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31話

5月2日 誤字修正

 素早い回復、いくら使っても総量が増えない、体内から出ない、媒体の中に入ると視認できる、媒体の強化、キラキラがない。………考えれば考えるほどそうだとしか思えない。しかし、その事実を認めたくはない。俺は今、人であり、獣ではない。人から産まれ、人として生きてきた。考え事もする。確かに獣も物を考えるが、人ほど複雑なことは考えてないだろう…。俺は人である。…だがしかし…。



(俺には魔力がないだなんて…。)



 『魔力』は人のような知的生命体が持っているものである。魔力があるのが知的生命体。ないのが獣。そう、俺は気づいてしまったのだ。俺には『気力』しかないのだという事実に。


(いや、まだあきらめるな。考えるのをやめるな!)


 俺はどうにかして『魔力』を使おうと体の中を探る、あがく、必死に考える。しかしどれもうまくいかなかった。


(クソッ、クソッ、クソォオ)


 気力をすべて葉に込め、捨てる。そしてほとんど空っぽになった体の中を必死に探す。どこかに魔力がないか、少しでいいんだ、どこかに魔力が、そんな思いで必死に探す。しかし、気力はすぐに回復して俺の体を満たしてしまう。


(これじゃ見えないだろ!)


 俺は再び気力を捨てる。そして探す。捨てては探し、探しては捨て、何度も何度も繰り返す。やがて俺はその場に倒れこんだ。


(俺は、獣じゃ、ない。)


 いつの間にか外は暗くなっていた。温かいものが目尻から垂れる。それは、次第にその量を増やしていく。声は出ない。大声をあげることもできず、ただただ涙が溢れてくる。


(俺は、人、なんだ。そう、俺は、ひ、と……。)






 目を覚ますとそこには天井があった。いつもと変わらない家の天井。アレは夢だったんだ。そう、きっと悪い夢……。

 

 不意に体に抱きつかれる。


「よがっだぁ゛。レーヌ、ちゃんっ、が、お、おぎでぐれで。」


そこには顔をぐちゃぐちゃにしたローヌの顔があった。


「だから言っただろう?レーヌなら大丈夫。俺たちの子なんだから。」


そういったレオナールの目はうるんでいて今にも泣きだしそうだ。


「レーヌさん、おはようございます。よく眠れましたか?寝坊ですよ?仕事、サボらないでください。」

「もう、お兄ちゃんたら、そんなこと言って…、レーヌさん、お兄ちゃんもすごく心配してたんですよ?」


そう言ったシモンとベルの目は赤く腫れ上がっていた。


「レーヌよ、よく目覚めてくれた。おじいちゃんはうれしいぞ。」


おじいちゃんもいる。その顔は優しい笑みをしていた。


「目覚めたようじゃな。どこか体に異常はないかのう?」

(フルフル)


カラム先生がそうたずねてきたので首を振る。


「ちょっと失礼するぞ?……大丈夫そうじゃな。しばらく様子を見る必要はありそうじゃが問題ないじゃろう。しかし、よう目覚めたのう。あんな重度の気力欠乏症は初めて見たわい。しかもこんな幼い少女じゃ。普通じゃったら…。」


そう言ってカラム先生は申し訳なさそうに口を噤んだ。その目線はローヌの方を向いている。


「私が悪いんです。ローヌの魔法の訓練を見ていなかったから。あの時私が一人にしたから。ごめんね、レーヌ。本当にごめんね…。」

「何、レーヌはちゃんと目覚めたんだ。問題はない。そうだろ、レーヌ?」

(コクッ)


レオナールの問いに俺は頷いた。



 どうやら俺は気力を使い過ぎたせいで倒れてしまっていたらしい。あまりにも遅いので心配になったローヌが見に来たときにはすでに俺は生気を失っていたらしい。急いでアルフレッド君に頼んでカラム先生のところに駆け込んだらしい。

 カラム先生は俺を診て気力欠乏症だと判断した。気力欠乏症とは気力を使い過ぎたことにより、その回復力が間に合わなくなり、体に異常をきたす病気だ。軽度のものならば一晩寝れば治るってしまうのだが、気力欠乏症で気絶したとなるとその後目覚めることがない場合もあるらしい。

 気力欠乏症の治療は他人の気力を移すか、気力草という薬草を食べさせることである程度回復するらしい

 それを聴いたレオナールとローヌは急いで俺に気力を移そうとしたのだが、どうしてか、俺の体に気力が弾かれてしまったそうだ。その場にいたユニスやカラム先生も試してみたのだが、やはり弾かれてしまう。

 レオナールとローヌは急いでおじいちゃんの店に向かい、気力草がないか訊いたそうだ。しかし、気力草は珍しい薬草らしく、店にはおいていなかった。この時、おじいちゃんは町にはいなかったらしく、店の人に連絡を頼んだそうだ。

 カラム先生宅に戻ったレオナールとローヌは気力草がなかったことを二人に伝えた。それを聴いたユニスは自分が取ってくる、と家を飛び出していったそうだ。今もどこかで気力草を探しているらしい。

 

 そして、俺が倒れてから1か月、カラム先生は毎日のように家に来ては俺の様子を診てくれた。

 ベルは体調のすぐれないローヌの代わりに仕事だけでなく、家事もするようになった。シモンはレオナールが俺やローヌの傍にいられるようにと羊のリーダに勝ち、羊の世話をするようになった。ゲーユ兄妹はそんな忙しい中、毎日俺の顔を見に来ては一生懸命話しかけていたらしい。

