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異世界ミリオタ記  作者: 慶蘇 静明
日原(ひのはら)国編
3/6

三話 知識の価値






あの日俺は大きな失敗を犯し、その失敗から確かなものを獲得したと言えるだろう。


と言うか、あれだけの恥をさらして何も得るものが無かったなどという事になったら悲しすぎる。


そもそも俺が六歳にして結界の外へ狩りに出たのには理由がある。


まぁ言うまでも無く、それはレベルアップの為なのだが。



・・・・そのレベルアップについて一つおさらいしておこうと思う。



この世界におけるレベルとは、ようは強さの指針だ。


大体に置いて、レベルが一割以上違うともう勝ちを拾うのは不可能であると言われる。


そしてレベルと言う概念で重要な事は、『レベルが上がるから強くなる』のではなく『強くなるからレベルが上がる』と言うことだ。


基本的に世間一般的にはそう言われている。


その理屈だと、魔物を倒す事によりレベルアップするあの現象はいささかおかしい様に感じるが、なにか理由があるようだ。



次に、レベルと言うのは高ければ高いほど良いが、レベルを上げる方法は三つある。



一つは、自然な成長に任せる方法。年齢が上がればレベルが上がっていくし、老いれば下がる。


この世界の殆どの人間のレベルアップとはすなわちこれを指す。



二つ目は、鍛錬によって挙げる方法。単純に体力が上がればレベルも上がる。


武家の人間にとっては、これは慣れ親しんだ方法だろう。



最後は、自分以外の生物を倒す事によってレベルを上げる方法だ。


・・・・これは、上記二つの方法と比べて異様にシステマチックな方法である。


上記二つの方法では『能力が上がってから、レベルが上がる』のに対し、


この方法では『レベルが上がってから、能力が上がる』のだ。


加えて、この方法でレベルアップを果たした際は"ボーナスポイント"と呼ばれる余剰成長値が与えられる。


それを割り振る事によって、自分の目的に即した成長を果たすことすら出来るのだ。



つまりは、この三つ目の方法は俺のような元・現代日本人にとって慣れ親しんだ"ゲーム式"の成長理論だ。


何故これほどシステマチックで機械的な法則がこの世界にあるのかは解らないが、


実際の所このシステムが三つの中で最も効率的に強くなる事が可能なのだ。


折角こんなシステムがあるのなら、感情を抜きにすれば使わない理由は無い。・・・・少々不気味ではあるが。



「・・・・・レベルが19から中々上がらない。やはり、あの二日間が異常すぎたのか。」



俺はあれから一週間。計画を練り直し、武器や防具を新調し、鍛錬をやり直し、再び森に足を踏み入れた。


今度はボウガンでは無く、身の丈ほどもある弓を装備している。


六歳児の身の丈などたかがしれているが、そこそこに強い弓だ。ボウガンほど射程は伸びないが、連射できる点はいい。



レベルが19から中々上がらない・・・・。もう仔鬼を4匹も見つけて屠っているのにレベルが上がらない理由。



俺があの二日間で倒した生物は、仔鬼が合計三匹に鹿一匹。それに兎やキジが合計4匹。


その中で、兎やキジの分はほぼ度外視して良いとして、問題は仔鬼と鹿だ。


この4体を倒しただけで、あの時はレベルが12から19まで上がった。


だが、一週間後の今日になってみれば仔鬼を4匹倒してもレベルが上がらない。


成長率から言えば、もうレベルの一つは上がっていないとおかしい。



しかしそれはおそらく、俺がこの森の生物と同格の強さになったからだろうと考えられるのだ。



「同格・・・と言うよりはまだまだ脆弱だが、あの時が俺は弱すぎた。あれは過ぎた下克上だったと言うわけだ。」



より格上の生物を倒す事によって大幅なレベルアップが行える事は世界的に広く知られている。


この辺りのレベル帯はおそらく20~22程度。武器を持っていたとは言え、本来なら敵う筈の無かったレベル差である。


それを、未発達な体に搭載された成長済みの精神力と知恵で補った。


運も過分に影響していただろう。前世で成長済みのスキルの力も大きかった。



