盗み聞き
翌日。
授業が終わり、放課後。
つぐみがいつものように仲春の教室にやってきた。
「ハルー、帰ろう―――なにしてたの?」
つぐみが教室に入って来た時、仲春は不審な動きをしていた。
机の中になにかを隠すような。
「いや、なんでもないぞ!」
「なにか隠してたでしょ?」
「き、気にしなくていいから」
仲春は慌てて立ち上がり、つぐみの背中を押して教室の外に追いだす。
「俺、これから少し用事があるから先に帰ってていいから」
「なんの用事?」
「い、いいから!」
仲春はそのままどこかへ向かって走っていった。
「いったい、なんなのよ……」
「よぉ、つぐみちゃん」
「あ、南風」
「あいつがどこ行ったか気になるか?」
「そりゃね」
南風は一枚の封筒を取り出した。
その封筒は、ピンク色の封筒で仲春がもつには似合わないものだった。
「それは?」
「まぁ、あいつのあとをついていけばわかるけど、どうする?」
「行くに決まってるじゃない」
「了解。兄の不審な行動は妹にとっては気になるもんなー」
南風は後ろでなにやら言ってるつぐみを置いて先に歩き出した。
つぐみは南風のあとをついていった。
そして、たどり着いたのは屋上の入口に通じる階段。
「この上にいるみたいだ」
「なんでこんなところに……」
つぐみが一人で階段を上る。
階段を数段上ったところで声が聞こえてきた。
「私、仲春くんのことが好きです。付き合ってください」
「!?」
その声に聞き覚えがあった。
「え……冬菜……?」
その声は、つぐみの友達の柊冬菜のものであった。
つぐみはそれ以上、階段を上れなかった。
その場で話の続きを聞くことになった。
「……ごめん」
次に聞こえてきたのは仲春の声だった。
「俺、君と付き合えない……」
その言葉につぐみは安堵した。
(なんで、安心してるんだろ。友達が失恋してるっていうのに……)
その理由は分かり切っていた。
(私は、ハルのことが好きだから……だから、安心してる)
「やっぱり、ヒメちゃんのことが好きなんですか……?」
「それは……」
つぐみはその次の言葉を待っていた。
もしここで「好き」と言ったら、もしここで「好きじゃない」と言ったら―――。
つぐみは考えた。
次の言葉が出るまで刹那のはずなのに、長く考えられた。
(もし「好き」だと言ったらどうするの私は?告白するの?そんなのいや。
答えがわかってる告白は嫌。じゃあ、もし「好きじゃない」って言ったらどうするの私は?
もうこんな世界いらなくなるかも……。でも、ハルはただの妹として見てないかもしれない。
怖いよ……)
つぐみの足は自然と踵を返していた。
「つぐみちゃん?」
「教室に戻るわ。ここにいたくない」
「そうか、わかったよ」
二人は教室へ戻っていった。
今度はつぐみが先を歩いていた。




