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98話

 目が覚めたのは夕方ごろ。隣でエリザベートも寝ていた。実際には隣と言うか真横と言うか……。まぁ、俺はエリザベートにホールドされてるわけだが、これは動けないな。ガス君の気持ちがわかる。無理やり動こうと思えば動けるのだが、起こしてしまうかもしれない。気持ちよさそうに寝ているもんだから起こすのが申しわけない。

 


 エリザベートの寝顔を見ていたら目が開いた。起きたみたいだな。これで解放される。アミラの方は大丈夫だろうか?


「レ、レ、レ、レーヌ、お、起きてましたのね!」

(コクッ)

「こ、これは、そのー、……アレですわ。レーヌが寒そうにしてましたから……。」

「さむくない。」


俺は強化皮膚がある。寒そうにしてたんなら他の奴らは死んでるかもな。


「え?いや、あの、その、……何でもありませんわ!」


 エリザベートが飛び起きて立ち去ってしまった。1人取り残された俺はとりあえずアミラの様子を見に行く。だいぶ消耗していたし、心配だ。



 アミラは既に起きていて、夕食を取っていた。


「レーヌちゃん、ありがとね。レーヌちゃんが来てくれなかったら私……」

[無事で良かったよ。体は大丈夫?]

「うん。大きな怪我はない、かな。」


まぁ、小さな傷はたくさんあるしな。でも、無事そうで何よりだ。寝る前よりもだいぶ顔色もよくなってるし、大丈夫そうだな。


「アミラ、起きてらしたのね。」

「あ、エリザベートちゃん!おはよー。」


エリザベートが戻ってきた。なんかよくわからんが落ち着いたみたいだな。


「もう夕方ですわよ?」

「えーと、じゃあ、こんばんは?」

「こんばんは。……単刀直入に聞きますわ。いったいダンジョンで何がありましたの?」

「う、ん……。やっぱり言わないとだめだよね。」

「そうですわ。助けに行ったレーヌには聴く権利がありますもの。」


いや、無理して聴きたいとは思ってないが……。無事だったしそれでいいじゃないかとも思う。


「あ、そう言えばみんなは?みんなに言われて来てくれたんじゃないの?」

「……あいつらは帰りましたわ。」

「そっか、みんなも怖かったしね。昼には帰っちゃってたかぁ。でも、みんな無事だったんだよね?」

「えぇ、無事でしたわ。そんなことより、何があったのかを話してくれませんの?」

「そんなことって……。みんなが無事じゃなかったら私ががんばった意味ないもん!大事なことだよー!」


 アミラも元気になってるな。他人の心配をする余裕も出てる。


「えっとね、ダンジョンの中でのことなんだけどね。私たちはギガースの討伐に来ていたの。」

「討伐って、ランクはいくつですの?」

「えっとね、みんなランク4だよ?」

「そ、そうですか。お高いんですのね。」


エリザベート、自分よりランクが高いからって焦らなくていいぞ?ランクが全てじゃないからな。それに俺だってランク2だ。お前より低い。


「うん!みんなでコツコツがんばったからねー。薬草採取とかいろいろ!」

「それにしては早くありませんこと?」

「えっとね、武術の授業でお世話になった冒険者さん達と一緒にダンジョンとか行ってたからかな。」

「そうですの!ですわよね。そんな1年足らずでランク4なんて!」

「うん、そうだよー。」


よかったな、ちゃんと理由があって。しかし、ランク4か。ギガース討伐推奨ランクは5以上だし、特に問題はない気がするが。


「話を戻しますわ。それで、ギガース討伐は確かランク5以上推奨だったはずですけれど?」

「うん、でも、みんながランクが1違うくらいなら大丈夫だって言ってたし、私も大丈夫だと思ったの。で、受付でも注意されたんだけど、初めて皆だけでのダンジョン潜りだったし、大物倒したかったんだよー。」

「初めてでしたの!?魔獣との戦闘経験は?」

「えっとー、冒険者さんと一緒になら何回かあるよ?コカトリスだって倒したんだから!」

「……コカトリスはどうやって?」

「冒険者さんが魔法で拘束して、みんなで殴ったよー。」


何を怖いことを……。集団リンチとかコカトリスも恐怖だろう。まぁ、コカトリスがどんな魔獣なのかわからないから何とも言えないが……。


「もういいですわ。それで、一体何があったんですの?」

「そうだね。うん、話すよ?えっとね、私達は昼ごろにダンジョンに入ったんだけどね?――――」



 

 アミラ曰く、ダンジョンに入ったはいいが、歩けども歩けども魔獣と遭遇することはなく、周りを見ても木ばかり。楽しみにしていた魔獣との戦闘が全くできず、また、歩き疲れてしまったので、始めの勢いが無くなってしまったそうだ。

 しばらく歩いて、少し休憩しようと言う事になったらしい。で、ちょっと開けた場所で座ってたら寝てしまったらしい。おい、エリザベートと言い、こいつらと言い、緊張感無さ過ぎだろ!ダンジョンの中だぞ?

 寝てたら地響きがして、目を覚ましたらしい。起きると既に夕方で、アミラはそろそろ出ないと危ないと言ったのだが、サミュエルがまだ何も収穫がないから帰れない。この地響きはギガースに違いないと言って地響きのする方へ走り出してしまったそうだ。

 仕方がないのでみんなでサミュエルを追い、見えてきたのがギガースだったそうだ。しかも1体ではなく、たくさんのギガースがいて、こっちを睨んでいたそうだ。これはまずいと思い、みんなで引き返えそうとしたのだが、サミュエルだけはギガースの群れに飛び込んで行って、脚を切りつけたらしい。蹴った瞬間、蹴飛ばされてアミラ達の前まで飛んで来たそうだ。幸い、木の枝で衝撃は吸収されたらしく、大きな怪我はしてなかったそうだ。

 絶対に勝てないと悟ったサミュエルとか4名は一斉に走り出し、ダンジョンの外へ向かった。しかし、ギガースは歩幅が大きく、速かった。このままでは直ぐに追いつかれてしまう、そう思ったアミラは自分が囮になることを提案したそうだ。みんなもその提案には賛成で、アミラは気力をブーツに流し、速度を上げるとともに、弓でギガースの気を引き、みんなとは違う方向に逃げたそうだ。その勇気というか、無謀と言うか、まぁ、結果的には助かったんだし、勇気と言えるのかな?

 何とかギガースを撒くことに成功して、ダンジョンの外へ出ようと思ったのだが、すでに周りは暗く、何処が出口かわからなくなってしまったらしい。立ち止まってても仕方がないと思い歩き回っていると、ストーンウルフに襲われてしまったそうだ。弓矢はギガースから逃げる時に少しでも身を軽くするために捨ててしまったし、使える魔法は『フラッシュ』だけ。逃げるしかなかったそうだ。

 で、その後は俺が助けて、森の中で一夜を過ごし、昼までかけてダンジョンの外へ出たという訳だ。



 昨日の経験や、アミラの話から察するに、このダンジョンの魔獣は夜行性ってことだな。まぁ、それはひとまず置いとくとして、よくアミラは助かったな。普段のアミラなら、逃げてる途中でコケて死んでたぞ。これも日ごろの行いがいいからなのか。……俺もみんなに優しくしよう、そうしよう。まぁ、優しくしたところで飛んでくるのは野次と魔法だけ。中等部に上がってからは矢も飛んでくるようになったな。ホント、危険だぞ?目に当たったらどうするんだ?失明したら責任とってくれるんだろうか?俺の目には強化皮膚は適用されてないんだからな。


 燻製の煙が目に染みたことを思い出して、そう思うのだった。

  

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