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37話

5月1日 誤字修正

5月2日 誤字修正

 翌日、午前中の仕事を終わらせ、午後、再び屠畜小屋へとやって来た。レオナールとゲーユ兄妹も一緒である。小屋の中はまだキラキラしていて冷たい。夏場これなら結構便利だ。


 レオナールが小屋の中央にある石を手に取ると粉々に砕けてサラサラと手から零れ落ちていく。どうやら消耗品らしい。一度使うと魔力が切れるか、その場から移動するあるいは衝撃を加えるといった条件で壊れてしまうようだ。ちょっと不便である。

 俺はそんなことを思いつつ、作業を開始する。

 まず、牛を下し、作業台へ乗せる。作業台へ乗せた牛はカタ、ロース、バラ、モモに大きく分けて切っていく。今度はのこぎりだった。ロングソードを使うと思ったのだが、そうではないらしい。確かに昨日の気術だか気法だかわからないが、技を使った場合作業台まで真っ二つになりそうだ。

 牛を4つの部位に分けると今度は除骨だ。気力の流れているナイフを使って肉と骨を離していく。骨の形に沿ってナイフを当て、丁寧かつ迅速に切り離していった。俺もやらせてもらった。もちろん気力を流すことはしない。結構力を使うので力いっぱいやっていたら勢い余って手に当たってしまったが、俺の皮膚を切ることはできなかったようだ。俺の強化皮膚はやはり刃も通さないらしい。

 除骨が終わると、肉をさらに部位ごとに分けていく。ネック、前ずね、かたロース、かた、かたばら、リブロース、サーロイン、ハラミ、ヒレ、ともばら、らんいち、しんたま、うちもも、そともも、ともずね、皮下脂肪等々たくさんの部位に分けられていった。俺は筋肉の構造とか覚えてないので次からは手伝えるようにバラバラにされていく牛をしっかりと観察した。

 解体が終わるとロースやバラの様なお肉は箱に詰められた。蓋をし、上に特殊な鉱石を置いて特殊な鉱石をしっかりと固定してから魔力を流し込んだ。すると箱がキラキラし始める。お肉を冷やして保存しているのだろう。


 さて、残ったネックやすね、モモ、皮下脂肪といった部位だがこれは加工肉となる。


 先ずはモモである。これは干し肉にするそうだ。

 らんいち、しんたま、うちもも、そとももを適当な大きさに切り、塩と硝石を混ぜたものを練りこむ。硝石は火薬の原料でダンジョンで取れるそうだ。硝石を入れるのは腐るのを防ぐためらしい。硝石があると食中毒になりにくいだとかなんとか。まぁ、あんまりよくわかってないらしい。前の世界では亜硝酸塩って言われて、やれ添加物だ、やれ発癌性があるだと言っていたが食中毒になるよりはまぁ、いいんじゃないか?安全性もしっかり規定されてるみたいだったし。今の俺には関係ないのだがな…。

 大量の塩と少しの硝石を練りこむと箱に詰めてしばらく放置するらしい。中に浸透させるためだとか。

 モモを放置している間にネックなどの筋を取り除いていく。これは俺も手伝った。ナイフで肉と筋を切り離し、肉だけにしていく。

 筋を取り除いたら今度はモモの時よりも小さな大きさに切り、モモの時と同じように塩と硝石を混ぜたものを練りこんでいく。そして箱に詰め、放置だ。

 次は皮下脂肪だ。皮下脂肪は小さく切ってバケツへ放置だ。扱いが肉と違う。一応バケツをロースやバラが入っている箱の近くへ持っていき、冷やしているようだ。

 脂肪を切り終わり、しばらくすると今度はモモを箱から取り出し、また、塩と硝石を練りこむ。塊が少し大きいので2回に分けて練りこむそうだ。そうしてまた放置である。

 

