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去りぬ想い、去りぬ世界。  作者: 猫樹政也
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折れゆく決意

なんで……なんで、みんなあんたの味方になるんだろうね。わからないわ。いっそ今こここでおわらせようかしら……」


やまめはうつろな目でなずなを見る。

なずなはその目に恐怖を覚えた。


「俺はやまめさんの味方でもあります!!」


その場しのぎの一言だった。


「そう……なら、私の目の前でこの子を殺して」

「え……」


3人の声が重なった。


「私の味方ならこの子を殺してよ。私の敵なんだから……」


やまめはあまりの怒りに仲春の『やまめさんの味方』という言葉しか聞いていなかった。


「それは……できない……」

「やっぱりこの子の味方なのね……もういいや」


そう言って、やまめはなずなの首に手をかける。


「やめて」と声を出したかったが声が出なかった。

たとえ、金縛りをかけられてなくてもでなかったと思う。

それほど恐怖を感じたのだ。


「やまめさん!!」


二人が止めに入る。


「静かにして!!」


やまめは二人を視界にいれる。

その瞬間、二人は静止した。


どれだけ抵抗しても金縛りを振りほどけなかった。

それはなずなも同じだった。


金縛りは感情によって強度が変わる。

特に憎悪の感情は金縛りにとても貢献する。


「ふふ……ふふふっ……」


ニヒルな笑みを浮かべる。


そんな時、つぐみの体が消えた。

そして、仲春の髪型がつぐみのものと同じになる。


「やまめさん!!」


仲春はやまめをなずなから力ずくで引きはがした。


「なにすんのよ!!」


また金縛りにかけようとするがそれは無意味だった。

完全憑依は金縛りを凌駕する力であるのだ。


「もうやめてください……それはやってはいけないことです……」

「なによ……私は悪者なの?結局、正しいのはあの子なわけなの?―――もういい、私は帰るわ。

 次、目の前に現れたら容赦しないから」


まだ床に倒れているなずなを見下し、この場から去っていった。



彼女が家を出てからすぐになずなの金縛りは解けた。


「ゴホッ、ゴホッ……!」


先まで首を絞められてたため咳がこぼれた。


「大丈夫ですか、なずなさん!」

「う、うん……大丈夫…」


仲春の髪がもとに戻り、隣につぐみが現れた。

つぐみはすぐに台所へ向かいコップに水を入れて持ってきた。


「飲んでください」

「ありがとう…助かるよ……」


水を一気に飲み干す。


「私、あきらめていいかな……」

「……」


二人は「あきらめたらダメ」だと言いたかった。だが、それは言えなかった。

実の姉に殺されかけたのだ。

無責任なことなど言えなかった。


「帰らせてもらうよ……いろいろと迷惑をかけたみたいだし」

「迷惑だなんて、とんでもないです!」


つぐみがそう応えた。


「そう言ってくれるのはうれしい。でも、今は一人にしてくれないか?」


二人は無言だった。

だが、それは承諾の意。


それを読み取り、なずなはこの場を去っていった。


「私たち、どうすればいいのかな……」

「わからない。もしかしたら、もう俺たちは関わってはいけないのかもしれない……」

「そんな!?」

「言いたいことはことはわかる。でも、そうかもしれないだろ……」

「そう……だけど……」


それっきり会話は途切れた。




翌日。

二人の父親が帰ってきた。


「んー……」

「どうしたの?お父さん?」


父親がなにやら悩んでいるのに気づいたつぐみは尋ねた。


「いや、もし言いたくないのならいいんだけど……二人はケンカでもしたのか?」

「え?どうして?」

「なんか、二人とも雰囲気が悪いというか、なんというか……」

「ううん!別に喧嘩してるわけじゃないから。ただ、ちょっと悩み事があるだけだから……」

「そうか。相談できることなら相談しなさい。話にのってあげるから」

「うん……それじゃ、ちょっと待ってて。今からハルを呼んでくるから」


そう言って、つぐみはハルの部屋に向かった。


「ハル、入るわよー」


そう言って、部屋の中に入る。


「どうしたんだ、つぐみ」


机に向かっていた仲春は椅子に座ったまま体をつぐみの方へ向けた。


「今からお父さんに昨日のことを話そうかなって思って」

「すべては話せないけど、姉妹喧嘩ということにしとけば相談は出来ると思う」

「うん、そうね……」


仲春は立ち上がり、二人は父親のいるリビングへ降りていった。


「それで、悩みとはなんなんだ?」

「それのことなんだけど、自分たちのことで悩んでるんじゃなくて、学校の先輩が悩んでいることがあって、

 それを自分たちも一緒に悩んでいるというわけなんだよ」

「うーん……で、内容は?いや、聞いちゃまずいか」

「姉妹喧嘩だよ」

「そんなに悩むことなのか?」

「うん。その喧嘩は何年も続いててどうしても仲直りすることが難しいんだ」

「そういうことかー。相談にのってあげるとか言ったけど父さんじゃちょっと難しいかな……

 兄弟なんていなかったからそういうことはわからないんだよ……」

「話を聞いてくれただけでも十分さ。このことは自分たちでなんとかしないといけないし」

「そうか?」

「そうだよ」

「ふっ、仲春もつぐみも成長したな」


しみじみとした目をする。


「ありがとう、お父さん」


つぐみは二つの意味を込めて父親に感謝の言葉を言った。


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