20話
5月2日 誤字修正
翌日、おじいちゃんは昨日の俺の笑顔で満足したのか、見えなくなるまで数歩おきに振り返って手を振るということをしていたが、それでもすんなり帰って行った。この様子だとまた来そうだな。
それから1か月が経過した。今日は10の月2週目の5日、俺の魔力?に変化があった。魔力?の流れは完全に2つに分かれ、中心を流れるものと、体の表面を流れるものとなっている。中心を流れるものは特に変化はなく、しいて言うなら体表の流れに魔力?を割いたため濃度が薄くなったという点くらいだろう。体表の流れは皮膚の直下にあり、体を覆うような感じだ。非常に薄く、密度が濃い。また、流れていると言うよりは淀んでいるといった方が正しいかもしれないというほどに流れが遅い。明らかに性質が違うため、中心の魔力?を平魔力?とし、体表にある魔力?を変異魔力?とした。
魔力?を集めようとすると平魔力?しか集まらず、変異魔力?は動かない。しかし、変異魔力?を別に意識して動かそうとすると普通に動いた。ただ、体の中心に移動することはなく、変異魔力?の濃度を局所的に変えることくらいしかできなかった。
こんな魔力?の不思議な変化があったため、訓練内容を変えて、平魔力?の塊を4個同時操作に加えて、変異魔力?の操作を同時進行で行うというものである。操作の感覚は以前とたいして変わらないのでそう難しくはない。初めこそ戸惑ったが、慣れてしまえばどうということはなかった。
魔力?に関してはもう一つ、言うことがある。変化というかなんというか、魔力?の増加量が小さくなってきているのである。魔力?の復活の時間が短くなり、今では操作を解除して数秒で復活するため、魔力?が消費しきれないのである。一応圧縮もしているが、魔力?が復活が早すぎて消費が追い付かないのである。そんなことがあり、増加量が減っている。何かいい方法を考えなくては…。
さて、朝食が終わり、運動の時間である。もちろん魔力?の訓練は同時進行だ。常に平魔力?が体の中を飛び交い、変異魔力?が濃くなったり薄くなったりしている。
早く歩けるようになりたい俺はおすわりやたっちができるようになってからは毎日のように座る、立つを繰り返してスクワットを行っている。スクワットを5回やったら、次は歩行練習である。ベッドの柵につかまりながら一歩、一歩と足を進める。ベッドを一周したらちょっと休憩である。これを1セットとし、1日5セットを目安にこなしている。
そして、そんな毎日の努力の成果を試す時が来た。5セットでは少し物足りなくなってきたのでそろそろいい頃合いだろう。今日、俺は、初めての一歩を踏み出そうと思う。
先ずは柵の方へはいはいで近づく。ここ最近はずっとお世話になっていた。今日でこの柵さん達ともお別れとなると感慨深いものがある。
次に柵さんを使わずに立つ。準備の段階で柵さんのお世話になるわけにはいかない。そんなことではいつまでたっても柵さん達とお別れができないだろう。だから、寂しさを押し殺して自力で立つ。
そして、いきなり歩行を始めるのもいいが、柵さん達とのお別れをしたい。柵さんに触れ、最後の別れを惜しむように体を預け、柵さんに抱擁する。準備運動と言う名の最後の別れを、ベッドの一辺を一往復することで終わらせる。そして、柵から手を放す。
俺の様子が普段と違う様子を感じ取ったのか、ローヌがこちらを見ている。
ついに本番だ。進行方向には障害となるものは何もない。周りを見ても邪魔になるようなものもない。準備運動もした。柵さん達との最後の別れも済ませた。いよいよ初めての一歩を踏み出す時だ。
両手を前にだし、重心を前に移す。歩いた時に体が後ろに残らないよう、先に体を前に持ってくるのだ。体を前に持っていかずに一歩を踏み出すと、俺の体は今、頭が重いため重心が上にあり、そのまま後ろに倒れてしまう。だから重心を前に持っていくのだ。
一気に重心を前に移してしまうと反応が遅れて前に倒れてしまう。両手をゆっくりと前へ、慎重に、慎重に。そして、重心が少し前へ移ったところで、すかさず右足を前に出す。ここでためらっては重心が前に行きすぎて修復が不可能になる。ためらわず、いっきに一歩を踏み出す。
ほんの一瞬のはずなのに、今の自分に出せる最速の一歩なはずなのに、この一歩の時間が永遠に感じられる。そろそろ左足が限界だ。早く、早く右足に体重を。左足が崩れてしまう前に。
(……よし)
右足が地に着いた感触がし、急いで右足へ体重を移していく。俺の初めての一歩が、今、完成しようとしている…。
不意に右膝が崩れ始める。どうやら急速な体重移動による負担の変化に右足が耐えきれなかったようだ。
(クソッ、こんなところで終わってたまるか!)
すべての意識を右膝に集中させ力を込める。しかし、俺の右膝は止まらない。魔力?の訓練に割いていた集中力、体力をすべて解除し、右膝に集中させる。それでも止まらない。
(だめなのか。こんなところで俺は終わってしまうのか…。)
諦めかけた俺の視界の隅に柵さんの姿が見える。
(ごめん、柵さん達。今の俺にはまだ柵さん達の力が必要みたいだ。)
崩れる右膝に身をゆだねようとした俺の脳裏に柵さん達との思い出が浮かんだ。
初めて柵さんに掴まって立ち上がったあの日、両親はとても喜んでくれて、恥ずかしかったけど、それでもうれしかった。
立ち上がれるようになってからは早く歩けるようになりたいって柵さん達に掴まりながら歩く練習をした。初めて練習したときは柵さん達に頼りっきりだったけ…。でも、初めて休憩なしで一周できたときはうれしかったなぁ。
それからも柵さん達に頼りながらも、少しずつ自分の力で歩けるようになった。柵さん達はそんな俺をいつも支えてくれた。
少しずつ離れていく俺を見て、寂しそうにしてたけど、それでも、柵さん達は俺を支えてくれた。支えてくれなかったことなんて一度もなかった。
雨の日も、晴れの日も、曇りの日も、風が強い日も、嵐の日だって支えてくれた。
そんな柵さん達が応援してくれている。
(こんなところであきらめられない!!)
俺は再び右膝に力を籠め、必死に右膝を止める。
(…………止まった。)
右膝を止めることに成功した俺の視界が黒く染まった。




