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異世界ミリオタ記  作者: 慶蘇 静明
日原(ひのはら)国編
2/6

二話 世界






早朝、俺は朝ごはんをたらふく掻き込むと、市姉さんといっしょに家をでた。


俺は村の郊外へ。


市姉さんは朝早くから結界の真ん中付近にある町に向かう。


ここから歩いて3kmくらいあるが、馬車が毎日迎えに来る。


そこで市姉さんは朝から夕方まで稽古に励むのである。



姉さんの出自や家の都合に関しては、親が話してくれないのでかなり謎に包まれている。


だが美貌といい才能といい。多分何処かの武家の娘だ。


時々偉そうな人が来て、様子を聞いたり稽古をつけたりしているのでモロバレである。


あげく毎朝毎晩馬車での送迎など隠す気はあるのか無いのか・・・。


ま、いろいろと事情はがあるのだろう。俺の知る所ではないが。



「よっと。・・・・始めるか。」



先日大幅なレベルアップを果たしたばかりなので、体が軽い。


俺は何時ものように、村の外れに来きて腕立てや腹筋・背筋に走りこみに素振り等の基礎的なトレーニングで体力を養う。


姉さんは道場で鍛えているようだが、俺は人気の無い結界内の広場でこうして体を鍛えている。


これも4歳の頃から続けているおかげで大分筋肉質な体になってきていた。



ちなみに子供の内から筋肉を付けすぎると身長が伸びなくなるというが、あれは迷信だ。


確かにまぁボディービルダーみたいな筋肉をつけようとしたら伸び悩む事もあろうが、


実際には子供に過度なトレーニングを課すと体を壊しやすいというだけの話である。


子供の体は柔らかいので、同じ部分に機械的な負担を受け続けると発育不良を起こしたり、骨格が歪んだりするのだ。


だが適切なコーチングが可能ならば、むしろガンガン筋肉は付けた方がいい。


骨の成長は適度な運動と豊富な栄養さえあれば、発達した筋肉に阻害されるという事はまず無い。


それだけやってどこまで身長が伸びるかは、最早遺伝子の問題だろう。



基礎トレーニングを終えると今度は身の丈ほどの棒を持って、それを銃剣を装備したライフルに見立てて素振りを続ける。


前世でミリオタだった俺は、銃を扱う心得として高校の頃から4年間銃剣道を学んでいた。


それを忘れないため、またより習熟するための訓練だ。


それにしても、いつも使っていた棒が軽い。


あれから俺はレベルアップのおかげか普段の5倍以上のノルマをこなせるようになっていた。


レベル15でこれならレベル25(平均18歳相当)に到達できたなら、接近戦も視野に入れても良いかもしれない。



俺はそうやって汗をかくと、井戸までもどって水を飲んでから、そろそろ結界の外へ向かう事にした。


農具小屋の近くに隠してあるボウガンとボーラを装備する。


レベルが上がったとは言え、所詮は一般的な12歳相当の力しかないためまだ接近戦は出来ない。


そのため近接戦闘用装備は切捨て相変わらずボロの小刀一本だけ。これとて、まあ気休めに過ぎないが無いよりは良い。


これで相手を怯ませて逃げる手助けになれば御の字である。


だがかつてと大きく変わったところは、一々何十分もかけてボウガンを梃子で引かなくても、器具さえあれば数十秒で矢を番えられる事だろうか。


そのため今日は何時も一本だけ持っていっていた矢も、不恰好なこれまた手作りの矢筒に20本放り込んで行く事にした。


上手くすれば仔鬼一匹と言わず何匹かくらい狩る事も可能かもしれない。



・・・いや、欲を掻くと碌な事は無い。今日も一匹に留めるべきか。


余計の矢は、不測の事態に備えての物としておこう。


