届いた想い
秋晴に襲い掛かるも、日和の斥力により弾き飛ばされる。
だが、体制を建て直しすぐにもう一度秋晴へ向かう。
「日和、抑えろ」
「くっ!」
先日と同じ通り、体を二つの力で挟まれる。
「君はどうするつもりなんだい?僕と日和を殺して」
「私も死ぬ。ハルのいない世界に私はいたくない!それに……どうせあんたたちがまた世界を創り直すんでしょ!」
「残念ながらそれはできない。見ただろ?なずなちゃんが死ぬのを。『司者』が一人でも死ねばこの計画はダメになるんだ」
「……それならどうすればハルに会えるの……?」
「たった一つだけ方法がある。けれどもね、そんなことはしない。
だから私はね、もういっそのことこの世界を消してやろうと思うんだ。
ほんと、君たちはなんてことをしてくれたんだ……」
擬似太陽がつぐみに放たれる。
つぐみは目を瞑る。
だが、なにも起きなかった。
それを不思議に思うつぐみ。
ゆっくりと目を開ける。
目には驚く秋晴がいた。
「消えた……?」
秋晴と日和は見ていた。
擬似太陽が彼女の体に触れそうになったときにかき消されたのを。
「なんでだ……いや、きみは一体なんなんだ!!あの少年に君に関する記憶を消した時もそうだ!
なんで消えなかった。あれは、想いが強いからとだけでは証明できない!なずなちゃんも君のことを覚えていたからな!!」
「私は……なんなの……?」
突如として不安に陥るつぐみ。
それはつぐみが一番恐れるもの。
つぐみは自分がなにものなのか、それは一番の恐怖だった。
わからないのだ。
記憶がない。
本当の両親の記憶すらない。
自分は本当に人間から生まれたのか。
そんな恐怖を感じていた。
「私ずっと怖かったの……ハルに出会うより前の記憶がひとつもないから、私は本当に人間なのかどうかも自身がなかった。
でも、ハルといるときはそんなこと忘れられたの……
こんな私をハルは愛してくれた……なのに…なのに、あんたはハルを奪った!
私のもとからハルを奪ったんだ!!絶対に許さない!!」
「……」
そんなつぐみの姿が一瞬、自分の姿と重なって見えた。
彼も愛する人を失った。
彼女に同情してしまいかけた。
「あんたがやったことは、あなたがされたことと同じなんだ!それをわかってるの!」
「ッ!」
言われてしまった。
一番言われてはいけないこと。
言われたら一番心に突き刺さる言葉だった。
「違う!」
否定した。
でも、事実なのには変わりなかった。
「あいつはなんの理由もなくかすみを殺したんだ!でも、俺は違う!
俺は愛する人を助けるために殺したんだ!」
「ハルは関係ないじゃない!ハルは『亡霊』じゃない、ただの人間なのよ!なんで殺す必要があるのッ!?
ただの、あんたの嫉妬なんじゃないの!?ふざけないでよッ!!」
「……」
反論できなかった。
まさにその通りだった。
秋晴は必死で自分を正当化したつもりだった。
そうだ、『つもり』だった。
実際には正当化していない。
それどころか、墓穴を掘るに近いかたちで返り討ちにあった。
「返してよ…返してよォッ!!私のお兄ちゃんを返してよォッ!!私の大好きな人を返してよォォォォォォォォォォォッ‼‼‼‼」
その叫びは、吹雪の中でも響くものだった。
それは心の叫び。
死力を尽くしての叫び。
つぐみの今の、すべての想い。
その想い、それは秋晴に、
「……わかった」
届いた。