村には碌な知識層がいない為、情報収集にも四苦八苦するが、体で集めたこの情報は間違いない。



「つまり、普通は一つレベルを上げるには、相当数の敵を狩らなきゃならんと言うわけだな。」



考えてみれば当然の事だ。


同格の相手を4、5匹倒してレベルアップできるなら、この世界は高レベル者と強力な魔物で溢れ返ってている。


しかし、そうならない理由があるのだ。



そう考えながらも、秋一はさらに発見した仔鬼に矢を射掛けた。


後頭部に突き立った矢に、グルンと白目を剥くと五匹目の仔鬼が地に伏す。


それに警戒しながら近づくと、秋一は仔鬼の持っている金属の武器を剥ぎ取った。


どの道これ等は街道を行く人間から奪ったものだ。罪悪感など無い。



「・・・・そろそろ戦利品が重くなってきた。撤退するか。」



結局今日は、レベルが上がる事は無かった。


だが当初の作戦目標のとおり、今日狩る分は多くても五匹で止める。


冷静になってみると案外あっけない狩だったが、また調子に乗ってはいけない。


一週間前の、恐怖が頭をよぎる。



安全のための基準を厳守し、秋一は結界の内部に帰還した。



*




「・・・・ボロボロの鉄屑ばかりだな。あのゴブリンみたいな奴は、手入れと言う概念を知らんと見える。」



秋一は人気の無い村郊外に作った秘密基地に戻ると、戦利品の確認に入った。


殆ど槍の穂と小刀だが一本だけ太刀もある。


・・・・ただし、赤錆でどれももう使い物にならないが。



地面をくりぬいてつくった防空壕のような拠点で、秋一は頭をうんうんと唸らせる。


あれから、秋一は鹿肉や戦利品の鉄製品などは家に持ち帰っては無用な疑いを呼ぶと気付いた。


また何時もどおり農具小屋の近くにでも隠せば良いと考えていたが、ボウガンとボーラ程度なら何とかなっても、


これから増えていく所有物を隠し通すには無理があることにその時ようやく気付いたのであった。


そのため、秋一は自分ひとり用の拠点の製作も必要な事とあると判断した。



秘密基地建設のため一週間のあいだ訓練は程ほどに穴を掘ることに注力していた秋一だったが、


予想外の効果として、ひたすらの単純作業と達成感のある仕事は錯乱した精神を癒してくれた。



14歳相当の力で一週間掘られた穴は、かなり大きい。


中で生活する事すら出来そうだ。



「・・・・使い道が無い。せめてもう少し保存状態がよければマシなんだが。」



実際の話。


仔鬼が身に着けていた武器は、スコップの刃として棒の先端に括りつける程度にしか使い道が無い。


おかげでもう完全な鉄屑と化したが、構うまい。大して変わらない。そのくらい酷い有様だ。



「使っている最中に砕けるような武器は論外だ。命に関わる。・・・かと言って、ほかに武器の当てなんて無いしな・・・。」



使い捨ての武器にするにしたって、矢を射ったほうが早いし正確だ。


鉄屑として売る当ても無いし、当面は文字通りお蔵入りになりそうである。



「まぁ、いいさ。腐る事は無いし、貯金だと思えばいいか。15くらいになったら、町の鍛冶にでも売りに行こう。」



当面、父から譲り受けたボロい小刀一本が唯一のまともな鉄の武器だ。


これを大事にしよう、と決意しながら秋一は秘密基地を後にした。



*




「まだ日も高いが・・・・兎は5匹も捕まえてしまったし、これ以上はいらんだろう・・・。何をするべきか。」



市姉さんはこの時間帯は町の道場にいるし、父も母も何かと仕事で忙しい。


妹の桜子は、秋一が近寄るとなぜか泣く。よって家に帰る理由もない。


久々に暇な時間が出来てしまった。



「訓練でもすればいいんだが、気分が乗らん。どうするかな。のんびり空でも眺めてみるか・・・・。」



秋一は果ての無い青い空を眺めながら、将来のことについて、ぼんやり考え出し始めた。


異世界にまで来て将来の話と言うのも奇妙な話だが、今ここで生きている一人の人間としては切実な問題である。



今はただ漠然と、レベルを上げておけばこの世界では何にせよ有利だと思って上げているだけだ。


だが、いずれ俺もこの世界で職について、所帯でも持たねばならない。


それが、人間社会で生きると言う事だから。


だが、職と言っても俺は別に農家になりたいわけでは無いし、商人が出来るかどうかは解らない。