最初の作戦目標を徹底する事は、兵士の基本である。


不測の事態には臨機応変に対応すれば良いが、戦果を求めすぎれば手痛い失敗を期す事になるだろう。


俺は自分を戒めた。



「相変わらず、でかい結界だ。」



しばらく行くと畑と村を守る見えない結界の境界線がある。


畑を超え草原の真ん中の境界線にぽつんと立つ門をくぐると、静かな草むらと森が見えた。


傍目には草原に道が延びてその途中に巨大な木の門が一つあるようにしか見えないが、ここには確かに結界が存在するのだ。


俺はその神聖な雰囲気のある古びた門を潜った。



基本的にこの、『門をくぐる』と言う行為に意味は無い。人間なら何処からでも結界を越えることが出来るからだ。


ただ問題は"結界は普通の人間の目に見えない"と言う事であり、


この門の役目は『此処から先は結界の中ですよ』とこの付近を通る人間に告知するためのものなのだ。


これがあるから、行商人や旅人は結界の中では気を緩める事が出来るのである。



しかし、相変わらず北側のこの門は人気が少ない・・・・と言うか人が居ない。


新しい街道が出来て云十年と言うから、それも仕方ない事ではあるがだが。


まあ自分も人気が無いからこそこの門を使っているので文句を言うのもお門違いか。



「よし、いくぞ。」



俺は常に帰還を意識し、門の位置を確認してからボウガンを背負い、森の中へ進入していく。


今日は待ち伏せではなく、積極的に動いて仔鬼族かその他の獲物を探す予定だ。



従来の作戦を変更したのは逃げ足が速くなったため、もう少し森に深く入っても問題なかろうと判断したためだ。


家族の皆には草むら・・・と言うか結界内部の小さな草原部分で狩りをしていると言ってあるが、


実際には結界の外に出ている上危険といわれる森にもしばしば侵入している。


その事実をしったら家族がどんな顔をするか、楽しみなようであり怖くもあった・・・。



*




秋一に背負われた、大人にとってすら少々手に余る大きさのボウガン。


それは弓の部分は良くしなる複数の枝を荒縄でぐるぐる巻きにして作られている。


発射機構は金属が貴重なので縄と木材で割り箸鉄砲のような構造。


また全体に使用されている荒縄は千切れては不味いので、藁を細く編んだものを三つ編みにした特別製である。


そして最も重要な弦に関しては、こっそり母の髪の抜け毛を集めて編みこんだ物を使っている。



使用している矢は先端を火で炙って炭化させて、命中率を上げるために矢の後ろに羽も三枚取り付けてあるものだ。


総じて、幼児の仕事とは言え中々の物ができたと言えるだろう。



工作機械がボロボロの短刀一本であるのでガタガタの断面が目立つが、何発か試射を行ったところ命中率も威力も問題なかった。


先日は70メートルのスナイプにも成功したことだし、そこそこの性能を持つといっていいのではなかろうか。


無論、所詮は寄せ集めの材料なのでだんだん全体がミシミシ言っている。


近いうちに修理か作り直しが必要だろうが、材料費だけはかからないのが救いでもある。



「・・・・そろそろ小弓の扱いも考えたほうがいいかな?」



力が強くなれば、連射力で勝る弓のほうが単独行動には適しているかもしれない。


そんな事を考えながらも、集中しながら移動し続ける。


手作りの拙いギリースーツを被り、【スキル:陰行】を発動させつつ森をうろついた。



・・・・【スキル】とは、この世界における法則の一つだ。


それは一度スキルと呼ばれるものを習得すると特定の行動に対する技術がどんどん成長するようになる現象の事を指す。



そして「スキルを発動させる」とは、その特定の行動を行うためのこの世界での慣用表現だ。


