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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
20/29

楽しい時間

翌朝。


仲春は寒さを覚えて目が覚めた。


「さむ……」


ゆっくりと起き上がる。


「こりゃ、寒いわ」


仲春は寝間着を一切着ていなかった。


「さむい」


そう言いながらベッドを降りて、床に散らかってる自分の寝間着を手に取った。

たまに、つぐみの下着を手にしたが床に置いて自分のものを取り、着替えた。


仲春は時計を見る。


デジタル時計が6:30を示していた。


「なんで、こんな早くに起きたんだよ」


そう言って、つぐみを見る。

仲春に背を向けて寝ており、長い髪がベッドに垂れていた。


「まだ、寝かせておくか」


静かに部屋を出て、一階に降りる。


台所で急須に茶葉をいれ電気ポッドでお湯を注いだ。

そして、湯飲みに注ぎ、口に含もうとした。


そこで電話がなった。


湯飲みをテーブルに置き、受話器を取る。


「もしもし」


仲春は相槌を打ちながら話に応える。


「わかりました」


そう言って、受話器を下す。


「そりゃ、学校休みになるわな」


昨日、あれだけ後者を壊していれば休校になるのも仕方ない。


「次にまわさないと」


再び受話器を取り、次の人へ連絡をまわす。

何事もなく、休校の旨を伝え受話器を下す。


「さぁ、飲も」


冷えた体を温めるためにお茶を飲もうとした。

その時に、リビングの扉が開いた。


「ハル~……さっきの、電話なに~……?」


寝ぼけてる様子のつぐみが降りてきた。

一糸まとわぬ姿で。


「……おい、つぐみ。服を着てこい」


そう言って、お茶をズズズと音を立てて飲んだ。


「ふく……?」


自分の姿を見る。

そこで気がつき、顔が真っ赤になる。


「何見てるのよ!」

「別に気にすることないだろ?昨日―――」

「あの時はあの時!今は今!―――ハルのいじわる!」


そう言い残し、勢いよくリビングから出ていった。


「つぐみをいじるの、楽しいな」


告白してから、少し人が変わった仲春だった。





「で、一体なんだったの?」


床に散らかっていた寝間着を着てきたつぐみはまだ少し顔が赤かった。


「今日は、学校休みだって」

「え?どうして?」

「そっか、知らないんだったな」


仲春は昨日の出来事を話した。


「そんなことがあったの」

「そのあとお前を助けに行って、ほんと昨日の夜は疲れたよ。だから、二度寝するわ」

「わかったわ」

「それじゃ、つぐみ。一緒に寝るか」

「なんで、そうなるのよ!」

「いいじゃないか」

「ハル、変わったね。なんか甘えてくるし、意地悪してくるし」

「……」


仲春は黙った。


「どうしたの?」

「だって、あいつらとの闘いに負けたらお前といられなくなるんだぞ……

 だから、今のうちにお前といっぱいいろんなことをして楽しみたいんだ」

「……なんでそんな弱気なの?」

「あいつら強いから。月と太陽の『司者』なんて勝てると思うか?月の『司者』は引力と斥力を使えるし、

 太陽の『司者』は擬似的な太陽を作ってもおかしくないとおもうんだ」

「勝てる気しないのに、なずなさんを巻き込んだの?」

「俺たちだけじゃ不安だったから」

「ハルのばか」


つぐみが暴言を吐いた。


「なんでそんな弱気になるのかな。絶対に倒してやるという気持ちはないの?」

「……」

「ハル、こっち向いて」


仲春がつぐみに顔を向ける。

そして、両手で彼の顔を挟んだ。


「私を守ってくれるんでしょう?私とずっとにいたいんでしょう?」

「あぁ」


即答だった。


「そのためには絶対にあいつらを倒すの。わかった?」

「……」


即答できなかった。


「……あぁ」


だが、しっかりと答えた。


その答えに満足したのか、つぐみはにっこりと笑った。


「ま、そこも即答してほしかったけど、合格」


そして、顔を引き寄せ軽く口づけをした。


「!?」

「仕方ないから、二度寝に付き合ってあげるわ。今度はハルの部屋で寝させてもらうわよ」

「あ、あぁ」


その後、二人は仲春のベッドで二度寝した。




二度寝は9時過ぎに終わった。


今度はつぐみが先に起きた。


そして、仲春の顔を見る。


「そういや、傷だらけだったわね。あとで手当てしとかないと」


(思い出すと、結構恥ずかしいわね……)


ふと、昨夜のことを思い出していた。

仲春に抱かれていた時のことを。


(~~~~~~~~~!!)


