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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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生まれ変わった世界

春。


それは出会いの季節。

そして、運命が変わる季節でもあると私は思う。


今日は高校の入学式。


入学式も終わり、各教室でホームルームが行われている。


そこに佐保姫仲春と笹鳴つぐみが、そして小春かすみがいた。


かすみは夢を叶えていた。

今や、彼らの担任だ。

さすがの私もこれは予想していなかった。


「私は小春かすみと言います。担当科目は化学です。

 わからないことがあったらいつでも訊きにきていいですよ」


かすみの笑顔。

私は久しく見ていなかった。


「それじゃ、次はみんなの自己紹介ですよ」


生徒たちの自己紹介が始まる。

仲春の前の席がつぐみだ。


やがて自己紹介がつぐみのもとへ回ってくる。


「笹鳴つぐみです。趣味は料理です。よろしくお願いします」


その名前を聞いて仲春がなにか既視感、というより既聴感を感じた。


(つぐみってどこかで聞いたことあるな……どこだったか……?)


「佐保姫君!」

「は、はい!」

「次は佐保姫君の番よ」

「す、すみません!」


仲春はあわただしく立ち上がる。

その光景を見てクラスのみんながくすくすと笑っている。


つぐみもそうだった。


「佐保姫仲春です。よろしくお願いします」


仲春の自己紹介はそれだけだった。


それだけではあるがところどころから「佐保姫君ってかっこいいね」という女子の声が聞こえた。

仲春の耳に届いていた。だが、なにも反応を示さない。


そして、その声はつぐみにも届いていた。

それを聞いて、つぐみは不満そうな顔をしていた。

いや、嫉妬だ。


(あれ?なんで嫉妬してるんだろう……?)