実際にはただ習得した技術でもってその行動を行うと言うだけの話だが、


スキルと言うものが生活と密接に関わっているこの世界ではそれ専用の慣用表現も存在するのである。



まるでゲームの様だが、この世界は紛れも無いリアルだ。


"もしも全てが夢であったら"などと下らない事を考えるヒマも無い程度には生きるのに忙しい。



「・・・・よし、目標を発見。」



しばらく動き回ると、少し開けた小川に何匹かの鹿が水を飲みに来ているのを発見する。


鹿は多分魔物では無いが、元々この世界の魔物と通常の生物の区別は怪しいものだ。


単にレベルが上がった生物を「魔物」と呼んでいるに過ぎない面がある。



しかしレベルは特定のスキルを持っていないと特定できないが、俺はとり合えずその鹿は普通っぽかったので狩って見る事にした。


鹿は単純に大きいし強いので、経験値の実入りも大きいはずだ。


少なくとも雑魚の兎やキジよりは多いだろう・・・アレはドラクエで言う所のスライムポジションである。


レベルを一つ上げるのにかなり苦労したものだ。



だが鹿と仔鬼族とがどちらが上かははっきりとは解りかねるのも確か。


父に教わった限りでは知能で優れる仔鬼の方が経験値は高かった筈だが、父は極一般の農夫らしく仔鬼族など狩った事は無い。


一般常識らしいが、実際に経験して見なければ解らない事もある。



・・・・。


ボロ布に泥と草を擦りつけただけの簡素なギリースーツからボウガンを抜くと、秋一はその場に伏せた。


ボウガンの台尻を肩に当て、狙撃の姿勢を再びとる。・・・結局狩る事にしたらしい。


そうして匍匐前進しながら徐々に距離を詰めていく。


幸い今は此方が風下。匂いでばれる心配は少ない。


サバゲーで鍛えた胴の入った匍匐前進で鹿に近づく。



(息を殺せ、気取られるな・・・・。)



じりじりと距離を詰め、美しい鹿の姿を常に視界に納める。


頭上から注意して見れば、地面と同化した茶色と緑の塊が蠢いて見えただろう。


しかし、そうと知っていなければ見逃してしまうほど上手く森に隠れている。



(此処が限界か・・・・。)



これ以上近づけば、気取られるだろうと言う位置で秋一は前進を止める。


音を立てぬように、そっと肘を立て狙撃の姿勢をとると、片目を閉じて前方を見据えた。


距離は凡そ10メートルほど。以前の70メートルが長すぎたのだが、10メートルでも十分普通の人間には確実に狙い打つ事は難しい。


だが、【スキル:狙撃】を持っているならまた話は別だ。


確実に心臓か頭を潰さなくてはならないが、レベル15もあるなら十分である。



(それでも、この緊張は無くならないな・・・・。)



仔鬼族に続いて二頭目の大型生物相手の狩りだ。緊張も当たり前と言える。


相手は草食動物で子持ちでも無いため、一撃受ければ死なずとも逃げるだろう。


おそらくしくじっても、こちらに向かってくる事は無い。



弱い風が、汗ばむ頬を撫ぜる。地の上をガサガサと這い回るムカデや蜘蛛が気持ち悪い。


戦場でじっと敵を待つ兵士は、常にこの不快感とも闘わなくてはならない。



(風向きが変われば、逃げられる。)



前回と違い、自分の命がかかっている訳では無いことが気を楽にする。


震える体を何とか黙らせると、秋一はゆっくりと引き金に指をかけた。



(────撃つ!!)



ビュオッッ!!!


風を切り、ボウガンから矢が放たれた。


ドスッ!



「ヒ、ヒィィィィイン!!?」



前足の付け根に突き立った矢に、鹿は馬のような悲鳴を上げた。


全身で戸惑いを表現するかのように、右へ左へ鹿の巨躯が揺れる。



(・・・これは、これは殺った!心臓に突き立った筈・・・・!!)



