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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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隠された『司者』


「めんどくせぇ。完全に憑依しやがったな」


男は頭を掻く。


その瞬間に、仲春は先ほど男がやったように掌に火の玉を浮かべ、投げ放った。


「俺の技が俺にくらうとでも思ってんのか?」


男はその火の玉から十分の距離横に跳び、爆発から逃れようとした。

だが、その火の玉は爆発することなく萎んで消えた。


「!?」


仲春は男との距離を詰めた。

そして、腕をつかんだ。


「?」


その行為に男は疑問を感じた。

その瞬間、火柱が立った。

男は火に包まれる。


「ぐあああああああああああああ!!」


男は火を操るといえどもそれは完全に操っているわけではない。

力を完全に取り戻せなければ火を本当の意味で操ることは出来ない。

つまり、自分の身を包む火を消すことは出来ない。


男は地面の上で転がり続ける。

それと同時に、異臭がする。

人が焼けるにおい。


仲春は目を背けた。


そして、何か液体が地面に大量に落ちる音を聞いた。

目を開く。

火は消えていた。


「なにしてるんですか……」


男を挟んで仲春の向こう側にいたのは水の『司者』だった。


「完全憑依した相手に油断したらいけませんよ」


水の『司者』は男を抱える。


「気絶してますね。さて、あなたは私をここで倒しますか?」

「いや、やめておく。相性わるいみたいだし」

「そうですね。そうしたほうがいいですよ」


水の『司者』は男を抱えたまま、民家の屋根の上を飛び渡って闇に消えていった。


「さて、帰ろうか」

「あぁ」


南風は憑依状態を解いた。


「ありがとな、仲春」

「気にすんな」

「……お前が俺の友達で本当によかった」

「いきなりなんだよ」

「いや、お前と殴り合いをしたかいがあったなって」


南風はそう言って、一人で先に帰っていった。


仲春と南風は中学生の頃に殴り合いのけんかをした。

その時に、南風は更生し仲春の友人となった。


「俺も帰ろう。てか、学校どうしよ」


そんな心配を思いつつも家に帰っていった。





「つぐみ寝たのか?」


家の前からふとつぐみの部屋を見る。

電気はついておらず、カーテンが閉まっていた。


家の中に入る。


リビングの電気はついたままだった。


二階に上がり、つぐみの部屋に向かう。


ドアをノックする。


「つぐみ、寝てるのかー?」


返事はなかった。


少し待ってみるも返事が来る気配はなかった。

ドアノブに手をかけ、回す。

鍵がかかっていなかった。


「いや、いつもかかってないしな……」


ドアを開け、中に入る。


「つぐみー、電気つけるぞー」


壁にあるスイッチを押し、電気をつけた。


「……」


どこにも、彼女の姿が見当たらなかった。


「おい、つぐみ!」


仲春は家中を探し回る。だが、見当たらなかった。

どこにもいなかった。


「どこだ……」


仲春は携帯でつぐみに電話をかける。

長い。

呼び出し音がいつまでも続く。

諦めて切ろうとしたときだった。


「おい、つぐみ今どこにいるんだ?」


通話がつながった。


つぐみの声が聞こえてくると思っていた。

だが、それは違った。


「君は、この子の家族かい?」

「!?―――だれだ!」


知らない男の声だった。

声からして、おそらく30代前半だと思われる。


「太陽の『司者』だよ」

「太陽の『司者』……だと?」


『司者』と男は言った。

だが、一つ理解できないことがあった。


それは「太陽」という単語。


「あぁ、そうか記憶を操作したままだったね。日和、もういい。もとに戻せ」


電話の向こうで誰かに話していた。


「まず、君は『亡霊』かい?」

「普通の人間だ」

「そうかい……」

「記憶を操作ってどういうことだ?」

「月の『司者』はね、月の光で人の記憶を書き換えられるんだよ。

 だから、君がこの世界のすべてを聞いたとき、太陽と月の話は聞かなかっただろう?

 すでに書き換えていたからね。太陽と月に関する情報は抹消しておいたのさ」

「なぜ……」

「私にはほかにやることがあったから。それが終わるまで邪魔してほしくなかったからだよ」

「もう終わったのか……?」

「できなかった……まぁ、このことはもういい。さて、君はこの子とどういう関係だい?」

「……大切な人だ」

「……」


男が黙った。


「君の言うことが本当なのか試させてもらうよ。―――あとで場所をメールで送るよ」


そう言って、男は通話を切った。


そして、一分待ったあとにメールが来た。


「待ってろ、つぐみ」


仲春はその住所にすぐさま向かった。

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