和解
翌日。
結局、あれから二人は顔を合わせることはなかった。
それは今も同じで、つぐみは先に一人で学校に行ってしまった。
仲春は一人で食器を洗っていた。
「俺は本当に何やってんだろうな。いくらなんでもつぐみに手をあげるなんて……」
あれからはずっとこの様子だった。
激しい自己嫌悪に陥っていた。
今までつぐみに手をあげたことはなかった。
だから、ここまで彼は落ち込んで、自分を責めているのである。
「そろそろ行くか」
洗い物を終え、テーブルの上に置いていた鞄を持ってリビングを出ようとする。
「つぐみ、弁当忘れてるな」
テーブルの上にピンク色の包みに包まれた弁当箱があった。
今朝、つぐみは一人で食事と弁当を作り足早と家を出たのだ。
「気まずいけど、仕方ないよな……」
弁当箱を手に取り、かばんに詰めて家を出た。
そして、お昼。
「なぁ、仲春。つぐみちゃんと何かあったのか?」
「どうして?」
「いや、さっきの休み時間にすれ違ったんだけど、元気がないように見えたんだよ」
「そうか……それは俺が原因だから、南風は気にしなくていい」
「お前らが喧嘩するなんて初めてだな」
「喧嘩とはまた違うさ。だけど、こんなことは一回だけあったんだよ」
「想像できないな。いつも仲良くしてて、学年では有名な二人が、さ」
「有名なんて初めて聞いたぞ―――まぁ、いいや。以前も今回と同じ理由。でもな、今回はやってはいけないことをしたんだ」
「そうか……詳しくは聞かないさ。だから、早く仲直りしろよ。二人が仲悪いところなんて見たくないし、
お前らが仲良くしているところを俺は見たいからな」
南風は仲春の背中を叩いて、自分の席に戻っていった。
「さて、行くか」
仲春はふたつの弁当箱を持って教室を出ていった。
仲春はつぐみが在籍する教室の外からつぐみを探した。
だが、見当たらない。
仕方なく、入口に近い席に座っていた女子生徒に話しかけた。
その女子生徒はつぐみと仲の良い生徒で一度話したこともある。
「あのさ、つぐみを知らないかな?」
「え?あ、ヒメちゃん?」
ヒメちゃんとはつぐみのことである。
佐保姫の『姫』をとって『ヒメちゃん』らしい。
「うん」
「ヒメちゃんなら、お弁当忘れたからって言って購買に行ったはずだよ」
「そっか、ありがとう」
お礼を言って、購買へ向かった。
食堂の中に購買部があり、人が多く集まっている。
だけど、つぐみの姿を仲春はすぐに見つけた。
一瞬ためらった。
声をかけるのが怖くなった。
あんなことの後だからどうしても怖くなる。
でも、いつまでもこの状況を続けるわけにはいかない。
つぐみと仲が悪い状態に居続けることは嫌だった。
だから、声をかける。
「つぐみ……」
そう後ろから声をかけるとつぐみがゆっくりとうしろを振り返る。
「ハル……」
顔を見てからそう言った。
そして、つぐみはすぐにその場から駆け出した。
「つぐみ!」
仲春はすぐに追いかける。
つぐみはとにかく階段を駆け上がる。
仲春は両手が弁当箱によりふさがっているために、腕を振って階段を駆け上がることができず
なかなかつぐみに追いつかない。
でも、つぐみはそのまま上へあがっていく。
屋上は危険だからという理由で、立ち入り禁止。
このままいけば、行き止まりで追いつくことはできる。
「つぐみ……」
案の定、屋上の入口で追いつくことができた。
「つぐみ、話を聞いてくれ」
呼吸を整えながら、言葉を紡ぐ。
「昨日のことは本当にごめん。いくら怒ってたとは言え、お前に手をあげることなんてしてはいけなかった。
俺はお前を守らなければならないのに、傷つけてしまった。本当にごめん……」
つぐみは口を開かない。
だが、つぐみの目には涙がこぼれていた。
「つぐみ?」
仲春はそれに気付いた。
「ごめん…なさい……。私の方こそ、ごめんなさいだよ…ハル…ぅ…」
大粒の涙が頬をつたい、床に落ちる。
「なんでハルが怒って……なんでハルが私のことを叩いたのかちゃんとわかってる……
私には家族があるのに家族なんてないって言って……名前があるのに名前がないなんて言って……本当にごめんね……」
仲春は持っていた弁当箱を床に置いて、つぐみに近づく。
「痛かっただろう?」
仲春は昨日叩いてしまった箇所に手を置いた。
「大丈夫だよ……もう。気にしなくていいから……」
つぐみはその上に手を重ねる。
そして、つぐみは何かを口にしようと口を開く。
でも、すぐに口を閉じた。
(なんで、言えないのかな……。今なら、素直になれると思ったのに……)
「ほら、ハル!お弁当持ってきてくれたんでしょ?」
「あ、あぁ」
床に置いていた弁当箱を手に取り、つぐみに手渡す。
「それじゃ、食堂に行こ」
「そうだな」
二人は並んで食堂に向かっていった。
後姿だけでも、二人の仲の良さは伝わってくる。
仲直りした、それは見ただけですぐにわかるものだった。
「一足遅かった……」
二人が屋上から戻ってくる姿を物陰から見ていた女生徒がいた。
彼女はそうつぶやいた後、身を翻し、教室へ戻っていった。




