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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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水の『亡霊』

その後、なにも進展はないまま三日が過ぎた。

この日は大晦日。


「ハル、ちょっと買ってきてほしいものがあるんだけど、いいかな?」

「あぁ、いいぞ」


仲春が二階の自分の部屋にコートを取りに行く。


「それなら、父さんが行ってくるぞ」

「お父さんは、掃除がまだ終わってないでしょ」

「あー、そうだな」


その後、コートを取ってきた仲春に買ってきてほしいものを伝えて、仲春は一人で家を出た。





「寒っ。早く行こ」


外は寒く、仲春は足早に目的地へ向かった。


いつもの公園を通る。


大晦日の夕方なので人通りは少ない。


そんな人の少ないところを一人で歩いているとき、道のわきの方からなにやら大きな音が聞こえる。


「なんだ……?」


音がする方へ顔を向ける。

今は夕暮れ。日が傾き暗くなりつつある時間。

そのせいか、向こうから走ってくる人影がだれだが一瞬で判別できなかった。


だが、それを判別できる距離になった。


「やまめさん!?」


そう、やまめがこちらに走ってくる。

ボロボロの姿で。


「お願い!助けてッ!」


やまめの表情は緊迫に満ちていた。

何が起こっているのわからないけれども彼女を助けようと、今度は思った。


その決意を感じたのかやまめの姿はその場から消えた。


「ありがとう、仲春君」

「一体なにがあったんですか?」

「『司者』が来たの。水の『司者』、私を殺しに来たみたい」


やまめが走ってきた方向から『司者』がやってくる。


「こっちに走ってきたはずなんだけど……」


物静かな男が姿を現した。


「このまま歩いて逃げていって」


それに無言で承諾し、自分の本来の目的地に向かおうとした。


「ちょっと、そこの君」


このまま逃げようかと思ったがそれは不自然すぎるので応えた。


「なんでしょうか?」

「ここで20代前半の女性を見なかったかい?」

「……いえ、見てませんよ」

「そうかい……」


仲春は今度こそこの場を去ろうとした。

だが、再び引き留められた。

言葉で、ではない物理的に引き留められた。


足に違和感がある。

足元を見てみる。

足首に水のリングが着いていた。


「!?」

「嘘はよくないよ、少年。こっちは尋ねているのに、それを嘘で応えるのはどうかと思うよ」

「嘘って、なんのことですか……?」

「注意深く見ればわかるんだよ。君の中に小さい青い炎がある。

 それは『亡霊』が憑依してる状態を表すのだよ」

「仲春君!!」


頭にやまめの声が響く。


それと同時に仲春は右手を振り払った。

振り払った軌跡から現れた水の刃が男の方へ向かっていく。


その隙に、掌から水の弾丸を放ち足枷を破壊する。


「闘い慣れてるの?」


目の前に男がいた。


「ぐぁっ!!」


腹部に一発、右こぶしを入れられた。


「仲春君!!」

(だいじょうぶです……)

「いや、そうでもないか……。中にいる人、出てきてくれないかな?この子ごと殺すよ」


うずくまる仲春を見下して言った。


その言葉にやまめは考えた。


(さすがに仲春君を死なせることはできないわ。つぐみちゃんがいるし……

 それにこのまま私が死ねば、あんな姉妹喧嘩から解き放たれる)

「何考えてるんですか、やまめさん……」

「え?」

「やまめさんにはやってもらうことがあるんですから死のうとしないでください」


そう言いながら立ち上がり、男を睨み付ける。


「答えはノーっていうわけかい?」

「そういうことですよ」


男は無言で拳を握る。

拳に水が纏わり、それが竜巻のようなものに象る。


そして、その拳で仲春の胸を貫こうとする。


今度は攻撃を目で捉えていたために安易にかわすことができた。


「はぁっ!!」


仲春が男の脇腹にけりを入れる。


「うぐっ……」


そして、仲春はそのまま足を振りぬく。

男はその勢いで道のわきへ吹っ飛ばされた。


「今のうちよ!」

「わかってる!」


今度こそ、逃げようとするがまた動きが封じられていた。


「くっ…またか……!」


両足首と両手首にまたもや水の枷が着けられていた。


「逃がさないよ。次こそ殺すよ」


手を鉄砲の形にし、人差し指の先に小さな水の球体が生まれる。


「こ、壊せない……」


自由がきかないために、枷を壊すことができない。


「これで27人目」


水の球体が弾丸となって放たれた。

それは通常の人間の目では捉えられない。

だが、今の仲春ではとらえられる。


プロ野球選手の投手が投げるボールぐらいの速度で見える。


(やば……)


目を閉じる。



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