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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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神の座の後継者

「君の愛する人を返してやる……」

「え……?」

「日和……いいかい?」

「秋晴さんこそいいんですか?……お姉ちゃんに会えなくなるんですよ?」

「会えなくなる……いや、大丈夫だ。私はかすみの生きる姿を見たい。かすみの夢がかなった世界を見たい」

「わかりました……さぁ、どうぞ……」


日和は腕を広げる。

そして、秋晴は彼女の胸を貫いた。

ただ貫いたのではない。心臓を抜き取ったのだ。


腕を引き抜く。

地面に倒れそうになる日和を片腕で支える。


そして、右手でつかむ心臓を自分の胸へ持っていく。


すると日和の心臓が輝く。

それは月の光のようだった。


輝く心臓は秋晴の胸の中へスゥっと取り込まれていく。


「なにを……してるの……」


すでに体を解放されたつぐみは問いていた。


「神になろうとしてるんだ」

「神……?」


日和の体が月光とともに消えていく。


「太陽と月がひとつになるとき、神の力が降りてくるんだ」


そうである。

私もこうしてここにいる。


あぁ、そろそろこの役目も終わりか。


秋晴、君はどんな世界を創るのかい?

『司者』と『亡霊』のいる世界をまた創るのかい?


いや、そんな質問を問いかけるのは無意味だね。

神様は人間の心のうちだって読めるんだ。


―――そうか。


それは素晴らしい世界だ。

でも、少し意地悪をするんだね。


それもいいだろう。

仲春とつぐみは必ず出会うよ。


どんな世界になっても。


あぁ、もうこの世界を去らなければならないのか。


少しばかり名残惜しいよ。

でも、私もそろそろ会いたいんだ。


愛する人に。


君は天国で待っているのだろうか……。


私のことを覚えていてくれてるのだろうか。


世界は去れど、消え去らない想いは必ずある。


愛する娘よ。

恐がらせてごめん。


でも、お前は人間から生まれた人間だ。

安心していい。


ただ、その世界には私とあいつがいなかった。

だからお前は生まれなかった。


『つぐみ』、その名前しかお前の記憶に残せなかった。

神様ならなんでもできると思っていたんだがな。


仲春君、君につぐみのすべてを任せよう。

君になら任せられる。


私は君の想いは知っていた。

ずっとつぐみを愛してくれてたんだな。

ありがとう。


だから、絶対に出会え。

次の世界でつぐみと絶対に出会うんだ。


私は応援してるよ。


さて、そろそろ行こう。

さよなら、すばらしきこの世界。


「そうか、そういうことだったのか……」


私にすべての知識が入ってきた。


「君はちゃんとした人間だ」

「どういうこと!?」

「私には今この世界、いや、この世界まで神をしていたすべての人の記憶がある。

 そして、この世界まで神様をしていた人は君の父親だったんだ」


つぐみちゃんの目に涙が浮かぶ。


「ふっ……親公認の仲か」

「え?」

「なんでもない……」

「秋晴さん」


ふとかすみの声が聞こえた。

いや、かすみではない。

かすみは『秋晴さん』とは呼ばない。


「日和……なんでここに」

「まだ魂がここにあるんです。神になった秋晴さんはそれが見えているのです」

「そうか……」

「私、秋晴さんに伝えたいことがあります」

「なんだ……?」

「私、秋晴さんのことがずっと好きでした。

 初めてあなたに抱かれたあの世界からずっと」

「ひより……」

「お姉ちゃんを一途に愛するあなたがずっと好きでした」

「ごめん……ごめんひより……」


私は涙を零し、ただただ彼女に謝った。


「謝らないでください。でも、私を抱くときいつもお姉ちゃんの名前を言うのは謝ってほしいです。

 私のことを見てほしかったです」

「あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ごめん!ごめんよぉ、ひよりぃ!!」


日和は私の慟哭を黙ってみていた。


「でも、私もごめんなさいと言わなければなりません。お姉ちゃんだけの『ハルさん』を言ってしまって」

「そんな……ことは…ない」

「二股ですか?お姉ちゃんに言っちゃいますよ―――さて、私はそろそろ行かなければなりません」

「ひより……」

「もう一度言わせてください。秋晴さん、大好きです―――」


それが彼女の『私への』最後の言葉だった。

それは絶対に忘れない。


何十、何百年たっても忘れない。


「……」


私は涙を拭う。


「さて、始めよう。これから世界を創り直す」

「……」

「つぐみちゃん。これからの世界は君にちゃんと両親がいる世界だ。

 けれど、彼とは離れ離れから始まる。彼と出会えるかは君の想い次第だ。

 君たちの想いが本当ならまた会える、そう仕組むから」

「えぇ、大丈夫よ。私たちは絶対に会える。私とハルの愛の大きさをなめないで」

「言ってて恥ずかしくないのかい?」

「恥ずかしがってじゃ愛を語れないわよ」

「こんな子供に教えられるとは……さて、話はこれまでだ。始めるよ」


つぐみちゃんは黙ってうなずいた。


私は目を瞑る。

そして、次の世界を想像する。


地面が揺れるのを感じた。

大気が揺れるのを感じた。

宇宙が揺れるのを感じた。


そして、地面が砕けた。

そして、大気が砕けた。

そして、宇宙が砕けた。


そして、無となった。


そして、宇宙が生まれた。

そして、太陽が生まれた。

そして、惑星が生まれた。

そして、月が生まれた。

そして、生き物が生まれた。















一体、何十億年経ったのだろう。


私は、やっとこの日を迎えた。

 

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