34話
翌日、さっそく訓練が始まった。いつも通りの時間に起きて、ローヌと一緒に搾乳に向かおうと家を出るとシモンの姿が見えた。
「レーヌさん、こっちに来てください。訓練をしましょうか。」
(コクッ)
俺はローヌから離れ、シモンについていく。
しばらく歩くと、小屋の前に来た。小屋の前ではベルが荷車に壺を乗せているところだった。
「ではレーヌさん、小屋にある壺をこの荷車に乗せるのを手伝って下さい。荷車の前に壺を運ぶだけでいいですよ。乗せるのは僕がやりますので。」
(コクッ)
荷車は結構高いため、壺を持って登るのは難しそうだし、壺を持ち上げて乗せるのも難しそうだ。俺は頷くと小屋の中に入った。
「レーヌさん、一緒に運びましょう!少し重いですから気を付けてくださいね?」
(コクッ)
ベルがそう忠告してくるので頷いておく。
壺は俺の胸あたりまでの高さがあり、幅は俺とほぼ同じか、それよりも一回り大きいくらいだ。俺は壺を抱えた。重い、そして前が見えない。とりあえず、小屋の出口があるはずの方向へ壺を運ぶ。ある程度歩いたらおろして位置を確認。小屋を出て、再び壺を下して、今度は荷車の位置を確認。荷車まで壺を運んだ。
「ありがとうございます。では次の壺をお願いしますね。」
(コクッ)
俺は頷くと小屋の方へ走っていく。これは仕事であり、訓練だ。だらだら歩いていてはいけない。俺は走って小屋へ向かうとベルにぶつからないように注意しながら小屋の中へ入る。ベルは壺を二つ抱えていた。ベルは華奢な体に見えて実は力持ちなのかもしれない。結構重たいぞこの壺。
俺は再び壺を抱えて荷車へ持っていき、壺を取りに小屋へ戻るという訓練を繰り返した。
「はい、これで終わりです。ご苦労様でした。」
「すごいですね!レーヌさん!4歳でこんなに運べるなんて!」
5個目の壺を運び終わり、そう言われた。荷車には今、32個の壺が並べられているはずだ。壺は重かったが不思議と疲れていない。体力だけはあるようだ。
荷車には壺の他に、牛のおやつや軍手、頭絡なども乗っている。
「さて、行きましょうか。」
シモンが荷車を牽いていく。すごいなシモンは、さすが男の子だ。
乳牛用の草地に着くとローヌが待っていた。
「じゃあ、始めましょうか~。」
そう言ってローヌは手に持っていた鐘を鳴らした。そしてみんなで餌箱に牛のおやつを入れていく。牛のおやつが入っている袋も意外と重い。これも筋トレの一環だ。
しばらくして、牛が集まってくる。牛が集まってきたら壺を置いて、次々と搾乳していく。いつもならローヌが壺を運んでくれるのだが、今日は自分で運ぶ。なのでいつもより時間がかかる。いつもは3頭くらい担当するのだが、今日は1頭しかできなかった。ていうか、みんな早い。なんでそんなに乳搾れるのかわからん。やっぱり慣れかなぁ。
搾乳を終え、壺を荷車に乗せる。もちろん俺も手伝った、のだが、乳が入っている分さっきよりさらに重い。ミルクがいっぱいに入っている壺は持ち上げることができなかったため、入っている乳が少ない、ものだけを運んだ。牛にも個体差があり、いっぱいだすやつもいれば、あまり出さないやつもいる。あまり出さないやつの乳が入っている壺だけを選んで運んだのだ。ずるいとか言わない。仕方ないのだ。こっちはまだまだ4歳の幼女だ。重いものなんて持てない。
ただ、気力の回復が早いせいなのか、全く疲れていない。強化皮膚といい、無尽蔵の体力といい、便利な体だ。
いつもは搾乳が終わればさよならだが、今日はシモンたちと一緒にアルフレッド君用の荷車が置いてあるところに来た。ここで荷車に乗っている約半分、17個の壺をアルフレッド君用の荷車に移す。
移し終えると、ベルは朝食の準備をすると言って離れていった。
さて、次にやって来たのは朝とは別の小屋だ。小屋に入ると搾乳用の壺と同じものがたくさん並べてあった。しかし、違う点が一つだけある。小屋の中にある壺は粘土のようなもので蓋がしっかりと固定されている。
「レーヌさん、壺をここに運んでください。」
シモンにそう言われ、示されたのは小屋の入り口横、外の壁だ。どうやら壺はまだ中に入れないらしい。外で蓋を固定してから入れるのだろうか?まぁ、いいか。とりあえず言われたことをこなすとしよう。
シモンに壺を渡されて運ぶ。もちろん、入っている乳が少なめのやつだ。いっぱいのやつはどう足掻いても無理だ。いっぱいのやつはシモンが運んだ。
壺を下し終わると、今度は小屋にある壺を運び出す。数は15個だ。運び出す壺は決まっているらしく、シモンに示されたものを順々に運んでいく。もちろん重くて運べないものはシモンが担当だ。これは仕方ないのだ。俺は幼女なんだから。
壺を積み終わったら、再びアルフレッド君用の荷車へ。小屋にあった壺を移していく。
「ひとまずこれで終わりです。続きは朝食を食べてからやりましょう。食べ終わったら俺たちの家に来てください。」
壺を積み終わり、シモンがそう告げ、一時解散となったのだった。