その世界で
「うわぁっぁぁぁぁぁ」
悲鳴を上げ、起き上がるとルカは祭壇から転げ落ちた。
「ここは?」
「うむ、儀式は終わりじゃ、皆の者ルカに祝福を!」
「え?あ?」
白髪の威厳ある男に立たされると、体育館ほどの大きさがある洞窟に数十人が揃ってこちらを見ている。
「ここは?」
「ルカ。成人の儀式は終わった、今日からお主も立派な大人じゃぞ」
前回のプレイでも、確かこういうスタートだったなぁと、6年前の事を思い出す。
確か、この後、転生者として扱われる事になるんだっけか?
「チョット待て、お主、そのネームカラーは・・?そうか、そういうことか、お主は転生者になったのだな?ということは、記憶もなくなってしまったのか・・・・」
トレースオンラインにはプレイヤーは転生者と呼ばれる存在としてトレースされる。
数万の初期データに加えて、プレイヤーがトレースした人々のトレースデーターをゲーム開始前に内部加速によって、プレイヤーの転生キャラクターが17歳を迎えるまで加速させる。
17歳になるまで一気に加速する間に、トレースデータも現実世界とはまた違うテイストの性格で適応していく事になる。
そうすることによって、何度でも遊べる、まったく違うゲームとして新鮮に遊べるというところがこのトレースオンラインの面白さだ。
プレイヤーは自分のトレースキャラクターが17歳になった時点でゲームが始まる。
今までのトレースデータは削除され、プレイヤーが直接リンクする事になる。
もともと、自身からトレースされたデータとはいえ、この世界では、今までのデーターは実質「死」を迎え
プレイヤーが成り代わって誕生するわけだから、非常に倫理的にどうなのか?という問題もある。
初期データーとして、稀に成人の儀式の際に、転生者となるモノがいるという事は
データーで入っているので、プレイヤーも自然とこの世界に馴染んでいくという
なんとも良く考えられたシステムだ。
記録喪失まで同時に発生するという設定だから、ゲームの導入部としては、本当にありがたいシステムだ。
ゲーム序盤にいろいろとサポートしてくれる人物として、自身の親族データーを使うものも多いので、トレースクエスト内でも違和感なく家族と一緒にいる感覚は、まったく同一ではなくとも得られるし、周囲のキャラクターからもプレイヤーの入れ替わりによって、今までのトレースデーターからの変化は多少はあるにしても、基本的な性格や行動パターンが非常に似通っているために、記録喪失と合わさって、受け入れしてもらいやすくなっている。
「私なら大丈夫です。転生前も同じような世界にいたから」
「そうか、ワシも直接転生者に会ったのは始めてじゃが、とにかく家族の元に送り届けてあげよう。」
「ありがとうございます」
そう言って、白髪の男をまじまじと見ると、流石にサラマンダー族というか、目は黄色く、じゃっかんのツリ目、お尻の方からは、立派な尻尾が垂れていた。
人間とはどこそこ違うのだった。
「ルカ!大丈夫だった?」
既に寺院から報告が行っていたのだろう、母親と思われるキャラが駆け寄ってくる。
正直、キャラという気持ちはルカの中には無かった。
このゲームの内部は、パラレルワールドだ・・・・
ゲームという範疇では収まりきれない人々の想い。
既に6年を過ごしたこのゲームの世界をルカは、もう一つの人生と捉えている。
また、だからこそ、リアルでも、前回のプレイでも失敗した人生を
今回こそはという想いで、こんな無謀な加速状態でゲームに挑んだのだった・・・
「大丈夫よ。ちょっと記憶が曖昧になっちゃってるから、よろしくね。」
「体が無事ならなによりよ。家に帰って、今日はゆっくり休みなさい。」