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異世界ミリオタ記  作者: 慶蘇 静明
日原(ひのはら)国編
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五話 友情に垣根は無い








アレから2年、8才の時分である。


俺はようやくこの辺りの寺子屋に通える年になったが、


よく考えると約二年もの間貴族のエリート教育を受けている市姉さんに、家庭教師をしてもらっていたのである。



───読み書き・算学・地理・歴史・礼儀作法。



それらを俺は完璧に学習してきた自信がある。


【スキル:学士】も相当にレベルが上がったのが確認できる。


その上姉さんまだ11歳だである。この世界では元服は16歳なので、あと四年も学ぶ余地があるのだった。


故に、俺も四年間姉さんを通してこの世界の貴族教育を受ける事が出来るのだ。


よく考えなくても行く必要は無かった。一切無いと言っていい。



「・・・・だがな、寺子屋もあれはあれでいい所だぞ?あそこで出来た友達は一生の仲間になる。

場合によっては人生の伴侶となる人間が見つかる事もあるんだ。そんなに学費が高いわけでも無いし、冷やかしに行って見ればどうだ?」


「そうよ。それにあなたが取ってきてくれた毛皮の分だけで、3年間寺子屋に通うお金以上よ。お金の事で遠慮する事は無いのよ?」



だが両親は口々に寺子屋への入学を勧めた。


言葉の端々には、一匹狼と言うかコミュ障レベルの俺を心配する気持ちが篭っている。


余計なお世話だと言うのは容易いが、確かに自分でもこれは良く無い兆候だなと感じている。


俺もそろそろ、将来の事を考えて仲間作りでも始めた方がいいか・・・・とも考えているのは確か。



「うーん。そうだよね。それもそうか・・・。」



世の中人と人との繋がりが身を助ける事は多い。


そうでなくとも、俺がこの世界に来てからまともに話をした人間など、それこそ家族に加えて村のジジババばかりだ。


情報収集を念頭に置いていたため、どうしても知識層を狙ったコンタクトになってしまうのはむべなるかな。


しかし、それが言い訳になるわけでもなし。


必要なものは必要である。



「わかった。行くよ。」



そう言うと、隣で話を聞いていた市姉さんが悲しげに声を上げる。


割と反対派だった過保護な姉さんは、ペタペタと俺の頬を触った。



「そう、行っちゃうのね・・・。シュウちゃんなら大丈夫だと思うけど、虐められたりしたらすぐに言うのよ?

