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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
求める非日常と心情と
26/28

テレビから見る世界とその後

 ピリピリした雰囲気を纏いながら祠は自分の部屋にシャルを連れていった。

 デフォルメされた羊型のクッションをシャルに渡す。

 シャルは人間慣れしてきた獣のようにクッションに座り込んだ。

 シャルは周りを見渡しながら言う。

「お前、何ピリピリしてんの」

 祠は何がムカついたのか、イライラした声で、そっけなく言う。

「別に」

「もしかして恋ってやつかよ?」

「違うってば!」

 ささくれだった心に塩を塗るような言葉に更にイライラしながら祠は否定する。

 そうだ。恋なんかじゃないはずだ。

 次の瞬間、記憶にこびり付いて離れない感情が雪崩れこんできた。

 ノアに向かって微笑んでいたのに苛立った感情。先輩の手を握り締めながら祈っていた彼女を羨ましく思った感情。

 祠はそれらを気にせずテレビのリモコンを探し始める。

 気にしない理由は一つだ。

『何か別の感情に決まっているから』

 そんな祠を見ながらシャルはジーパンに付いているホルダーからナイフを取り出す。

 銀色に輝く刀身を適当な感じで掌にペシペシ叩きつけながら問う。

「にしても。いきなり俺を住まわすなんて何考えてんだよお前。服も無理矢理……言っとくけど礼なんて期待すんなよ」

 祠は机の足を蹴りつつ、

「助けてくれたから。助けるだけはしておこうと思いまして。それに住むところないんでしょう? ……ってナイフなんて持ってたんですか!?」

 祠のひきつった絶叫は軽くスルーして唐突に告白する。

「ああ。そういえば俺って人間じゃないんだぜ。それでもいいのかよ」

「そうだと思いました」

 と、全く本気にしていない祠の声。

「お前、本気にしてねえだろ」

「ええ全く」

 テレビを点けるながら祠は答える。

 そう言えばテレビを先輩が起きるまで見ていなかったことに気づく。心の中で舌打ちする。

 まず画面に映ったのは銭湯だった。

 屋根が崩壊しており、タイルにはベットリと血の跡。

 まるで巨人が戦ったかのようだった。

「ああ。俺とあのクソ野郎がやったヤツか」

 と、シャルが忌々しそうに言った。

 次に映ったのはよく行く駅前だったが、祠の知る駅前の風景とは違っていた。

 アスファルトはビルみたいに垂直に二本建っており、あとは自然災害でも起こったかのような荒れようだった。地面はズタボロになっており、ビルのドアは粉々に粉砕されている。

 何の映画なんだろう、そう祠が考えている途中で画面がスーツを着た男性を映した。

 そのままカメラワークが全体を映した。

 軽く婉曲しているテーブルがある。

 何人か神妙な様子で座っていた。

 全員見知った顔だった。ニュースで毎回見る顔だったからである。

 男性がドでかい液晶パネルを見ながらメモ帳を見るかのように事務的に言う。

「このような自然災害は絶対にありえません。監視カメラが全て潰されていることから見ても明らかでしょう」

 え? と思考がこんがらがる。

 映画、だよね?

 六十ほどの男性が祠に現実を見せようと思った訳でもないだろうが言う。

「もはや定番となっている質問ですが……昏倒事件、心消失事件とは何らかのか関係があると思いますか?」

 男性はまたまた事務的に言った。

「関係性がないとは言い切れませんが、限りなく低いでしょう」

 ですが、と言ってから。

「我々の手に負えないという点では共通しているかもしれません」

 テレビから意識を切り離した祠は心消失事件を思い出す。

 そうだ。ニュースで見たあれだ。

 意識昏倒事件は自らも関わったのでわかっている。

 世界の全てがほぼ同時期に倒れた事件だ。

 世界が壊れていく感覚に囚われた。

 日常がどれほど危うい状況に立たされているのかを改めて実感する。

 さっき男性に質問をしていた六十代程の男性が今までののことを忘れたかのような笑顔を浮かべる。

「さて次のニュースです。生命の樹(セフィロト)祭の準備に総勢一万人もの人々が出店を出すそうです」

 生命の樹祭――世界全部の主要な機関が以外は一切動かさず、どこにでも出店が出現する。

 この地区――蒼頡(そうけつ)では生命の樹があるという特別な場所からか、剥がれ落ちた巨大な木片を御輿のように担いで練り歩くという風習がある。

 更に夜九時には世界中で花火が百万発打ち上がるのだ。

 男性の笑顔とその台詞で、ある願望が心の奥底で燻ぶった。

(先輩と祭りに出れればいいな)

 いつも通りの願いだった。

◆◆◆◆◆◆◆

 シャルはあの名前も言わずに去っていったカッコつけ野郎のことを思い出していた。

「全部、ぶっ飛べばいいな」

 その言葉を思い出す。

(くそ!)

 この世界にシャルは不要だ。

 所詮、シャルはカルマの人形に過ぎない。

 少しの労力でシャル程度ならば幾らでも量産できるだろう。

 現にシャルは追われていない。

 左腕を斬ってもいないし、戻ってきていないのに、だ。

 所詮はその程度の存在。

 放っておいても計画は進行するし、シャルが現代社会で生きるのは無理だ。

 知りもしない左腕を斬るためだけに生まれた存在。

 出生届けも勿論出ていない。

 出ていたとすればシャルは腹を抱えて笑っていた筈だ。

 人形の俺に出生届けだと? と。

「全部、ぶっ飛べばいいな」

 そう言って拳を振るったアイツをまた思い出す。

(俺が居る意味も、何もねえじゃねえか。何だよ俺って……なあ、クソッたれのカッコつけ野郎! 俺の悩みはテメエの拳一つで解決出来るもんじゃねえんだよ!)

 あと一歩で吼えそうになった所で伊沢波祠に質問された。

「シャルはあの事件について何か知ってるの?」

 シャルは皮肉を込めて言い放った。

「ああ。人形なりにはな」

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