さらに思い出し、さらに恥ずかしがる。

あまりの恥ずかしさにベッド叩く。

いや、彼女はそのつもりだった。

実際は仲春の体をたたいていた。


「痛い痛い!!なんだ、つぐみ!」

「あ、ごめん…」

「たく……いきなりなんだよ」

「いや、ちょっと恥ずかしくて」

「なにが?」

「殴るわよ」

「理不尽だ」


完全に目が覚めた二人はリビングに降りた。


「今日、どうする?」

「学校休みになったから暇だもんな……」


少し考える。

行きついた先は、「楽しいことをしたい」。


今のうちに楽しいことをしたい、だった。


「デートしよう」

「え、デート?」

「今まで、二人ででかけたりしたことはあったけど。それは兄妹という関係で出かけてただけだろ?

 でも今は違う。こ、恋人同士なった今、その特別な関係でお前と一緒に過ごしたいなって……」


それは口実だった。

本当の仲春の気持ちは、怖いからである。

先ほど、秋晴たちを絶対に倒すとう決意をした。

けれども、やはり怖かったのだ。


あの二人に勝てるのか。

それが不安でままならなかったのだ。


だから、今のうちに妹であり、恋人であるつぐみと楽しい日常を過ごしたかったのだ。


「うん。デートしよう」





二人は遊園地に来ていた。


平日ということもあり、人は少なかった。


「すいてるから、たくさん回れそうだな」

「そうだね」

「よし。それじゃ、お化け屋敷にでも行くか」

「え……」


仲春がそう言った瞬間、つぐみの顔が青くなった。


「ほ、ほんとに行くの?」

「あぁ、もちろん」


仲春はニヤニヤしていた。

つぐみはお化け屋敷が苦手なのだ。


「わ、私がお化け苦手なの知ってるでしょ?」

「もちろん。だからこそ行くんじゃないか」

「えぇー……」


つぐみは仲春に手をつかまれ、半ば連れていかれるようにお化け屋敷へ向かった。


「うううっ……」


つぐみは仲春の腕にしがみついていた。


「いつもの強気な態度はどうした?」

「あ、あれは…ハルのことが好きだという気持ちを隠してたからであって―――キャっ!ううっ……」


一定の間隔でやってくる特殊メイクしたスタッフに怯えるつぐみを見て仲春はほほえましい気持ちになった。


(あぁ、今、とっても幸せだ)




そして、20分と少しが経ち建物から出てきた二人。


「もう二度とお化け屋敷なんて入らない!」

「そうかそうか。それじゃ、また来ような」

「話聞いてたの!?あ、待ちなさいよ!」


先を歩く仲春に追いかけながら言った。

そして、つぐみは手を繋いだ。

それはとても自然に。




その後の二人は空が茜色に染まるまで遊びつくした。


「さて、そろそろ帰ろうか」

「待って。やっぱり最後には観覧車に行きたいなぁ、なんて」

「あぁ、そうだったな」


手を繋いでいる二人は、最後に観覧車に乗り込んだ。


「ほんと、楽しかったね」

「あぁ」


二人は並んで座り、外の景色を見ている。


「絶対に倒して、またこの景色を見ようね」

「あぁ」

「また、遊びに来よう……」

「あぁ、そのときはお化け屋敷にもな……」

「……うん。だから、絶対に……」


手を強く握り合う。

そして、向かい合った。


目を閉じ、顔を近づける。


そして、二人が乗るワゴンがてっぺんに来たとき、二人の唇は優しく触れ合った。


オレンジ色の光が彼らを包む。

太陽が彼らを包んでくれている。


だが、彼らはその太陽を司る者を倒さなければならない。


彼らは出来るのだろうか。





それは神のみぞ知る。


と言いたいところだが、それは私でもわからない。



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