同年代の友達も居ないし、一人ぼっちにならないように気をつけてね?」


「市姉さんは心配性だなぁ。大丈夫だよ。」



市姉さんは心配げに俺を見つめた。


だがそもそも物理的に俺を虐められる子供などそうはいまい。


あれから二年、北の森からは目に見えて仔鬼族が少なくなった。・・・・・俺が狩り尽くしたためだ。


それだけ殺し続けた俺のレベルはと言うと、既に28に達している。


レベル28と言うと、既に成人並の身体能力を持つらしい。むしろ、相手の怪我を気遣わなければならないくらいである。


大人気ないにも程があった。



「秋一はそんな玉じゃないさ。

こいつは大物だぞ、畑に陣取った大蛇を手づかみで絞め殺すなんて早々できるもんじゃない。

大した胆力だ。もしかしたら、そうそうにどっかの女の子でも引っ掛けて帰ってくるかもな。」



がはは、と下品に笑う父。


俺はそんな奇怪な子供を笑い飛ばす事の出来るその胆力にこそ驚嘆する。


あれは大蛇といっても精々2m程度の細い蛇だったから出来た事だし、


村のジジババから毒の無い種類だと教えられていたから怖くなかったのである。


絞め殺してしまったのも、単に力加減を間違えただけだ。


だがよくよく思い返してみれば、まさに鬼子の所業。不気味極まりなかった。


この親父はどこからか市姉さんを引き取ってきたり、只の農夫なのは間違いないが、大概何処か肝が太い。



「ま、ともかく。俺と母さんの馴れ初めも、寺子屋時代からの縁だったんだ。

見合いで結婚する奴等も多いが、個人的には自由恋愛を進めるな俺は。」


「うむむ・・・・。」



それは初耳である。寺子屋と言えば、8歳から11歳までの3年間を勉学に当てる機関だ。


そんな小さな頃からずっと一緒にいたとは恐れ入った。何という熟年夫婦だろうか。まだ二人とも24だと言うに。



だがまぁ、子供でもこんなミリオタを相手にするような蓼食う虫も中々おるまいと思う。


・・・しかしもしかすると、そう言う事もあるのかもしれない。


俺は前世から続く儚い希望を、そこはかとなく胸に秘めたりしてみた。



「そ、そんなの駄目っ!シュウちゃんに女の子なんて出来るわけ無いわっ!!無理!絶対無理よ!」


「・・・・・ふぐっ!?」



しかし、突如そう慌てふためき断言するする市姉さんの言葉が、胸を抉る。


純粋無垢な子供ゆえの言葉の暴力か、それほどまでにそれは不可能ごとだとでも言うのか。


心に盛大な傷を負った俺は、そっぽを向いた。



「あらあら、そんな事は無いと思うわよ。秋一は変わってるけど、魅力的だもの。

きっとシュウちゃんの良さに気付く子も沢山居る筈よ。」


「う~~。」



不満げに唸る市姉さんはまだ言い足りぬとでも言うのだろうか。


フォローしてくれる母の言葉も、虚しい。


童貞は負け組み等と嘯くつもりは無いが、前世含めても実に28年もののDTである。


三次元の女の事などまるで解らぬこの凡愚にとって、恋愛など遠い二次元上の空想に過ぎない。


今は、考えるべき事でもなかろう。俺はなんとか負け惜しみだけ搾り出してみた。



「ふん、いいさ。別に彼女なんて欲しくないもの。」


「あっはっは。秋一はまだそういうのは解る年じゃないか。すぐに色気づくだろうがな!」



背中をバシバシ叩く父。


さっきからやたら饒舌だとおもったら酒が入ってやがる。


酔っ払いの相手はしないに限る俺はいそいそと玄関から外に出た。



「あ、シュウちゃん!」



市姉さんがなにやら声をかけてきたが、ちょっと欝の入った俺は無視する事にした。


メンタルが弱い。



ざりざりと草鞋が土を噛む。


ひんやりとした夜風に当たりながら、俺は満天の星空を見上げる。


星座なんてまるで覚えていなかったが、方角を知るための北斗七星とカシオペアだけは覚えている。


それだけ覚えていれば、あとは北極星を見つけられる。遭難してもいいようにと、益体も付かない理由から覚えていた。


奇妙な事に、この世界でも若干形は違えど、北斗七星がある。


地球が似ているのだから、宇宙が似ているのも当然と言えるかもしれない。



───弱いといえば、あの仔鬼族は良い鴨だった、と俺は昔の北の森を思い出した。


と言ってもつい半年ほど前のことなのだが。



・・・あの仔鬼族とか言う奴等は、慣れてくればもう本当に素晴らしい経験値だった。


鉄屑も山のように基地に蓄えてある。正直な話、なぜ連中が街道を行く人間から武器を剥ぎ取れたのかが不思議でしょうがない。


おそらく、徒党を組んでこそ彼らは強いのだろうと思う。


・・・・それが日常に置いては1~3匹の少数で森の中をうろついているのも変な話ではあるが。



しかしその彼らも、もうこの辺りには居なくなってしまった。


連中にそんな知恵があるかどうかは不明だが、恐らく他の森に移住したか、絶滅したのだろう。


数が少なくなれば、他の生命との生存戦争に負けることもある。


現在は仔鬼族が居なくなったニッチを埋めるように、醜犬族があの森に進出してきている。


連中はゴブリンもどきよりも鼻が利くので、割と手強い。



連中は所謂ゲームだとコボルドと呼ばれるような、仔鬼よりもより犬に近い魔物だ。


犬の割には仔鬼よりも単独行動を好むようで、各個撃破の機会が増えるのは良いことのなのだが、


瞬発力もまた高いので最近近接戦闘になる事が増えてきている。


この世界に来てから鍛えぬいた銃剣術でなんとか倒せて入るが、実に厄介な相手だった。



「そう言えば、仔鬼族にしろ醜犬族にしろ巣を見た事が無いな。

あいつらってどんな風に暮らしてんだろ・・・。」



素朴な疑問である。


実は俺はあまり森の置くには入らないように常に心がけているので、あまり森に詳しいとは言えないのだ。


集まって集落でも作っているのか、殆どスタンドアローンで狩りの時だけ集合するのか。


詳しい生態は謎に包まれている。



