112話
ここから、チーム二年は一気に攻勢へ出た。エリザベートを失ったからなのか、守っていても直ぐにやられると判断したのだろう。
セリーヌとルネはブレーズを仕留めに行く。ルネはあの残身の長い攻撃が隙になるが、スピードを抑えれば残身はなくなる。スピードを抑えると言ってもまだまだ速く、ブレーズの攻撃を避けるには十分な速さだ。セリーヌは隙を見ては小さな水の球を発射したりしてルネの援護をしている。
しかし、ブレーズは二人の攻撃を軽快に避け、やり過ごしている。今は弓を捨て、剣に持ち替えている。二刀流で、左右で長さの違う剣を持っている。普通に強いな。しかも、シャル達の方へ攻撃が行かないように立ち位置まで気を使っている。セリーヌたちは早くシャルを倒したいのだろう。何とかそちらへ行こうとするが、ブレーズがそれを遮る。二人相手に見事な立ち回りだ。
「『サークルスイング』!」
オーギュストが回転し、バジルたちを吹き飛ばした。バジル、ダミアンもここで脱落だ。シャルの攻撃がかなり効いていたらしい。動きが鈍かったしな。
「やあぁ!」
オーギュストが解放されればチーム二年に勝ち目はない。ルネは最後にオーギュストに飛び込んでいったが、大斧で防がれオーギュストにやられてしまう。セリーヌ一人ではどうすることもできないな。ブレーズにそのままやられてしまった。オーギュストと愉快な仲間たちの勝ちである。
「どうだ?選抜メンバーは決まったか?」
そうだなぁ。とりあえず、ルネは一度攻撃の後に生還出来てるから、誰かがヘルプに回れば何とかなるかもしれないな。まぁ、集団で攻められたときにはどうなるのかわからないが……。
セリーヌは上手く策を取ってくれたが、自身の強さはそこそこ。軍師として欲しいかもしれないが、チームメンバーに加えるには物足りないな。
やはりここはブレーズか。守りながら戦えるっていうのを見せてくれたしな。それにこの中ではオーギュストの次に強いだろう。これは決定だ。
残り一人はどうするか……。まぁ、ルネかなぁ。確実に一人を倒せるっていうのはデカい。オーギュストは倒せなかったが彼奴は規格外だし、まぁ、いいんじゃないか?
(コクッ)
[ルネとブレーズにします。]
「おい!ちっこいの!俺と勝負しろ!お前がリーダーなのは気にいらねぇ!お前が負けたら俺がリーダーだ!お前の下なんかで戦えるか!」
お前はメンバーに入っていないぞ?俺の下で戦う事は無いはずだ。まぁ、まだメンバーを発表はしてないからな。ただ、二代目もそろそろ使い慣れてきたし、実戦で試しておきたい気はするな。ダンジョンの魔獣相手と人相手じゃあやっぱり違う。授業でも相手はセリーヌかアミラがたまにだ。エリザベートともたまに打ち合うが、はっきり言って相手にならないからな。いい機会だ。戦ってみようか。負けたらその時はその時だ。リーダーでも何でもくれてやる!
(コクッ)
「レーヌ・ベルニエ。いいのか?」
(コクッ)
「はっ!外野は黙っとけ!こいつが了承したんだ。勝負といこうじゃないか!」
教官を外野呼ばわりとは、俺にそんなことを言う度胸はないな。
「わかった。では貴様ら、位置につけ!」
(コクッ)
オーギュストは何も言わずに俺とは反対の位置に行く。その顔は真剣そのもの。俺も気を引き締めていかなきゃな。
「戦闘開始!」
戦闘開始とともにオーギュストが仕掛けてくる。オーギュストの振り下ろしを二代目で受け止める。重い。しかし、ギガースに比べればまだまだ!
俺はオーギュストの斧を『吹き飛ばし』で弾き、『ラッセルチャージ』を発動させる。オーギュストは斧で防ごうとするが、『ラッセルチャージ』は気法。普通に防御しただけじゃあ弾かれるぞ?
