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85話

5月19日 誤字修正

 あれから1週間。今日は週の4日目、授業は民族と言語の授業だ。


 いつものように登校し、教室へといく。ここからが勝負だ。

 俺はこの一週間、新しく覚えたのだろう魔法の標的となっている。覚えたての魔法を誰かにぶつけたくてしょうがない連中には、俺という『罪人』兼『魔王』はいい的になるのだ。


 扉を開け、先ず一発。


「「「『フラッシュ』!」」」


 目くらましだ。至近距離での『フラッシュ』、しかも複数人で行われる。目がチカチカする。ただ、光属性はまだいい。実害がほとんどないからな。


「食らったか、『魔王』め!」

「帰れー!でなければ死刑だ!『魔王』なんか死んじまえばいいんだよ。」

「しかも『罪人』だ!生きてる価値なんかねぇんだよ!」

「『魔王』め!吹き飛べー!」

「「「『ウィンド』!」」」


 俺に向けて風が飛ばされる。帽子が飛んでいき、髪の毛はぼさぼさだ。これも大した実害はない。範囲が広すぎて俺以外の奴らにも被害が出てしまうことくらいが難点だ。


「おい、『魔王』!帽子が飛んだぞ!取ってこいよ!」

「そうだそうだ!お前のせいで飛んだんだよ!」

「『魔王』ならこれくらい止めて見せろよ!」


 無茶言うなよ。俺は魔法使用禁止だぞ?まぁ使用禁止になっていなくても無理なんだがな。魔法使えないし。



 俺は席に着き、次の攻撃に備える。…来た!俺は魔力が集まってくるのを見て直ぐにその場から離れる。これは危険なのだ。


「「『ウォーターボール』!」」


机の上に水の球が発生し、落ちてきた。これは俺の『魔視』を持ってすれば準備が遅すぎるし、弾速だって遅いので余裕で避けられるのだが、『魔視』持ちだということを気づかれるわけにはいかないので、この身一つで逃げる。自然に、偶然席を立ったように見えるように。おかげで机や帽子、荷物はびしょ濡れだ。


「避けるなよ、『魔王』!」

「クソ、運がいいな、お前!」

「『精霊に愛されなかった者』のくせに生意気だぞ!」


 今はまだ、発動までに時間があるし、余裕で避けられるが、魔力操作の熟練度がまし、発動までの時間が短くなった場合、非常に困る。教師も、魔法の危険性をちゃんと教えたか?人に当てるな、って教えられなかったのか?まぁ、やるなと言われたらやりたくなってくるのは子供の特徴だな。

 とりあえず廊下を出て、適当に時間を潰してから教室に戻る。まるで用事を済ませてきたかのように戻る。

 

 クソッ、失敗した。教室の外には出るべきじゃなかったな。荷物の中身がばら撒かれている。即ち、弁当だ!エルザが作ってくれた弁当がグチャグチャだ。これは許せないな。食べ物を粗末にするとは…。食べ物の大切さ、即ち、命の大切さというものを教えてやらねばならん様だ。