 ヴァーノンたちが牧場に牛を引き取りに来たときにも気力草を持っていないか尋ねたのだが、持っていなかった。その時ヴァーノンはしきりに謝り、少しでも治療の足しにと金貨1枚をレオナールに渡したのだった。

 おじいちゃんは数日前に町に帰ってきて、それからはずっとこの家にいる。


 そして、今日俺は目覚めたのである。


(夢じゃなかったんだな…。俺は獣…。)


そんなことを思い出してしまい、自然と目から雫が落ちる。


「どうしたの?何処かいたいの?大丈夫、レーヌちゃん?」


ローヌが心配してくれる。周りのみんなも心配そうだ。


(フルフル)


痛いわけじゃないんだ。でも、どうしようもない。俺には『魔力』がないのだ。みんなとは違う、俺は人に形をした獣なのだから。


「………レーヌ、なにがあった?言ってみろ。」


レオナールが静かにそう言った。その声には有無を言わさぬ迫力がある。


「ちょっと、レオ、レーヌちゃんに冷たくしないで!」

「冷たくなんてしてないさ。これは大事なことだ。そうだろ、レーヌ。」

(コクッ)

「そうだな。じゃあ話してみろ。」


そうだな。両親に俺が獣だということを話しとかなければな。今まで育ててもらったんだ。俺がなんなのか知る権利があるだろう。みんなだってそうだ。俺が寝ている間、一生懸命俺が目覚めるよう尽くしてくれた。


 俺はなんとか涙を止めると、意を決して自分に魔力がないこと、なので自分は人ではなく獣だということをみんなに伝えることにした。


「………わたし、まりょく、ない。」

「大丈夫よ~、レーヌちゃん。誰だって初めはうまくいかないわ~。魔法が使えなかったからって魔力がないなんて思う必要はないのよ~。」

(フルフル)

「…わたし、けもの。」

「大丈夫~、レーヌちゃんは人よ~、獣じゃないわ~。いずれまほうが使えるようになるから心配しないで~。」

「……レーヌは能力によって魔力が見えるのじゃ。もしや本当に……。」

(コクッ)

「嘘よ!そんなはずはないわ。現にレーヌちゃんは生きてるじゃない!魔力がなくなって死んじゃうなんて、私、嫌よ!レーヌちゃんはまだ若いわ!」

「じゃ、じゃがしかし…。」

「落ちつけ、ローヌ。どうなんだ?レーヌ。本当に魔力がないのか?たんに魔力がうまく扱えなかっただけじゃないのか?」

(フルフル)


レオナールの問いに俺は首を振って答える。


「もう一度訊くぞ?レーヌ、お前は魔力がないんだな?」

(コクッ)

「……そうか。」


 それっきりみんなは黙り込んでしまった。やはりショックなのだろう。可愛がっていた俺が人ではなく、獣だったのだ。これからどうなるんだろうな…。


「レーヌさん、あなたは獣なんかじゃないですよ。物を考えることができるでしょう?」

(フルフル)


シモンがそう言ってくる。確かに俺は物を考える。でもそれは獣だって同じだろう?もしかしたら獣の方がよく考えているかもしれない。毎日が生きるか死ぬかの生活だ。俺なんかより必死になってどうやって生きていくかを考えているだろう。


「レーヌさん、レーヌさんは言葉を理解して喋れます。それは人にしかできないと思います。」

(フルフル)


ベルがそう言ってくる。確かに俺は言葉を理解し、喋ることができる。でもそれは人に育てられたからであって、人に育てられた獣は言葉を理解することができるし、人の声をまねて喋ることだってする。それに俺の言葉は片言で、とても人とは言えない。


「レーヌ、お主は確かに人じゃ、獣ではない。医者の私が言うんじゃ、間違いない。」

(フルフル)


カラム先生がそう言ってくる。確かに俺の体は人だ。俺も人だと思っていた。しかし、魔力がないのだ。医者には魔力が見えない。だから俺を人だと思う、その体を見て。でも、俺は違う。魔力が見える。そして俺の体からは魔力が見えない。俺は獣だ。


「レーヌ、お前は俺たちの子だ。人から生まれてきたんだ。人じゃないわけないだろう?」

(フルフル)


レオナールがそう言ってくる。確かに俺はローヌとレオナールの子だ。ローヌが産んだというのも間違いはないだろう。でも、なぜ人から人が産まれてくると言える?人から獣が産まれてきても不思議じゃないだろう?俺には魔力がないのだ。人とは言えない。


「レーヌ、確かにお前は獣かもしれないな。でも、それの何がいけない?獣はいいぞー。自由に生きれる。アルフレッドだって獣だが、毎日楽しそうじゃないか。」

(フルフル)


おじいちゃんがそう言ってくる。確かに俺は獣だ。でもそれの何がいけない、だって?自分は人だから、獣じゃないからそんなことがいえるんだ。アルフレッド君も獣だが、毎日が楽しそう?人に使役されてるだけではないか。獣が自由?人に飼われていて自由なんてない。野生で生きても毎日が生きるか死ぬかだ。どこにも自由なんてありゃしない。俺はみんなと一緒、人になりたいんだ!



「………レーヌちゃん、魔力回復不全って知ってるかしら?」


ローヌが唐突にそんなことを言い出した。



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