26話
5月2日 誤字修正
「――っ。」
「どうしたの、レーヌちゃん?」
「大丈夫か?レーヌ!」
(……………あれ?)
接触する寸前、身構えた俺だったが特に何も起こらない。寒気は感じないし、意識を失うこともなければ、体の不調は見当たらない。しいて言えば眠たいくらいだが、これは平魔力?と変異魔力?が接触する前からなので問題はないだろう。
とりあえず、俺の身が固くなったのを感じ取り、心配している両親に返事をしておこう。
(フルフル)
「そう~、それならいいのだけれどね~。何かあったら言うのよ~?」
「大丈夫そうだな。怖い夢でも見たのか?」
(コクッ)
「そうか。でも大丈夫だぞ。俺やローヌがそばにいるからな。」
説明は面倒だし、この年で魔力を使っているのは当たり前なのかわからないので怖い夢を見たということにしておいた。両親も納得したようで、それ以上の言及はしなかった。
まだ牛には変化が見られない。出産はまだ先だろう。なので、魔力?について考えてみようと思う。
俺の体の中で魔力?は平魔力?と変異魔力?に分かれた。
平魔力?は塊、つまり、固形のような状態の時に二つをぶつけると自身が寒気に襲われ、その後、熱におかされることになる。これは何度も体験したわけではないが、非常にきついので体験するのは1度だけでいい。おそらく、原因は魔力?の衝突だろう。魔力?の塊が衝突することで発生するエネルギーが体に影響を及ぼしているのではないかと考えているが実証するのはつらいのでやってない。
平魔力?が液体の時だが、この時は固体となった平魔力?をぶつけても平魔力?の塊は砕けず、体に異常は起きなかった。液体と固体なので衝突時の衝撃が少なく、魔力?の崩壊が起こらなかったのだろう。もちろん、液体同士の衝突もしかりである。
さて、問題の変異魔力?である。変異魔力?は皮膚直下から移動せず、厚さも変わらないが濃淡は変更でき、局所的に薄くしたり濃くしたりできる。液体魔力?との接触は右手に魔力を集めたりした時に起こっているが特に何もなかった。
で、今回である。変異魔力?と平魔力?の固体が衝突しても特に何も起きなかった。変異魔力?は濃淡が変更できるものの、形がある程度決まっており、厚さの変更ができない。そのため、固体のような性質なのでは?と疑っていて、固体の平魔力?が衝突することを避けていたのだが、どうやら違ったようだ。変異魔力?は液体のような性質で、平魔力?が衝突しても大丈夫である、と考えを改めることにした。
空が明るくなって、そろそろ俺たちがいつも起きるころになる。太陽はまだ出てないが、もうすぐ日の出が見れそうだ。
さて、牛はというと少し前からそわそわとあたりをしきりに歩き回っている。出産はもうすぐらしい。
「もうすぐ産まれるからね~、しっかり見ているのよ~。」
「すぐ産まれるからな。見逃さないようによそ見をするなよ。」
(コクッ)
俺は牛から目線を話さずに頷く。
パシャン、ボォトッ、ボトボトボト
(………は?)
破水から出産、後産が終了するまで、すべてをわずか3秒で終えてしまった。早い、早すぎる。破水があって、母牛が苦しそうにしていて、仔牛の前足が見えてきて、がんばってー、とか思いながら、でもうるさくしちゃいけないってことで、息を殺しながら見て、鼻先が見えてきて、もう少し、がんばってー、って思って、無事産まれてくるように祈りながら、黙って見て、で、頭が出てくるとあとはそんなに時間をかけずにボロンと全身が出て、あ~、よかった、無事産まれた~、って安堵して、女の子なんかは感動して涙流して、、、とか想像してたんだけど、え?どういうこと?わずか3秒って…。感動したり、安堵したりするまもなく産まれちゃったよ。まぁ、無事産まれたから別にいいんだけどね。もう少し感動したかったなぁ。
母牛が仔牛をきれいに嘗めている。こういうシーンは前の世界と共通らしい。あとは肢を震えさせながら立ち上がる仔牛を見て、がんばってー、って応援でもしようかな。
――スッ
仔牛が割とスムーズに立った。肢は震えていない。
うん?応援できないの?そう、できないの…。ま、まぁ、野生ではどれだけ早く立てるようになって、動けるかが大事だしね。早いのはいいことだよね。
(はぁー、一晩中起きてたんだからもう少し感動したかったなぁ。)
「どお~?よく見れた?」
「よく起きてたな、えらいぞ、レーヌ。」
(コクッ)
見る物は終わったとばかりに両親は毛布をたたみ、夜食を片づけている。俺も立ち上がり、かたず家の手伝いをする。
さぁ、そろそろ眠気も限界だ。幼女に徹夜はキツイ。もどったらぐっすり寝るとしよう。
こうして、牛の出産を見るためのはじめての徹夜が幕を閉じたのだった。ただ、当初予定していた感動はなく、感動よりも驚きが、出産シーンよりも魔力?の不思議な性質の方が強く印象に残った一晩となったのだった。