「…これ、やったの、だれ?」

「なんだよ、『魔王』。そんなの誰だっていいだろ?」

「そうだ。『魔王』の食べ物なんて必要ないだろ!」

「食べられる方だってかわいそうだぞ。」

「だから『魔王』に食われないようにしてやったんだ!」


そうか、やったのはお前か。


「…………。」

「な、なんだよ?やるのか?こっちは5人いるんだぞ?」

「ヘっ!こいつ一人なら俺たちでどうとでもなるさ。」

「そうだな!ここで『魔王』を倒して、『勇者』になろうぜ!」

「食らえ!『フラッシュ』!」


俺は『フラッシュ』が発動する瞬間、瞬きをしてこれを防ぐ。魔力が見えていれば造作もないことだ。


「な、なんで効かないんだよ!この、『化け物』め!」

「ク、クソッ『ウィンド』!」

「「「『ウォーターボール』!」」」


 一人だけの『ウィンド』なんて、ただの向かい風だ。しかも焦っていたためか魔力量が少なく、これじゃあ、唯のそよ風だ。全く問題ない。

 俺は走って、『ウォーターボール』を避け、主犯格と思われる男子に足払いをして床に転がす。突然の動きに対応しきれなかったそいつはきれいに転んだ。


「うっ。」


 俺はそのまま腕をつかんで、引っ張り、弁当のところまで引きずっていく。ジタバタしているが問答無用だ。


「お、おい。離せよ!何するんだ!」


 他の連中は呆気にとられてるな。


 俺は主犯格の男の後頭部をつかみ、散らかった弁当へと押さえつける。


「…たべろ。」


 俺は足をソイツの頭に乗せ、そう命令した。


「床に落ちた物なんか食えるか!」


 俺は無言でぐりぐりと頭を擦り付ける。


「お、おい、やめろよ!」

「そ、そうだ。やめろよ!」

「お前が悪いんだろ!お前が『魔王』だから!」

「サミュエルが何したってんだよ!」


 そうか、此奴はサミュエルっていうのか。まぁ、どうでもいいな。しかし、何をしたかって?弁当を、食べ物を粗末にしたんだ。他に何か理由が必要か?食べられず、捨てられる命は少ないほうがいいに決まってるだろ。だから、これをやったやつが食べるんだ。自分でやったんだから食べられるだろう?


 俺が睨むと連中は黙ってしまった。そんなに怖かったか?ビビんなって。男の子だろう?勇気を出して『勇者』になれよ。仲間を救ってこその『勇者』だと思うが?


「う、うぅ…。や、やめろよ…。俺が、悪かった、って…。」


 泣いたところで許すつもりはないぞ?というか何が悪かったのか本当にわかってるのか?わかってるなら早く命令に従ってくれよな。先生が来ちまう。


「…たべろ。」

「うぅぅ…。わ、かった。く、食えばいいんだろ…。」


 わかればいいんだ。わかれば。サミュエルは頭をもぞもぞと動かし弁当を食べ始めた。


ゴーーーン



 鐘の音だな。授業が始まるみたいだ。食うのが遅いんだよ、全く。


「レーヌが怒るなんて珍しいのね。先生も来ちゃうし、私も手伝うから、もう終わりにしましょ?」

(コクッ)

「イネス、レーヌを手伝って差し上げなさい。こんな汚れた床で授業なんて御免ですわ。」

「畏まりました。」

「サミュエルも顔を洗ってきたら?グチャグチャよ?」


 はぁ、こんなことに5言を使ってしまった。今日はもう喋れないのか。



 前半の授業が終わり、今、俺はびしょ濡れ状態だ。先生が出ていくと同時に水を掛けられたのだ。魔力が集まってきていたのは知っていたが、動くに動けない状態だった。水で本当によかった。『魔視』持ちだとばれるわけにはいかないので避ける時も自然に動いて、偶然を装わなければいけないのだ。先生が教室から出てないのに立ち上がるわけにはいかない。生徒は先生が何も言わなければ、先生が出ていくまで立ち上がらないのが普通なのだ。面倒な習慣だ。

 魔力量が増えてきたな。昨日までは一日一回だったのに、今日は二回目が来た。それとも俺の敵対勢力が増えたのか?まぁ、今日は晴れてるし、服を乾かしがてら、いつもの場所に行くか。



 いつもの芝生に付き、俺は太陽光を目一杯浴びる。早く乾くようにと願いながら。寒くはないが、気持ち悪いのだ。


「レーヌ、私の弁当を分けて差し上げてもよろしくてよ?」

(………。)

「ど、どうしまして?私、何か変なこと言いました?」

(………。)


こいつがこんなことを言うなんて…。今日は雪でも降ってくるのだろうか。そうしたら困るな。服が凍りそうだ…。


「何か反応しなさいな!弁当を食べますの?」

(コクッ)

「そうやって、初めから素直に頷けばいいですのに…。」


 こいつに借りを作るのは嫌だが、仕方ない。背に腹は代えられないのだ。ありがたく分けて貰うとしよう。


 俺はエリザベートと一緒に昼食を食べたのだった。何故かエリザベートのテンションが高かった。





 

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