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1:追いかけ回されて

日も傾く夕刻の頃、弐式耀にしき ひかりは全力で走っていた。

地を蹴る時間は1秒も掛からずに即、前方の地に足が付く。その繰り返しを1キロほど行い、ようやくロールドストリート外へと抜け出す。夕陽とは反対方向にある東駅に向かうにはここから左程遠くはなかったが、敢えて遠い西駅へと舵を取る。

―――あー、なんでっ、こうなっちまうんだよ。俺は何にもしちゃあいねぇ。そうだよ、俺は何もしちゃぁ、いねえ!

そう心の中で叫びながら一生懸命走る青年の姿を100メートル後方から追随する人がいた。

追随する彼は・・・いや、彼女は酒蔵楓さかぐら かえで。弐式の仮恋人だ。

仮恋人とは、文字通り仮の恋人。本当の恋人ではない亜種の恋人なわけだが、弐式はそんな彼女に学園からずっと追い回されている。

その理由はこうだ。

「弐式君、鬼ごっこしましょうね。もしも~捕まったら、私の仮恋免許剥奪ね」が発端である。

仮恋人免許。通称、仮恋免許はこの地区で生きていくために必要不可欠なアイテムであり、紛失でもしようものなら即刻死刑宣告が下される、誠に現実社会のお金とよく似ているものだが、お金と違う特典のようなものは少なからず付いており、仮恋免許の相手の命令は絶対遵守やこの地区で生活出来るという特典だ。

それを剥奪ということはこの地区での生活を奪われるも同然だ。

だから、弐式は死に物狂いで爆走している。アスファルトが凹もうが彼にとってはどうでもいい。それよりも背後から忍び寄るボーイッシュ少女の方が脅威だった。

少女は弐式が全力で走っているというのに、全く持って息を切らさずに追随してくる。

例えるなら、弐式がモルモットで、彼女が狩人以上の・・・化物?多分そうだろう。

「あんなに可愛いのに化物かよ!」

作者と同意見の主人公はそう叫びながら、街角を曲がり、ようやく堤防に差し掛かる。堤防を真っ直ぐ行けば東駅は目と鼻の先だ。

「あともう少し」

脚に鞭打って体重を前に乗せて、重加速。一気に堤防の上へと飛び乗った。

弐式耀は人間ではない。『ジグロ』と呼ばれる生命体であって走る早さや脚の筋力に於いては人のそれをとうに擢んでている。なので、こんな芸当は朝飯前なのだが・・

「弐式君、それは反則ですよー。そちらがそんな態度なら、私にも考えがあります」

あり得ない追いつきで堤防下に到着したらしい楓の声が聞こえた。息が切れている様子はない。

弐式は過呼吸手前だというのに、ほんとうに化物なのだろうか?。

「御機嫌よう、弐式君」

突如背後から、声が聞こえ、振り返ってみると

「はっ?楓!?」

ボーイッシュから一転、セミロング姿で現れた酒蔵楓の姿がそこにはあった。

思わず、声が飛び出たが、弐式は普段「楓」とは口にしない。酒蔵楓のことは「酒蔵さま」か「酒蔵さん」と呼んでいる。そして今に来て、「楓」。主従関係から彼氏みたいな呼び方と・・随分ぶっ飛んでしまった。

―――ああ、殺される。

涙ちょちょぎれながらも、俺は言い訳を綴ることにする。

「いや、酒蔵さん。まあまあ落ち着いて、今のはさ。そう、人って追い詰められると普段とは呼び方を変えたくなるものなんだよ。ね、だから、今のはなしなしなし」

「ええ、別に私の事どう言われようと構いませんよ。でも、私は化物ではなくってよ」

「あはは・・・、聞こえたらしたんですか・・・」

「はい、ばっちりこの私の高貴な耳で聞いていましたわ」

「あ・・、は・・、は・・・」

弐式は苦笑いしながら後ずさり、等々堤防の端っこまで追い詰められる。

「言い残したいことはあるかしら、弐式君?」

「ないです」

「そー^^」

「いや、やっぱあります!」

もうこの地区でやれること全てやった。あとは弐式自身の夢というか、願望というか、そういうものを叶えるときが今きた。


「好きです、先輩!」

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