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正直、ルカにとってこのゲームをなんと表現したら良いかは分からない。
ただ、これだけリアルなNPCに囲まれた世界をゲームと呼ぶの事、そして、本当にリアルの人間をトレースしたNPC達の感情や行動は、キャラというには抵抗がある。本当にこの世界の住人なのだ。
6年間を暮らして、本当にリアル以上の濃密な6年間だった。
正直、リアルで生死と共にして死力を尽くして一緒に戦った戦友なんて出来るはずもなく。
生き残った後の戦友たちとの宴ほど濃密な多幸感に襲われたこともない。
そして、3時間前に味わったばかりの死は、リアル以上の死をルカにもたらした。
そんな戦友たちと二度と会うことは出来ない。恩を返すことも出来ない。
死とは、関係性の寸断だ。
死してなお、生者と意思疎通が出来るとしたら、どんなにか死という存在を恐れずに済むのか。
また、死がいわば永遠の孤独への入り口とイメージされるからこその恐怖なのだろう。
そういう意味では、ルカにはチャンスがある。
もしかしたら、この超加速に耐えられなく、このプレイを最後に廃人となってしまうかもしれない。
だけれど、一度でいいから、精一杯全力で生きてみたい。
惰性で生き、虚勢で生きてきた、リアル。
ゲームだからと手を抜き、怠惰に生きてしまった6年前。
あの時も、勝手に「ちょっとした多めの休暇になれば」
なんて簡単な気持ちで多めに加速してしまったのだった。
だからこそ、最初の1ー2年はまったりのんびりバカンス気分を楽しんだ。
最初にゲーム内で死なないようにと、βテスターとして、与えられた特別なアドバンテージに甘んじて
遊び、怠け、放蕩した。
そんな自分を更生させ、進むべき道へ進めてくれた、師匠、そして、支えてくれた仲間。
あの時、もっと頑張っていれば、序盤をもっと努力していれば、あの戦線をもっと良い形で維持できた
もっとみんなとの時間をより素晴らしいものに共有できたのではないのか・・・
リアルの人生でも、6年前のプレイでも、本当の意味で全力で生きた事はなかった・・・
だからこそ!
案内された家は、岩壁を繰り抜いた住居だった。
その岩壁に無数の穴が開いている。
これが、サラマンダー族の住居なのだろう。
「おじゃまします。」
「ルカ。ここはあなたの家よ。そんな他人行儀はよして。」
基本的に、トレースオンラインでは、自分の周囲の人間は好きなような設定で配置できる。
だから、物語序盤に、この世界に馴染みやすいように、
こういった家族は、リアルでの家族がトレースされた人格だ。
もちろんまったく同じと言うわけではないが、リアルでの母を思い起こさせてくれる。
これも、加速時の長時間プレイにプレイヤーが耐えられるようにする工夫なのか?
「ありがとう、母さん。ちょっと、今日はまだ混乱してるから寝させてもらうよ。」
「そう・・・分かったわ。でも、明日からあなたの仕事が始まるのよ。」
「うん。分かった。」
そうして、早々に食事をして就寝したのであった。
そういえば、父のキャラクターは何処へいったのだろうか。
仕事ってなんだろうか。
いろいろ疑問は残ったが今日は寝ることにした。