65話
5月10日 誤字修正
自己紹介が終わり、前半の授業は解散となった。後半は同じ教室に集合せよとのことらしい。
俺たちは各階にあるという食堂へ移動した。昼食をとるためだ。エリザベートは周りの奴に話しかけていた、偉そうな態度で。しかし、殆ど無視されている。最終的には俺の後ろ3メートルくらいを歩くようになっていた。自分が平民であることを指摘され、その後から大人しくなった。自分の立場が分かったんだろう。で、何故か俺の後をついてくる。
俺はというとエルザが用意してくれた弁当を食べている。一人で。俺の周りには数席隣で同じ弁当を食べているエリザベートがいるだけで、後は誰もよってこない。もしかして、エリザベートは俺の近くに来ることで平民という理由で虐めを受けることを防いでいるのか?こいつ、そんなとこに頭が回るならもっとうまいこと自己紹介できただろ。まぁ、離れろとかいうのも面倒だし、ほっとくか。
離れたところで俺の方をチラチラと見ている奴らがいるが、友達になりたいんだろうか。まぁ、そんなはずはなく、その目には敵意がこもってることから、罪人とか毒盛りとかの話だろう。ここはちょっと居心地が悪いな。明日から別の場所で食べるか。もしかしたら話しかけてくれるかもしれない。一緒に食べてくれる人がいるかもしれないとか思ったが、駄目なようだ。
俺は素早く食事を終わらせて食堂を出る。それを見たエリザベートも急いで弁当を片づけて俺の後をついてきた。まぁ、彼女一人になったら何をされるかわからないからな。子供は残酷だ。
食堂を出るとき、一部会話が聞こえた。
「おい、あいつの食事見たかよ?」
「あぁ、見た見た。なんだあの食べ方。これだから平民は。」
「そうだよな。料理に失礼だよな。」
「そうだな。あんな奴に食べさせる料理が勿体ない。」
俺のマナーってそんなに悪いのかな。今度からはクラエス達の食事でも見てマナーを覚えようかな。ここで生活するなら覚えておいて損はないだろうかな。
俺は食堂から出て教室へと向かうことにした。鐘がなるまで寝てればいいだろう。前の世界でもそうやって過してたしな。さて、教室はどっちだったかな。確かこっちだった気がするが…。
何とか先生が来る前に教室にたどり着くことができた。間に合ってよかった。初日から遅刻とか生徒からじゃなく、先生からも見放される…。
食堂から出た俺は教室に向かったのだが、歩けども歩けども知らない目指す教室は見えてこない。1階にあるということはわかっていたので階段を上るなんてことはしなかったが、それでもなかなか見つからなかった。最終的には見える扉すべて開けて回ったが3回に1回くらいの確率で外へ出てしまった。どういうことなんだろうな、まったく。
しばらくそうやって扉を開けていたら、鐘の音が……。これはまずいと思って内心焦っていると
「貴女、初日から授業をサボるおつもりなんですの?罪人の娘は根性が捻じ曲がっておいでですのね。私は教室に戻らせていただきますわ。」
というエリザベートの声で我に返り、教室に戻ると言うエリザベートの後について何とか教室にたどり着けたというわけだ。というか、こいつ昼休みの間ずっと俺の後に着いて来てたんだな。周りに人気がなかったからマジで焦った。今回ばかりはこいつに感謝だ。
教室に入った瞬間チラッと教室の連中に見られたが、特に何も起きなかったな。こそこそ話し合ってたみたいだが。まぁ、授業開始間際に扉が開けばそれが俺じゃなくても注目はするわな。
俺たちが席に着くと同時に扉が開き、フランクが入ってきた。マジで危なかったな…。
「さて、初めの授業をやるぞ。授業はさっき説明したとおり魔道の授業だ。みんな知ってると思うが、魔道とは魔力を操る技のことだな。魔法や魔術のことを総称して『魔道』と呼ぶんだ。」
説明ありがとう先生。なら、気術や気法は気道か?
