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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
求める非日常と心情と
21/28

全部、ぶっ飛べばいいな

 後ろへ仰け反る。

 ズバン! と下腹部がナイフにより斬れる。

 筋肉繊維が断ち切れた。

 激痛が走る。

「ッ!」

 血が噴き出てシャルの顔に噴きかかった。

(やはりコイツの攻撃は避けれない――!)

 幾らシャルの言う通りスペックが上がったからってまだシャルの方が圧倒的に上だ。

 ナイフを心臓に一振りすれば殺される。

 黒色の鎧のように闇を身体に纏う。

 但し、左上半身には纏わない。

「しま……ッ!」

 一縷はできるだけ悲痛な顔で言う。

 そして、シャルと一縷は同時に行動する。

 一縷は闇を纏った右腕を肩を守るように突き出す。

 シャルは釣られた様に肩に狙いを定めてナイフを突き出す。

 掌に纏っている闇にナイフが突き立てられた。

「おああ!」

 シャルは闇を力任せに貫いた。

 右の掌にナイフが突き刺さる。

 一縷は微笑しながら、ナイフを握り締めた。

 闇を掌に生成。

 闇はシャルの右腕に植物のツタのように絡みついた。

 そこで初めてシャルの目が驚愕に見開かれた。

「演技――ッ!?」

 シャルが驚愕の声を上げる。

 一縷は微笑を浮かべて答えた。

「今までのお前の言動から馬鹿だってことは分かってたからな。絶対に救いを求めて肩を狙うと思った」

「救い、だあ?」

 憎悪を秘めた視線を一縷に飛ばす。

 ギリギリとナイフが右手を抉り続ける。

 焼けるような痛みが右手に走った。

「ああ。お前はアルテミスの左腕を奪いたくなかった」

 シャルは一縷の刀のように鋭い瞳に気圧されたように押されたようによろめいた。

「お前に何が分かんだよ……ッ」

 ギリギリと、奥歯を噛み締め搾り取るように言葉を発す。

「お前は、シャルは、アルテミスを命令で傷つけられないプライドの高いお人好しってことくらいは分かる」

 シャルの瞳が揺らぐ。

 凶悪な瞳から、子供の瞳が見えた。

 一縷は畳みかけるように言う。

「そうじゃないならシャルは直ぐにアルテミスの左腕を斬った筈だ。最初の一撃で弱いからってガッカリもしない」

「ッ!」

 不快感と怒りと疑問が一気に溢れ出たように見えた。

 心の底を何故読めたのかという疑問と、土足で心を踏み躙られた不快感があるのだろう。

 シャルはナイフを右手から抜こうと力を入れようとするが、闇に邪魔され思うように動かない。

「唯の戦闘狂かもしんねえだろうが……! 違うのかよ!」

 何が救いだ! と咬みつくように吠える。

 一縷は間髪入れず言った。

「闘うのが好きなのか?」

 ぐらり、とシャルの創られた芯に(ひび)が入ったように瞳が揺れる。

「うるッッッせえッッ!!」

 シャルが爆発したように拳を振るった。

 その拳は余りにも弱く見える。

 遅い。

 左拳で腕を殴って弾いた。

 シャルの顔が弾かれた腕で隠れる。

 素早く拳を大きく引いた。


『弱すぎ。あの黒いのは見かけ倒しかよ』

 ガッカリとした声。

『さあな。俺には関係ねえよ。人形だからな』

 全てを諦めた声。

『意志? 俺は人形だぜ? 人間とは違う。テメエの意志なんて二の次になっちまう。そういうモノなんだ』

 諦めた瞳。

 シャルの一挙手一投足を思い出す。

 全ての心が読めた訳ではない。

 それでも、シャルの悩みや闇はそれだけではないように見えた。

 だから、


「全部、ぶっ飛べばいいな」

 シャルの顔面に闇を纏った拳を突き刺し、薙ぎ倒した。


◆◆◆◆◆◆◆


 血滴る女子更衣室で真っ裸の一人の青年が鞄から出した包帯を右手に巻いていた。

 この包帯の触れ込み通り、包帯が触れた場所の痛みが和らぐ。

 右手に巻いた包帯を千切る。

 ベンチに寝かせている気絶した女三人(三十路、幼女、少女)を尻目に包帯を肩に適当に巻いていく。

 巻き終わった包帯を噛みちぎった。

 それから横にあった洋服を着る。

 白い字で『14』と書いてある黒を基調としたTシャツと、茶のデニムのパンツだ。

 どうやらアルテミスが服を買って来てくれたらしく、ロッカーの中に入ってあった。

 というか、よくサイズが分かったなと思う。

 と。

 女三人が眠りから覚めたように同時に起き上った。

(外に居た人達大丈夫なのか)

 疑問に感じながら声をかける。

「ようやく起きたか」

 三人は何故ここに居るのか、という疑問をアイコンタクトでやり取りし合う。

 凄まじいコミュニケーション能力である。

 それから、幼女が凄まじく大人っぽい感じで言った。

「わたしはお風呂に入ってたと思ったんだけど?」 

 女性は、服をベタベタ触って、

「ていうか服……」

 最後にアルテミスが一縷に言う。

「どうなってるの?」

 一縷は答えた。

 通報モノのその答えを。


「風邪引くかなと思って着替えさせただけだけど」


 ビキイ! と女三人の血管がブチ切れる音がした。

「私の五時間も外で座ってて汗だらけの服を嗅がれたってこと!?」

「ふふふふふ。わたしたちは魅力がないおんな三人と。そういうことが言いたいわけね」

「……ッ! その記憶を殺し尽してやる……ッ!」

 何か、真っ赤に顔を染めながら尋常じゃない殺気を放つ三人。

 じりじりと間合いを詰めてくる。

 一縷は気圧されるように後退しながら、

「ちょっと待てよ。お前たちが風邪を引かないように善意でやったのにそれはないだろ……あ、念入りに身体は拭いたから大丈夫」

 ボン、と爆弾が爆発するかのように更に顔を赤らめた三人。

 そして次の瞬間。

 恥ずかしさと憎しみを原動力に飛びかかってきた。

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