目覚め
「コレでキメる!」
ルカは、意識を集中し大規模詠唱に自身の詠唱を合わせていく。
広大な大地にエルフ族の声が溢れ合わさり大地が震える。
直径6kmにも及ぶ大魔法陣の外周には、シャドー族による暗黒の巨大防御壁が広がっていた。
「いっけぇぇぇ!!!!」
ルカは叫んだ。大規模詠唱が終わると、見たこともない巨大な光り輝く光球が、大魔法陣より浮かび上がると、一直線に敵陣中央に落っこちた。
爆発、巻き上がる土埃、それらが見えたかと思うと、一瞬遅れてとんでもない衝撃波が襲ってきた。目をつぶっても無数の物体が飛んできては顔や肌にぶつかりHPを削り取る。
身を屈め必死に地面にしがみつく、ドワーフ達の咆哮、ケット・シー族やテイムされた魔獣達の悲鳴が無数に聴こえる。
ゆっくりと身体を起こし敵陣を見つめると、爆炎が消えた場所から敵戦力の8割近くが壊滅しているのが確認出来た。
勝った。
ルカの脳裏にこの1ヶ月にもおよぶ戦闘の様々な情景が思い浮かぶ。感傷や憂い、喜びなどを噛みしめるにはまだ早い。ぐっと拳を握ると声高らかに叫んだ。
「殲滅戦だ!一兵も逃すものかぁ!」
再び詠唱が始まる、敵をホーミングして撃墜するホリーアローが次々とエルフ陣営から敵陣へ飛び立つ。
ケット・シーが作り上げたゴーレムの防御壁を削り始める。
すると、ルカの耳に聴き慣れない異音が飛び込んできた。それとほぼ同時に自陣右方向に数百にもおよぶ火球の雨が降りそそいだ。
左方向の陣には雷撃の雨が、そして上を見上げると、赤みを帯びた空が真っ黒になるほどの何かから大量の氷の刃が降り注いでくるところだった。
「あああああああああ」
・・・・・・・・・
目を覚ますとそこは真っ白で綺麗な部屋だった。
ニヤニヤとこちらを見つめる優男は、佐藤和希この「トレース ファンタジー」の開発者であり、大企業アカデミックの執行役員であった。
「どうだった?βテストは楽しかったかい?」
何が何だか一瞬把握出来なかった。
そして、胸が苦しくなり涙が溢れ出した。
「うああああああああああ」
ルカこと、高田晴日は絶叫し崩れ落ちた。
「大丈夫かい!?」
和希は血相を変えて駆け寄ってきた、専用の液体で満たされたTACVCの中から
晴日を引き上げた。
「あああああああ、何もできなかった、護れなかった・・・いや、チャンスはあった。でも、ゲームだからと私は・・・・」
放心状態の晴日の眼は何処か遠くを見つめ、和希の呼びかけにもしばらく応じる事は無かった。