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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
求める非日常と心情と
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人工(?)天災

 世界の危機に政府が下した対策は取りあえず調べろというモノだった。

 魔力濃度。指紋。その他諸々。

 何一つとして証拠が上がらなかった。

 もともと人がなした所行とも思えない政府や警察、科学者達は、どうしようもないという酷く投げやりな感じで調査を続けていた。

 しかし、カルマ=モレクスならもしかしたらどうにか打破できるかもしれない、そう考え直した政府は二人の使者をカルマ=モレクスに送り出した。

 場所は第五研究所。

 男と女がそこに立っていた。

 男、エア・アテアは四十代でくすんだ金髪を綺麗に刈り上げている。

 重要な役職に就いている使者として十分過ぎる人物だ。

 女イシュタル・マヤウェルは二十代で瞳は大きく適度に潤んでおり、とても綺麗な外見をしている。

 胸も大きく、くびれもある。

 こんな重大な使者に任命されるような歳ではない。

 それもその筈、彼女は外見だけで選ばれた使者だからだ。

 男なら綺麗な女に微笑まれれば嫌な気分にはさせまい、という政府の考えから選出されたのである。

 マヤウェルは緊張しているのか、汗でベタベタしている掌をハンカチで拭いていた。

 アテアも、勿論緊張していた。

 手土産が入っている紙袋を持つ所が滲み出る汗で濡れていた。

 心臓が大きく跳ねる。

 もしも、手土産が気に入らなかったら?

 何か失言があった場合はどうする?

 混乱に混乱を極めた心のまま直立不動で第五研究所前に立っている姿は酷く滑稽だ。

 途方もなく大きな研究所で、壁に設置された階段や今時ない煙突などがあり、工場のような外見をしている。

 周りは森に囲まれていて、空気が清々しい。

 大きな門から出てきたのは新緑よりも美しい緑の髪を腰の辺りまで伸ばしている男だった。

 ぞわりと違和感が背中から這い上がって、動揺を生んだ。

 四十年生きてきて培った常識が通用しないと本能が叫んだ。

 何だアレは……?

 男が歩いてくる。

 ジワリと汗が吹き出してくる。

『逃げないと水分を枯渇させて殺す』

 そんな錯覚が生まれた。

 男の周囲の空間が逃げるようにねじ曲がっているのが見えた気がする。


 錯覚だ!


 その一言で常識が盛り返してきたのを感じた。

(そうだ。科学で証明できないことはない。あの男もなにかのトリックに決まってる。そうだトリックだ)

 自分に言い聞かせるように心の中で呟く。

 それだけで湯水のように常識が吹き出てくるのを感じる。

(そうだ。あの研究所はあのカルマの研究所だ。なにが起きたっておかしくない)

 そこまで考えて精神が安定してきた。

 なぜあんな考えが浮かんできたんだ? と過去の自分を馬鹿にさえできる。

 男は道ばたの石ころを眺めるような視線でアテアとマヤを見る。

 どう贔屓目に見ても応対する者の態度ではない。

 それとマヤがほんのり顔を赤らめているのが気に食わなかった。まあ、こっちは完全に嫉妬なんだけれど。

 よく見れば汗でベットリとしている。今さっきの自分と同じ感覚を味わったのだろうか?

 アテアは頭を下げて挨拶してから要件を言った。

「カルマ=モレクスさんに今回は折り入ってお願いが」

 そのまま、緑の髪の男は自分を素通りした。

 瞬間、自分を形作るモノ全てにぞっと悪寒が走った。

 心も体も、その全てが悲鳴を上げる。

 恐怖も、疑問も存在することすら許されなかった。

 心の許容量限界まで意味の分からない力で覆い尽くされ、身体の感覚が死んだ。

 緑の髪の男はほう、と興味深げに顎を触りながら二人を見る。

「コレくらいの負荷にも耐えられんのか。この世界の連中は……なるほど。アイツの言い分ももっともだ」

 ゆっくりと、地面を踏んだ。

 男は消えていた。

 種も仕掛けなかった。ただ地面を踏んだだけ。

 それだけで消え去った。

 直後。

 衝撃波で二人の使いが居た場所、半径五キロメートルが巨大な爆弾を落とされたかのように吹き飛んだ。

 世界中に伝播した衝撃波は窓ガラスを割り、扉を歪め、海を震わせ、人を冗談みたいに吹き飛ばした。

 世界にまたもや不思議を生みだした。

◆◆◆◆◆◆◆

 森の木々は跡方もなくなり、研究所は廃墟と化していた。

 鉄骨が無様に折れ曲がり、研究所の象徴のような煙突は影も形もなかった。

 何かよく分からない液体が研究所から大量に漏れだしている。

 そんな爆心地のように荒れた土地に一つの闇があった。

 闇は溶けるように消えると、女性と男が青年、暗闇一縷に抱きついてきた。

 一縷は気にせず言う。

「オイオイ。天災みたいな奴だな」

 一縷の横に立っていたアルテミスは現実味のなさそうな表情で茫然としていた。

 一縷は周りを見渡す。

 焼き野原という表現がピッタリな荒れようだった。

 男は一縷から離れて涙溢れる瞳を拭いながら嗚咽を漏らす。

 女は泣きじゃくり、一縷の脚に安心を求めて更に強く擦り寄った。

(行かないでお前さん、五月蠅い黙れぇ! みたいな応酬をしてみたいな)

 一縷はそんな馬鹿丸出しの考えを抱きながらようやく二人に顔を合わせて、

「にしても、間に合ってよかったな。おたく達。危うく死ぬところだったぞ?」

 男がその言葉でようやく使命を思い出したかのようにハッとした表情になった。

 涙でグシャグシャになった顔で一縷に早口に問う。

「カルマさんの研究所で何をしていたんですか?」

 男は立ち直りが速いのか、はたまた狂いそうになる精神を会話で必死に繋ぎ止めているのか。

 一縷がそう考えながら、

「カルマの研究所巡りだよ。俺らの能力を解除する方法を探してる。全く見つかってないんだが」

 ようやく復活したアルテミスは一縷を肘で突く。

「そんなこと言わなくても」

 一縷はきょとんとして、

「別に言っても構わないだろ」

 と返した。

 アルテミスは不満を目一杯に表す表情で言う。

「そんなこと話して余計な首でも突っ込まれたら……」

「なら、あの、あ…………」

 何を思い出したのか、男は顔を青白くして胃の中のモノを思いっ切り吐いた。

 どこに? 一縷の脚に。

「うおっ! 何か虫出てきた!!」

 かくして、青白い顔して吐き続ける男とゲロまみれのジーパンを履いている青年に抱きついて泣きじゃくる女と、それらに対して冷ややかな目線を送りつつ、女を青年から引き剥がそうとする少女(後期)という個性溢れるパーティでアルテミスの家を目指すのであった。

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