇ、あなたはどっちの味方?」
「え?」
「あなたの言葉を聞いてるとこの子を庇ってるようにしか聞こえなくて仕方ないのよ。
ねぇ、あなたもこの子のものなの?私のものになってくれないの?私の味方になってくれないの?」
「……」
なんと答えればいいのか即座に導き出せなかった




