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59話

 泣き疲れて眠ってしまった俺はその日の夕方、目を覚ました。そして考え始める。俺は考える事をやめてはいけないのだ。俺は人だ。俺は以前、『人生』を歩むことを誓ったでないか。それに今は、ローヌの最後の願いである、『人』生を楽しむことを叶えるためにも考える事をやめてはいけない。


 俺に病気の話をしたとき、ローヌは本当に俺の体が羨ましかったのだろう。俺の体があればこれからの人生を楽しめるのだ。きっとやりたいこともたくさんあったに違いない。でも、それらをあきらめて、俺のために魔力を魔晶石に溜めることを選んだのだ。ローヌは自分で言った通り、俺から体を奪うくらいなら自分の死を選ぶと、それを実行したのだ。自慢の母親だな。俺はローヌを誇りに思うよ、母さん。

 この髪飾りも大切に使わないとな。貰った時は結構軽い気持ちで、他の人に溜めてもらえばいいやとか考えてたけど、これは母さんの一部だ。他人を混ぜるなんてことはできないな。成るべくなら使いたくないし。母さんは使えって言ってたけど、やっぱり使えないよ。俺は母さんと一緒に人生を歩みたい。母さんを減らしたくはない。魔力石だってあるんだ。魔法が使えなくてもいいんじゃないかな。


 しかし、人生を歩むことを再び心に決めたが、まだまだ楽しめそうにないな。もう少し待ってほしい。やっぱり母さんの死を乗り越えるのは時間がかかりそうだ。何故気付けなかったのか。ヒントはたくさんあったはずだ。初めて魔法を見せてくれた時の顔色の悪さ、家から出ることが少なくなり、あまり動かなくなっていった。魔力に変化はなかったが、それでも症状は出ていたではないか。気が付いてきれば牧場での過ごし方もきっと変わっていてたはずだ。もっと長い時間ローヌと過ごしてたと思う。何故俺は気づけなかったんだろうな。考えれば考えるほどに後悔ばかりが頭を埋め尽くす。しかし、俺は考える事をやめてはいけない。


 俺は沈んだ気持ちのままリビングに移動した。


 リビングではラインスちゃんとガス君が俺に抱きついてくる。慰めてくれているようだ。二人とも、大丈夫、俺はそのうちよくなるから、心配しないでいいよ。ちょっとだけ気持ちを整理する時間が欲しいんだ。



 しばらく二人と抱き合い、他のみんなにも心配をかけると悪いので食堂へ向かう。そろそろ夕食の時間だし、きっとみんないるだろう。

 俺はゆっくりとした足取りで食堂へと向かった。



 食堂へ入ると両サイドが縦ロールの女の子がいた。それとメイドが1人増えている。いつもならドリルだ、とかなってると思うが、今は気分じゃない。新しく入ってきた子だろうか。


「貴方は?」

「…れーぬ、べるにえ。」


泣いていたので喉が痛い。でも、何とか声を出すことができた。名前ぐらいは言わないとな。同じ寮生だ。今後に影響が出るかもしれない。


「ベルニエって…。なぜ罪人の娘が王都にいるのかしら?貴方、出てって。罪人の娘と一緒に食事なんて、私できません!イネス!」


 新しいメイドがこちらに向かってくる。締め出す気だろう。それを見てガス君が前に出てくる。


「何なの、その毛むくじゃらは!汚らわしいわ!そんなのを連れて歩くなんて、これだから平民は…。」

「エリザベート―――」

「平民風情が私に命令しないで!」

「確かに私は平民だけど、私の命令に従えないのなら校長が黙ってないわよ?」

「……っ。」


 こいつ、会って直ぐにこれか。校長がレオナールのことを教えてくれたのはこういうことかもしれないな。しかも平民を見下してるみたいだな。あんまり仲良くできそうにないな。というか校長の名前出した途端黙るとか、校長って結構すごい人なのか?

 まぁ、ここで争っても仕方ないし、出てくか。


「…あら?貴方、ちょっと待ちなさい。その髪飾り、魔晶石ではなくって?しかもその色は、風属性!私の属性じゃない!罪人の癖に生意気よ!」


俺は罪人じゃないんだがな…。まぁ、俺もローヌを殺した点では……、駄目だ、マイナス方向に考えてしまう。別のことを考えなければ。


「貴方、それを私に献上なさい。侯爵家の娘であるこのエリザベート・カリエールに物を献上できるなんて、罪人には勿体ないことね。」


勿体ないなら、別にあげなくてもいいだろ。というかこの髪飾りをお前にやるだと?そんなの無理だ。これは母さんの形見、誰の手にも渡さない。こんなのは無視に限るな。さっさと部屋に戻るか。食事はあとで運んでもらおう。エルザもダメとは言わないだろう。


「罪人のくせに無視なんて、生意気ですわ。イネス!」


メイドが入り口をふさいできた。あー、クソッ、面倒臭い!


