113話
6月7日 誤字修正
学校対抗戦に向けての特訓が始まった。毎年のように予想されるリンチ作戦に対抗すべく、対多人数の戦闘訓練をしようと思うのだが、実戦訓練を使用にもそんな人数を集められない。平時なら何とかなったかもしれないが、今は戦争の準備でこちらに回せる兵士がいないそうだ。
という訳で、みんなでダンジョンに来ている。二週間ほど滞在予定だ。ダンジョンは王都から少し離れたところにあり、中は草原だった。草原内の魔獣は人型の奴らが多く、また、数も多い。大体10体以上で襲ってくる。なので直ぐに敵に囲まれるのだが、対多人数の戦闘訓練にはもってこいだ。監督としてクリストフ教官がついているし、まぁ、死にはしないだろう。
ダンジョンに出てくる敵は、ゴブリン、ノール、ゴーレム、オークだ。ゴーレムはデカすぎる気がするが、他はまぁ、訓練にはなる。みんなとの連携、特にルネとブレーズとの連携を意識して訓練を行っている。シャルやエリザベートとはそれなりにダンジョンに行っているからな。三人だけなら結構な練度だ。
「やっと終わりましたわ。」
ゴブリン、ノールの複合部隊を片づけ、死体をあさる。戦争用に物資が欲しいらしく、質の悪いゴブリンやノールの武器も使うらしい。皮も使うそうで、そのため倒した端から素材が回収されて王都へと運ばれていく。だが、これはパシリではない。訓練だ。
「少し休憩にしようか?」
(コクッ)
ブレーズの提案を承諾し、休憩にする。まぁ、今の戦闘は大分きつかったしな。シャルとエリザベートの魔力も回復しないといけない。
「しかし、『大盾の悪魔』強いな!流石は『悪魔』だな!」
褒めてくれるのはいいんだが、悪魔とか言われる反応に困る。アミラもなぜか悪魔を気に入ってるからな。アミラが『大盾の悪魔』と言ってから、広まるのは早かった。早く人に戻りたい……。
「あ、あの!レーヌさん!」
(?)
ルネが突然声を掛けてきた。なんだろうか。
「い、今まで、ごめんなさい!」
(?)
謝られるようなことしたっけ?
「あ、いや、あの……。レーヌさんが無属性ってわかってから、ち、ちょっと怖くて、近づかないようにしてたんだ。だ、だから、ごめんなさい!」
ん?あぁ。そう言えばそのころからルネとは武術で組まなくなったな。でも、まぁ、他の連中に比べたらマシだ。彼奴ら躊躇せずに魔法とか撃ってくるからな。魔力とかもったいないと思うんだが。
「同じチームになったんだし、謝らないとと思って……。」
[大丈夫。気にしてないよ?]
「ホ、ホント!ありがとう!」
(コクッ)
別にルネのことは嫌いじゃないしな。オドオドした感じ、母性本能をくすぐられるというか……いかん、完全に女になってきている。まぁ、女なんだけどな。心は男で居たいじゃないか!
「そ、それでね、話は変わるんだけど。」
(?)
「ぼ、僕って隙が長いでしょ?」
(コクッ)
まぁ、そうだな。残身は長すぎる。
「だ、だからみんなの、あ、足を引っ張っちゃうと思うんだ。」
(フルフル)
それでもあの一発はおおきい。ゴーレムのような硬い相手だと弾かれるが、人相手なら確実に仕留められる。残身が長いなんて些細なことだ。残身中は俺が守ってやる!
「ありがとう。で、でね、考えたんだ。す、隙が短くなる方法。」
(?)
残身が短くなるならそれに越したことはないが、威力が無くなったり、早さが遅くなったりするのは無しだぞ?とりあえず聞いてみるか。
「え、えっと……。これは、レ、レーヌさんにきょ、協力してもらうことになるんだけど……。」
(コクッ)
チームだからな。協力は惜しまない。死ねとか言われたら困るけど。
「レーヌさんって、く、鎖を使うでしょ?」
(コクッ)
「だ、だからね、その鎖を、ぼ、僕の腰に着けてほしいんだ。」
……ルネにそんな趣味が……。そんな歳でその趣味は結構危ないと思うぞ?さて、冗談は置いといて、どういうことだ?
「僕が突き終ったら、く、鎖で僕を引っ張ってほしいんだ。そ、そうすれば、レーヌさんも、ぼ、僕を守りやすいでしょ?」
なるほどな。ルネを俺の小盾のように使う訳か。それなら確かにいけるかもしれないな。鎖を引っ張ってみんなの元に戻せばそれだけ守りやすくなるし、最悪、鎖だけでルネを動かして避けることもできる。ただ、残身は強制終了されると思うのだが、大丈夫だろうか。
[わかった。ちょっと試してみようか?]
「うん!あ、ありがとう。」
という訳で鎖をルネの腰に引っ掛ける。準備ができたらルネが適当に槍をついて前に出る。何時見ても速いな。鎖をつけていても速さには問題がないようだ。
ルネが残身に入り、俺は鎖を引いてルネを傍に寄せる。もちろん『スローチェイン』で鎖を操りながらだ。
ルネを一旦持ちあげて、俺の傍で着地させる。若干ボーっとしているが、着地はできるようだな。これなら問題なく使えるんじゃないか?
「で、できたね!」
(コクッ)
復活したルネが喜んで俺に微笑んだ。男なのにカワイイだとっ!いかんいかん、そんなことよりもルネの体調の心配をしなければ。一応残身を強制終了させたわけだし、精神面や肉体面に大きな負担があるかもしれない。
[どう?どこか痛いところとかない?]
「うん!だ、大丈夫だよ?」
[よかった。じゃあ、後は実戦で使って慣れていこう。]
「うん!」
どうやら大丈夫そうだ。後の問題点は、実戦でどれだけ有効かってこと、鎖の位置、技名だ。
最初の問題はこの後の訓練次第だな。対多人数でこれが通用すれば、うちのチームの攻撃力が飛躍的上がる。何としてでも実用化に持っていきたい。
次の問題だが、鎖の位置と言うのはルネに着ける部分ではない。収納しておく場所だ。俺は今、鎖を二本持っているが、それは小盾に付いている。その片方をルネの方に運用してもいいんだが、鎖付き小盾が一つと言うのは心許ない。なので、ルネ用には新しい鎖を用意して、ルネの装備に収納するか、俺の装備に収納するか、収納しないかの三択だ。王都に戻ってから皆で考えよう。
最後の問題。これは重要だ。これが新しい気法になるかもしれないからな。だがしかし、俺は既に技名を考えている。『ルネブーメラン』だ。ルネが飛んでいき、戻ってくることからその名前にしたのだが、ブーメランのように円を描いて飛ぶわけではないのでそこが少し気に入らない。まぁ、でも、他に思いつかないし、これでいいか。
「そろそろ訓練を再開しよう!」
技名も決まったところでブレーズが再開の合図をする。さて、『ルネブーメラン』も改良が必要だし、みんなの連携もまだまだだ。学校対抗戦までに何とか形にしないとな。