やがて自己紹介が終わり、連絡事項も伝え終りホームルームが終わった。

新入生たちはこれで下校だ。


「ねぇねぇ、なんかボサァっとしてたけど何考えてたの?」


つぐみが仲春に尋ねた。


「え?あ、あぁ……なんか、君の名前をどこかで聞いたような気がしたんだよ」

「なにそれ、新しいナンパ?」

「いや、それはないから安心してくれ」

「それはそれで女の魅力がないみたいに感じるから悔しいわ」

「いや、十分魅力的だぞ。趣味料理なんだって?それだけでも魅力的だと思うぞ」

「え?あ、そ、そう?」


つぐみの頬は薄く赤く染まっていた。


「って、変なこと言わないでよ!」

「変なことは言ってないだろ」

「むーーー……。わ、私もう帰るから。また明日ね、佐保ひみゃ……」

「……」

「……言いにくいから、仲春君でいい?」

「別に構わないぞ」

「それじゃ、また明日ね仲春君」

「また明日な、笹鳴」


こうして、二人は出会った。





二人の交友は12月までなんの変化もなかった。

ただの仲のいい女友達、男友達だった。

でも、心の中ではお互いがお互いのことを好きになっていた。


そんな気持ちを隠しながら12月までやってきた。


でも、この日から関係が変わってくるようになる。


案外早かった。


こんなにも早くに訪れるとは思わなかった。


それほど、二人の愛は大きかったのか。



12月7日。


授業がすべて終わり放課後。


仲春は空き教室に冬菜といた。

彼女に呼び出されたのだ。


「私、佐保姫君のことが好きです。付き合ってください」

「……ごめん。俺、柊さんとは付き合えない」

「……ははは、やっぱりダメだった」


彼女は笑っていた。

無理な笑顔。

本当は泣きたいのだろう。

でも、我慢していた。


彼に悪いことをしたと思わせたくないのだろう。


「時間とらせてごめんね」

「あ……」


冬菜は走って教室のドアへ向かった。

だが、そのまま出ていこうとはせずに何かを思い出したのかその場で立ち止った。


「ヒメちゃんのことが好きなんだよね?がんばってね!」


柊冬菜の精いっぱいの笑顔。

だが、それは仲春にとっては心苦しいものだった。


「ごめん。そして、ありがとう柊さん」




その頃、つぐみはなずなのところにいた。

仲春とつぐみは生徒会の一員として仕事をしている。


「つぐみちゃん、どうしたの?」

「……仲春君が告白されてたんです」

「そうか……でも、絶対断ってるよ仲春君のことなら」

「でも、相手はとってもかわいいんですよ。それはもう小動物みたいなかわいさで……

 私、そうは思えません」

「私は、そんな理由で付き合うとは思えないね。ただかわいい、それだけであの子は付き合うと思うかい?」

「それは……」


そんな時に、仲春と南風が生徒会室にはいってきた。


「やっときたね、仲春君。遅かったよ」

「すみません、いろいろあって」

「そう……ところで、そちらは?」

「俺の親友です」

「三伏南風です。今日は相談に乗ってもらいたくて」

「あぁ、そういうこと。隣の部屋に行こうか」


なずなと南風がこの生徒会室からいなくなる。


仲春はテーブルを挟み、つぐみの正面に座る。

そして、仕事に取り掛かる。


だが、会話が生まれない。


こんなことは初めてだった。


「ねぇ、仲春君……」


そんな沈黙をつぐみが破った。


「今日は遅れたけどなにがあったの……?」

「あ……いや、それは……」


仲春は答えられなかった。

自分が告白されたと知られたくなかったからだ。


でも、それは無意味だった。


「柊さんとはどうなったの……?」

「な、なにを言って……?」

「とぼけるの……?なんで……?なんで、私に知られたくないの?私、見てたのに!」


つぐみが勢いよく部屋から出ていく。


「笹鳴!」


仲春もあとを追って飛び出していく。





彼女のあとを追いかけてたどり着いた先はこの学校の屋上。


「屋上の扉って開いてたのか……」


そう言い、扉をあけ屋上へ足を踏み出す。


そこには夕日に照らされるつぐみがいた。


「笹鳴」

「なによ……」

「お前こそ、なんでそんなに怒るんだよ」

「私こそ、わからないわよ!!でも……仲春君に隠し事されるのがいやなのかもしれない……」


仲春はつぐみに近寄る。


「ごめん、笹鳴。正直に言うよ。俺は柊さんに告白された」

「やっぱり……」

「でも、断った」

「なんで……冬菜、かわいい子なのに」

「俺はかわいい、かわいくないだけで付き合わないよ。それに、好きな人がもういるし……」


仲春はつぐみから目をそらした。


「そう……なんだ……」


つぐみはそれが自分のことだと気づいていないようだ。


「ごめんね、仲春君。勝手に怒っちゃって……さぁ、仕事に戻ろう」


つぐみは仲春の横を通り屋上から去ろうとする。

でも、それを仲春が止めた。


「……待ってくれ、笹鳴」

「なに?」


仲春は深呼吸をする。


(今しかない。告白するチャンスは今しかない)


そして、決意する。


「俺は笹鳴のことが好きだ!」

「え……そ、それって……と、友達として……?」


つぐみは信じられなかった。

だから、友達としての好き、そう意味だろうと思った。

だが、それはつぐみの見当違い。


「違う。恋してるってほうの好きだ。お前が好きなんだ。一人の女の子として……」

「それ……ほんとう……?」

「あぁ、こんな時に嘘は言わない」

「……わ…わたしも、すきだよぉ……!」


つぐみは涙を流す。

長年の想いが叶った、そんな気持ちだった。


涙を流すつぐみのもとに仲春が歩み寄る。


そして、優しく抱きしめる。


「笹鳴……」

「つぐみって呼んで……」

「……つぐみ」

「ハル……」


仲春は笹鳴つぐみに初めて『ハル』と呼ばれた。

でも、なんだか心地よさを感じた。

そして、以前にもつぐみにそう呼ばれていたのを思った。


「つぐみ、好きだ」

「うん。私も、ハルが好きだよ」 

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