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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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やまめの気持ち


そして、3日が経った。

あの一件以来、なずなとやまめの二人に会っていない。


「なぁ、つぐみ。やまめさんに会ってみないか?」

「え、いきなりどうしたのよ?」

「このまま放っておくのはいけないから、なにか行動を起こしたいなと思って」

「会えるの?」

「なずなさんの家に行ってみよう。今、年末だし帰ってきてるかもしれない」

「さすがに帰ってないんじゃないの?あんなことがあったんだし」

「もしいなかったらどこに住んでるか聞いてみよう」

「うん。それじゃ、そうしよ」


二人は父に「ちょっと出かけてくる」と言ってなずなの家へ向かった。

なずなの家はこの一週間のうちに訪れたことがあったため場所は知っていた。





案の定、やまめは不在だった。


「なずなさん、やまめさんの住所はわかりますか?」

「知っているけど……大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」

「そう……」


なずなは不安そうにしながらもやまめの住所を教えた。


「ありがとうございます」

「こちらこそありがと」


そして、仲春とつぐみはやまめのもとへ向かった。



やまめの住むマンションはいたって普通だった。

家賃もそれほど高くないところだと思える。


「押すぞ……」

「うん……」


やまめの部屋のインターフォンを押す。

部屋の中からチャイム音が微かに聞こえた。


「どちらさま―――」


少し経って、やまめが出てきた。

二人を見て驚いた顔を見せるもすぐに表情を戻した。


「やまめさん、少し話をしませんか?」

「あの子に使われてるの?」

「自分の意志です」

「そう……」


やまめは部屋の中を見て、二人に顔を戻す。


「少し待ってて。外で話をしましょう」


そう言って、やまめは部屋の中に戻った。



1分をすぎたぐらいにやまめが中から出てきた。

コートを着て、ぼさぼさの髪はそのままで出てきた。


「やまめさん、一体どうしたんですか……」


つぐみが尋ねる。


「いろんなことがめんどくさくなっただけよ」


そう言って、鍵を閉め二人の先を歩き始める。

二人はそれについていく。



3人がたどり着いたのは近くの公園。

そこは仲春とやまめが初めて出会った場所だった。


道のわきにあるベンチに、仲春を二人が挟んで座る。


「で、話は何?……って、あのことしかないか」


やまめは小さな溜息をついた。


「私、あの時はどうかしてたわ。いくらなんでも敵だからって、妹を殺そうとしたなんて」

「……本当になずなさんのことを憎んでいるんですか?」

「えぇ、それは本当よ」


彼女は即答した。


「でもね、さすがに死んで欲しいとか思ったことはないわ。ただ、私の近くにいないでほしい。ただそれだけよ」

「それなら、仲直りできないことはないでしょう?」

「無理。あんなことしちゃったから、もう無理ね。そもそも、仲直りをする気なんてないのよ。

 私はもう社会人だから、あの子に会うことなんてほとんどない。実家に帰らなければほぼないね」

「……俺たちにはわからないです。なんで仲直りをしたがらないのか」

「わからなくていいの。あなたたちは私たちみたいになっちゃいけない。それだけわかればいいの」


そう言って、やまめは立ち上がった。


「私、もう帰るわ」


来た道を戻っていく。

二人は彼女を引き留めなかった。


「……俺たちも帰ろう」

「うん……」


二人はやまめとは逆方向の道を歩いて自宅に戻っていった。

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