心弾む退屈な説明と食事のお誘い
「魔法っつーのは、どっかの偉い科学者が言ったモノでさ。……世界は魔力が形作られてるって知ってるだろ?」
こくんと頷くノア。
一夜はそれを確認して話を進める。
「それで、魔力は大なり小なり違いがある訳だ。俺とノアも少し、違う種類の魔力で作られてる。けど、炎や水と言った演算能力のない――まあ生物じゃない物は魔力が全く同じなんだ」
「魔法の話は?」
ノアは話が脇道に逸れたと思ったのか、不満そうに言う。
「必要な話なんだって。物語のクライマックス部分に必要な最初の話みたいにな。炎の話は蛇足だったけど」
ノアをそう言って宥めてから、再び話し始める。
「んで。自分の身体を自由自在に動かせるのは、生物の『演算能力』のおかげなんだよ」
ノアは退屈そうに、そして、いつになったら魔法の話に入るのかわくわくした表情で一夜の話を聴いている。
「で、科学者は人間の演算能力と人間の魔力の結合力、質なんかを調べた訳。百人くらい集めてな」
「ふんふん」
ノアは興味が湧いてきたのか、相づちを打つ。
一夜は少し気分がよくなり、しかしそれをノアに悟られないように声を弾ませないように気をつけながら、
「結果は完全に一致。ようするに、人間は人間の能力以上に運動神経を上げる事も出来ないし、頭がよくなる事もない。だから、目が見えない人は限界ギリギリまで、耳がよく聴こえたり、感覚が繊細になったりするのは当たり前なんだよ。演算能力の許容量が空くからな」
「ふーん」
「それで、科学者は仮説を立てた。例えば人間の演算能力を超えて、身体を形作る魔力の質が例えば――クラゲみたいに人間よりも演算力を使わない魔力に置き換わった場合、人間は周りのモノを操る能力を得るんじゃないかってな」
ノアは、少し悩むかのような顔をして宙を見つめる。
恐らく情報を整理しているのだろう。
やがて、ノアは疑問をぶつけてきた。
「人間の余った演算能力は運動神経とかにいかないの?」
待ってましたとばかりに、一夜は言う。
「魔力っつーのは、小さな粒なんだよ。それがくっ付いて、身体が出来てる」
心はよく分かんねーけどな、と一夜は少し微笑んでから言う。
「だから、生き物の中には魔力結合がスッゴい強い奴だっている。でもな、魔力結合をそこまで堅くするには魔力の質っつーのがAランク――つまり演算能力を一杯使わないといけないんだよ」
ノアが頷くのを確認してから、説明を続ける。
「演算能力が高ければ高い程、運動神経がよくなるのは間違いないんだけど、魔力の質っつーのも関わってくる。だから演算能力が無限にあったとしても上限があるんだ。身体を守る為にリミッターもかけられてるしな。で、全ての能力が上限一杯になって尚、余った演算能力があれば、それは――周りに割り振られる。……いや正解に言えば、限界以上に身体を操れるんだよ」
「? どういうこと?」
ノアが小首を傾げて言う。
「ようするに、身体を形作ってる魔力を小さい粒――分子レベルで操れるって事」
「なんでそれで今さっきみたいなことができるの?」
「分子レベルで操った魔力を炎の魔力と強制的に溶け込ませて、操るんだってよ。まあ、炎の質とかが変わっちまうらしいけど」
「一夜もそれで今みたいなことをしてたの?」
一夜はノアの問いかけによく分からないと言った。
「だって、全くもって意識してねえもんなあ。自分の手足を操るような感覚でさ」
グンニャリ、と空間を曲げて言った。
それに伴うように同時にノアのお腹が鳴った。
「あー飯でも食いに行くか?」
「うん!」
一夜の呆れたような、苦笑混じりの問いにノアは純粋な笑顔で迎え撃った。