「なっ!?」
オーギュストは横に弾かれ、体勢を崩す。自分がパワー負けしたことに相当驚いているようだな。俺は気法を解除し、反転、腰のガードに付いている盾をフリスビーのように投げる。鎖は着けていない。ただの挑発だ。
「そんな攻撃効くかよ!」
オーギュストはそれを難なく弾くと俺の方へ駈けてくる。そして、勢いそのままに斧を振り下ろす。
俺は『サイドフリックバク転コンボ』を発動させる。始めの一振りはオーギュストが振り下ろした斧に当たり、斧を横に弾く。勢いが止めらないオーギュストの身体は俺に急接近だ。がら空きの身体に俺の蹴りが当たり、続いて振り上げた二代目がオーギュストの顎に当たり、オーギュストは仰け反る。バク天キックは当たらなかったが、オーギュストにはそれなりのダメージを与えたはずだ。
「……おう、。よくもやってくれたな!」
オーギュストが完全に切れている。まぁ、顔を蹴られたわけだし、プライドはズタズタだろう。だた、顎にクリーンヒットしたと思ったんだがな。気絶しないとはさすがだ。
「おらおらおらおらあ!」
オーギュストが斧を振り回しながら走ってくる。すごい迫力だ。俺は一応盾を投げることでその速度を遅くしようと試みるが、全く遅くならない。普通に弾かれた。
「『クラッシュ』!」
これは嫌な予感がする!俺は二代目で受け止めることはせず、後ろに下がって回避した。
マジか。オーギュストが振り下ろした斧は地面に当たり、地面を砕く。あんなの当たってたら二代目が壊れちゃう!せっかく使い慣れてきたところなのに、不味いな。ここは作戦変更だ!
俺は二代目を地面に下し、無手になる。
「てめぇ、嘗めてんのか!」
オーギュストは怒り心頭だ。ただ、俺はお前を嘗めてるわけじゃない。お前の強さを認めたから二代目を離したんだ。これからは素手と小盾で戦う。
俺は鎖のついた盾を含む残りの盾をすべてを投げる。もちろん『スローチェイン』は発動中だ。
オーギュストは先ほどまでと同じように盾を弾くが、捌き切れなかった。『スローチェイン』によって鎖を誘導し、オーギュストの身体をぐるぐると……。芋虫風オーギュストの完成だ。俺は鎖を引っ張り、オーギュストを転ばせる。これで終わりだ。
「クソッ!どうなってんだこの鎖は!」
「何をした!やっぱり『悪魔』の力なんだな!」
「鎖のあの動きはどう考えてもおかしいぞ!」
野次が飛んでいる。まぁ、気力で操ってるわけだし、自然ではないよな。
俺は教官に目配せをして試合を終わらせる。
「試合終了。勝者、レーヌ・ベルニエ!」
試合が終わったので俺は鎖を解いてやる。
「納得いかねぇ!ちっこいの!お前何をした?バインドか?でもお前、無属性だろ!なんで風属性が使えんだよ!」
(?)
「オーギュスト・ルシアンボネ!見苦しいぞ!アレは気法だ!」
(コクッ)
「気法だと……!」
「レーヌ・ベルニエは無属性で魔法の使用が禁止されている。そのため、気力の扱いに力を入れたのだろう。気力の扱いには長けているぞ?ついでに言えばルネ・パルリエのあの一撃は気法だな?」
え?気法だったの?体の中で完結するタイプかぁ。見えないから真似は出来そうにないな。
「は、はい!なので、連射はできないです……。」
「そうだな。気力の再使用までには時間が掛かるからな。わかったか、オーギュスト・ルシアンボネ!」
「……クソッ!へいへいわかりましたよー。」
「では、選抜結果については後日知らせる。解散!」
こうしてチーム選抜は終わった。オーギュストが選ばれていないことを知ったらまた一悶着ありそうだな。はぁ、面倒臭い。