「国に仕えると言うのも、難しい話か。何せ平民だからな。」



それ以前にこの世界の武士・・・つまり職業軍人の強さも未知数だ。


彼らはどうも生まれつき専門の軍事訓練を積まされる上、資質自体平民とは一線を隠すらしい。


それは市姉さんを見れば解る。


前に教えてもらったレベルも、スキルの数も村の普通の子供たちとはまるで違う。



「海の向こうに旅に出るのも、いいかもな。」



この世界でも、この日本と良く似た国は島国だ。


名を「日原ひのはら国」と言う、八州十六公を玉皇ぎょくのう陛下が束ねる海洋軍事国家だ。


ただ前世の世界と違う点は、ヨーロッパ風の文化の土地が北西の方角にあり、西南の方角には中国風の世界が広がっていると言う事か。


日原国自体、北半球よりではなく南半球に位置する国家で、雪国が南にあると言う国だ。



また世界が球体であることや、この惑星の大雑把な地理は世界的に知られている。


チグハグにも程があるが、パラレルワールドとはこうしたものかもしれない。



疑問には思うものの、父母に聞いても知らん事は答えられない。


所詮農夫に過ぎない以上は、必要以上の知識を得る必要も無いため、それが普通だ。


農家は畑の事だけ考えていればそれで事足りる。


この村でも寺子屋と言う物があるが、この辺りの寺子屋は8歳からと決まっている。


結局それまでは、この世界の一般常識以上のものを学ぶことは出来まい。


いや、寺子屋でも当然この世の全てを知れる筈も無いのだから、結局は何かが知りたければ自分の足で聞きまわるか調べるしかないのだろう。


そう考えると前世の世界の教育システムや、情報ベースはなんと素晴らしい事かが解る。


せめて、寺子屋で子供たちを導く教師が優秀な人物である事を祈るべきか。



「・・・・そうだ、俺は文字が読めない。これは由々しき事態だ。」



ふと、思い出す。俺はこの世界の文字を習っていないため読み書きが出来ない。


父母もまたかつては寺子屋に通ったと言うのだから、読み書きは教えてもらえるだろう。


俺は今晩にでもそれを確認する事を頭に留めておいた。




*




この世界にはスキルと言うものがある。


【スキル】とは前にも言ったとおり、印象としては技術の習熟を助けるためのシステムのように考えられる。


そのため【スキル】を覚えているからと言って物理に反するようなムチャクチャな事は出来ない。


ただ単純に、体を上手く動かす方法や強化する方法、また効率的に回復する方法について覚えられるだけなのである。



火の玉を生み出したり、傷を癒したりするのは魔法の領分だ。それもまた追々話そうと思う。



で、【スキル】と言う物なのだが、普通は前述の通り無茶な事は出来ないのが通例だ。


レベルが上がるにつれてドンドン超人的な事が出来るようになるが、それはまだまだ常識の範囲内である。



だが【スキル】の中でも"レアスキル"と呼ばれる一連の【スキル】は違う。


それは他のスキルとは一線を画する、超常の現象を引き起こせる物だ。


神通力・・・・超能力のようなものと言えば解りやすいか。



そして市姉さんは、生まれつきそのレアスキルを二つも持っている。


以前、俺はそれを無理にせがんで見せてもらった事があった。


あれは、素晴らしい力だ。どうして俺はレアスキルを持っていないのかが心底悔やまれる。



「レアスキルとはどうやって習得できるものか・・・・。」



益体も無い事を考えるが、それだけレアスキルの力は偉大だ。


それを二つも持っている姉さんの出自が本気で気にかかるが、隠しているものを無理に暴く事もあるまい。


おれは湧き出す疑念をぐっと喉の奥でこらえた。


ちなみに、俺は前世で習得した知識などがのおかげで、記憶を取り戻した際に幾つかのスキルを習得している。


狙撃・兵士の心得(偽)・学士・槍術、等がそれである。ただしそれらは残念ながらレアスキルではない。


・・・・ないのだ。



「ただいま。」


「おかえりなさい、秋一。」



夕暮れ近くなって、俺は家に帰った。


暇を持て余して、結局あの後俺は眠りこけていたらしい。


まぁ寝る子は育つと言う。たまにはこういう日も悪くはあるまい。