手に汗握りながら、立ち上がり獲物を見据える。


念のためもう一本矢をボウガンに番えながら秋一は鹿を見守った。


だが足を畳み、ドサリとその場に座り込むもまだ鹿は息絶えていない。


此方の位置に気付いたらしく、此方を大きな目でじっと見据えている。



「なんという生命力だ・・・・なら、もう一発撃つまで。止めだ!」



その視線に気圧されながら、もう一度秋一は引き金を引いた。


一直線に動きが鈍った頭部に矢が迫る。鹿は、こちらをつぶらな眼でじっと見ながら、額に矢を受けて死に絶えた。


直後、再びあの充足感が満ちる。───レベルアップである。



「・・・・・・・ふ、ふはは。やった、俺でも殺れる。闘えるぞっ!。」



ステータスを脳裏で確認すると、今度は一気に3上がってレベル18になっていた。


レベル18と言えば大体13~14歳相当の身体能力を得られたはず。


6歳の体では体重が軽いので格闘戦はできまいが、弓は引けるようになったと言える。


【スキル:投擲】で物を投げてもいい。


これからは戦術の幅がぐっと広がるだろう。



だが勝利の余韻に浸っているうち、秋一は重要な事を思い出した。



「・・・・あれ、これ、どうやって持って帰ればいいんだ?」



緊張のせいか、レベルアップ込みでも鹿一頭を持ち運べるだけの力は無い事を忘れていた秋一であった。


まだまだ、平静を保っているようで冷静さが足りない。


いくら頭の中身が大学生並だとしても、平和な世でのほほんと暮らしてきた身である。


かつてはミリオタであり、軍事の知識や擬似的な経験があるとは言え、限度があったと言えた。





*




あれから、鹿はとても全身は持ち帰れないため足を一本だけ貰いその場を後にした。


森の命を頂いている身でとても申し訳ない事をしたと思うが、仕方が無かった。


血の匂いに引かれて別の危険な生物が寄って来る事が考えられたし、


足一本の重量でも機動力が相当落ちそうだったため出切るだけ急いで帰ることにしたのだ。


殆どを無駄にする事になってしまった鹿の命には、せめて他の動物に食べられる事で森に帰ってくれるよう手を合わせた。



ただし血の匂いと言う点では、秋一が背負っている鹿肉も同じである。


その事に思い至らなかったわけではなかったが、ここまで上手く行き過ぎた分の楽観が彼を無謀な行動に走らせた。



何のためにわざわざ結界が張ってあるのか。


彼は危険を押して仔鬼族を狙い、結界の外で狩りをしていた理由を自分で忘れてしまっていたのだ。


効率のいいレベルアップが目的なのだから、レベルが上がったのならそれで帰ればよかった。


それが無為に命を殺した罪悪感のようなものに、無意味に流されるからこんな事になる。


そしてそのツケとして、案の定秋一は結界の内に帰る途中に仔鬼族二体と出くわしてしまったのだった。


醜い顔をした1m40cm程の小さな影が、二つ。腰にはナイフ、手には槍を持っている。



───その瞬間、逃げると言う選択をしなかったのは気が動転していたからか、それとも無意識に逃げ切れないと悟っていたためか。


それはまさに一瞬の事だった。



切り刻まれた一秒の中、限りなくスローな視界とは裏腹に光速で思考は巡る。


身体能力は互角。されど体格の点で六歳の自分は仔鬼族にすら劣る。


牙も顎も相手のほうが上。組み付かれたらそこで勝負は決まる。


どちらかを残せばもう一匹が組み付いてくる。近づけさせてはいけない。


ならば───二匹とも一度に、遠距離から仕留めるしかない。



行動の指針が決まった瞬間、秋一とっさに腰に備え付けておいたボーラを抜き放つ。


投げつけられたボーラは一匹の両足に絡まり、一匹の仔鬼は転倒した。


次いで矢を装填済みだったボウガンで、後方のもう一匹をヘッドショットで撃ち殺した。



その後瞬時にバックステップで距離をとると、レベルの上がった筋力で素早くボウガンに矢を装填する。


ギリギリと音を立てて、昨日までアレほど重かったボウガンの弓がしなった。


火事場の馬鹿力か、数秒足らずで引き絞られた弦からは、狙いもそこそこに頭部めがけて矢が放たれる。


その一撃でボーラが絡まった足をバタつかせていた一匹も正確に頭を射抜かれて死んだ。



───この間、30秒ほどである。



「ぜぃ・・・・はぁ・・・。」



