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58話

 俺が王都に来てから数日が経ち、寮での生活にも慣れた。牧場にいたころの習慣で朝早く起きてしまうので、朝食までの間は木剣と盾様を素振りたり、ガス君と打ち合ったりしている。その間、ラインスちゃんは寮の周りを気持ちよさそうに飛行中だ。王都でワイバーンが飛んでいるとなると問題になるということで、エルザにはこの辺だけで飛ばせるようにといわれている。ラインスちゃんも了承済みだ。

 みんなに王都の中を案内してもらったのだが、道が複雑というか、多いというか、全く覚えられなかったので一人で王都を回るのはやめようと思う。たぶん学校に帰って来れなくなる。今は学校が休みで、みんなも暇にしていることが多いらしく、毎日のように王都を練り歩いている。俺が平民ということでみんなの奢りだ。本当にありがたいな。俺は旅で金をほとんど使ってしまったのであんまり持ち合わせがないのだ。服や装飾品など、結構物が増えたが、部屋は広いので、まだ問題ない。


 そして今日は12の月2週目の4日、俺の誕生日だ。ただ、この国だけなのか、この世界がそうなのか、誕生日を祝うという文化がないようなのでいつもと同じように過ごすつもりだ。



 朝の訓練を終え、装備を外して、服を着替えるために一旦部屋に戻った。着替えて、ラインスちゃんとスキンシップを取った後部屋を出る。部屋を出るとエデとシャルが廊下にいたので、走って追いかけ、一緒に食堂へ向かう。


 寮の3階には俺とエデ、シャルの3人が住んでおり、1部屋が空室だ。2階にはクラエスとクリスが住んでおり、2部屋が空室となっている。新しく来る子は3階の空室に入るそうだ。何故2階じゃないのかと疑問に思ったが、何か理由があるのだろう。例えば、呪われた部屋があるとか?ま、まぁ、知らない方がいいこともあるってことだな。



 食堂に入ると既にクラエスとクリスは席についていた。俺たちが席に着くと料理が運ばれてくる。もちろん、ガス君やラインスちゃんにも運ばれてきた。しかし、料理の内容は違う。ガス君は人と同じものでも大丈夫なのだが、ラインスちゃんは別だ。彼女は基本的に狩ってきた新鮮な肉を食べる。ただ、今は狩りにいけないので今朝取れたばかりの魚を出してもらっている。肉じゃなく、魚でも大丈夫みたいだ。まぁ、ガス君も俺たちのものよりも質素なものになっている。メイドさん達が食べるようのものらしい。主人と使用人は同じものを食べないらしいな。ガス君は一応使用人という括りだが、俺のわがままでみんなと一緒に食べることを許可された。まぁ、別にみんな嫌がってなかったし、これくらいいいだろう。



 食事を終え、談話室で腹ごなしの会話を楽しんでいると、エルザが談話室に入ってきた。


「レーヌ、ご両親から手紙が来てるわ。はい、これよ。」

(コクッ)


俺は頷いて羊皮紙を受け取る。誕生日に手紙を届けるとは、やはり俺の両親は両親らしい。


「手紙がいつ届くかなんてわからないわよ?たぶんどっかの行商人にでも頼んだのだと思うし。」


いい気分が台無しだな!まぁ、でも手紙をくれたんだ。それだけでもうれしいさ。


「今日はレーヌさんの何か特別な日なんですか?」

「誕生日だそうよ。」

「何でそれがわかるのー。仕草だけじゃわからないでしょ。でもなんで誕生日が特別なんだ?」

「ベルニエ家ではレーヌの誕生日を祝ってたみたいね。」

「ふーん。不思議なことをするもんだね。誕生日なんて皆にあるのに。」

「そうね。で、なんて書いてあるのかしら?」


家の両親のことだ。内容は無事王都に着けたか?とか、元気でやってるか?とか、会えなくて寂しいとか、王都に住んじゃおうかとか、だろう。まぁ、最後のはレオナールの件があるから無理なんだがな。


 そんなことを考えながら羊皮紙を広げる、が俺はまだ文字が読めない。5歳にもなって文字が読めないのかとも思うのだが、教えてもらってないし、文字を見る機会なんて殆どなかったのだからしょうがない。


「…字が読めないのね。貸してみて。私が読んであげるから。」

(コクッ)


俺はクラエスの厚意に甘えることにした。まぁ、読めないのだから仕方がない。少し恥ずかしいけどいいだろう。


 クラエスはサッと手紙に目を通し、顔を曇らせた。そして真剣な顔で俺を見てくる。


「覚悟して聴きなさい。辛いでしょうけど。」


そう言って読み始めたのだった。


「レーヌちゃん、久しぶりね。あなたが旅立ってからも5か月になるわ。今手紙を出せばきっとあなたが王都に着くころには届くでしょうね。あなたのことだから無事王都につけてると思うわ。ヴァーノンさんだっているしね。そうそう、ヴァーノンさんには少しは文字を教えてもらったかしら。この手紙が自分で読めるようになってるといいわね。」


何だ、普通の手紙じゃないか。驚かせるなよ。


「レーヌちゃんはおばあちゃんの話をした時のことを覚えてるかしら。」


嫌だ。聞きたくない。


「レーヌ、聴きなさい。これはとても大切なことだわ。エデ、レーヌを抑えてて。」

「……わかった。」


「あの時は魔力回復不全の話をしたわね。」




嫌だ。そんなことあり得ないだろ。今日は俺の誕生日だ。その手紙にはいつもの様なお祝いの言葉が書いてあるだけだ!




「実はね、私も魔力回復不全なの。最近はすっかり魔力がなくなってきちゃって歩けなくなっちゃった。レーヌちゃんには私が魔力を使えなくなる前に魔力の使い方を教えてあげようと思ってたんだけど、レーヌちゃんには魔力がないじゃない?だから私の魔力をあなたにあげようと思ったの。私はもう、魔力を使えないけどレーヌちゃんは違うわ。魔力がないだけ。魔力がなくてもきっと魔力を使えると思うわ。いいえ、絶対魔力を使えるわよ。だからね、必要になったら私の魔力を使いなさい。遠慮しなくていいわ。それはもうあなたの魔力なんだから。もう何日かしたらきっと私は死んでしまうでしょうけど、私はいつでもあなたの傍にいるわ。寂しくなったらあの髪飾りを私だと思ってね。あなたには私がついてるんだから、絶対いい人生を送れると思うわ。人生を楽しんでね。   ローヌより。」



 俺はクラエスが読み終えると同時にエデの拘束が行くなったため走って談話室を出る。そしてそのまま俺の部屋へ、寝室へ。そして、思いっきり泣いた。ローヌが死んだということを認めたくなくて、魔法を教えるというローヌの願いを叶えてやれなかったということを認めたくなくて、ローヌが俺に魔力を渡すために魔力の消費を増やし、ローヌの寿命が縮んだということを認めたくなくて、俺は考えることをやめ、泣き続けた。



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