88話
5月22日 誤字修正
中等部1年が終わり、冬休みになった。今年の学校対抗戦も例年同様、負けてしまった。今年はオーギュストが代表選手に選ばれていたので勝てると思ったんだがなぁ。圧倒的な数の前にはオーギュストでも敵わなかったようだ。
俺はこの3年で身長が伸び、130センチくらいだ。あまり大きくないので、もう少し伸びてほしいのだが、最近は成長が止まりつつあるのを感じる。完全な幼児体型である。このままではロリ婆になってしまうかもしれないのだが、よく考えてみれば、それもアリかもしれないなと思ってしまう自分がいる。
中等部への入学試験は意外と簡単だった。六教科のうち、半分の三教科で良い成績を出せばいいらしい。まぁ、この良い成績と言うのが曖昧で、担当教員の匙加減だ。ちなみに俺は武術、算術、言語、民族の四教科で良い成績を出した。魔道はもちろん魔法を禁止されており、合格基準が『魔法を3つ使用すること』なので落ちて当然だ。俺は魔法の使用を禁止されてるんだからな。そして、地理も落とした。川の名前とかわからないので仕方がない。俺は地理は初めから諦めてたんだ。試験の前日に徹夜とかしてないぞ?本当だよ?
そんなこんなで無事中等部入りを果たした俺は中等部での専攻科目を決めた。
中等部では『武術』『魔道』『座学』の3つの教科課程に分かれており、『武術』では気力を使った戦闘訓練を、『魔道』では魔力を使った戦闘訓練を、『座学』では政治や経済、他国語などの貴族として働くための知識を身に着けるらしい。もちろん俺は『武術』を専攻した。魔力は無いし、貴族になるつもりもない。選択肢は一つだった。
『武術』や『魔道』では武術や魔道の他に授業を3つ選択しなければならず、俺は言語、民族、生物を選択した。生物とはこの世界の生物の勉強であり、動物や植物だけでなく、魔獣の勉強もするということらしいので、ダンジョンに潜る際に役に立つと思い、選択したのだ。
ちなみに、俺の時間割はこうなっている。
1日 算術 武術
2日 言語 武術
3日 生物 武術
4日 武術 武術
5日 休み 休み
大学の講義みたいに、生徒が先生に合わせるような時間割の取り方だったな。まぁ、その方が効率がいいと言えばいいのだがな。
この3年間で寮の人も入れ替えがあった。一昨年、ルシアンボネ公爵でオーギュストの妹と言うフェリシー・ルシアンボネがこの寮に入ってきて、去年、クラエスが高等部を卒業し、カルナの町へ戻っていった。その代わりに今年、クリスの妹でジュヌヴィエーヴ・ベルナール、愛称ジュネが入ってきた。それにもう一人、商人の娘でルー・ボクサと言う女の子も入った。ルーに対してはフェリシーとエリザベートが突っ掛っていたが、まぁ、この二人は俺にも突っ掛って来たし、平民の宿命だな。ただ、俺と違い、ルーは学校ではうまくやっているようで何よりである。罪人の娘ってわけじゃないしな。すべての貴族が平民に冷たいわけじゃないんだろう。
クラエスがいなくなって、その後に入ってきたジュネとルーとの意思疎通は少し難しかったのだが、エデやクリス、エルザにシャル、それにエリザベートまでもが俺の表情や行動を経験から読み取り、意思の疎通を図ってくれた。俺があまり喋れないと言う事に薄々気づいているのだろう。まぁ、こんなに一緒に過ごしてるんだから、当たり前と言えば当たり前か。
さて、今は学校は休みだ。実は10歳の誕生日を昨日迎えており、晴れて冒険者登録ができるようになったのだ。なので今日は冒険者ギルドに来ている。ガス君やラインスちゃんも一緒だ。毎週のように町を一緒に歩いて、狩りをしに行っていたので俺たちはちょっとした有名人だ。それに傭兵たちとの決闘の件もある。いつしか、『傭兵を倒した幼女』として町民に知られるようになった。中には罪人の娘だと言う事を気にする人もいるのだが、それでも少なくない人たちが優しくしてくれる。まぁ、優しくしてくれるのは商人や水夫の様なあまり戦いに出ない平民が多いのだがな。
冒険者ギルドに入ると少しだけ混んでいた。
「おう、ここはガキの来るところじゃねぇぜ!」
「そうだ。そうだ。怪我しねぇ内にお家に帰んな!」
「ぎゃはは、ちげぇねぇ。」
「おい、ガキ!その盾は何だ?体に合ったものを選びな!それとも大きな盾で守られてないと怖いってか?」
「そうなら冒険者なんてやめとけって。怖い思いをいっぱいするぞ?」
粗暴そうな人たちだが、まぁ、こういう時は無視に限るな。別に声を掛けてくるだけで手を出そうって訳じゃないみたいだし。しかし、俺を知らないとは余所もんだな?