「エリザベート、落ち着きなさい。レーヌも一緒に食事をしましょう?」

「そうだねー。一緒に食事をした方がおいしいよねー。」

「そうですよ。お互いのことを分かり合えるかもしれないですし。」

「皆さんがそうおっしゃられるのなら従いますわ。罪人!光栄に思いなさい。私と一緒に食事ができるんですもの。」

「エリザベート、レーヌは罪人じゃないわ。」

「……平民、さっさと席に着いたらどうなんですの?」

「はぁ…。」


クラエス、ありがとな、それにみんなも。俺は言葉には出さずにそう言った。食事の空気はかなり台無しだが、今は一人になるよりもみんなと話した方が気が晴れるだろうしな。



 食事が始まり、エリザベートは終始、髪飾りを寄越せと言ってきた。最終的にはラインスちゃんもよこせと言いはじめる始末。俺の怒りはどんどん溜まっていった。


 

 食事が終わり、部屋に帰ろうとしたら風呂に誘われた。


「平民、一緒にお風呂に入りませんこと?」

(フルフル)


怪しすぎるな。どうせ風呂に入っている間にでも髪飾りを盗むつもりなんだろ。


「平民のくせに生意気ですわよ?イネス!」


メイドが俺を持ち上げようとしてくるが、ガス君とラインスちゃんの妨害により成功しない。もちろん俺も全力で避けている。メイドの動きくらいアシルやシモンに比べれば遅い。


「イネス!そんな小娘相手に何やってるんですの!私の専属メイドならそれ位さっさとなさい!」


メイドに求めてんだか…。誘拐する能力か?危ない思考だな。


「……わかったわ。そこまで拒むなら平民、貴方に決闘を申し込みます。私と決闘できることを光栄に思いなさい。」


決闘?なんでそうなるんだ?


「決闘に私が勝てばその魔晶石を貰います。」

「エリザベート、貴方が負けたときはどうするの?」

「そうですね……。まぁ、私が平民風情に負けることはないと思いますが、もし、万が一負けた場合はその魔晶石を諦めますわ。」


俺にメリットあるのかそれ。もともとこれは俺のものだ。お前にあげる必要はないし、お前に欲しがる権利だってない。そんな決闘ごめんだな。


 俺は食堂から出ていこうとする。


「どうしましたの?勝負を受けないおつもり?なら、その魔晶石は私のものね。決闘勝ったのだから。」

「レーヌ、その決闘受けた方がいいと思うなー。」

「シャルも。」


クレー姉妹がなぜか乗ってくる。全く、何を考えてるんだか。


「そうね、その魔晶石が大事ならその決闘は受けるべきだわ。貴方強いんでしょう?」

「で、でも、みなさん!」

「ただ、エリザベートが負けたときの条件が温いわね。魔晶石相当のものを賭けなさい。」

「……では、先程の条件に平民の名前を呼ぶという条件も追加ですわ。」


どんだけ俺の名前を呼ぶのが嫌なんだよ!


「んー、まだまだ温いわね。」

「な、なら、食事も一緒に…。」

「……まだまだ。」

「毛むくじゃらが食卓に並ぶことも許します!」

「この決闘なかったことにした方がいいかしら。」

「………ならこのペンダントを。」

「お嬢様!」

「イネス、私は負けないからから大丈夫よ。」

「しかし…。」

「私が信じられない?」

「…畏まりました。」

「これで決まりね。」


エリザベートが見せてきたペンダントは質素で、そこまで価値があるように見えない。魔力だって宿ってなかった。あれを貰ってもな…。


「勝負のルールは人数無制限、武器無制限の団体戦。皆さんは私たちの決闘には手出しをするなんて無粋なこと、しませんわよね?」

「えぇ、それは安心して。私たち自身が勝負に参加することはないし、レーヌに兵士を貸すことはないわ。」

「クラエスさん!それではレーヌさんが!」

「そうだねー。それでいいんじゃないかな。」

「では、日時は明日でよろしいわね。明日、昼、学校の校庭を使わせてもらいましょう。では、失礼させてもらいますわ。みなさん、御機嫌よう。」

「えぇ、また明日。あなたの活躍楽しみにしてるわ。」

「そうだねー。エリザベートがどれほど強いのか楽しみだねー」

「シャルも。」

「………。」



 こうして、俺が声を出せないことをいいことに話はまとまり、エリザベートは食堂を出て行った。





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