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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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ただ一人の友人

三伏南風みなみ

彼は、佐保姫兄妹の大の友人である。

今の彼は友達思いのいい人間である。

だが、彼は兄妹以外の人間からは腫れ物に触れるような扱いを受けている。

その理由は、昔の彼は今の彼ではなかったこと。


中学時代の彼は、簡単に言えばぐれていた。

まさに反抗期を象徴するような少年だった。


彼の両親は離婚し、母親に引き取られた。

そんな急激な家庭環境の変化で、彼は人が変わった。


街の不良とつるみ、悪さをしていた。

補導されることもしばしば。


そんな、非行にはしる少年を救ったのが仲春だった。


今、彼は完全に足を洗いまともな人間として生活している。


それでは本題。


なぜ、彼が周囲の人間から距離を置かれているのかというと、彼の過去を学校中にばらまいた人間がいたからだ。

その人物は仲春たちが通う高校で有名な不良グループの一人だ。

その人物は、彼が更生してまともな人間になったことが気に食わなかったらしい。

そこで、偶然に手に入れた彼の過去をばらまいた。


その結果、三伏南風は一人になった。

いや正確には一人にはならなかった。

佐保姫兄妹がいたからだ。


そんな兄妹を、南風は好いている。


自分といてくれる彼らを大事にしようと、南風はそう思っている。





初空姉妹の一件から、一週間と少しが経ち、三学期が始まった。


「なずなさん、あれ以降どうですか?」

「仲良くやってるよ。一緒にでかけたりもしたし」

「仲直りしてないって言ったから少し心配だったんですが、そうでもないようですね」


仲春とつぐみとなずなの三人は廊下で話しをしていた。

あの一件のあとのことが気になっていたのだ。


「お、仲春」


そこに南風がやってきた。


「どうした、南風」

「この後、3人で遊ぼうと思ってきたんだが……生徒会長と仲良かったんだな」


南風はなずなを一瞥した。


「彼は…あれで有名な生徒か……」


もちろんなずなも南風の過去を知っていた。


「君が三伏南風君か」

「そ、そうですけど……」


南風は彼女との間に壁を作っていた。

仲春とつぐみ以外の人間には避けられ続けてきたため、このように話しかけられることはあまりなれてなかった。


「大丈夫。私はその程度のことで人を避けたりしないさ。ちゃんと、私は今を見てる」

「そう……ですか……」


南風はそんなに信用していなかった。


「俺、先に行ってるからな」


南風はそう言って、足早にこの場を去っていった。


「おい、南風!」

「―――二人とも、聞いてほしいことがある」

「なんですか?」


つぐみが尋ねる。


「三伏君のことなんだけど……彼、火の『亡霊』なんだ」

「は……?」

「え……?」


二人の声が重なった。


「以前、私は全校生徒を確認してみたんだ。その時『亡霊』だとわかったのがつぐみちゃんと

 三伏君だったんだ。まさか、君たちの友人だったとは」

「なんでこうなるんだよ……」

「君たちが守ってあげるんだ、彼を」

「それはわかってます。あいつの友達だから―――」






「ねぇ、ハル。南風本人に訊いてみる?」

「……どうしようか」


自宅。年末年始の休暇が終わり父親は再び仕事に戻ったため父親は不在。


翌日。二人はリビングで話していた。

昨日の南風の約束はきちんと守っていた。

3人で遊んだが、結局話を切り込めなかった。


「今あいつは襲われたら抵抗できない。だから、俺たちが助けるしかない―――訊いてみよう」


つぐみは黙ってうなずいた。


仲春はそれを確認して、携帯で彼に電話をかけた。


「もしもし」

『どうしたんだ、仲春』


南風はすぐに電話に出た。


「これから話したいことがあるんだけどちょっと会えないか?」

『話したいこと?今じゃダメなのか?』


今はもう陽も完全に落ち、外は月が出ていた。

さらには、今は冬であるため外にでるのは少しばかり苦しい。


「直接会って話した方がいいかなとは思うんだ」

『まぁ…そこまで言うのなら。―――どこに行けばいい?』


仲春はいつもの公園を指定した。

そして、通話を切る。


「さて、行こうか」

「うん」


仲春はソファから立つ。

隣に座っていたつぐみも立ち上がる。





仲春たちが指定の場所に着くと、既に南風がいた。


「つぐみちゃんもいるのか」

「まぁ、つぐみにも関係あることだし」


南風はそばにあったベンチに腰をかける。


「で、話したことって?」

「あぁ、単刀直入に言わせてもらう」


一息おいて、彼に問うた。


「お前、『亡霊』なのか?」

「!?」


彼の目は見開いていた。

それは当たり前のことだ。

南風は、彼らがこれに関わっているとは思っていなかった。

だから、そんな彼らから『亡霊』という単語がでることに驚愕した。


「なんで知ってるんだよ……」

「どっちの意味だ?」

「両方だ」

「俺は『亡霊』ではない。けれどもつぐみが『亡霊』だったんだ。それと、お前のことはなずなさんから聞いた」


仲春はなずなの名前を出すことに躊躇いはなかった。

ここに来る間に、彼女に許可を取っていたからだ。


「まず、つぐみちゃんはどうして黙ってたんだ?見ようと思えば見れて、話せれたただろう?」

「私に8歳以前の、ハルに出会う以前の記憶がないって話したでしょう?私は、自分が『亡霊』だということを先月知ったのよ」

「なぁ、南風。お前はいつでも俺たちがどっちなのか確認できただろう?なんでしなかったんだ?」

「恐かったんだ。もし、お前たちがこれに関わっていなかったらどうしようって思ったんだ。俺はお前ら以外に友達がいないから、ひとりになってしまうって……」

「ひとりになるわけないだろう」

「じゃあさ、もしお前たちがなにも知らなかったとして、俺がこのことを話したら信じてくれたか?」


そこで悩んだ。

彼らがこのことを受け入れたのは、実際に目の当たりにしたから。

だから思ったより素直に受け入れられた。


「実際に見せてくれたら信じた。俺たちは実際に目の当たりにしたから―――」

「そうか。ま、いいや。―――それで次だ。なぜ生徒会長の名前がでるんだ」

「……あの人は『司者』だからだ」

「……なんの、『司者』だ?」

「雪だから安心しろ」


南風はつぐみの胸に灯る炎を確認した。


「おい!つぐみちゃんは雪じゃねぇか!なんで一緒にいるんだよ!」

「あの人はもう『司者』の務めを止めたんだ。あの人の世界をやり直してでもやりたいことは、ついこの前やり終えたんだ」

「……その内容は?」

「姉と仲直りすること」

「……それだけの理由で、俺たちは巻き込まれたのか」

「それだけって言うけど、なかなか大変だったんだからな」

「まぁ、いいさ。もう襲ってこないんだろ?」

「あぁ」


そう言って、三人の間に沈黙が生まれた。


「でも、お前たちがこのことを知っていてくれて嬉しかった。気持ちが楽になった」

「そうか。それならよかった」

「それじゃ、そろそろ帰るな」

「あぁ、わざわざ悪かったな」

「別にいいさ」


南風と仲春は片手をあげて挨拶をかわし、お互い帰路に着いた。


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