あるいは、一週間前の醜態を精神的に乗り越えられた事で、気が抜けたのかもしれない。



「父さん。俺、文字を習いたいんだけど、時間あるときに教えてくれないかな?」


「なんだいきなり。あと二年もしたら寺子屋に入れてやるぞ?」


「まぁそれはそうなんだけど、待ちきれないから先に教えてくれないかって事。」


「うーん、父さんも結構忙しいからな・・・母さんは?」


「私もちょっとねぇ・・・そもそもあんまり使わないから、忘れちゃってるしねぇ・・・。」


「それも、そうだよな。俺も簡単な単語くらいしか解らないぞ。」



かぶりを振る両親。


なるほど確かに。この家で文字や書は基本的に見たことが無い。


あまり使わない事は忘れてしまうか。


かつての日本も識字率が高かったとは言え、こんな物だったのかも知れない。



「算盤ならどうだ、秋一。それなら父さん得意だぞ?それと数字なら教えてやれる。

あまり難しい文章とかは無理なんだがな。」


「・・・・んーじゃあそれでいいや。」



計算には自信があるため必要ないが、数字だけでも教えてくれるなら御の字だ。


数字が読めると言うだけで、この世界で取得できる情報は段違いに上がる。



「シュウちゃん、字を覚えたいの?」



珍しく早めに帰ってきてた市姉さんが尋ねた。


そう言えば、と思い出す。


多分良い所の出で、毎日馬車で道場とやらに通っているこの姉なら普通に文字を知っている筈だ。


外見が九歳なので忘れそうになるが、この子も武家の子供なら人に教えると言う事も普通に出来るのかもしれない。



「そうだけど、市姉さんは知ってるの?」


「ええ。自慢じゃないけど、私は道場の生徒の中でも一番成績がいいんだから。」



そう言って姉は自慢げに胸を張った。


思えばこの姉も人間臭くなったものだ。


あれはの世界に来て一年と二ヶ月くらいの時だったか「この家で彼女を預かる事になった」と言われた時は本当に驚いた覚えがある。


それも、この世界に来てから見たことも無いような煌びやかな和服を着て訪れたのだから何事かと思った。


何よりも大変だったのは、家庭環境が悪かったのか彼女は最初、酷く無口で無感情だった事か。



「ふーん。なら頼めるかな。あ、それと道場って他にも何か習ってるの?」


「え?そうね。闘い方の他は、読み書きと、算盤と、礼儀作法と歴史なんかを学ぶわ。」



・・・・色々やるものだ。


確か道場とやらは武家の子弟の教練場だと聞いた。


それだけ全部やっているとは思わなかったが、


この分だと寺子屋は必要ないかもしれない。



「なら、全部教えて欲しい。」


「ええ!?結構難しいのよ?」


「多分大丈夫。すぐ覚える。」



【スキル:学士】がどの程度のものかはイマイチ解らないが、学習能力に補修が付くタイプのものだろう。


学習の仕方を習得できるスキルならば、短期間に多くの情報を仕分ける事も可能だろう。


そもそも、前世では6歳から20歳までの14年間を学生として過ごしたのだ。


異種言語の覚え方や、歴史の語呂合わせなど、"勉強の勉強"をしていたと言っても過言ではない。



「まあ始めは皆やる気一杯よね・・・えっと、じゃあ何からにしましょうか。」


「読み書き、それと歴史。算盤は一番後で良い。」


「そうね、解ったわ。」


「あらあら。市ちゃん、それじゃ秋一の勉強頼めるかしら?母さんじゃちょっと無理みたいだし・・・・。」


「はーい。任せてください母さん。」



市姉さんも何やら俄然やる気なので、時間が大丈夫とか、負担にならないかとかは心配しなくても良さそうだ。


市姉さんが母さんの事を母さんと呼ぶにも相当な時間がかかったが、今では何の違和感も無い。



「それじゃ、文字は明日の早朝教えて上げる。明るい内に地面に棒で書くから、何度も書いて覚えるのよ?」


「解った。」


「教えるからには、厳しく教えるから。ちゃんと毎日復習する事。わかった?」


「うん。」


「それじゃ、今日はこの国の歴史とか、外国の事とかを教えてあげるね。」





つづく。






























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