俺は受付の列に並び、順番を待つことにした。
「しかし、最近は冒険者が増えたな。しかもダンジョンにも行かずに昼間っから飲んでるやつが多いな。」
「なんだ。お前、知らないのか?近々戦争があるらしいってんで傭兵が集まってきてるらしいぜ?」
「へー、そうなのか。相手はやっぱり蛇人族の国か?」
「あぁ、また、戦争をおっぱじめる気らしい。何でも蛇人族の国の内部が騒がしいんだと。」
「へー、今回も死人がたくさん出そうだな。」
「あぁ、でも、仕掛けられる前に仕掛けるってのは大事だと思うぜ?」
「殺られる前に殺れってか?確かにそうだなぁ。」
「だろ?」
「でも、しないに越したことはねぇだろ。」
「ちげぇねぇ。」
へー、近々戦争が起こるのか。蛇人族の国って言えば確かこの国の南に隣接してる国だよな?俺の実家はこの国の西にあるし、きっと大丈夫だろう。南の領地を治めてる領主って誰だったけなぁ?名前が思い出せんが…、まぁいっか。
俺の順番が来た。俺は受付に顔を覗かせる。ちょっと高いので、ラインスちゃんに上げてもらう。ラインスちゃんも力持ちになったなぁ。体もそれなりに大きくなっているし、成長は順調だな。
「こんにちは。本日はどういったご用件ですか?」
今日ここに来たのは何も冒険者の登録をしに来ただけではない。この3年間、がんばって狩りをしたおかげで金貨1枚分を貯めることができたのだ。なので筆談用の白変石の板を買おうと思う。値段はどれくらいなのか知らないが、きっと買えるだろうな。金貨1枚よりも高かったら、学校の各教室にあるあの黒板は一体幾らするんだって話だ。
「はくへんせき、いた、ほしい。」
「白変石の板ですね。大きさの指定はございますか?」
「みせて。」
「畏まりました。少々お待ちください。」
待っているといくつか黒板を持って来てくれた。大きさは手のひらサイズから俺と同じくらいのものまである。
「今、ここにあるのはこれらの大きさの物だけですね。更に大きいのになりますと、依頼と言う形になってしまいますが…。」
(フルフル)
「そうですか。ではどちらになさいますか?」
俺は持ち運びに便利そうな、鞄に入る大きさのものを指差した。
「こちらでございますと、銀貨850枚になります。」
なんとか買えるな。大出費だが、必要な投資だ。俺は金貨一枚を取り出し、受付の人に渡した。
「こちらがお釣りになります。」
渡された袋に入っている銀貨の数を数えながら財布にしまっていく。ぴったり150枚だ。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています。」
(フルフル)
「失礼しました。他のご用件は何でしょうか。」
そう、俺は冒険者登録に来たのだ。さっそく黒板と魔力石を使い、それを伝える。
[ギルドの会員登録をしたいんだけど…。]
「……畏まりました。それではお名前と誕生日、ご希望の職業をここにご記入をお願いします。」
(コクッ)
言われた通り、羊皮紙に名前、誕生日、職業、タンクと書き込み、渡した。
「少々お待ちください。……はい、それではこの水晶に御手を触れていただければ登録完了となります。」
俺は言われた通りに水晶に手を触れる。魔力がないんだが大丈夫なんだろうか。一応、指輪を嵌めている手で触れたんだが…。
水晶は俺が触れると光、しばらくして光を失った。
「こちらが会員証となります。紛失されますと再発行は出来ませんので注意してください。」
(コクッ)
「それでは、ギルド会員の説明に移る前に、登録料の銀貨100枚をお支払いください。」
え?登録に金が要るの?聞いてないよ!っていうかそれなら紙書く前に言えよ!何?それって当たり前なの?周知の事実なの?まぁ、仕方ないから払うけどさ。
俺は銀貨100枚を払った。