「先ずはみんなに魔力の存在を確かめてもらいたい。魔力は我々猿人族の様な人に宿っているからな。皆の中には既に魔法を使えるものがいるみたいだが、魔法を使うのはまだ我慢してくれ。魔力を感じたことがないものもいるんだ。そう奴らに合わせて授業を進行していくからな。」
「先生、下のものに合わせるとはどういうことですの?私は既に魔法を扱えますし、もちろん魔力を感じることなんて息をするように行っていますわ。今更そんなことしても意味がないのですけれど?」
「エリザベート、確かにお前には意味がないかもしれないが、大多数は魔法はおろか、魔力を感じたことがないやつなんだ。ここは我慢してくれないか?」
「なら、私は一人で魔法の練習をしても?」
「ここは狭い。魔法の練習をするのは危険だ。出来ればみんなに合わせてほしい。そのうち魔法の練習も開始するから、とりあえず教室でやるのだけはやめてくれ。」
「私は外へ行きますわ。それでよろしくて?」
「そうだな、今日の課題が終わった者から自由時間にするつもりだから、そうしたら外へ出て行ってもいいぞ。魔法の練習をするのは課題を終えてからだ。」
「それは私を侯爵家の娘と知っての―――」
「エリザベート、今は授業中だ。階級は関係ない。」
「――っ。」
「皆もそれでいいな。」
エリザベート、お前は今は平民だろ。昼休憩で気付かされたんじゃないのか?ありゃ重症だな。
「それじゃあ先ずは魔力の存在を知ってもらうぞ。みんなはきっと、魔力というものを言葉でしか知らないと思う。実際に魔力を見たものはいないだろう。だから先ずは魔力を目で見てもらう。しかも自分の魔力だ。自分に魔力があるという事実を確かめてもらいたいと思う。」
そう言いながらフランクは黒板を触り始めた。触った所は白く変色していく。
「この黒い板は『白変石』でできてる。白変石はいつもは黒いんだが、魔力に触れると白く変色するだ。みんな知ってると思うが、魔力は常にみんなの体から漏れ出ている。もちろん俺の体からもだ。その漏れ出た魔力に触れた白変石が白く変色するんだ。というわけで、みんなこの黒い板に触れてみてくれ。」
フランクに言われ、みんな黒い板に触れる。中には驚いている奴もいるがほとんどの奴は、何を当たり前のことを、という感じだ。みんな貴族だからな。魔力によって効果を示す鉱石なんかをたくさん持ってるんだろう。牧場にも周りを冷やすやつがあったくらいだからな。しかし、20人が並んでもいっぱいにならないほどの黒板って、デカすぎるだろ。
俺は魔力がないので、指に嵌めた魔力石の指輪を当てて適当に黒い板を白くしておいた。
「よし、みんな自分の魔力は見たな。自分に魔力があることが分かったところで、次はその魔力を感じてもらうぞ。みんな、目を閉じてくれ。」
そう言いながらフランクは目を閉じた。俺も目を閉じる。
「目を閉じたら自分の胸の奥の方に意識を集中してみてくれ。そこに何か塊があると思う。それが『魔力』だ。」
俺は意識を集中して胸の奥を探る。なんだかちょっとフラフラするな。疲れてるのか?珍しいこともあるもんだ。
俺はそのまま意識を集中し続ける。しかしそこにあるのは気力の流れだけ。魔力はない。
わかってはいたさ。俺に魔力がないことくらい。あの時散々探したんだからな。しかし、こう、改めてないという事実を突きつけられるとこう、来るものがあるな。まぁ、ないものはないんだし、何時までも沈んでいても仕方ないだろう。
俺は目を開き、周りの様子を観る。数人が目をつむっているだけで他の奴らはこそこそ話し合ったりボーっとしたりだ。隣にいたエリザベートはなぜか床に座っていた。服が少し乱れてる気がする。顔は茫然という感じだろうか。ふと、自分の服も乱れているのに気づく。いつから乱れてたんだろうな。んー、散々歩き回ったからなぁ。その時か?まぁ、今気づいたんだし直しておくか。
俺は服装を正し、フランクの方を見る。エリザベートも立ち上がり、服を正し終わっている。しかし、その顔は真剣だ。まぁ、何があったかなんて明らかだ。それが自分の身にも降りかかってくるとは少し予想外だったが。
「よーし、みんな自分の魔力を感じられたな。じゃあ次は今日の課題だ。みんなにはさっそく魔術を使ってもらおうと思う。みんな、これを持ってくれ。」
そう言って先端が少し膨らんでいる棒を取り出してみんなに配った。
「これは『トーチ』という魔術を使うための媒体だな。魔術といってもこれはただ魔力を流すだけでいい。初心者にはもってこいだ。先ずは見本を見せるぞー。」
そう言ってフランクは手に持った棒に魔力を流し始めた。すると魔力は棒の先端、膨らんでいる部分に集まり、ある程度魔力がたまったところでその先端部が光始めた。
「このように、膨らんだ部分が光るんだ。今日の課題はこの棒を光らせることだ。光らせることができたら俺に見せてくれ。そしたら今日は終了だ。帰っていいぞ。」
そう言われ、みんなは魔力を棒に流し始める。数人は一発で。残りの奴もほとんどは2、3回で成功させた。それをフランクに見せて次々に帰っていく。そして、残りは俺を含む3人だけとなってしまった。残りの二人はアミラと男の子だ。男の子の名前は忘れた。
俺は最初こそ魔力石を使って何とかしようとしたが、魔力石の魔力を自分の意志で動かすことはできなかった。それに気づくと、後はどうしようもないので、自分の椅子に座り、適当に時間を潰した。ある程度時間が経ったら、今日は終了、次がんばればいいさ、的なことをフランクが言ってくれるに違いない。