この辺り一体の村や街を覆う結界には、強い魔物ほどより強く結界を嫌うと言う特性がある。


それも当然である。多少弱い生物なら出入りしても良いが、強力な魔物は絶対に通さない。


そうでなければ、結界としての用を成さない。



だからこそ、結界の付近には弱い魔物が集まり、結界から離れるにつれて強力な魔物が増えてくるのだ。


一度だけ森の奥に偵察に行った事があるが、直感スキルが酷くこの先に進むなと訴えかけてくるので、その時はすぐに逃げ帰った。


恐らくは、より強力で恐ろしい魔物が潜んでいるのだろう。


体が大きく成長し、レベルももっと上がってゆけば、ゆくゆくはその領域にも脚を踏み入れてみようと思う。



「・・・・いや、あとは武器もしっかりしたものを調達せねば。」



いい加減に、このボロ装備から脱出したいものである。


二年前からこの手作りシリーズは何も変わっていない。


いや、強度も精度も段違いに上がったし、工作専用のスキルまで得てしまったので性能が上がったと言えば上がったのだが。



「ああ、まともな武器が欲しい・・・。」



俺は夜空を見上げながら、ままならない現状に溜息をついた。




*





───寺子屋。


それはまあ詳しい事は良く知らないが、江戸時代の民衆の高い識字率を支える自然発生的教育機関だったように思う。


まぁ要は食うに困った知識階級の人間が、民衆に知恵を授ける事で飯を食おうとしたのが始まりだ。



「皆さんようこそこの阿弥陀塾へ。今日から三年間、皆さんはこの阿弥陀塾で共に学ぶ同士です。

皆で助け合い、協力して学ぶ事が大切です。皆、仲良くするように。」


「「「「「はーい!」」」」」



結界の中にある古い寺院の中、筋骨隆々のお坊さんに案内されて子供たちが寺の中へ入っていく。


寺子屋とは本当に寺だったのかどうか記憶が定かでは無いが、確か元の世界では寺や神社の一角を借りて行っていた筈だ。


それが、この世界では本当に坊さんがやっているとはこれまた驚いた。


しかし人のよさそうな顔立ちをしているが、宗教教育などされても困る。


さて、どう転ぶものか・・・・。



「では、皆さんこの寺を案内します。この上級生の人たちについて、まずは寺を回って来てください。

寺の細かい規則なんかは、追々説明しますので、まず入ってはいけない所と教室の場所だけ覚えてきてくださいね。」


「それじゃ、僕が案内するからみんな付いてきてくれ。はぐれるんじゃないぞ。修行しているほかの方たちに迷惑になるからな。

僕の名前は、宗次。皆、宗次と呼んでくれ。」



そう言って新入生を率いるのは、いかにも利発そうな顔をした長髪の男子だ。


そこそこ良い服を着ているところから察するに、このあたりの豪農の出か。


ぞろぞろと、なにやら厳かな雰囲気のする寺の中を付いて回る子供たち。


気付けばあちらこちらへと視線を飛ばす集中力の無い年代ではあるが、今日この日ばかりはすこし緊張しているらしい。


カチコチになりながら恐る恐る部屋を覗き込む様は実に微笑ましい。


次々に説明される建物と、部屋。


高価な仏具や美術品が納められた五重塔のような建物には絶対に入ってはいけないそうだ。


最後に、徳利の口のようにすぼんだ小路に差し掛かると、宗次と名乗った上級生は言う。



「皆、ここから先は基本的に行ってはいけないぞ。

縄が張ってあるだろう?この向こうでは見習いのお坊さんが沢山修行してらっしゃるから、絶対に入ってはいけない。

邪魔になるし、危ないらしいからな。・・・・・皆、わかったかな?」


「「「「はーい。」」」」



声を揃えて返事をする子供たち。


その中に紛れて、俺も気の無い返事を返した。


この寺は比較的大きく、手入れが行き届いている。


先ほどの驚くほど筋骨が発達した僧坊や、他の修行僧を見る限りここでは武術もやっているらしい。


肉付きや足運びからして、俺と同じ槍術系統と見た。


坊主が槍と言えば、────薙刀か。


この先で行われている危ない修行とは、恐らくそれだろう。


・・・素晴らしい、間違いなくここに来て良かったと言える。



「なぁなぁ、お前、名前なんていうんだ?俺は権助。友達になろうぜ。」



と、そんな事を考えていた所で、小声で話しかけてくる者がいた。


俺よりも一回りほど小さい、調子者の気のある少年だ。



「うん、ああ。俺は秋一、こちらこそよろしくな。権助。」


「おう、よろしく。」


「あ、権助抜け駆けは駄目だよ。私も友達作る。私ね、絹子って言うんだよ。よろしくね、秋一君。」



その傍ら、話しかけてきた女の子はこれまた快活そうな大きな女の子だ。


絹子と名乗った女の子は美人と言うほどでもないが不細工ではない。


頭は先ほど権助と名乗った男児よりも良さそうだ。



「うん。よろしく絹子。」


「それじゃ、握手しよっか。握手。」



そう言って差し出された手を、上級生に連れられて歩きながら握った。


寺の武僧だけでなく、こう言った出会いもまた得がたい経験だった。


一度幼児に逆戻りしただけに、子供との接し方が良くわからなかったが、何の事は無い。


俺が勝手に、且つ無用に恐れていただけの話。


むしろ下手に頭をこねくり回す俺よりも、スパッと正解にたどり着けるこの子達のほうが何枚も上手のようだった。



「・・・友達、ね。いいものだな。」



子供と遊んでやっていると言う感覚は抜けないが、それでも友となるのに年齢差など関係あるまい。


8歳児と20歳の大人の友情があったとて、なんの問題も無いと言えよう。


案外、俺の寺子屋生活は順風満帆と言えるかもしれなかった。



つづく。











感想を書いて頂けると、作者はとても元気になります。

できたら、書いていってください。

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