 これで今日の作業は終わりらしい。その後、俺は昨日と同じように木剣の訓練に励むのだった。



 翌日も午後からは屠畜小屋だが、レオナールはいない。今日は町に物を売りに行った。今朝とった乳や発酵の終わった発酵乳、バターや熟成に終わったチーズ、ロースやバラ肉など、昨日と一昨日で溜まってしまったものを町に売りに行ったのである。なので今日はゲーユ兄妹と俺の3人だ。


 先ずはモモの入っている箱からモモを取り出し、小屋の外に紐で吊るして干していく。1月ほどで完成だそうで、干し肉の完成が次の牛の屠畜の目安だそうだ。

 モモを干し終わり、再び小屋の中に戻ってきた。残りの箱から肉を取り出し、ナイフと使って細かくしていく。ミンチだ。ある程度細かくなったら皮下脂肪をバケツから取り出し、同じように細かくしていく。皮下脂肪の量が減っているのでレオナールが町に持っていったのだろう。脂肪で作るものといえば…、蝋燭だろうか。蝋燭職人にでも売るのだろう。

 脂肪もある程度細かくなったところで次は香辛料やでんぷん粉などの粉と肉、脂肪、を混ぜながらさらに細かくしていく。細かくしながら混ぜていると粘着質になってきた。シモンがそれを指で挟み、ブヨブヨさせ、納得したのか今度は太い注射器のようなものを持ってきた。ベルは薄い、細長い膜のようなものを用意している。


「これは羊腸ですよ、レーヌさん!」


俺がじっと見ているとベルが元気よく教えてくれた。ということは、今はアレを作っているんだな。

 

 注射器の中にミンチを詰めていき、注射器の先端には羊腸を取り付けた。あとは空気が入らないよう注意しながらミンチを羊腸に詰めていく。羊腸は俺身長と同じくらいに切られているから、1メートル弱だろう。俺はまだまだ小さいからな。羊腸にミンチを詰め終わったものをベルが先ず半分に折り、捩じる。そして、適当な長さのところでまた捩じる。左右同じ長さのところで捩じってあるので、その捩じった部分を交差させ、腸と腸の間に腸を通す。腸がゲシュタルト崩壊しそうだ。再び腸を適当な長さに捩じり、同じようにする。俺もベルと同じように腸を捩じって、交差させて、通して、を繰り返した。

 こうして出来た数本の腸を今度はお湯に放り込むお湯は沸騰していない。少し触ってみたが、おそらく70℃弱といったところだ。沸騰したお湯を使ったら旨味がどうのこうのするのだろう。70℃弱のお湯を触っても俺の皮膚は火傷しなかった。まぁ、火の中に手を突っ込んでも火傷しないんだからな、当たり前といえば当たり前だが…。

 

 しばらく腸を茹でてから取り出し、今度は屠畜小屋の外にある窯に持っていく。燻製するらしい。窯の中に腸を吊るし、木屑に火をつけ、燻していく。まぁ、ソーセージを作っているわけだな。ただ、前の世界のものよりもかなり塩辛そうだが…。


「コホッ、コホッ。」


そんなことを考えていると煙を吸い込んでしまったようで俺は咽た。涙も出てくる。どうやら煙は駄目らしい。俺の皮膚も万能ではないってことだ。ていうかつらい。どうしてゲーユ兄妹は平気なんだ?ちらりと二人を見ると見当たらない。既に離れていたようだ。…なんだよ!連れてってくれたっていいだろ!レーヌちゃん泣いちゃうよ?


 咽ながらその場を離れるとベルとシモンが走ってきた。


「ごめんなさい!レーヌさん!着いて来ているものだとも思ってて!」

「レーヌさん、ちゃんと着いて来てください。心配するじゃないですか。」


と言ってきた。謝ったのがベルで、謝らなかったのがシモンだ。…まぁ、シモンは今、俺の師匠みたいなものだ。説教するのは当たり前……。



 燻製で今日の作業は終わりらしい。こうして俺の初めての屠畜が終わった。俺は帰り道、ベルと手をつないで帰った。そしていつものように日が暮れるまで木剣の訓練をしたのだった。シモンを俺が倒すことを頭に思い浮かべながら。



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