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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
日常の破損
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消失、落下、恐怖に女に、強制的出会い

「うーむ。まさか俺にこんな力があるとはなあ……」

 ズズ……、とまるで空間を引き裂いて出てくるかのような闇を呑気な顔をして見る一縷。

 繁華街を歩く人達がギョッとした顔で闇が噴出している掌を凝視するがパニックに陥ることはない。

 どちらかと言うと手品を見ているような顔に近い。

 どうなってるんだろう? と言った興味津津な顔だ。

 中にはその種を見破ってやる、と言った挑戦的な者もいる。

 今の思考の沼に沈んだ一縷には周りのそんな状態に気づくことはない。

 一縷は見た目よりは、深刻に(深刻と言ったモノでもないが)この事態を受け止めていた。

 一縷が心配していることは、コメンテーターのように消失する可能性があるかも知れないということだ。

 心配とは言え、「あーもしかしたら死ぬ可能性があるかもなあ。それは嫌だなあ」と言った感じである。

 絶対死ぬ、と言われた訳でもないのだ。

 そこまで深刻に受け止める必要もないだろう。

 それよりも気になるのはあの少年だ。

 あの少年は「俺と同じだ」と言っていた。十中八九間違いなく、この力のことだろう。

 あの少年は何者なのか……。

 それを訊く前に飛び出したと言うことは内心錯乱状態だったのかもしれない。

 一縷にだって、本能的な恐怖はあるのだ。

 一縷は自分の住処への近道である路地裏に入る。

 と。

「ちょおッッと、待ってえぇぁぁぁぁぁッッ!」

 背後から誰かが叫んだ声が聞こえた。

 声の高さから判断するに女だろう。

 少女か、女性かは微妙な所だが。

 一縷は更に突き進む。

 そもそも一縷には『女友達』が一人だって居ない。

 知人、と呼べるのは恐らく長年公共便所を『掃除してくれているおばちゃん』ただ一人である。

 即ち、一縷を呼び止める女は皆無だ。

 しかし、冷静になって考えると路地裏に居るのは一縷一人だ。

 背後から、恐るべき間隔で足音が踏み鳴らされる。

 ……まさか、警察?

 そんな考えに至った一縷は全力で逃げだし、真後ろを振り返り――地面が消え失せた。

「お?」

 唐突な落下に背筋が凍る。

 下にはドブのように汚い水が流れ、その水を挟むように通路がある。

 闇がぶわっ、とネットのように広がり壁に突き刺さった。

 一縷はネットに転がり込んだ後に、コレは自分が命令したのだと気づく。

 目の前にボールが飛んできた時に、目を瞑るように無意識の内に命令したのだ。

 闇が身体の中枢に浸食してくるような感覚に、自分が闇に呑まれそうで怖くなる。

 自分が自分でなくなってしまえば、一縷の最も失いたくない『自分自身の考え』がなくなってしまう。

 闇が自分に感触や熱を伝えてくれる中で砂漠のように漠然とした恐怖の中にいた。

 いや、実際に伝えてくれる訳ではなく、感触を『思い出す』というような、おかしな感覚だ。

「……にしても何で地面がなくなったんだよ。おかしい日だな、まったく」

 恐怖から逃れようと後頭部をガシガシと掻き毟る。

 粉雪のようにフケが頭から舞って、一縷自身、少し引いた。

「何で逃げんのよ……がはっげほっ!」

 女の声が真下からしたので、闇に穴を開けて見てみる。

 あ? と目を見開いた。

 女がドブのような水にハマっていた――からではない。

 女の左手。

 水が嫌がるかのように女の左手を避けていたのだ。

「あははは。あんたもそんな能力あんのかよ……」

 思わず乾いた笑いが起こった。

 地面が消えたのはアンタの所為か。

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