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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
求める非日常と心情と
23/28

厄災と厄災のトレードは受け付けない

『元気?』

『あんたの父さん、凄い落ち込んでんだけど』

『誤送信だ誤送信』

『写真』

『返事ー』

 一日前に来ていた馬鹿父からのメールである。

 どうやら一夜は一日中寝たきりだったらしい。

 なら、ノアは一日中一夜が起きるのを待っていたのだろうか?

 一夜はパイ生地を冷凍庫にブチ込みながら携帯を操作する。

「つーか父さんからメールなんざ珍しい。後半は明らかテンション違うけど」

『元気とは言いづらい。で、どこいんの?』

 送信ボタンを押して数秒後。

 直ぐにメールがやってきた。

『エヌルタに居るけど。もう少しで帰る』

「エヌルタぁ? すげえ遠いじゃねえか……」

 ありえねえ……と呟き、添付ファイルに写真が付いているのに気づいた。

「そういや。『写真』って送ってたな」

 開いてみる。

 ウオン、という効果音と共に写真が展開された。

 直径五センチの3Dとして浮かび上がってきたのは一人のガッシリとした肉体の男(推定二十歳程)と、一人の可愛い少女(推定十四歳程)とその二人に首を絞めつけられている一夜の義父――華奢な体型の男性が居た。

 父さんはケータイを取り返そうともがいているのだろう。ケータイに手を伸ばしている。

 一夜はふっと鼻で笑ってケータイを閉じた。

(楽しそうに旅してんじゃねえか)

 後半の馬鹿メールは女子の方だな、と勝手に納得する。

 と。

 ドアが開いた音がした。

 台所から顔を出して客人に声をかけようとして、

 声がつっかえたように「よお」が言えなかった。

 理由は簡単。

『下心が見え見えな男は嫌いなんです』なんて言っていたあの祠が男を連れていたからだ。

(男の友達なんて居たのか……?)

 凶暴そうな外見の少年は祠の後ろにつまらなそうに突っ立っていた。

 衣服は至って普通。

 というより、もの凄く安く済ませたであろう赤のポロシャツにジーパンを着ていた。

 屈辱的なことにポロシャツには『クロノス』と黄色で書かれてある。おそらく店名だ。

 一夜はそんなどうでもいいことを観察しながら祠の元へ歩いていく。

「で。何の用?」

 祠は唐突に言った。

「トレードしましょう」

「は?」

 一夜には意味が分からずただ聞き返した。

「だから。男の子は男の子同士。女の子は女の子同士の方がいいじゃないですか?」

 祠の頬を摘まんで伸ばす。

「何言ってんの?」

 祠は一夜の腕を強引に引き離し、一夜の足を土足で踏みつつ頬を思いっきり抓る。

「伊沢波祠ふぁん。離ひて……」

「嫌、です」

 二人の様子に嫌気が差したのか男が祠の肩を指先で叩く。

「おーい。スキンシップは止めて本題に入ってくんね?」

「別にスキンシップなんかじゃない!」

 キッ、と少年を真っ赤な顔で睨みつける祠。

 顔を真っ赤にしているのは親と仲良くしていることを茶化された中学生のような感じなのかもしれない。

「あ、そう」

 と、飄々とした様子で少年は言う。

 ごほん、と場を持ち直す為に一つ咳払いを入れる祠。

「まあ、ともかくですね。色々な理由により匿うことになった訳です」

「いろいろ?」

「色々」

「だから、色々って何?」

「条件は呑んでくれたら話します。ノアさんとこのシャルさんを取り替えてくれたら」

 絶対に不吉だ。受け取ってはいけない。

 一夜は直感的にそう思う。

 それにノアを渡す訳にはいかない。

 アイツは世界から狙われている可能性がある。

 衣服の繊維があそこに残っており、世界をそれを見つけたら?

 指紋は?

 いや、今でさえ自動人形なんてモノに少女は追われているのだ。

 そんな女の子を祠に預ける訳にはいかない。

 だけど。

 俺は世界からコイツを守れるのか?

 自動人形。製造者。その全てから。

 一夜は不安を拭おうと、いや、不安を後回しにしようとふっと笑ってから。

「拾ってきたのがお前ならお前が責任取りやがれ」

 グイッと、祠の両肩を押し、ドアを閉めた。

 すかさず鍵を閉める。

「ふう。ミッション終了」

「先輩! その女の子とトレードだって言ってるんです! ノアだって私と一緒の方が……ッ‼」

 愛する後輩が何か言っているが、無視して台所に歩きだす。

 何か作ろう。

 祠は何か決心したかのように言った。

「私が男の子と一つ屋根の下で暮らしてもいいんですか!?」

「間違いは犯すなよー」

 もの凄く適当な調子で一夜は答えた。

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