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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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正体は……

二人は公園の敷地から出ることは出来なかった。

突然、わけもわからない状況に巻き込まれ、精神的に疲弊し公園から出るまで走り切る体力がなくなっていた。


草陰に隠れ、座り込む。


「ハァ……ハァ……」


二人は乱れた呼吸を整える。

仲春が一息飲み込み、つぐみに問いかける。


「な、なんなんだよ……あれ……」

「た、たぶん、司者かも……」

「あれが……司者……?」

「本当かどうかはわからないよ。でも、そんな気がする」

「つぐみを襲うやつなんてそいつらぐらいしかいないか……。つぐみ、憑依しろ」

「え?」


その瞬間、背後の草がガサガサと揺れる。

その音に反応し、二人は勢いよく背後に振り返る。


「!?」


先の不審な人物。

そこにいた。


「早く‼俺の中に入れ!」


仲春はそう叫んだ。

憑依の仕方などわからないつぐみ。

だが、仲春の中に入る、ということだけを咄嗟に考えた。

そして、つぐみは温かさを感じた。

すべてを包み込む温かさ。


(ハル……ハルなら何もかもを任せられるよ)


つぐみが憑依し終えたころには、仲春は黒づくめから距離をとっていた。


「完全憑依……」


黒づくめは仲春の姿を見てそう言った。

その声に驚きの感情が含まれていた。


「完全憑依……?」


仲春はその声を聞き取っていた。


「亡霊が、憑依した人間に対して完全なる信頼を持っていなければならない……。やっぱり、

 仲直りされる前にやっておくべきだったか……」


完全憑依。

仲春の外見からして普通の憑依とは違うことが伺える。


仲春の髪がつぐみと同じ髪型になっていた。

腰まで長く伸びた髪。

ただし色はつぐみのものとは違った。

つぐみは雪の亡霊。

雪を表すかのような銀白色の髪色。

それはとてつもなく美しい。


「さっきは金縛りで攻撃を止められたが、憑依した以上それはできない」


黒づくめはコートから右腕を露わにし、その右手に氷が槍状に纏われる。

先端は鋭く、人体など容易く貫き通しそうである。


その光景はつぐみも見ることができた。

憑依状態は視覚は共有する。

さらに、完全憑依状態だと五感がすべて共有される。


「ハル……戦える?」

「わからない。でも、やってみる」


言い終わると同時に黒づくめが仲春に突っ込んできた。


右手を縦に振りおろす。

それを横に避け、黒づくめはすぐさま横へ薙ぎ払う。

仲春はそれを両手で受け止める。


だが、黒づくめは空いている左手で殴りにかかる。

仲春は右手を離し、避けて後ろに跳ぶ。


憑依状態になることで運動神経は抜群に上がっている。


一度土を蹴れば、刹那で10メートルを移動できる脚力、プロボクサーの数十倍の動体視力と反射神経、戦車の装甲を貫くほどの腕力。

司者と、憑依された人間は人間に非ず。


「真似てみるか」


仲春は黒づくめと同様に右手に氷を纏う。


そして、今度は仲春から黒づくめの懐に飛び込む。


(速いっ!)


その速さに黒づくめは驚く。

憑依状態に比べ、完全憑依状態はさらに運動神経が上がる。


仲春は氷の纏った右手を黒づくめの頭部に目がけて突く。


予想外のスピードに黒づくめは反応が遅れ、紙一重で躱す。

その際、氷の槍がフードを引き裂いた。


黒づくめは後ろに距離を取り、仲春に顔を向ける。


「ッ!?―――あ、あなたは……」

「嘘……」


二人はその顔を見て、驚嘆する。

その人物は二人が何度か見かけたことのある人であった。


「生徒会長……」


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