秋一は予想もしなかった邂逅に、息が止まるかと思った。


頭に響くレベルアップの告知もこの時ばかりは煩わしかった。



「は、は、は・・・・・・畜生、死ぬかと思った・・・・!!」



じょじょじょ・・・・と、今更ながら緊張と恐怖に失禁してしまう。


ガタガタと震える手足をどうしても止められない。


秋一は生まれてこの方、一番強い恐怖をこの時感じた。



「畜生!この!この!ゴブリンが!」



その恐怖を誤魔化すために、乗り越えるために秋一は暫く恐慌状態で仔鬼族の死体を蹴り続けた。


さらにレベルが上がり19になったため、15歳並の力で六歳児に蹴り続けられたゴブリンはどんどん死体が変形していく。


どれくらいそうしただろうか。


全身が異常な発汗でびしょびしょになり、不快感を感じた辺りでようやく秋一は正気に返った。


実際には5分かそこらだったが、その異常な時間は秋一には一刻にも半日にも感じられた。



「はぁ・・・はぁ・・・、そうだ、こんな事をしている場合じゃない。早く帰らないと・・・・!」



秋一は正気に返ると、今度は仔鬼族の血の匂いと合わさって今度はどんな魔物が現れるか空恐ろしくなった。


頭の中は恐怖でぐしゃぐしゃになり、帰還の事だけしか考えられなくなる。


そんな中でも素早くゴブリンの死体から金属製品を奪い去ってから駆け出すのは流石と言った所か。


次に繋げるための思考と行動は、(偽)と付くとは言え【スキル:兵士の心得(偽)】を持っているだけの事はあったと言えよう。。



秋一は走った。わき目も振らず走った。


途中で折角手に入れた鹿肉を落としてしまったが、そんな事にも気付かぬほど必死で走って結界まで帰った。


道中、結界に近づけば近づくほど魔物は少なくなるためそこまで急ぐ必要も無いのにも気付かなかった。



余裕なんて一切無かった。不測の事態に泣き喚く秋一は今、大人などではなく、ひたすら子供に過ぎなかった。



*



「くそ、くそくそくそぉっ!!駄目だこんなのじゃ!」



門を潜り、その門にもたれかかりながらようやく一息ついた秋一は声を荒らげる。


ここ二年で一番の失態だ。正直、最近調子に乗っていた。



「反省だ。───反省とは、作戦の失敗から学び次に生かす事。今回は、何が不味かった・・・?」



それはもう、あちこちが悪かった。


昨日の今日で二回連続で結界の外での狩りを断行したのも本来なら不味かったし、獲物を選ぶと言う事をしなかったのも不味い。


最初の作戦目標で何を最優先するかが曖昧だった事も不味かった。


鹿の命と自分の命。どっちを優先するかなんて決まっている。


食うに困らんのなら、鹿肉なんぞわざわざ持ち帰らなくてもいい。


礼儀とか、自分にありもしない物を錯覚した結果がこれだ。そんなものはもっと強くなって余裕があればすればいい。


身の程知らずであった。


あの鹿と同じく自分もまた、ただ単に必死で生きている一つの命である事を忘れていたのだ。


此方の方が考えようによってはより傲慢である。



「くそっ!」



だがこの傲慢と身の危険を代償に、秋一少年はより一皮向けただろう。


最初に目的意識を明確にする事。徹底的に準備を怠らない事。


言葉で知っていてもその血肉とは成っていなかったその偉大な訓示は、今彼の中に確かに刻まれた。



「次はもっと上手くやる・・・武器を調えて、防具をそろえてもう一度だ。」



前方を睨んで顎に手を当てる。


幸いこの二日間で大幅なレベルアップを果たし15歳相当の身体能力を得たのだ。


より重い武器防具を装備できる。



"危険を冒す者が勝利する"とは有名な訓示だ。



だがこの年で戦いに出ることそのものが危険なのだから、もっともっと慎重になっても良かった。


今回の反省を胸に、秋一は石橋を叩くように入念な準備を行う事を覚えた。


頭の中に、場違いなメッセージが響く。




あなたは 新たな スキルを 覚えました。


アクティブスキル:高速思考 

パッシブスキル:直感




意識を集中すると、脳裏に新たなスキルが示される。


それを見て、秋一は口端を吊り上げる。


その情報も含め、秋一は明日からの準備計画を今から練り始めた。





つづく。















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